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北海道のほぼ中央に位置する栗山町。
札幌から車で1時間ほど離れた場所にある、のどかな田園風景の広がるまちです。
「北の錦」で知られる道内有数の酒蔵「小林酒造」が拠点を構え、国蝶オオムラサキの生息が観測されるほど、豊かな自然環境がいまも残っています。

豊かな産業を持つ一方で、ゆるやかに人口減少や高齢化が進んでいる栗山町。
将来、直面するであろう課題に対して、ものづくりを通して解決していく人材を育成しようと、まちをあげて取り組んでいます。
その計画の中心的な役割を担っているのが「ファブラボ栗山」。
3Dプリンターやレーザー加工機などの機材を揃え、生活をちょっと便利にする道具から、新しいビジネスのアイデアまで、誰でも自由に形にすることができる工房です。
今回募集するのは、ここでものづくりに挑戦する地域おこし協力隊。
3年間の任期終了後は、ファブラボ栗山の一員として残ることも、身につけたスキルを活用して自らの事業を立ち上げるなど、様々なキャリアに挑戦できます。
ものづくりを通じた課題解決スキルを身につけて、自分自身の可能性を広げる3年間になると思います。
新千歳空港から電車に乗って30分ほど。新さっぽろ駅に到着。
車に乗り換えて30分ほど東に進むと、赤レンガの大きな建物が見えてきた。
遠くまで見渡せる田畑のなかで、ひときわ目をひくサイズ感。

ここが、まちの交流拠点「栗山煉瓦創庫くりふと」。
農協の倉庫をリノベーションした建物で、地域のFM放送局やシェアキッチンなどが併設。週末は地域イベントやお祭りで賑わう、まちのコミュニティスペースだ。
その一角にあるのが、ファブラボ栗山の工房。
なかに入ると、作業台を兼ねた大きなテーブルやデジタル工作機械が置かれ、壁際には有名な絵画のキャンバスプリントが飾られている。静かな雰囲気で、集中して作業に取り組むことができそう。

「サンプルは多いほうがいいと思って、テーブルなどの大型什器も自分たちでつくりました。工房を整えるまでに2年はかかりましたね(笑)」
そう教えてくれたのが、まちから委託を受けて工房を運営する、合同会社ジモトファブ代表の土山さん。
札幌市出身で、2019年に地域おこし協力隊として栗山町へやってきた。

大学時代にプロダクトデザインを専攻し、前職ではデジタル工作機械を貸し出す工房で働いていた土山さん。
そこで感じたのは、自分が思っていた以上に、人々とものづくりの距離が遠いこと。
「札幌という当時180万人規模の都市でも、機材を借りる方は月に10人くらいしかいなくて。勤めていた工房も、収益が安定せず閉店してしまったんです」
考えて辿り着いたのは、自分の手でものをつくる発想がないのでは、ということ。
「子どものころからものづくりの楽しさに触れていれば、大人になっても気軽に取り組める。そんな、ものづくり教育が必要なんじゃないかって」
結果が出るまでに時間がかかる教育分野は、ビジネスとして成立させることが難しいと言われている。収益性を担保しながら、持続可能な形で関われる方法がないだろうか。
探し続け、ファブラボに出会う。
ファブラボとは、一言でいえば誰もが自由に機材を使うことができる市民工房のこと。アメリカ・ボストンで生まれ、世界2000ヶ所以上で展開。
デジタルからアナログまでの工作機械を備え、個人や地域がものづくりの技術を活用した課題解決を目指している。
「栗山町では、まちの総合計画に組み込むことで、中長期的にファブラボを支援する体制を整えていて。ここなら安心してものづくり教育に取り組めると思いました」
鎌倉のファブラボでの1年間の研修を経て、2021年にファブラボ栗山を立ち上げた。

現在取り組んでいるのは大きく2つ。
ひとつは、ファブラボ利用者へのものづくり支援。
制作物の相談からデータ制作、完成までをサポートしたり、利用者が機材を一人で使えるよう安全操作講習を行なったり。
未経験から、理想のものづくりを形にするところまで一貫してサポートしている。
「デジタル工作機械をつかっているので、手先が器用でなくとも大丈夫。ここに来れば、低コストで、ほぼなんでもつくれるんですよ」
スペイン・バルセロナにあるファブラボでは、家づくりのプロジェクトもあるのだそう。
ファブラボ栗山では、子どもたちが描いたイラストをAIで清書してステッカーをつくったり、作家さんがコースターやフォトスタンドをつくって販売したり。
個人の創作活動からプロによる本格的な商業利用まで、幅広い用途で利用されている。

もうひとつは、コミュニティ活動やイベントといった地域への関わり。
ファブラボ栗山では、「まちの未来を開拓する担い手づくり」をミッションに、地域住民に向けたものづくり講座などにも積極的に取り組んでいる。
たとえばと教えてくれたのが、まちの介護福祉学校との連携授業。
生徒が介護施設に行き、入居者や介護者の負担を減らすために必要な道具を考案。3Dプリンターで製品のプロトタイプをつくり、実用化を目指す取り組みだ。
リウマチ患者さんが車椅子を操作しやすいようにハンドルを製作したり、介護士さんの負担を減らせるベルト型の自助具を制作したり。
これまでの取り組みのなかで、表彰される製品も生まれた。

「ものづくりが意外と簡単だと気付けたり、自分が考えたもので人に喜ばれる経験をしたら、将来はものづくりの道に進むかもしれない。そんな機会になればいいなと思っています」
誰かの困りごとや地域の課題解決にものづくりで応える。自分のアイデアを形にしたいというより、誰かの役に立ちたいと思う人のほうがしっくりくるかもしれない。
今年で3年目を迎えるファブラボ栗山。
認知度も徐々に高まり、年間1200名が利用するほどに成長してきた。
「活動基盤は出来上がってきましたが、活動を広げるためにはいまの人数だと難しい。地域のニーズに応えるためにも、新しい仲間が必要なんです」
「リサーチから設計、ものづくりまで一貫してできる経験を積んだら、将来的にITやデザイン会社への転職も見込めるし、世界中のファブラボで働くこともできる。少しでも興味を持ったら、気軽に飛び込んできてほしいですね」
続いて話を聞いたのが、ファブラボ栗山で働くスタッフの岡さん。
神奈川県出身で、1社目を退職した後にロンドンの芸術大学へ留学。土山さんと同じタイミングで協力隊になり、ファブラボ栗山を立ち上げた。

「新しい技術に触れることで『こんなこともできるかも』と、ものづくりの発想が広がる。そのワクワク感を届けたくて、ファブラボ栗山の立ち上げに加わりました」
「道内の教育事業者と連携してロボコンを毎年開催していて。熱中する子どもたち、その様子を見て喜ぶご両親をみると、企画して良かったなと思いますね」
新しく入る人は、まずは自身のスキルアップトレーニングに取り組む。
利用者と一緒に講習を受けて、機材を扱うための基本的な知識を学んだり、土山さんたちの支援も受けながら、つくりたいものをPCでモデリングしたり。
3Dプリンターやレーザー加工機、刺しゅうミシンなどの機材が自由に使いこなせるよう、1年かけて学び、並行してファブラボのサービス運営を担ってもらう。

「テーブルや椅子に必要な大型木材をカットできる機械を貸し出している場所は道内でも珍しくて。ウィンタースポーツが好きなら、ボードを制作して富良野で滑る、なんてこともできますよ」
ファブラボの理念として市民に開かれた場所を大切にしており、ここファブラボ栗山でも工房機能の整備だけではなく、地域コミュニティの醸成に取り組んできた。
「利用者さん同士がここで顔見知りになって。ファイターズの観戦チケットを交換したり、仲良くなった人同士で飲みにいったりすることもあるんです」
地域との関わりから、思わぬ依頼が入ることも。
あるとき、地元の自治会から「まちの記念碑をなんとか残せないか」と相談を受けた。
「栗山町は、東北から入植した人たちが開墾したまち。その歴史を残すために建てられた文化財がたくさんあって。でも近年、その維持管理が難しくなっていたんです」
所有している3Dスキャナーを活用して、記念碑をスキャン。形状だけでなく石碑に書かれた文字情報までデジタルアーカイブとして保存することで、いつでも3Dプリンターで立体復元できるようにした。

「人知れず撤去されて、なくなった文化財がこれまでにもたくさんあって。民間だと何百万もかかる修復作業が、まちが運営するファブラボなら負担少なく協力できる。こうした活動で地域の方に喜んでもらえると、本当にやっていて良かったなと感じますね」
山根さんも、ものづくりでまちの課題を解決している方。
旭川の家具メーカーで働いた後に、ファブラボ栗山へ。今年の5月に地域おこし協力隊として着任したばかりで、新しく入る人にとっては身近な先輩になる。

「ファブラボでは、一人ひとりがテーマを持って地域課題プロジェクトに取り組んでいます。私もまちの人にヒアリングをするなかで、『図書館の雰囲気に合う荷物を置きがほしい』という声を聞いて」
さらに詳しく聞くと、傘立てや杖置きの場所がなくて困っている人がいることもわかった。
その後は現地で寸法を図りながら、自らデザインを設計し、図書館の人とすり合わせ。必要な資材を見積り役場に提案し、最終的には設計した台を3Dプリンターで製作した。
「わからない部分は教わりながら、なんとか形にすることができました。無事にできて、いまはホッとしています」
工房に実物が置いてあるとのことで、見せてもらう。

脚を構成する板の形が不思議なデザインですね。
「実はこれ、栗山の『くり』のひらがなをもとにデザインしたんです。安定感や強度も考慮してサイズを調節して、ようやく完成させることができました」
この制作で、大変だったことはありますか?
「前職で3Dプリンターなどの工作機械には馴染みがあったのですが、プロジェクト進行から制作まですべて一人で担当するのは、大変でしたね」
リサーチから課題設定、デザイン、製造、コスト管理まで。自分で考え、形にするのは確かに大変だけれど、そこまで身につけることができれば、3年後の選択肢もグッと広がる。
「先輩だけでなく、世界中の知見に触れることができるのも、ファブラボ栗山のすごいところだと思います。機械を触れるに越したことはないけれど、未経験からでも習得できるので、そこは不安に思わず、飛び込んできてもらえたらうれしいです」

世界中に2000ヶ所以上という、巨大なネットワークを誇るファブラボ。
自国でも新設しようと、コートジボワールから視察団も訪れたという。数は多くないけれど、海を渡って課題解決をすることもあるかもしれません。
ローカルな視点でまちの課題に触れながら、世界最先端の技術を活かして活動する、ファブラボ栗山での3年間。
ものづくりを通じて、社会課題に取り組む可能性が、この場所には広がっています。
(2025/09/17 取材 櫻井上総)


