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「うちが大切にしているのは、はっぴーな暮らしを問い続けること。だから、やっていることはシンプルで。僕らが楽しいと思うことを、年齢や障がいで諦めている人たちにも一緒に感じてほしい。その流れをつくっているだけなんです」
そう話すのはHappy代表の首藤(しゅとう)さん。「カオスクリエイター」という、ちょっと変わった肩書きも持っています。
株式会社Happyは多世代型介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」や、不動産や福祉など、暮らしに関するさまざまな事業を手がけている会社です。
今回取材で訪れたはっぴーの家は、世代も国籍もいろいろな人が共存して暮らすサービス付き高齢者向け住宅。まさにカオスといえる場所かもしれません。
今回はHappyが手がけていく新規事業の企画から運営まで担う、プロジェクトマネージャーを募集します。
とはいえ、一般的な「プロジェクトマネージャー」とは異なるよう。
求められるのは、カオスな環境に自ら飛び込み、そこにいる人たちとのつながりを丁寧に紡いでいくこと。
決まった仕事はありません。みんながハッピーになるためにどんなことができるだろうと、自らに問い続けていくような仕事です。
東京から新幹線に乗り、新神戸へ。市営地下鉄に乗り換え、新長田駅に向かう。
車が行き交う大通りを南へ10分ほど歩くと、緑色の壁が印象的な「はっぴーの家ろっけん」が見えてきた。
挨拶をしてなかに入る。
入り口からすぐのホールには、テレビを見ている高齢者の方や、デスクワークをしている人も。
まずは館内を見せてもらうことに。
各階には「昭和」や「アフリカ」、「アジアリゾート」など、それぞれコンセプトがあるそうで、壁紙の色や装飾もさまざま。
「介護施設」って、白が基調で整然としているイメージだったけれど、こんな雰囲気の施設もあるんだなぁ。
すると前から、おじいさんと赤ちゃんを抱っこしたスタッフさんが歩いてきた。
ぐっすり寝ている赤ちゃんは、スタッフさんのお子さんなのだとか。「私の祖母も生前、はっぴーで暮らしていたんですよ」と、話すスタッフさんも。
とにかくいろんな人が同じ屋根の下にいる。この場所は、なんという言葉で表現したらいいんだろう…。
「この新長田という地域は、もともと海外の人が多かったり、貧富の差が激しかったりと、今でいうダイバーシティの先駆けみたいなまちだったんですよ」
そう話すのは、緑色の髪の毛が印象的な、代表の首藤さん。首藤さんはこの建物で家族と一緒に暮らしている。
はっぴーの家がある新長田で生まれ育ち、一度は離れたけれど子育てをするならこの場所で、と思ったそう。
「未来の子どもは、答えのないことを問われ続ける社会を生きていくことになると思うんです。小さいときから、いろいろな人と関われたほうがいいと思うし、それなら新長田のまちが合っていると思って」
2017年にHappyを立ち上げ、地域で空き家再生事業を手掛けていた首藤さん。
ある住宅で出会った高齢者と話していると、想像以上に介護費が負担になっていることや、身体が不自由な高齢者のための住居が少ないことを知る。
そこで思いついたのが、いろいろな人が集まることのできるサービス付き高齢者向け住宅をつくること。
とはいえ、最初は介護という言葉は表に出さず、「この場所でどんなことをしたいか」をまちの人に問いかけるワークショップから始めた。
「今まで育んできた価値観が誰にでもあるから、『多世代がいる介護施設』というコンセプトだけを用意しても、みんなが混乱すると思って。まずは、そのカルチャーをしっかりと浸透させることが必要やなと思ったんです」
約1年半かけて、子どもから高齢者まで、100名以上のまちの人とワークショップを実施。多様な人たちが関わる場の土台をつくることができた。
その結果生まれたはっぴーの家は、入居する高齢者のほか、仕事中に休憩する人、クチコミを見て訪れる外国人、放課後の小学生や一時預かりの赤ちゃんなど、さまざまな人が入り混じる場になっている。
「たとえば認知症のおじいちゃんと子ども、あと若い人がひとつの机で過ごすとするじゃないですか。はじめはみんな、めちゃくちゃ居心地がわるいんですよ」
世代はもちろん趣味もバラバラ。もし自分がその場にいたとしら、どう過ごすのか、想像もつかない。
「その人たちみんながどうやったら楽しめるか、仕掛けを考えていくのがめっちゃ好きで」
会話がかみ合っていないところに入って新しい話題を振ったり、場の雰囲気を変えるような音楽を流してみたり。
首藤さんはその場にいる人が気づかないほどさりげなく、あらゆることを仕組んでいくという。
「ゲームに近いかもしれないですね。簡単なゲームって飽きるじゃないですか。でも、むずかしいことをクリアしていくほど面白いし、一緒に楽しむ仲間も増える。あえていろんな人たちを混ぜて、化学反応を起こしていくんです」
首藤さんいわく、今ある空間を崩して混ぜて、崩して混ぜての繰り返しなのだとか。「カオスクリエイター」の意味が、少しわかった気がする。
「はっぴーの家では、いろんな人に訪れてもらって日常の登場人物を増やすことを大事にしていて。うちでやってることって一見奇抜に見えるけど、実はよく人を観察して仮説を立てた結果、チャレンジしていることなんですよ」
たとえば、車椅子のおばあちゃんを連れて神戸の夜景を見に出かけたり、海水浴に行ったり。残された時間が限られている人が多いからこそ、思いついたアイデアはスピーディーに実行している。
これから、はっぴーの家に関わるのがむずかしい人たちともつながりを持てるよう、シングルマザーの家庭や障がいのある人への宅食事業など、新しいチャレンジも始めるところ。
「切り取り方によっては、Happyの事業はマイノリティの人のためのものに見えるし、SDGsとか社会課題的な要素にもつながる。でもそれが目的じゃなくて」
「自分たちの遊びの幅を広げていったら、自然と社会課題につながった。そんな感じなんです。だから良くも悪くもしんどいですよ、満足しないから。『次はどんな掛け算をしたらもっとよくなるか』って、常に考える。化学反応を生み出していくのが楽しいんです」
新しく入る人も、遊ぶように楽しみながら、みんなにとっての“ハッピー”を考えていってほしい。
「僕らの事業も本当にいろんな人たちが関わっているから、ある意味カオス。新しい人にはカオスをコーディネートする、DJみたいな役割を担ってほしいんです」
「うちは全然違う分野の人たちと関わるし、時には自分が想像しないことにもチャレンジできる。大変なことも多いけど、可能性しかないですね」
そう話すのは、ケアマネージャーの岩本さん。はっぴーでは珍しく、介護業界の経験者。
9年ほど前、岩本さんは新聞一面に「訪問介護と訪問看護の事務所にレンタルスペースをくっつけます」という記事を偶然見つけた。
「介護と新しいビジネスを掛け合わせたら、どうなるんやろって気になって。載っていた携帯番号にかけたら、それが首藤さんだったんですよ(笑)」
当時は、はっぴーの家ができる前。介護と看護の事務所でも、年間300回ほどワークショップを開催して、たくさんの人が集まっていたという。
「僕も関わったんですが、ワークショップをやっていくうちに、一緒に過ごしたいと思える仲間が自然と集まっていって」
「はっぴーの家も同じで。急がば回れじゃないけど、月に一人しか入居者は増やさない。少数からちょっとずつ価値観を共有していくと、はじめは違和感があっても、いい意味で巻き込まれていくんですよ」
そんなはっぴーの家ではじめに設定されたペルソナは、「38歳2児の母、子育てと介護に追われている長女」。はっぴーの家には、その人の親が入居するイメージだ。
はっぴーの家で楽しそうに過ごす親の姿を見て、日々の忙しさで忘れていた自分の好きなことをまたやろう、と思えるようになること。それが、この場所が目指すゴールだった。
「いい意味で常識がない場所なんです。働き始めると3ヶ月とか半年で、みんな一度壁にぶつかりますね。自分の立ち位置ってどこなんやろって、わからなくなるから」
Happyでの仕事は、介護サービスだけを考えればいいのではない。誰にでも当てはまる「はっぴーな暮らし」という言葉は、正解がないからこそむずかしい気がする。
このカオスに飛び込んだとしたら、自分はどんなことに悩み、どんなことを考えるだろう。
新しく入る人も、はじめははっぴーの家で会社の在り方を体感していけるといいと思う。
「こんなにたくさんの人が同じ感覚で働けるということが、ものすごく楽しみだし心強いですよね」
そう話すのは、1月から本格的にHappyに関わっていく吉川さん。アウトドアが生き甲斐で、現在は障がいのある人も楽しめる「WAGOMUクライミングジム」を経営している。
前職は、神戸の特別支援学校の教員。生徒やその保護者と接するなかで、障がいのある人が楽しめるアウトドアの少なさに気づいた。
頑張ればまた戻れるだろうと教員を辞め、登山やカヤックなど、障がい者でも安全に楽しめるようなアウトドアの支援方法を学んだのち、新長田でクライミングジムを開いた。
「支援学校で関わっていた子たちが社会人になって、余暇を探すときにアウトドアが選択肢にあったらいいなと思ったんです」
しかし、クライミングジムとイベントだけでは思うように障がい者とアウトドアをつなぐことができない。悩んでいたときに、新長田の祭りで出会ったのが首藤さんだった。
吉川さんがこれから携わるのが、はっぴーの家の近くにある産業遺産「烏原(からすはら)貯水池」周辺の山を活かしたプロジェクト。
山の斜面にある空き家を改修して住めるようにしたり、地域の自然を楽しめるアウトドアを企画したりする予定。
「カフェもつくったら、障がい者や高齢者も楽しめるし、クライミングやアウトドアに興味のない人も遊びに来れるようにできるかなと思っていて」
事業の幅が広がれば、働くスタッフが必要になって、障がい者の就労支援にもつながるかもしれない、と吉川さん。
新しく入る人も、吉川さんと同じように自分のアイデアをもとに事業を進めていくことになる。
「地域の人と仲良くなるのは当たり前。その上で、自分やHappyの色をどう事業に混ぜていくか。仕事として切り離せないと思うから、関わる人たちと友だちのような関係を築いて、公私混同していける人が向いていると思いますね」
新長田のまちで、多様な人たちと紡いだつながりが、いずれ地域全体に広がったとき。そこには、想像していなかったような心地よいカオスが広がっているのかもしれない。
Happyが生み出す場の雰囲気は、実際に体感しないとわからない部分も多いと思います。
この環境に飛び込むのは勇気がいるかもしれないけれど、そのとき自分はどんなことを感じるのだろう。
気になった人は、ぜひ自分の五感で確かめに行ってみてください。
(2022/12/19 取材 小河彩菜)
※撮影時はマスクを外していただきました。