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職業というより、生き方
世界遺産、弘法大師の聖地で
人を癒すということ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「空海、真言宗、高野山、金剛峯寺」

高校生のころ、倫理の授業で誦じて暗記した記憶が今も残っています。

空海は、日本仏教の礎をつくった人物。平安時代に活躍し、その後、浄土宗や曹洞宗など、鎌倉新仏教と呼ばれる多くの仏教宗派が生まれるきっかけとなりました。

今回は、弘法大師・空海がつくり上げた聖地、高野山にあるお寺の一つ、清浄心院(しょうじょうしんいん)で働く人を募集します。

清浄心院は、一般の人が宿泊できる宿坊です。

募集する職種は三つ。宿坊のフロント受付や事務、接客などを担当するスタッフと、精進料理をつくる調理担当。そして日々の法要や清掃などに携わる僧侶です。

料理は料亭の味吉兆が監修しており、調理方法もほぼ決まっているため、調理経験は不問。

僧侶も、すでに真言宗の僧侶である人はもちろん、僧籍がない人でも僧侶を目指したい人であれば受け入れたいとのこと。

世界遺産である高野山で働き、暮らす。職業である以上に、自分自身を成長させる生き方の一つであるように感じました。

 

高野山へは、大阪の難波駅から行くのが便利。

南海電車に乗って極楽橋駅で乗り換え、ケーブルカーへ。急斜面を10分ほど登ると高野山駅へ到着する。難波から90分ほどで到着するので、想像していたよりも都会から近い。

駅からバスに乗って10分ほどで、お寺が並ぶ高野山のまちのなかに入っていく。

「一の橋」のバス停で降り、道を挟んで目の前にあるのが清浄心院だ。

訪れたのは、師走の終わりごろ。雪がしっかりと積もっている。

建物は厳かな雰囲気で、雪解けの水が流れる音だけが聞こえる。入り口を探し、受付の人に声をかけて少し待つ。

「ようこそいらっしゃいました」と迎えてくれたのが、清浄心院の事務長を務める松村さん。

1ヶ月のうち10日ほどは清浄心院の仕事をして、それ以外は九州で仕事をしているそう。

「以前は旅館に勤めていました。今はフリーランスで、主に九州の温泉旅館のお手伝いをさせてもらっていて」

「旅館の手伝いっていうのは、中に入って運営面や経営面を整えたり、床の間ではどのように花を活け、小物を飾るのかといった空間づくりを提案したりするような仕事をしています」

清浄心院に関わるようになったのは、4年ほど前。妹さんがここで働いていたのがきっかけだった。

「この宿坊は、外国人や団体のお客さんがメインだったんです。でもコロナ禍でお客さんが誰も来なくなってしまった。そこで、外部の人の視点で宿坊を見てほしいということでお願いされたのが始まりでした」

宿坊に泊まるのは、仏教への信仰が厚い人だけではない。漠然と世界遺産に興味を持つ人もいるし、単純に宿の代わりとして使う人もいる。

多様な背景を持つ人が宿泊するからこそ、宿坊をきっかけにお寺や仏教に対して親しみを持ってもらえるようにしたい。そのために、松村さんはいろいろなことを変えていった。

「まずは個人のお客さんに来てもらおうと、ホームページから予約が取れるシステムをつくって、楽天やじゃらんからも予約できるようにしました」

「あとは護摩行を毎日やると決めさせてもらいました。住職がいる月10日間は住職が務めて、いない日はほかの僧侶が担当する。そうすると、泊まった日に関わらず護摩行を体験できる。ほかには、1日3回、お寺の見学会をするのと、精進料理をより高野山の伝統や文化に沿ったものへ変えている最中です」

護摩行とは、真言宗の特徴でもある、炎の前でお経を唱え続ける行のこと。

精進料理は、日本料理で有名な味吉兆に監修をお願いして、リニューアルしているところだそう。

護摩行体験と、寺院見学、精進料理。三つの体験を柱にして、お客さんの満足度を高め、寺院の経営をより強固にしていきたい、と松村さん。

今では、少しずつ宿泊客も増えてきた。

「接客も調理も、お坊さんも。すべて人を癒すホスピタリティが大切な仕事だと思っていて。とくにこの場所には、自然や宗教の力で癒されたいという人がたくさんいらっしゃる。だから、普通に旅館で働くのとは異なる魅力や面白さがあると思うんです」

「働く人にとっても良い経験になると思うんですよね。プロが監修する精進料理を学ぶことができるし、接客やお坊さんも、日本文化や仏教の作法を体で感じることができる。働く人たち自身が成長できるような環境だと思います」

 

続いて話を聞いたのは、事務や受付を担当している中上さん。

生まれも育ちも高野山だという中上さん。学校や役場で事務職を経験し、10年ほど前から清浄心院で働いている。

今回事務として入る人は、中上さんと一緒に働くことになる。

仕事は書類作成や経理など、一般的な事務職の仕事に加えて、フロントでの接客や客室の清掃に入ることもある。

さまざまな場所で事務を経験してきた中上さん。清浄心院でのお仕事は、ほかの事務職と比べてどうでしょう。

「そうですね… 一番違うのはやっぱり住職の存在でしょうか。今の住職になってからは、なんていうのかな、すごく包まれてる感じがするんです」

中上さん自身は、もともとあまり信仰が厚いわけではなかったそう。そのため、願いを持つ人の想いを仏に届ける加持祈祷も「本当だろうか」という感じで見ていたという。

「あるとき、私ぎっくり腰になったんです。椅子に座っていると急にきて、立てなくなっちゃって。ちょうどそのとき住職がいて、痛くて立てないっていう話をしたら、じゃあちょっとお加持をしてあげようって」

「それで住職がお加持をしてくれたんですね。そうしたら、立って歩けるようになったんです。これ本当なんですよ(笑)。つくり話みたいだから、それ嘘やろって言われるんで、あまり言ってないんですけど」

そこから、中上さんはだんだんと住職のすごさを感じるように。

「『そんなんたまたまやって』って、みんな言うんですけど。感動したんですよね。似たようなことがほかにもあって、2回あると私の中では信じるのに十分で。だからたぶん、ここで働いたらそんな経験をする機会が出てくると思います」

高野山という聖地で、修行を積んだ住職が加持祈祷で人々の悩みに応える。

その不思議なパワーは、高野山だからこそあるように感じるし、それを信じる気持ちもわかるような気がする。

中上さんは、どんな人と一緒に働きたいですか。

「会社とかの事務と同じではありますが、ここは高野山でお寺なので。いろんな不思議な体験とか、仏教ならではの文化を感じることができる。だから宗教に興味がある人だったらいいなって思います」

 

中上さんの話にも出てきたのが、池口恵観住職。護摩行の大行者でもある方だそう。

真言密教の最高秘法「焼八千枚護摩供」を101回以上も修行しており、絶大な法力を持っていると言われている。

どんな人なのだろうか。護摩行のあと、話を聞く時間をいただけるということで、お堂に隣接した部屋で話を聞いた。

「ここはね、とても格があるお寺なんです。お大師さまがつくられた寺ですから。秘仏になっていますが、弘法大師が奥の院に入定される直前に自分の体を模してつくられた仏像が御本尊なんですよ」

弘法大師とは、真言宗の開祖、空海のこと。信者の方はお大師さまと呼んでいる。

真言宗の教えでは、空海は清浄心院から歩いて30分ほど山のなかにある奥の院という場所に生きたまま入り、今もそこで瞑想していると言われている。

「寺っていうのは、人との関わりがすべてですから。だからお坊さんはみんなを大事にできる人じゃないといけないですね。つまりは、人と話し合いができる人」

どうしたら、そんなお坊さんになることができるでしょう。

「それはね、自然となっていきますよ。人の話を聞いていたら、だんだんできてくる。ここには、いろんな悩みを持った人たちが集まってきますから。自然と器が大きくなっていきます。つまり、みんなに教えられるんですよね」

信者さんに教えてもらえる。

「そう、自分が教えるんじゃなくて、人が教えてくれます。悩みに耳を傾けるというのは、自分を成長させてくれる。仏さんにお祈りをしたり、話を聞かせてもらったりしていると、自分の至らなさや良さ、いろんなことがわかっていく。それで人間としての器が大きくなるんです」

お坊さんとして働く。

それは職業と言えるかもしれないけれど、むしろ生き方に近いのかもしれない。

 

最後に話を聞いたのは、清浄心院で役僧として働いている長尾さん。役僧というのは、お寺に雇われて働くお坊さんのこと。

「毎朝5時半にお寺に来て、朝のお勤めの準備をします。清浄心院は6時半からの朝勤行があって、一般の参拝の方々と一緒に40分くらいお勤めをします。それが一日のスタートになりますね」

「そのあとは庭を掃いたり、雪が積もっていたら雪掃除をしたりして。仕事をする、というよりも、お寺で暮らしているような感覚ですね。あとは信者さんのご供養の法要をしていると、一日が過ぎていく。そんな流れになります」

物腰柔らかに、丁寧に話してくれる長尾さん。

僧侶になったきっかけを聞いてみる。

「父はトラックの運転手で、母は専業主婦でした。高校卒業後は一般企業に就職したんですが、1年目のころに、実家の近くのお寺さんの後継がいないっていうことで、ぼくに跡を継いでくれないかという話が来て。それで親戚一同が大賛成しまして」

大賛成だったんですか。

「そうなんです(笑)。もともと、お大師さまを信仰している家だったのもあって、いいんじゃないかって。それでまずは高野山大学で勉強して、そのあとも高野山で数年修行を続けました」

その後、地元の熊本に戻り、継ぐ予定のお寺で働くことに。ただ、そのお寺は当時の住職の孫が急遽継ぐことに決まり、長尾さんは別の道を探すことになった。

それで知り合いの縁から勤めることになったのが、清浄心院。2008年からここで働いている。

「毎日朝のお勤めがあるので、早く起きなきゃいけない。それを毎日ずっと続けていくだけでも、初めての人にとってはかなりのストレスだと思うんです」

「まずしなければいけないのは、自分の生活を整えること。それができないと、日々仏さまのお仕事をすることはできないと思います」

今回の募集では、真言宗の僧籍を持っている人はもちろん、持っていない人でも、僧侶を目指したいのであれば受け入れていきたいそう。

長尾さんはどんな人に来てもらいたいですか。

「お坊さんって、自分で考えて動かないといけないんですよね。飾ってある花が元気ないから替えておこうとか。細かいことにも気づいて動ける人だといいかもしれません」

「あとは、いろんなスタイルのお坊さんがいますので、自分の得意なことを活かせたらいいですよね。たとえば、以前いた人は空き時間に法螺貝を吹く練習をしていました。何事にも一生懸命取り組める人が来てくれたらいいですね」

 

日本仏教の聖地、高野山。

この地には、人を引き寄せる不思議な力があるように感じました。

気になる人は、ぜひ一度高野山を訪れてみてください。そこで空気や体験に魅力を感じたら、この場所で自分を成長させることができると思います。

(2022/12/21 取材 稲本琢仙)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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