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調律と閃きの庭で
1300年の節目を彩る
21世紀の禅寺

かつて聖徳太子の別荘があったとされる地。

ここに、聖武天皇の詔を受け、行基菩薩が西方寺として開山し、その後夢窓国師が「西芳寺(さいほうじ)」と名前を変え再興した寺院があります。

「苔寺」という名前で知っている人も多いかもしれません。ユネスコの世界遺産にも登録されており、その名の通り池泉回遊式の庭には苔が繁茂し、一面の緑。

禅寺としても有名で、スティーブ・ジョブズもこの地を訪れました。

今回はプロジェクトマネージャーとして働く人を募集します。

歴史あるお寺でプロジェクトマネージャー?と、意外に思う人もいるかもしれません。

西芳寺ではまさに今、未来へ向けた大きな転換点を迎えようとしています。

2031年には開山から1300年の節目を控え、その後も2039年、2054年に大きな節目が続きます。その節目に向けたプロジェクトを動かしていくのが、今回募集する人の役割。

仏教的な経験は問いません。

積み重ねてきた歴史と、自然と共生する禅。それらに惹かれる人であれば、仕事がそのまま自分の生き方になりうる場所だと思います。

あわせて、ブランディング責任者(CBO)、寺務員、庭師も募集します。

 

京都・松尾。

観光地らしい賑わいと、どこか旅情を感じさせる空気に包まれながら西芳寺に到着。

西芳寺の参拝は事前申込制。この日も申し込んだであろう人たちが参拝に訪れていた。

中に入り、本堂から少し離れた観音堂で迎えてくれたのが、西芳寺副住職の藤田さん。

「2031年が、行基菩薩がお寺を開山して1300年の遠忌(おんき)にあたるんです。そのあとも、夢窓国師が寺を再興して700年の2039年、聖徳太子が別荘を建ててから1450年の2054年と大きな節目が続きます」

「こんなふうに節目が続くことって、本当に稀なんです。だからこそ、今からできることをして、ちゃんと次の世代へ渡していきたいと考えています」

「遠忌」とは、仏教において特に功績の大きい高僧の命日を弔い、特別な法要を厳修すること。

ただ西芳寺では、法要だけで節目を終わらせるつもりはない。

より良く、より深く、より未来につながる場所になるように。そのためのプロジェクトを進行しているところだ。

かつて境内に存在した水路の復元や、禅の教えを現代に伝えるための禅的人材育成、禅僧であり稀代の庭師でもあった夢窓国師ゆかりの建物の復元プロジェクトなど、多岐にわたる。

それらを横断的につなぎ、実行へ導くために必要なのが、今回募集するプロジェクトマネージャーだ。

西芳寺はこれまでも、歴史を未来へつないでいくために、数々の改革を行ってきた。

闇雲に参拝者数を増やすのではなく、本来のお寺の在り方を模索した結果として参拝者数を制限し、事前申込制を導入したのもその一つ。当時は観光客から不満の声もあったが、観光のために存在するのではなく、周辺地域、そしてお寺と庭が持つ本質を守るために決断した。

4年前には参拝申込をインターネットでも可能に。時代に合わせて変化し続けている。

「歴史って変えてはいけないものと、変えていくべきものがある。西芳寺が1300年続いたのは、革新的な一手を打ち続けてきたからなんです」

日本最古の枯山水が生まれた地でもあり、空海が初めて放生会(ほうじょうえ)という法要を行った場所でもある。時代に必要な変化の一手を打つことが、この寺の歴史を紡いできた。

今回の募集でも「安定志向」の人というよりはベンチャー的な「挑戦志向」の人を歓迎している。

「伝統も、未来へ向けた挑戦も。両方を楽しめるといいんじゃないかな。お寺なんだけど、お寺と思って来てほしくないし、でも入った以上はお寺を意識して働いてほしい。お寺での仕事は、職業というより生き方につながるものなので」

そう話す藤田さん。じつは、寺に戻る以前は東京の総合商社で働いていた。

数あるなかでも、一番遅くまで電気が消えないと言われるほどの部署。仕事漬けの日々を送っていたそう。

出張で海外を飛び回り、成果を認められ、賞をとる。それでも、どこか満たされない気持ちが生まれてきた。

「2年目の途中くらいから、幸せって何なのかに迷ったんです。やりたい仕事はできていて、うれしいんだけど、幸せが継続しないんですよね。お腹が空いたっていう感覚さえ忘れるほど働くのも、おかしいのかなと思い始めて」

そんなとき、ふと手に取った仏教書に書いてあった生老病死の話が、心を揺らした。

「死というものがわからないなら、わからないままでいいんじゃないか。変に答えを出す必要はないし、わからないことを認めて生きたらいい。読んだとき、ハッとさせられたんです」

「仕事って、何か目標を定めて答えを出す。当時はそのしんどさに飲まれていたけれど、わからんのやったらわからんって言っていいんやって。なんか仏教っておもろいなと思ったんですよね」

「僕はね、お寺に生まれたことがすごく嫌だったんです。どんな意味があるんやとか、髪の毛剃らなあかんとか。でも少しずつ仏教の教えに触れるなかで、自分の生まれを肯定できた。それで会社を辞めました」

西芳寺がビジョンとして定めているのが「調律と閃きの庭」。

「調律で終わるんじゃなく、閃きという前向きなパワーが出てくるのが大事だと思っていて。これを英訳したものが好きでね。『The garden of origins and journeys』なんです」

「根源に立ち返り、人生を前進させる場所。西芳寺の目指すところだと思ってます」

迷ったとき、庭を歩く。静けさのなかで自分の輪郭が見えてくる。

自然と向き合うことで、自分の内側が調えられていくのだという。

「西芳寺には“場”の持つ力があるんです。それは僕だけじゃなく、働くみんなも感じているんじゃないかな」

人生を豊かにするにはどうすればよいのだろう。答えが欲しくなるけれど、禅の世界では誰かが教えてくれることはない。自分で探し、感じないといけない。

「やっぱ人間は動物なんで、動かんとダメ。身体性が大事で。僕が前職でお腹空いたのを忘れたっていうのは、身体性を忘れていたわけですよね」

「ここで働くなかで、チャレンジして成長してもらえたらいいと思います。修行だけじゃなくて、お寺で働くことで変わることが実際にあるので」

 

遠忌に向けたプロジェクトを担っている一人が、執事の平井さん。

プロジェクトマネージャーとして入る人は関わることが多いと思う。

もともとはホテルで15年働き、レストランサービスから人事まで幅広く経験していた。

30代に差し掛かったころ「このままでいいのか」という思いが芽生えたそう。

そんなとき、宮城県の石巻への一人旅で、津波で妻と娘を失いながらも地域の再生に取り組む男性と出会った。同世代で娘をもつ平井さんはその男性の境遇に自分を重ねる。

「その方が悲しみを乗り越えたのかはわかりません。ただ、その人がカフェをつくって、地域のためのコミュニティづくりに尽力していた。その姿を見た瞬間に、自分が生きる意味とは何かを真剣に考えました」

その後仕事を辞めて大学院に進学し、経営と観光を学ぶなかで出会ったのが藤田さんだった。

藤田さんが語ってくれたのは、西芳寺の将来像。形骸化した葬式仏教ではなく、「生きた仏法」を伝えたい。今を生きる人とお寺の関係をリデザインし、この瞬間を豊かに生きる手助けをしたい。

それが西芳寺が目指す「21世紀の禅寺」なのだと。

「1週間くらいお寺で働く体験をさせてもらったんです。未知の世界でしたし、迷いもあったんですけど、この場のもつ力と藤田さんが描くお寺の将来像にワクワクしたし、ここにいる人と一緒に働きたいと思った」

「言葉にしづらいんですが… この人たちと働くことが、自分の人生にとっていいんじゃないかと。生き方に共鳴するような感覚がありました」

入職後は、後援組織の西芳会に籍を置き、お寺の運営や収益化のサポートを担当。

また、人とお寺の新しい関係性づくりの一つとして、会員制度を導入。「行きつけのお寺」になれるよう、元旦参りやお庭坐禅などのプログラムをつくったり、ジャーナルでの情報発信をしたり。

「『この“場”が好きだから未来に残してほしい』という応援の気持ちを軸にした会員制度にしたかった。そこに至るまで、相当議論しました。でも理念に立ち返りながら整えていくうちに、自然と形が見えてきましたね」

それらの仕組みは3年ほどかけて整ってきたので、今は遠忌に向けたプロジェクトにも関わっているところ。そのひとつが禅的人材の育成。

禅の思想である『今この瞬間を豊かに生きる』ために、坐禅や作務を通して一般の人向けに自己を見つめる機会をつくる、というもの。

新しく入る人も、平井さんと共に遠忌に向けたさまざまなプロジェクトを進めていってほしい。

「何が起こっても、今をあるがままに受け入れて進む人を一人でも多く増やしたい。これって『生きた仏法』にもつながっているんです。そういうことを考えていると、自分も普段から自己を見つめていないと事業をつくれないって実感するんですよ」

「お寺で働くって、最初はもっと仕事の役割で貢献していくと思っていたんです。でも実際は、仕事に留まらず自分自身の生き方に密接につながってくる。そこはいい意味でのギャップになるかもしれません」

 

二人の話を隣で聞いていた、入職して約1年半の堂國(どうくに)さんも続ける。

「私、朝出勤するとき、毎日お庭に寄ってから寺務所に行くんです。日々見続けていると、今日はちょっと雰囲気違うなとか、光の差し方がきれいだなとか」

「毎日の変化を探すというよりは、今日ってこんな日なんやっていうのを、受け入れて気持ちがリセットされる感じ。」

堂國さんはもともと金融機関で働いていた方。

お客さんや同僚にも恵まれていたけれど、職場の性質上、転勤が多く、人間関係がリセットされることに引っかかりを感じていた。

「12年働いて、30代中盤になって。同じ職場で働き続ける選択もあったんですが、後悔しそうな気がしたんです。変えるチャンスがあるなら、今かなって思ったときに西芳寺の募集を見つけました」

寺務員として入職した堂國さん。人事や参拝の運営など、裏方の仕事を主に担当している。

「業務量が多くて大変なときもあります。たとえば今だと、藤田さんや平井さんが受け持つプロジェクトにサポートで入らせてもらっていて。たくさんのことを同時並行して進めています」

「お寺と聞いて浮かべる、ゆったりと働くイメージとはギャップがあるかもしれない。でも、働きながら自分の内側が変わっていくのを感じるんですよね」

具体的に動いているプロジェクトは、禅的人材の育成のほかにもさまざま。

物見遊山の観光と距離をとり、自己と向き合うための参拝体験をさらに深化させていくこと。かつてあった「水路」の復元や名所復活を通し、先人たちが築いてきた歴史の重層性を感じられる空間づくりを進めていくことなど。

「いそがしいときも大変なときも、一緒に前を向いてがんばれる人と働けたらいいなと思います。西芳寺はお寺自体も、働く人も、変化や成長し続けている場所だと思うので、それを楽しめる人がいいですね」

「変化って、受け入れがたく感じるときもあると思うんです。それでも、西芳寺をより良くしたいという思いはみんな一緒。素直に一度受け止めて、自分の意見も言う。前向きに進んでいける人だといいですね」

 

1300年の歴史を紡ぐのは、守り続けることではなく、変わり続ける姿勢。

禅とは、難しい理屈ではなく、生き方として自分と向き合い続けること。

藤田さんはこう話してくれました。

「このタイミングって、ご縁の賜物くらい言ってもいいと思うんですよ」

「このときを一緒に迎えられるって、粋じゃないですか」

西芳寺の未来をつくるプロジェクトに、あなたも加わってみませんか。

(2025/11/10 取材 稲本琢仙)

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