求人 NEW

いつも一定に、淡々と
歳を重ねる
家具に寄り添って

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

どんなに天気のわるい日も、気持ちが落ち込んでいるときも。

自分の気持ちを一定に整え、目の前の家具と向き合い続ける。それを長年続けた先に、感じられる手応えがある。

今回紹介するのは、日々積み重ねていくことの大変さも、やりがいも詰まった仕事です。

デンマークで100年以上続く家具のブランド「カール・ハンセン&サン」。

元々は1908年、初代のカール・ハンセン氏の小さな家具工房としてはじまりました。孫の代になった今でも、ほとんどの工程を職人の手作業でつくっています。

1950年代の発売以来、ブランドの代表作となっているのが、CH24、通称「Yチェア」。

曲線を描くアームと一体になったY字の背もたれ、ペーパーコードと呼ばれる紙素材のロープで編まれた座面が特徴です。

今回、その日本法人であるカール・ハンセン&サン ジャパンで募集するのは、リペア職人。

ペーパーコードの張り替えのほか、お客さんから届くリペア依頼への対応全般と、デンマーク本社から入荷した商品の組み立てや検品を担います。

木工家具の製作や修理に携わったことがある人なら、経験を活かして働くことができる環境です。

生涯にわたり愛用でき、次の世代にも継承できる家具を送り出す。そんな考えでものづくりを続けてきたカール・ハンセン&サンで、リペアの仕事がもつ意味は大きいものだと思います。

 

取材に訪れたのは、カール・ハンセン&サン ジャパンの平和島倉庫。

東京モノレールの流通センター駅から歩いて5分ほどの、東京流通センターという大きな建物の4階にある。

取材の日は、とても風がつよく、道端の八重桜も風にあおられている。いろいろな企業の物流の拠点が集まっているからか、建物には大きなトラックが何台も出入りしている。

40人ほどが働くカール・ハンセン&サン ジャパンは、千駄ヶ谷の本社とこの平和島倉庫が主な拠点。

東京と大阪の直営店に加え、全国のインテリアショップやデパートの家具売り場などに商品を卸している。

実は、本国デンマークの次に日本での売上が大きいという。国内にリペア工房を設けているのも、デンマーク以外では日本だけなのだそう。

コロナ禍を経て、自宅のインテリアを充実させたいと考える人が増えたこともあり、カール・ハンセン&サンの売上は伸び続けている。日本での修理依頼も増えているため、今回職人を募集することになった。

この倉庫で働くのは、リペア職人が所属するプロダクションチーム、リペア時にお客さんとの窓口として修理依頼を受け付けるカスタマーサービス、そのほか輸出入や物流に関わるロジチームが中心。

オフィスの奥にあるドアを抜けると、広い倉庫に隣接した工房が広がる。

作業の合間に話を聞かせてくれたのは、ベテラン職人の小森谷(こもりや)さん。発送前の家具の検品、ペーパーコードの張り替えの補修を主に担当している。

「今日は風が強くて、ちょっと憂鬱な天気ですよね。こういう日は結構コンディションが左右されるんです。天候も体調も気分も、すべて影響しますね」

そう話すのは、ペーパーコードの張り替えについて。

天然素材の紙でつくられているペーパーコード。一見紙袋の持ち手のようだけれど、樹脂を染み込ませているのでとても丈夫だそう。

Yチェアは、これが座面全体に張られている。柔軟性があるので、使えば使うほど持ち主にフィットしていくという。

10年は問題なく使えるものの、だんだんとコードが緩んだり切れてしまったりすることもあり、その張り替え依頼がリペアのなかで多くの割合を占める。

椅子一脚あたりに必要なペーパーコードは120m、一脚にかかる時間は1時間ほど。10mほどの長さにカットしたロープを、職人が位置を移動しながら椅子に巻きつけ、少しずつ編んでいく。

「はっきり言うと、むずかしいですね。長年やっても終わりがない感じというか、一朝一夕ではできるようにならない」

「どんなときでも、なるべく一定の仕上がりになるように心がけています。気分が乗らないときは、それが編み方に反映されちゃう場合もある。逆に気分がいいときは、少し落ち着いて編むように気をつけています」

コードの張り替えに加えて、経年により生じた接合部のゆるみを再接着したり、アームなどのパーツを補修・交換したり。

椅子だけでなく、テーブルやキャビネットなどの立て付けを直すなど、ほかの家具の修理を手掛ける場合もある。

どんな依頼でも、まずはそれぞれ状態を確認してからリペアの内容を決める。必ずお客さんに確認をとったうえで、適切な作業を施していく。

「ここの部分、犬がかじってるね、猫が遊んでるね、とか、届く家具から生活がいろいろと読みとれますね。基本的にはお客さまの使っていたままの状態で、傷さえも思い出として、引き続きお楽しみいただきたいと思っています」

子どもに引き継ぐために修理したいなど、世代を超えて使ってくれるお客さんもいる。

パーツ交換が必要になった場合、交換前の古いパーツも一緒に返してほしい、というリクエストも多いそう。

お客さんがこれまで重ねてきた時間を、リペアを挟んでも変わらず積み重ねていけるように。そんな意識を持って、一つひとつの家具を手がけている。

もともとは、20年以上前にカール・ハンセン&サンに入社した小森谷さん。途中、ほかの会社で家具のリペアに携わり、2年ほど前にカール・ハンセン&サンに戻ってきた。

最初に勤めていたころに買ったYチェアを、ずっと愛用しているんだそう。

「他社にいたとき、自分が持っているYチェアのペーパーコードの張り替えを頼もうとしたら、半年待ちだったんです。職人がちょっと足りていなかったみたいで、それなら戻ろうかって。そんな感じでした」

「新人のころに自分が編んだ椅子の張り替え依頼が、今また来ることもあるんです。不思議なんですけど、自分がやったものだってわかるんですよ」

編み方でわかるんですか?

「いや、編み方はみんな同じです。張りのテンションというか、表情が一つひとつ違うというか。当時メンバーが5人いたんですけど、これは誰のだなって、見たらわかると思いますよ」

「自分が編んだものが何十年か経ってまた自分のところに戻ってくる。そういう仕事ってあんまりないんじゃないかな」

きっと、出会えたらすごく感慨深いはず。日々積み重ねた仕事の先にある、ご褒美のようなものかもしれない。

「そのぶん、毎日同じように何十年もやり続ける。それは、この仕事で一番大変なところだと思いますね」

小森谷さんは、どうして続けられているんですか?

「あんまり考えたことはないんですけど… 仕事ですから。それに尽きますかね」

「同じことを淡々と、常に一定のレベルでやり続ける。それが苦にならない人じゃないと、むずかしいのかなと思います。自分はそういうタイプなんでしょうね。言い方はおかしいかもしれないですけど、無になれる。そのことだけに集中できるのはいいですね」

口数が多いわけでも、あえて盛り上げようとするわけでもないけれど、ところどころから想いを感じる小森谷さんの話。

チームの雰囲気は穏やかに醸成されている感じがする。それはきっと、小森谷さんの存在も大きいと思う。

 

「自分が前回の記事を読んで入ったので、半年後に自分が紹介されるなんて、ちょっと不思議な気持ちです」

そう話すのは、10月に入社した古屋さん。落ち着いた口調で、しっかりと受け答えしてくれる方。

以前は、北欧のヴィンテージ家具を扱うショップで、接客と修理の仕事をしていた。

「家具にかかわらず、手を動かして何かをつくるような仕事を探して、日本仕事百貨を読んでいました。まさか、カール・ハンセン&サンの募集があるとは思いませんでしたね。Yチェアをデザインしたウェグナーも家具業界ではよく知られていて、憧れのブランドだったんです。見つけて、あ!と思って、すぐ応募しました」

憧れの会社に入社して、どうでしたか?

「まずは、出荷するときの検品の基準がすごく高くて、びっくりしました。ヴィンテージだと最初から傷があるのは当たり前なんですけど、新品だと少しの傷も許されない。かなり厳しく見ていますね」

デンマークから届いた商品のパーツの組み立てや、カラー変更などの組み替えに対応。その後検品し、店舗に出荷できるようにするのも、職人の大切な仕事。

仕上げが適切か、木部に不具合はないか、全体を細かくチェックしていく。

今はペーパーコード張り替えの訓練中で、まだお客さんからのリペア依頼の椅子を手がけたことはないという古屋さん。

傷の補修や立て付けを直すなど、以前の仕事で経験のある修理を中心に担っている。新しく入る人も、自身の経験に合わせた業務からはじめ、徐々に幅を広げていくことになる。

「前職では、仕入れた中古品を販売するために修理する、ということがほとんどでした。ここではお客さまの家具を、さらに長く使ってもらうために修理するので、それは大きな違いですね」

お客さんが長く愛用してきたものに、手を加える。プレッシャーがありそうですね。

「そうですね。ただ、わざわざ修理してまで使いたいっていうお客さまは、相当愛着があってこれからも長く使っていきたいっていう方々だと思うので」

「お客さまに気持ちよく使い続けてもらう手伝いができると思うと、うれしいです。プレッシャーよりも楽しみのほうが気持ちとしては強いですね」

入社して大変だったことはありましたか?

「修理に関連するような事務作業とかでパソコンを使うこともあって。いろんなことができるのはありがたいけれど、大変でもあります。パソコンは今、がんばっているところです(笑)。どれかひとつを追求するのではなくて、いろんな仕事に取り組んでいく環境ですね」

いわゆる職人と聞くと、個々で腕を磨きながら、ひとつの技術を追求していくイメージがあるけれど、ここでは幅広い仕事へのチャレンジが求められる。

テーブルやソファなどの大きいものは2人1組で作業をすることも多いし、輸送の関係で納期がタイトになるときは、チームの垣根を超えて協力する姿勢が求められる。

視野を広く持って、チームワークを大切に働くことができる人が合っているんだと思う。

 

カール・ハンセン&サンの家具を使うお客さんも、それを直す職人のみなさんも。

家具とともに重ねる時間を何より大切に思う気持ちが、根底にあると感じました。

一つひとつのものと丁寧に向き合う。そんな毎日によろこびを感じられる人が、一員になってくれたらうれしいです。

(2023/4/7取材 増田早紀)

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