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あれ?何か変だぞ。
そう思うものに対して、人は注意を奪われる。違和感の正体を突き止めようと目を凝らす。
そうやっていつの間にか引き込まれていくのが、GRAPHのデザインだと思う。
グラフ株式会社は、印刷をルーツにグラフィックなどデザインを手がけてきた会社。パッケージなどはもちろん、ネーミングや空間、最近はWebコンテンツも含め、ブランドコンセプトからデザインするプロジェクトが増えています。
「こうあるべき」という常識をスッとかわしながら、時代に合わせて生まれ変わろうとする人たちに、アイデアを届けています。
GRAPH自体もまた、変わり続けてきた会社です。
今回はここで、プロジェクトマネージャー(PM)として働く人を募集します。デザイナーやクライアント、外部のパートナーとコミュニケーションをとりながら、企画、進行を担う役割です。
マネージャーという名前ですが、みずから企画も考えるディレクターに近いポジションだと思います。あわせて、デザイナーも募集します。
食品からファッション、文具、観光、伝統文化、ときには神社まで。幅広いプロジェクトに関わるので、PMに関しては必ずしもデザインのバックグラウンドがなくてもいい。
誤解を恐れずにいうなら、世の中でちょっと変人扱いされているような人ほど、GRAPHで活躍できるのかもしれません。あるいは、そういう人の個性を愛せる人を求めています。
代官山駅から歩いて5分ほど。
緑に囲まれたヒルサイドテラスのなかにGRAPHの東京事務所がある。
白で統一された室内と、対照的にヴィヴィッドな色合いの椅子やスリッパ。明快なコントラストで整理された空間は、GRAPHのデザインにも共通する気がする。
まずは、京都で働くPMの錢亀さんにオンラインで話を聞かせてもらう。
「14年くらい前に新卒でデザイナーとして本社に入って、その後東京に赴任しました。当時はまだPMという職種はなく営業職で、いわゆる印刷営業とデザイン案件の営業が半々くらいでしたね」
GRAPHの本社は兵庫県加西市にある。お隣の西脇市は日本有数の綿織物の産地。
昭和8年に兵庫県で創業したGRAPHも、もともとは綿織物を扱う会社だった。
やがて服飾雑貨のための紙箱製造がはじまり、パッケージなどの印刷業に移行。印刷物の価値を高めるために、デザインから手がけるようになったのが30年ほど前。
パッケージやロゴなど、印刷物のデザインを提案していくうちに、コンセプトメイキングや、空間デザイン、イベント、企業の人事やマネジメントの問題まで一緒に考える案件が増えてきた。
クライアントに必要なメニューを組み合わせて提案するなかで、最近大きなウェイトをしめるようになったのがWebコンテンツの領域。
ひとくちにWebといっても、WebサイトにSNS、ECの仕組みづくりなどさまざま。AIなど新しい技術もキャッチアップしながら、新しく加わる人と一緒に提案の幅を広げていきたい。
「僕も一応最低限の知識はありますが、日々トレンドや最新技術が目まぐるしくアップデートされる分野なので、Webの専門性や経験、興味がある人が加わってくれると助かります」
PMに求められているのは、すべてを自分で手がける能力ではなく、必要に応じて専門家に相談したり、外注したり、全体のディレクションができることだという。
「うちのPMって、役割がかなり幅広くて。代理店だったら、営業やクリエイティブディレクターと分担することを、一人で何役も担っているような気がします。そのぶん、いろんな人と直接やりとりができるので、話は早いです」
プロジェクトの進行管理はもちろん、納期の相談や、異なる意見の調整など、ときには言いにくいことを伝える役割も。
板挟みでしんどいことはないですか。
「あります、あります(笑)。ただ、本当に大変なときは必ず誰かが助けてくれる。社内の先輩はもちろん、ときにはお客さんに現状の課題を正直に打ち明けて、一緒に考えてもらうこともあります」
「ブランディングやリニューアルなど新しい挑戦には、つねに不安やリスクが伴うし、必ず成功する保証はない。それでも、一緒にやってみようと思ってもらえる空気感をつくって、モチベーションを高めていくのがPMの役割なのかなと思います」
まずは相手の気持ちに寄り添うこと。丁寧にコミュニケーションをとること。
「目の前のお客さんに喜んでほしいと思う感覚は、接客業にも似ている気がします」
そう話すのは、東京事務所で働く八戸さん。1年ほど前に産休から復帰して、今は子育てをしながら働いている。前職ではファッションに関する仕事をしていた。
GRAPHが手がける案件は、食品から、雑貨、伝統的な工芸品など幅広い。だからこそ、デザイン業界以外の経歴や、趣味の知識などがPMとしてのアドバンテージになることもある。
「PMがディレクターとして企画を考えることも多いので、日ごろから、いろんな分野にアンテナを張って、気づいたことをメモするようにしています」
八戸さんが企画から取り組んだのが、みそのブランディング。老舗食品メーカーが半世紀ぶりに復活させた伝統製法でつくられたものだ。
そこで提案したのは、ゴシック体のフォントにピンクが効いた、なんとも「伝統的なみそ」らしからぬパッケージ。
「おみそのパッケージって、数十年前からほとんど変わらないものが多くて。筆文字の、ちょっと懐かしい感じが定番というか」
売り場でわかりやすいデザインほど、家で使うとき生活感が出ますよね。
「そう。今回デザインを考えるとき意識したのは、若い世代の生活に溶け込むようなものにしたいということでした。シンプルなインテリアを好む人たちが、自宅のキッチンカウンターに出しておいても気にならないような」
スチール写真やテレビCMもそのイメージを核にし、「いかに生活になじむか」を伝えるユーモラスな広報企画として、ARを使った「どこでも追いこうじみそ」も展開。
普段とは違う切り口で、みそを意識してもらうきっかけを提案した。
「実はこのデザインを提案した当初、ユーザー調査は最下位でした。従来のパッケージに見慣れているユーザーからみると、たしかに相当な違和感があったと思います。メーカーの社内でも賛否あったそうです」
「もともと従来のおみそとの違いを伝えるためのデザインなので、既存のユーザーが違和感を示すのは、企画が成功している証です。メーカーの担当者の方も『これは、後でいいエピソードになるね』って、ポジティブに受け止めてくださって」
初期のリアクションに反して「追いこうじみそ」の出荷量は今、想定より伸びているという。
今までと違う形、見たことのないデザイン。
新しいものが生まれるときには、必ず一定の拒否反応が生まれる。
それでも自信を持って提案できるのは、GRAPHのデザインが知財など法律の裏付けも含めて、緻密に計算されているから。
「デザインを比較するために、グラフィックを0.01mm単位で何パターンもつくって調整するような作業もよくあります」
そう話すのは、入社して丸3年というデザイナーの山田さん。
アシスタント業務からはじめて、最近はクライアントとのやりとりやプレゼン、進行管理にも携わるようになったそう。
「学生のころは、デザインの仕事にしか興味がなかったけど、GRAPHの仕事はグラフィックだけじゃなく、ブランドそのものを一緒にデザインしていけるのがおもしろいです。いろんな業種のお客さんがいるので、興味の幅も広がりますし」
人の想像力は、あらかじめ頭に入っている情報の範囲にしか及ばない。
デザイナーとしての幅を広げたいなら、デザイン以外のいろんな分野を学んだほうがいい。というのが、GRAPHの代表を務める北川一成さんの考え。
「こんなこと、求人のときに言うのもどうかと思うけど、僕は近い将来AIをスタッフにしたくて。ゼロから1を生み出す仕事はまだ無理だけど、アシスタントはもうAIが完璧にできるらしいです」
「だから、ロボットみたいに命令に従うだけの人間は必要ない。僕のデザインに対して、真逆なコンセプトで反対してくるような人が入ってくれないかなと思っているんですよ」
さらに北川さんの話は、ChatGPT、光遺伝学、歴史学と、現実と近未来とSFを行き来するように展開していく。
現実味があるような、ないような。正直、理解が追いつかない。GRAPHの提案を受けるクライアントは、いつもこんなふうに驚かされているのかもしれない。
少し困惑していると、北川さんは、30年くらい前に手掛けたという日本酒のパッケージデザインを見せてくれた。
「この文字、普通の明朝体に見えるけど“ウロコ”がないでしょ。僕が、初期のMacでつくったフォントなんですよ。当時Macにはフォントが2種類しかなくて、大御所の先輩たちもみんな写植のほうがいいに決まってるって言って見向きもしなかった」
今となっては耳慣れない「写植」という言葉。
文字を写真のように焼き付けて印刷用の版下を作成する手法で、使える書体の種類も多く、DTPが普及するまでは主流だった。
「Macの書体が少ないなら、自分でつくればいいと思って。線もデジタルだと面白みがないから、ノイズを加えたり、滲ませてみたり。わざとアナログっぽくしたんです。当時はMacでつくりましたって言うと、お客さんや先輩に怒られたから(笑)」
発展途上だった初期のデザインソフト。その可能性を手探りで見出していたころ、阪神・淡路大震災が発生。
関西を中心に印刷の仕事をしていたGRAPHは、受注が激減した。
新たな市場を求めて上京するも、東京は競合が多く参入しにくいうえ、GRAPHの加工場は遠隔地にある。普通に考えると、コストでもスピードでも圧倒的に不利な状況だった。
「うちはMacを使えたから、デザインをデータ送付することができたんですよ。版下がいらないぶん、事務所も小さくて済んだしね」
今となっては誰も疑わない手法だけど、先駆けて取り入れる判断ができたことが、震災という非常時の後で大きな意味を持った。
「生物が海から陸に出て進化したように、歴史上ゲームチェンジは必ずあって、その時代の有識者の意見だけを信じると失敗する。みんなから『アホちゃうか』って言われながら奇想天外なアイデアを実行した人のおかげで、僕らは今生き残っているわけですよね」
「うちの仕事も、よくこんな企画が通ったなって言われるものは多いです。でも、普通にみんなが想像できる範囲の提案なら、僕らがいる意味がないでしょ。最初はびっくりするけど、聞いてみたらそうやなって、納得できるアイデアがいい。自分の中では根拠があるから」
相手の気持ちに寄り添いながら、常識の枠を越えて発想する。
人の喜ぶ顔が見たいと、一生懸命になる。
それは、“今のところ”人間にしかできない仕事だと思います。人間らしい価値をGRAPHで存分に発揮してみてください。
(2023/3/22 取材 高橋佑香子)