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松原に富士山
浮世絵の世界で
ここだけの時間を

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

松林に海、遠くには高くそびえる富士山。

静岡・沼津の海沿いには、浮世絵に描かれるような、うつくしい風景が広がります。

温暖な気候と豊かな自然に恵まれた沼津は、多くの文化人に愛される高級別荘地として発展してきました。

そのひとつとして100年以上の歴史を誇るのが、沼津倶楽部です。

3000坪の庭園内で存在感を放つのは、千人茶会のために建てられた数寄屋造りの和館。戦後、日本国憲法の草案が話し合われた場であり、国の有形文化財にも登録されています。

2008年には和館を活用したレストランと、新設の宿泊棟もオープン。会員制の宿泊施設として、特別な時間を提供してきました。

そしてこの春、これまでの歴史を引き継ぎつつ、沼津倶楽部がリニューアルします。

今回募集するのは、そのオープニングスタッフ。コンシェルジュ、レストラン、キッチンと肩書きこそありますが、全8室の小さな施設。スタッフ全員で力をあわせて、特別な時間をつくっていきます。

日本建築が好き。日本の伝統文化に興味がある。沼津の魅力を発信したい。そう思う人も、いまはまだ「好き」とは言えない人も、興味や関心を広げながら働くことができると思います。

 

沼津倶楽部へは、沼津駅からバスと徒歩で15分ほど。

最寄りのバス停から駿河湾は歩いてすぐ。遠くには伊豆半島や山も見えて、潮風が気持ちいい。

海岸には千本松原と呼ばれる松林が広がっている。400年ほど前に植えられた木々は、戦火を逃れ、地域の人の手で大事に育て続けられているそう。

海岸から徒歩1分ほどで、沼津倶楽部に到着。

敷地内、入ってすぐの場所には茅葺き屋根の門がひっそりと佇む。

聞こえるのは、鳥の声と、葉のこすれる音くらい。静かすぎて、ここだけ時間が止まっているような心地になる。

庭を歩いた先に、工事中の建物を見つけた。

待っていてくれたのは、沼津倶楽部の運営会社で、株式会社GREENINGの代表を務める関口さん。

「現在はリニューアルのため休業中なんですが、まずは施設をご紹介しましょうか」

沼津倶楽部は庭園と、その中に建てられた和館、宿泊棟の3つで構成されている。

和館は、1907年に建てられた数寄屋造りの「松岩亭(しょうがんてい)」がベースになっている。使用されている木材の種類も多様で、細工も細かく、当時としては贅沢な造り。

2008年には宿泊棟を新設。和室、洋室、メゾネットなど、さまざまなタイプの個室があり、このリニューアルでは、スパやサウナが新しくできるそう。

宿泊棟は和館の数寄屋造りから着想を得て、さまざまな大きさの砂でつくった土壁など、随所に工芸的なアプローチが取り入れられている。

もとある建物や景観と調和するようにと、心を込めてこの空間がつくられてきたことがわかる。

「沼津倶楽部で宿泊事業が始まったのは、和館を残していくためだったと聞いています」

戦火を逃れた沼津倶楽部は、戦後、沼津市復興のための協議や接待ができる場として活用され、沼津市民の心のよりどころでもあった。

この場所と、建物に象徴される日本の伝統文化を継承していきたい。そんな想いで始まった沼津倶楽部の経営を、縁あってGREENINGが引き継ぐことになった。

GREENINGは、長年不動産に関わる仕事をしてきた関口さんが3年前に立ち上げた「不動産の価値づくり屋」。

「不動産の価値とは、地理的条件だけではないんです。いい土地を押さえて、いい建物をつくるだけではなくて、いいコンテンツと、いい人が欠かせない」

不動産の企画だけでなく、建築やデザイン、飲食店のプロデュースから運営まで、ハード・ソフトを問わずさまざまな事業を手がけてきた。

これまでは新しい施設を一からつくることも多かったものの、別の方向性も探りたいと思うように。

「もう、新しいものをつくって売って、という時代じゃない。今すでにあるものに立ち返り、その良さを自分たちなりに理解して、再定義して、継承していく。そんな事業ができたら、量がものさしではない、別の成長の道が見えてくるんだろうと思っています」

和館には、新しくモダンチャイニーズレストランが入る予定。鎌倉の有名店「イチリン ハナレ」で四川料理を提供していた齋藤宏文シェフが、沼津の食材を活かした料理を手がけるとのこと。

イチリン ハナレが数寄屋建築でコース料理を提供するレストランだったことや、齋藤さんが静岡の御殿場出身で、幼いころから沼津に親しんできたこともあり、自然に話が進んだ。

それにしても、和風のお屋敷だし、チャイニーズとは意外でした。

「コース仕立てだし、お酒とのペアリングもありますから、割烹やフレンチの要素も含んでますけどね。でも、日本人にとって中華料理って、身近なものじゃないですか?」

「これまで、沼津倶楽部ではほぼ宿泊者の方にしか料理を提供できていなかったんです。沼津倶楽部の生い立ちを振り返ると、戦後、沼津の復興のために人々が集まる場所でもあった。これからはランチも営業して、地域の方にもひらけた場にしたいと思っています」

食は、すべての人の共通事項とも言えるもの。生活であり、楽しみだからこそ、地域の人との接点になるのではないか。

宿泊のお客さんにはくつろぎの場として。地域の人には、ハレの日を祝う場所として。さまざまな人に和館を訪れてもらうことが、沼津倶楽部の文化を継承していくことにもつながっていく。

 

「いい場所にはいいコンテンツと、いい人が欠かせない」と話していた関口さん。

レストランが文化をつなぐコンテンツだとしたら、いい人とは、どんな人なのだろう。

「まさにその一人」と関口さんが挙げていたのは、総支配人を務める清水さん。

席につくと、「寒くないですか?膝掛けもあるので、よければどうぞ」と声をかけてくれる。

アマンリゾートをはじめ、長らく国内外のラグジュアリーホテルで働いてきた方。

「20室程度の小さな施設を多く担当してきたので、お客さまもスタッフとも密にかかわる感覚がずっと残っているんですよね。ここ数年は、営業や広報をしていたんですが、やっぱりお客さまの顔が直接見える環境に身を置きたいと思って」

ずっと想いを秘めていたものの、コロナ禍もあってなかなか希望にあうところが見つからなかった。

「役割分担がはっきりと決まっている大型ホテルは、支配人の顔もよくわからないみたいな職場が多くて、働く想像ができなかったんです。範囲を広げて探そう、と考えたときに声をかけてもらったのが、沼津倶楽部でした」

詳細を聞く前に、「まずは見学させてほしい」とお願いした清水さん。すでに当時、休業中でお客さんもスタッフもいなかったけれど、実際に訪れてみて、自分やチームが働く姿を想像したいと思ったそう。

訪れてみて、働くイメージはできたのでしょうか。

「そうですね。大変そうだなと思いました(笑)。ここの和館も、美を求めてつくられたものなので、いわゆる施設に必要とされる設備が、かなり乏しくて…」

たとえば、和館には、裏方の動線を想定したバックスペースがほとんどないため、お客さんにもその姿が丸見えになってしまう。

それに、改修したとはいえ、建物自体はかなり古い。今いるこの部屋も、窓の建て付けがわるく、すきま風が吹き込むのが悩み。そう話す清水さんは、困った顔だけれど、どこか楽しそうな様子。

「私は決まったことをやっていくより、面倒くさいこととか、大変だなって思うことにチャレンジしたい派で。どうするか考えていく楽しさみたいなものが、やりがいにも、次のステップにもつながるように思うんです」

「ここで働こうと思った決め手は、やっぱり沼津倶楽部の価値です。私自身、コロナ禍までずっと海外で働いていたので、日本らしいものに魅力を感じるようになっていました。ここにしかないものがたくさんあると思いますし、それらを残していきたいとも思っています」

あらためて、今いる空間を見渡してみる。

意匠を凝らした窓枠に、竹を編んだような天井。大きな窓の外には、春の芽吹きを待つ木々の姿。

ここだけでも、日本らしいと感じるものがぎゅっと詰まっていて、贅沢な気分になる。

世の中では、非接触型の宿泊施設が増えている。それとは逆で、沼津倶楽部ではいかにお客さんと接点を持つかが、サービスの肝になってくる。

「ここに滞在する意味、ここで過ごす時間や空間を心ゆくまで楽しんでいただけるよう、気を配ることが大切だと思っています」

納得いくクオリティのサービスをつくっていくためにも、本当に一緒に働きたい人と出会うまで、根気強く採用活動を続けているところ。スタッフが十分に集まるまでは、開業を遅らせる予定なのだそう。

「内定者の方には、ひとつのチームというか、ひとつの家族みたいな気持ちで助け合ってやっていきましょう、と伝えています。小さな施設ですし、設備面のむずかしさも正直に伝えたうえで、役割にとらわれず、なんでもやる気で来てくださいと話しています」

「なにかを教えるというより、どうしよう?こうしてみようか!と言い合いながら、よりよい方法を考えていきたいですね」

話をしていても、壁を感じさせない雰囲気の清水さん。想いをともにすることができたら、なんでも言い合える、フラットな関係で仕事ができると思う。

清水さんは、どんな人と働きたいですか?

「立地的には、沼津倶楽部ってわざわざ来てもらう場所だと思うんです。来たい、と思うところにはきっと人がいる。だから、ここで働くスタッフには、一人ひとりが主役だと思ってどんどんキャラクターを出していってほしいですね。お客さまとも相性があると思うので」

清水さんの言葉に、関口さんも頷く。

「この規模だと、全員がお客さまと接点を持つし、お客さまにとってはその接点がすべて。だから、みんなが沼津倶楽部の代表者なんです。そこに、なにか人間味みたいなものが感じられると、おもしろい施設になると思っていて」

「歴史でも、料理でも、建築でも。このなかで好きになれそうなことがあれば、なんでもいいんです」

もちろん最低限のマナーとのバランスではあるけれど、滲み出るその人らしさも沼津倶楽部の魅力になっていくのだと思う。

これまでも、人を軸にした場づくりに取り組んできたGREENING。ラグジュアリー施設の運営が沼津倶楽部が初めてとなる。

「僕らなりのラグジュアリーの定義を、ここで考えていきたいと思ってます。清水さんって、いい意味でラグジュアリーっぽくないんですよ。気張らないでいられるというか。そんな、さまざまな角度から沼津倶楽部を愛してくれる『いい人』が集ったときに、これまでにない観光のあり方も見えてくると思うんですよね」

人の流れが変われば、まちも変わっていく。GREENINGの地方創生事業の第一歩として、沼津倶楽部をチャレンジの場にしていきたい、と関口さんは話していた。

 

この場所が、ここで過ごす時間が好きだから。

そう感じられる空間には、数では量れない価値が宿っているのだと思います。

沼津から、新しい日本の風景をつくっていってください。

(2023/2/9取材 阿部夏海)

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