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シェフの隣で
感じる、動く、考える
未来の日本の海と食

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

スーパーでときどき思っていたこと。

魚って輸入ものが多いんだなあ。値段の割にちょっと小さいなあ。

内陸に住んでいるからだと思っていたけれど、どうやらそれだけが理由ではないようです。

海に囲まれた日本で、当たり前に魚が豊富だったのは少し前までの話。漁獲量は年々減少傾向で、この40年でピーク時の3分の1以下にまで減っているそうです。

昆布やカツオ節、イリコで出汁をとり、定番の朝ごはんに焼き魚を思い浮かべる。

海と密接に関わってきた、そんな日本の食文化をつないでいくために。立ち上がったのは、フードジャーナリストとトップシェフの集団でした。

一般社団法人Chefs for the Blue (シェフス フォー ザ ブルー)。

豊かな日本の海を守っていこうと、水産資源保護の重要性を伝えるイベントやセミナー開催、持続可能なシーフードを用いた商品開発などに取り組んでいるチームです。

業務委託として、この団体と各プロジェクトの運営全般に関わる事務局スタッフと、広報スタッフを募集します。

チームメンバーは、長年食の分野で活躍してきた経営チームのほか、東京と京都に拠点を置く計43名のトップシェフたち。

全員に共通するのは、「食の未来を守りたい」という想いです。

社会課題の解決を目指しながらも、食という切り口で楽しみ、柔軟な姿勢で活動するプロたちの姿が印象的でした。

 

取材に訪れたのは、山手線・大崎駅近くのカフェ。

代表の佐々木さんと、戦略担当の本間さんに話を聞く。渋谷区に拠点があるものの、基本はリモートで働いているという。

右に座るのが、国内外でフードジャーナリストとして活動している、代表の佐々木ひろこさん。

Chefs for the Blueの活動をはじめたのは、2017年。

日本の海の現状を知り、当たり前に食べてきた魚が将来食べられなくなってしまうかもしれない、と危機感を抱き、親交のあったシェフたちに声をかけ勉強会をはじめた。

「2000年代から、料理人が社会的なインフルエンサーになるケースを欧米でよく見ていて。フランスの三ツ星シェフで、欧米のサステナブルシーフードムーブメントの先頭に立ってきたオリヴィエ・ロランジェさんという方がいるんです」

彼の大きな功績のひとつが、日本の太平洋クロマグロ(本マグロ)の亜種にあたる「大西洋クロマグロ」の復活。

個体数が激減した時期にオリヴィエさんが声をあげたことで、フランスのトップレストランがこぞってメニューから大西洋クロマグロを外した。

そのムーブメントが広がり、最終的には国際機関を動かして、大規模な漁獲規制にまでつながった。マグロは繁殖力が高いこともあり、その後3、4年で目に見えて数が増えたという。

「ずっとその動きを見ていて、料理人ってこんなに力があるんだって思ったんです」

「その後帰国して、日本の海の問題をたまたま知って。オリヴィエさんの成功体験から、日本の状況も変えられる可能性があると思ったことも、活動をはじめたきっかけです」

現在は東京と京都の2チームで活動している、Chefs for the Blue。

勉強会のほか、海の現状を伝えるための講演会やイベントなど、プロジェクトごとに数人のシェフとチームを組むかたちで活動を重ねてきた。

最近は、福岡の水産スタートアップ企業とともに、サブスク商品を開発。馴染みがない魚種や足がはやい等の理由で市場に出回らない、未利用・低活用の魚を使った半調理品をシェフたちが考案した。

チームに加わりたいという問い合わせは多く、これからはネットワークを全国的に広げようとしている。

「地方では、地元の海の幸が市場の大きい都心に流れてしまうことも多くて。地元のお店に並ぶのは輸入品だったりするんです」

「もっと、日本中の人たちが地元の海に関心を持つ機会を増やしていきたいと思っています」

日本近郊の魚が減っている大きな理由のひとつは、これまで海の回復力以上に大量の魚を獲ってきてしまったこと。

海の状況を常にモニタリングして、魚が減っているなら声をあげ、課題感を共有していく。その役割を、地域に根付く料理人たちが担っていけるシステムをつくっていきたい。

「6年の活動を通じて、チームのメンバーは、自分たちにできることがあると思えるようになってきました。全国の料理人たちにもそう思ってもらいたいんです」

水産庁の政策審議会の委員として、国の政策審議にも関わっているという佐々木さん。

2020年には、はじめて漁業法に「水産物の持続的な利用」という言葉が組み込まれ、漁獲量を管理しながら漁をおこなう流れが生まれつつある。

水産業界のありかたが国全体で変わりつつある今。Chefs for the Blueは、トップダウンとボトムアップの両方から変化を生み出そうとしている。

「海の状況は本当に危機的で、今アクセルを踏まないと再生不可能なところまで行ってしまう。私たちも組織を整えて、物事をどんどん動かして、社会に強く訴えかけていくことが必要だと思っていて」

「ずっと一人でやっていたところに、経営メンバーふたりが加わり、今は第二創業期のようなタイミングです。これから全然違う組織になっていくと思いますし、そうならなくちゃいけない」

今回募集するスタッフは、簡単に言えば、佐々木さんの右腕と言っていい。

大半のプロジェクトの企画運営・広報を担っている佐々木さんの仕事を、少しずつ引き取ることからはじめていく。

「これまでは、私個人とシェフとのつながりだけで進んできました。でも、将来につなげていくためには、いろんな人に入ってもらって、組織としての活動にしていかなくちゃいけないと思っています」

新しく入るスタッフは、団体運営やプロジェクトマネジメント、広報全般に関わっていく。

業務委託なので、どれくらいの関わりしろを持てるか、相談しながら決めていくことになる。

 

「裁量は大きいですが、経験はあまり求めていないです」

そう話すのは、本間勇輝さん。Chefs for the Blueの京都チーム立ち上げを手伝ったことをきっかけに、本格的にチームにジョインし、半年ほど。

スペイン・バスク地方発祥のコミュニティキッチン「美食倶楽部」を日本で展開。産直アプリ「ポケマル」や「東北食べる通信」の立ち上げメンバーとして、生産者と消費者をつなぐ活動に取り組んできた。

佐々木さんと本間さん、食の分野で長く活動してきたふたりから学べることは多いと思う。

「食へのリスペクトがあって、社会問題解決へのパッションがある。やったことのないことにも果敢にチャレンジできる人なら、すぐ育っていくと確信しています」

直近で動いているプロジェクトのひとつが、学生向けの「THE BLUE CAMP」。

東京と京都で選抜された各8名の参加者と、海と食のありかたを学び、実践していく3ヶ月間のプログラム。

大学教授から水産庁の職員まで、幅広い業界の講師による座学の講座や、実際に漁師さんの元へ行くフィールドワーク、レストランでの研修など。

さまざまな経験を経て、最後に1週間、自分たちでポップアップレストランを運営する。

先日行われたキックオフでは、参加者が持ち寄った食材をシェフが即興で料理し、みんなでテーブルを囲む場面もあった。

「詰め込みすぎたかなってちょっと反省しているくらい、充実したプログラムです。ここでやりたいのは、コミュニティというか、横のつながりをつくること」

「このなかに、将来漁師になる人がいるかもしれないし、料理人や販売職、研究者、官僚になる人もいるかもしれない。同じ学びを経たみんながいろんな業界に進んでいけば、分断されている業界を彼らがつないでいってくれる。海を取り巻く環境を中長期的に変えていくためのプログラムです」

わずか9日間の応募期間に、80名から熱いエッセイとともに応募があったそう。これはチームにとっては大きな希望になっている。

 

生産者と消費者をつなぐ立場として、この活動で大きな役割を果たしているのが、シェフたち。

カフェから5分ほど歩いて向かったのは、フレンチレストラン「Quintessence(カンテサンス)」。

Chefs for the Blueの理事メンバーでもあるシェフの岸田さんに、開店前のお店で話を聞かせてもらう。

日本国内とパリでの修業を経て、2006年にカンテサンスをオープンした岸田さん。素材の持ち味を活かした料理にこだわり、2007年には最年少でミシュランガイドの三ツ星を獲得。その後も三ツ星を維持し続けている。

佐々木さんいわく、「知る限り世界で最も長い時間厨房にいる三ツ星シェフ」。

どうして岸田さんはChefs for the Blueに参加するようになったんだろう?

「水産物は僕の店でもたくさん扱っています。毎日食材に触れるなかで、品質と量の両方で年々状況が悪化しているなと感じていたんです」

長年付き合いのあった佐々木さんから誘われ、活動に参加。

2019年には、Chefs for the Blueが主催したサステナブルシーフードセミナーのパネルディスカッションに登壇した。

佐々木さんの話に登場した、フランスのオリヴィエシェフを招いたイベントで、飲食業界を中心に260人もの申し込みを集め、大盛況だった。

「飲食業の人は、こういった活動に少なからず興味を持っていると思います。ただ、活動をはじめてしまうと自分の料理に制約が生まれてくる部分がある」

海の資源を一定量以上獲らないようにしよう、と言葉で発信しながら、自身のお店でその食材を使っていたら矛盾が生じてしまう。

そのジレンマもあり、この話題に触れにくい料理人がいるのも事実。

「でもやっぱり避けては通れないことだと思います。これからも活動を続けて発信していきたいと思いますし、共感して参加してくれるお店がだんだん広がっているのは、素晴らしいことじゃないかなと思っています」

岸田さんのレストランでは、誰がどこで獲ったかわかる、トレーサビリティの高い食材のみを使用。現在の日本の流通の仕組みだと、それを実現するのも簡単ではないそう。

「使える食材に制約は生まれてきますが、資源なので、好き勝手使っていると次世代の人たちのぶんがなくなってしまいますから。難しさがあるなかでも、毎日お客さまに満足していただけるよう、工夫しながらできているかなとは思っています」

日々自身の料理と向き合いながら、海のありかたについても真剣に考えているシェフたち。ここで働く人には、彼らへのリスペクトが欠かせない。

きっと代表の佐々木さんのそばで、ちょうどいい関わり方を学ぶことができると思う。

 

佐々木さんが、最後に話していたことが印象的でした。

「私たちって、プラカードを掲げて環境保護を訴えたいわけではなくて。それだと、獲らない、食べない、が最善になってしまう。そうではなくて、食べ続けるために何をすればいいか。食文化をつないでいくために活動しているんです」

「誰しも食事をするし、おいしいものがきらいな人はいない。漁業者から国の官僚、一般消費者まで、いろんな人たちの間に立っているのが私たちなので、食をきっかけに、関心を持ってもらうことができたらいいなと思っています」

おいしいものを、この先も長く食べ続けたい。

活動の原点にあるのは、シンプルな願い。

いろんな立場の人たちがひとつのテーブルを囲んで、日本の海や食について考える。そんな未来をつくるための第一歩がはじまっています。

(2023/5/18 取材 増田早紀)

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