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「もしかしたら、こういうことをやりたいためにこの場所をつくったのかなって思うぐらい。いい3日間でしたよね」
2022年、はじめての焚き火を囲んで話す合同企業説明会「かこむ仕事百貨」を終えたあと、きたもっく代表の福嶋さんはそんな言葉をかけてくれました。
きたもっくは、群馬・北軽井沢で年間10万人が訪れるキャンプ場「スウィートグラス」を運営する会社です。かこむ仕事百貨では、このキャンプ場の隣に2020年に誕生したフィールド「TAKIVIVA(タキビバ)」を会場として使わせていただきました。
山から木を伐り出し、薪や建材にして、自分たちでツリーハウスやコテージを設計・施工。個性のある広葉樹や小径木は家具や建具に、製材過程で生じるおが粉はきのこの生育用に。移動型の養蜂を営むかたわら、耕作放棄地で育った梅を加工してジャムやビールに。
地域の資源を余すことなく活用し、人と自然の接点を生む循環型のビジネスモデルは、2021年度のグッドデザイン賞で金賞を受賞しています。
今回は、そんなきたもっくが新たなステップへと一歩踏み出すための仲間を募集します。
さまざまな取り組みを展開しているので、働きながら、自分を活かせる場面ややるべきことが見つかっていく環境だと思います。そのなかでも今回は、まだ活かしきれていない足元の資源を活用して事業化したり、同じような志を持った地域内外の人たちとのパートナーシップを築いたりしていけるような、ビジネス感覚をもった人に来てもらいたいとのこと。
この先にどんな未来図を描いているのか。かこむ仕事百貨の余韻が残るTAKIVIVAの一角で、焚き火を囲みながら話しました。
群馬・北軽井沢。
東京から新幹線で1時間の軽井沢駅で降り、車で30分ほど。
もともと採草地だったこの場所に、代表の福嶋さんが理想のフィールドを求めて一本ずつ木を植えるところから、キャンプ場「スウィートグラス」はスタートした。
最初に木を植えはじめて、もうすぐ30年。福嶋さんは最近、日課にしていることがあるそうだ。
「歳とったせいかわからないけど、毎朝5時に目が覚めるようになりまして。歩きます。キャンプ場から、ルオムの森、地域資源活用事業部の拠点ですとか、本部の事務所まで、一つひとつ見て回ります。そうするとですね、1万8千歩ぐらい。だいたい9時を目安に自宅に帰ってきてご飯を食べるというスタイルで、60日は続いています」
今や多方面に事業が展開しているけれど、その原点であり、すべてのエッセンスが詰まっているのがキャンプ場だと、福嶋さんは言う。
丁寧に、時間をかけてつくりあげたキャンプ場は、やがて年間10万人が訪れるまでに成長。全国のキャンパーに向けたアンケートで日本一に選ばれるなど、高い評価を得るようになった。
キャンプ場に続く、もうひとつの新しいモデルをつくろう。喧喧囂囂、議論を重ねた末にたどり着いたのがTAKIVIVAだった。
フィールドを活かした事業は、コミュニティ再生の場であるというのがきたもっくの考え方。キャンプ場が家族や身近な友人との関係をあたためるものだとすれば、TAKIVIVAで目指したのは、企業を中心として、ある目的のもとに集まった人たち同士のフラットな関係性を築くことだという。
「いわゆる会議形式を崩したい、という想いもあって。平易な言葉でいえば、まったり感っていうかね」
まったり感。いいですね。
「集中してぐっと話したあとに、まったりする。緊張と弛緩の繰り返しを自在にできる場っていうのは、フラットな関係を築くうえですごく大事だと思うんです。そのためには焚き火が一番だろうと。この3日間のかこむ仕事百貨をご一緒して、あらためて実感しましたね」
コロナ禍でリモートワークが普及したなか、対面でのコミュニケーションの機会を重視する企業が増えている。
都内のIT企業や大手自動車メーカーなど、リピートする企業も多い。
2020年にオープンしたばかりのTAKIVIVAだけど、福嶋さんはすでに手応えを感じているという。ゆくゆくは、同様の施設を他地域に展開していくことも考えている。
「わたしたちは、これから根本的に豊かさの意味合いが変わっていくだろうって想定をしているんですね」
豊かさの意味合いが変わる?
「日本という国は貧乏になっていて、この先給与水準も上がりません、おそらく。可処分所得も減るでしょう。そういう状況がどれだけ続くかわかりませんけど、お金があれば好きなものが買えて、楽な生活ができるという感覚は崩れざるを得ない」
「そういったなかで、新しい豊かさの一断面を提供していける会社でありたい。これまでの生産体制やライフスタイル、マーケットから見えてくるものを追いかけるのではないやり方で、もう一度豊かさをひっくり返してみる必要があると思っています」
福嶋さんやきたもっくのみなさんが考える豊かさって、具体的にはどんなところに表れるんでしょうか。
「たとえばこれ。安い火箸なんです。使い捨てで、みな乱暴に扱います。そこでTAKIVIVAのスタッフの子が、自分たちで革をなめして、持ち手をつけようと。そうすると、取り扱い方が変わるんですね。消費物が愛用物になる」
愛着の持てるものを届けること。自然と触れ合う時間や場をつくること。
この土地に暮らすなかで感じる豊かさが、商品やサービス、場という形で価値を生む。
そのサイズ感は、TAKIVIVAのように大きな事業や、火箸のように小さいけれど手触りを感じられるアイデアなど、さまざま。スタッフ一人ひとりの着眼点や発想が違うからこそ、事業も多様になり、循環の輪が広がっていく。
そんな価値づくりを通じて、地域の未来を一緒につくっていけるような仲間を募集したい。
福嶋さんは、どんな人に来てもらいたいですか。
「心のきれいな人ですね」
心のきれいな人。
「もう少し言うと、自然のなかでも、社会のなかでも、互いに生きて生かされる関係性を実感できる人。それから、自分がものすごく小さな存在であることを実感している人。この2点が、こういう中山間地域で暮らしていくなかではとても大切なことだと思います」
そんな福嶋さんの話をしみじみ頷きながら聞いていたのが、キャンプ場やTAKIVIVAなどのフィールド事業部を統括する土屋さん。
「いやあ、ほんとにそうだよなと思いながら聞いていて。と同時に、今回は事業構想力のある人が来てくれたらうれしいなと思っています」
「心がきれいな人はお金なんかどうでもいいって、それは違うと思っていて。事業を回していくためにはお金が必要だし、事業センスも求められる。現代社会で相矛盾とされていることをつないでいくチャレンジ、僕たちはそれをしたいし、できると思う。そういうことを一緒に考え、地べたを愚直に歩む仲間が必要なんです」
過去に起業の経験があったり、ベンチャー企業でバリバリ働いていたり。そこで培った力を、心から共感できる事業に注ぎたいと考えている人もいると思う。
未経験だったとしても、そうしたスタンスを共有できる人がいい。
「今こそ地域にはビジネスマインドを持った人が活躍できる場をつくるべきだし、それがないと持続的な循環産業づくりって成り立たない。我々はちょうどそのステージに立っているので、すごくやりがいがあるんじゃないかなって」
今足元にありながら、事業化に至っていない資源も、じつはまだまだある。
たとえば、キャンプ場の地下からは毎分500ℓ近い井戸水が湧いている。雑菌もおらず、そのまま飲めるミネラルウォーターなのだそう。
キャンプ場近くの社有地では2箇所温泉も湧いていて、これらの水資源をどうにか活かしていきたい。
2019年から保有している山も、建材や薪を調達するだけでなく、フィールドと捉えて体験プログラムをつくっていきたい。周辺に耕作放棄地が増えているなかで、林業と農業を組み合わせた新産業のあり方も問われている。
また、日本とフィンランドのあいだでワーキングホリデーの協定が結ばれたことから、受け入れ先に手を挙げる予定だという。地域内だけにとどまらず、さまざまな形でパートナーシップを組みながら、事業を展開していけるといい。
「つくづく思うのは、井の中の蛙になっちゃいけないなあって。うちはいい会社だって本気で思ってるけど、ほかにもいい会社、いい取り組みはいっぱいある。外の人たちとつながりながら、凝り固まっているところはかき混ぜて、いい意味でのカオスを一緒につくっていきたいなと思います」
最後に話を聞いたのは、キャンプ場のマネージャーを務める藤坂さん。
2011年にアルバイトで入社し、キャンプ場一筋11年。マネージャーとなってからも、現場で汗をかきながら働いている。
「ぼくは何ができるってこともないので、みなさんに助けてもらいながら。キャンプ場の計画業務も清掃も、一通りなんでもやっています」
今回入る人も、はじめの1年ほどはしっかりと現場の仕事も経験してもらいたい。どんな役割を担うにしても、その経験は必ず活きてくる。
「提案のタネも、現場に転がっているんですよ。昨日はアサマヒュッテという売店の朝営業をはじめました。それもキャンプ場を回りながら、朝の時間を十分に楽しんでほしいって想いが出てきて。やってみたら意外とホットミルクが売れるんだなとか、気づきがありますね」
藤坂さんがマネージャーになったのは、4年ほど前のこと。同じタイミングで「キャンプ場から会社へ」変わっていった感覚があるそう。
現場で働くスタッフの姿勢にも、少しずつ変化が起きているという。
「キープする働き方から、生み出す働き方に変わってきているかなと思います。もちろん、この環境をキープする仕事にも誇りはあるんですけど、何か生み出していかないと、それこそ豊かな働き方とは言えないというか」
事務所のなかには、日々の仕事で気づいたことやアイデアを貼り出すスペースを設置。シンプルだけど、そうした「見える化・見せる化」が実を結びつつある。
「たとえばあるスタッフは、子どもが薪を運びたがっている姿を清掃中によく見かけると。だから子ども用のカートを置いたらどうか?って提案が出て、すごくいいなと思って」
工夫した結果、喜ぶお客さんの姿を直接目の当たりにできることも、キャンプ場で働く醍醐味だと藤坂さんは言う。
まずは現場での仕事にひたむきに取り組み、きたもっくが育んできたフィールドの豊かさも、自然の厳しさも、身をもって感じてほしい。その実感のなかから芽生えてくる事業やアイデアにこそ意味がある。
「ここにはネガティブなことをポジティブに捉えるのが得意な人が多いんです。冬はマイナス15℃とかまでいくので、もちろん寒いし辛いんですけど、それもぼくは楽しくて。自然相手で思い通りにいかないことも含めて、柔軟に向き合える人がいいのかなと思います」
自然の一部としての、人や会社、社会のあり方。
心のきれいさ、豊かさってなんだろう。
そんな問いと向き合いながら、未来を自分たちの手でつくっていくような仕事です。
(2022/5/15 取材 2023/5/19 更新 中川晃輔)
有限会社きたもっくはかこむ仕事百貨2023に出展します。詳細はこちらをご確認ください。