求人 NEW

遊んでも遊んでも
まだまだ尽きない
楽しみあふれる宿と人

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

この山に生えている木はなんだろう。足元の苔、かわいいな。このドングリを食べたのはどの動物だ?

知らないものに触れると好奇心があふれてくるし、どれほど小さなことでも、知ったよろこびを分かちあえる瞬間は、愛おしく感じる。

そんな気持ちがピュアに活きる仕事じゃないか、と思いました。

「しらびそ高原 天の川」。標高1918m、長野県、南アルプスの山あいに浮かぶ宿が、今回の舞台です。

建物のまわりにひろがるのは、カラマツ林。満天の星空に天の川、そして日本アルプスを一望できる場所です。

自然を体いっぱいに楽しめるこの宿で働くスタッフを募集します。

旅館業務全般にかかわりながら、お客さんの旅先案内人として、滞在の楽しみを伝えていく役割です。

市街地から離れた場所にあるため、住み込みが前提にはなりますが、冬の休業期間は自由に過ごしてOKとのこと。夏のシーズンに向けた短期アルバイトも募集します。

自然が好きな人ならもちろん、好奇心旺盛な人、人とかかわることが好きな人ならきっと、のびのびと自分を活かせると思います。

 

飯田駅から東に車を走らせること、70分ほど。

坂道をぐんぐん登り、いくつかのトンネルを抜けると、涼やかな風が吹き込んできた。窓の外を見ると、山たちがこちらをのぞきこんでいる。

いつの間に、こんな高さまで。空を走ってるみたいだ。

聞こえるのは沢だろうか、さらさらと流れる水と風の音くらい。

こんな山奥に、本当に建物が…? そんな気持ちもありつつ、しばらく車を走らせる。視界が一気に開けると、赤い屋根の建物が見えた。

ここが、しらびそ高原 天の川 。本当に山の上?と思ってしまうほど、立派な大きさの宿泊棟が建てられている。

建物の正面には、南アルプスがどんと構える。足元にぐっと沈み込む谷を越えたら、もうそこは南アルプス、と錯覚してしまうくらいには近くに感じる。

裏側には、伊那山地と中央アルプスが佇む。はるか向こうに北アルプスまで見えるこの場所は、アルプス展望台とも呼ばれているそう。

3つのアルプスを一望できるなんて。見たことのない景色に興奮しつつ、建物の中へ。

エントランスには大きな天体望遠鏡がひとつと、この地域の地質や植生を示したパネルがいくつも並んでいる。

「疲れたでしょう。少し休憩してからはじめましょうか」

迎えてくれたのは支配人の井村さん。穏やかな雰囲気と、フランクな語り口が心地いい方。

お言葉に甘えて、ひと息ついてから話を聞く。

レトロな雰囲気漂うこの建物は、30年ほど前に建てられたもの。赤石山登山のための山小屋からはじまった宿なのだとか。

「もともとは高原観光がメインだったんだけど、今ではほとんどのお客さんが星目当て。ここは4月から11月半ばまで営業していて、期間中ずっと天の川が見えるんだよ」

そう言って見せてくれたのは、一枚の写真。

4月の深夜2時半ごろに撮影した、春の天の川。図鑑に載っているような満天の星空が、目の前に広がるんだそう。

国内でもトップクラスの暗さを誇るしらびそ高原。年によるけれど、梅雨時期でもおよそ6割の確率で星空を眺められるという。そのうえ、天の川が年中見られる地形もめずらしい。

もともとは上村(かみむら)が運営していたこの施設。地元の人が立ち上げた株式会社大空(そら)企画が引き継いだことを機に、「しらびそ高原 天の川」と名前を変え、再スタートした。

「会社が運営を引き継いだのが令和元年。僕が入ったのはその翌年かな。経営がうまくいってなかったようで、助けてほしいと声をかけられて。嫌だよ〜って最初は断ったけど、地元の縁もあって引き受けた」

それまでは漬物屋を営んでいた井村さん。いちスタッフとして接客もしつつ、経営者の視点からさまざまな改善に取り組んでいった。

「たとえば、それまでお酒の客単価って300円いかないくらいだったんです。なんで?とスタッフに聞いたら、『ここは標高が高いから、みなさん飲まないんですよ』って。…いやいや、飛行機でも飲む人は飲むよなと思って(笑)」

「旅行の醍醐味っておいしい食とおいしいお酒じゃない。季節ごとに日本酒の飲み比べセットを変えてみたり、ウイスキーはウイスキーでおいしいものを仕入れてみたり。そしたら飛ぶように売れてったんだよね」

食事では、くるみや栗など、地元食材を活かしたメニューを考案したり、オプションで地元産のジビエか信州牛をつけられるようにしたり。

食事がおいしいと、評価をもらえることも増えてきた。

そのかいもあり、宿泊者数も営業成績も右肩上がりの状態。ハイシーズンは短期スタッフの力も借りてはいるものの、将来を見据え、常勤で働くスタッフを増やしていきたい。

「もちろん毎日の仕事もしていくんだけど、宿の新しい楽しみ方も生み出していかなきゃいけない。星をただ見るだけでも結構手探りなんですよ」

たとえば、月が明るいとどうしても星は見えづらくなってしまう。星空観察会は新月の前後で定期的に開催しているものの、それ以外の宿泊数が落ちてしまうことが課題だった。

そこで始めたのが、ムーンライトツアー。月が明るい時期でも、冬であれば明け方の数時間で星を眺められる。さらにふだんは有償で貸し出している双眼鏡を、そのツアーでは無料で貸し出した。

「双眼鏡で見ると、すごいんですよ。星団も見える。毎日星見て感動してる私たちでも、おほっ!ってね、覗いた瞬間に思わず声が出ちゃうくらい(笑)」

「ピント合わせに慣れてもらうために昼から貸し出してるんだけど、それで見る山がまた綺麗なんですよ。お客さんが『槍ヶ岳見えました!』って、目の前の山より喜んでくれたりね」

ほかにもできることはいっぱいある、と井村さん。

「近隣の森の苔がすごいんです。もののけ姫みたいな世界観だから、そこで苔観察のツアーができないかなとか。アニマルトレースって言って、たとえばどんぐりの食べ方で動物の種類を見分けたり、足跡を追って行ったりっていうツアーもやってみたい」

「やりたいことはいっぱいあるけど、体はひとつしかない。日々の仕事もやりながら、そういう企画を一緒に考えて実行してくれる人と働きたいね」

次々にアイデアを教えてくれる井村さんは、ビジネスライクというよりも、純粋に「あったらもっと楽しくなる」という視点で話しているように見える。

「大事なのは、まずは自分自身が遊ぶことだと思ってて」

遊ぶこと?

「お客さんに言われるの。『支配人、遊んでるみたいだよね』って(笑)。山も星も、花も鳥も。自分が興味を持って遊んでるから、お客さんにも紹介できる」

最初は渋々だったこの仕事を続けられているのも、「遊ぶ題材がいっぱいあると気づいたから」。

趣味はトレイルランだという井村さん。お昼休みを使って周辺の山を走ることもあるのだとか。

似た趣味を持つ人ならトレイルランのコースづくりをしても楽しいだろうし、植物観察が好きな人なら植物図鑑をつくってもおもしろいかもしれない。食に興味がある人なら、周辺の地域で見つけたおすすめの飲食店を宿で紹介することもできると思う。

今はこれ!というものがない人でも、自分自身が暮らしを楽しむ延長線上に、新しい世界が見えてくるのかもしれない。

 

「こんな山で、住み込みでも働きたい!っていう人がいたら、大いに楽しんでもらって、大いにお客さんを喜ばせてほしいよね」

そう話すのは松尾さん。客室の整備からフロントまでひろく担当する、「なんでも屋さん」。

井村さんとは古い付き合い。自営業のかたわら、2年半ほど非常勤で働いている。

「客室担当で雇われてはいるけれど、人数も限られてるので協力し合うことが多いかな。ゆくゆくは分業できたらいいけれど、食事会場にオーダーを取りに行くこともあるし、併設のキャンプ場を整備することもある」

たとえば建物周辺の草木の整備や、公衆トイレの掃除、雪が降ったら除雪など、施設運営に必要な仕事はたくさんある。

新しく加わる人はフロントを中心に担当する予定。宿泊するお客さんへの応対がメインだけれど、ほかの仕事を手伝う場面もきっとあると思う。

どんな仕事でも意識しているのは、お客さんとの距離感。

「お客さんの大半は星や山登り、キャンプとか自転車とか、アウトドアが好きな人。とりあえず来て、ノープランって方も多いんだよね。ここで一緒に楽しむことも僕らの役割じゃないかな」

「星を見に駐車場に出るお客さんがいるなら、一緒に寝転んで星を探したり、コーヒー片手に星座の話をしたり。フレンドリーに接するなかで、一緒に楽しみを見つけていく」

じつは大のバイク好きだという松尾さん。ライダーが訪れると、バイクの話で大盛り上がりになるという。

どんなバイクに乗っているのか、ここまでの難所と絶景スポット。長野で走るならどこがおすすめか。SNSを交換したお客さんが、松尾さんの投稿を見て「また来たよ」と1年越しに遊びに来てくれることもあった。

仕事、というよりは、一人の人間としてそこにいる。自分と仕事が地続きになっている感じが、ここで働く醍醐味なのかもしれない。

「俺ね、ここに来るまでは、ぶっちゃけ、たいして山にも星にも興味ない人間だったの」

え、そうなんですか?

「山に登る?いやいや山は見るもんでしょう、っていう(笑)。今でもそうなんだけど、お客さんに教えてもらうの。すみません、ここにいながら山も星も詳しくないんですけどって言って、写真を見ながらどれがどの山だとか、あれが金星だとか」

本当に好きなお客さんは教えてくれるし、なんならスマホで一緒に調べるのもいいよね、と松尾さん。

「俺の持論は、仕事でもプライベートでも自分が楽しんじゃえ!ってこと。楽しいから、仕事って続けていけると思うんだよね」

 

取材を終えたのは日の入り前。「今日は真っ赤になるだろうね。冷えるから、あったかい格好でぜひ見てみて」と、井村さんが声をかけてくれた。

外に出ると、「お、来たね」と松尾さん。あそこが御嶽山、向こうが槍ヶ岳、と解説してもらううちに、日の入りの時間がやってきた。

3000mの山々の間に、すーっと、太陽が沈んでいく。

山はあたたかなオレンジから燃えるような赤へ。遮るものはなにもなく、景色のなかに溶けていくような不思議な感覚。

いつのまにか、井村さんも隣で眺めている。

「ずっとここにいるけど、毎日感動しちゃうんだよね」

太陽に照らされた井村さんの目は、きらきらと輝いていた。

 

友人ではない、かといって宿の人とお客さんと言うには味気ない。 

今、ともにある。そんな距離感が心地いい時間でした。

楽しみ上手なみなさんと一緒に過ごすなかで、まだ見ぬ喜びが見えてくるかもしれません。自分らしい、心地いい生き方を選んでいける場所だと思います。

(2023/5/8 取材 阿部夏海)

この企業の再募集通知を受ける

おすすめの記事