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建物をつくるということは、そのまわりの風景や、人の営みをつくること。
株式会社人と古民家は、建物を使う人や地域にもたらす影響まで考えて、古民家のリノベーションに取り組んでいる会社です。
本業は設計事務所ですが、改修だけでなく、その後の施設運営も手掛けてきました。
今回は、各施設の企画運営を広く担う人を募集します。
任せたいのは、今ある2つの古民家施設と、これから完成する自社オフィスのシェアスペース。
設計や建築の知識は問いません。パートスタッフのとりまとめやイベントの企画運営、連携する地域の人たちとのコミュニケーションを主に担当します。
丁寧に人と向き合いながら、地域に根づく場をつくっている会社です。
取材に向かったのは、千葉県市川市。人と古民家が運営するレンタルスペース「オアシス妙典」がある、東西線の妙典駅で降りる。
朝8時。予約のお客さんが来る前に話を聞かせてもらうため、朝早い時間からの開始に。
出勤中の人や、登校中の小学生とすれ違いながら住宅街を10分ほど歩くと、オアシス妙典に到着した。
大きな古民家ではあるけれど、使われている材木はまだまだ新しい。遠くからでも目をひく、存在感のある建物だ。
中では、オアシス妙典に関わるみなさんがすでに集まってくれていた。
出迎えてくれたのは、人と古民家代表の牧野嶋(まきのしま)さん。
「今週末にここでマルシェがあるので、その打ち合わせをしていたんです」
柔らかい口調で、一つひとつ丁寧に話を進めてくれる方。
長年、設計の仕事をしてきた牧野嶋さん。会社員だった20代のころは、ずっと都市計画の仕事に関わっていた。
「ひとつの建物がまちにどんな影響を及ぼすか、建物の中で人と人がどう関わるべきか。ハードの建物単体ではなく、ソフトの部分までひたすら考えて仕事をしていたことが、自分のベースになっています」
子育てと両立できるペースで仕事をしていきたいと、18年前に独立。
数々の住宅設計を手掛けるなかでも、母親目線からつくる「家事のしやすい家」など、建物の中で営まれる暮らしに重きを置いてきた。
人と古民家を設立したのは、2016年。
「これからやってみたい仕事を考えたときに、生まれ育った千葉県で、自分の設計スキルを活かして何かできないかなと思って」
「古民家や古いものがもともとすごく好きだったんです。それもあって、古民家を題材に事業ができないかと考えたのが、会社設立のきっかけです」
自社事業として初めて手掛けた古民家が、千葉県大多喜町にある一棟貸しの宿「まるがやつ」。
いくつかの物件を見てまわったなかで、この建物に惚れ込んだ牧野嶋さん。設計監理だけでなく、施設運営まで自分たちで担うことにした。
設計事務所としては、とてもめずらしいことなのだそう。
「ショールームにする予定だったんですけど、せっかくならお客さんに使ってもらおうって。手探りで進めてきて、やっと安定して運営できる仕組みが整ってきましたね」
地域のパートスタッフにコーディネーターとなってもらい、農業体験やお手玉づくり、昆虫採集など、さまざまな体験を企画。ニーズに応じて施設にグランピングの要素を足すなど、少しずつ進化させながら施設を運営してきた。
今後はまるがやつで得た知見を活かして、大多喜町全体の地域活性に行政と連携して取り組む計画も進んでいる。
「まるがやつを6年やってきて、ゴールが決まっている設計とはまったく違って、完成形のない仕事なんだなって実感しています。サービスって常に進化していく必要があるから、企画運営はパワーが必要な仕事。なので、専任の人を探したいと思いました」
新しく入る人に任せたいのは、パートスタッフが担っている予約管理のサポートや、各施設のパートさんたちとの調整やシフト管理など。ほかにも、オペレーションの改善提案やイベントの企画など、施設運営にまつわること全般が仕事になる。
小さな会社なので、指示を待つのではなく、自らどんどん提案できる人がきっと向いている。
施設運営や地域活性の仕事に興味がある人、将来的に古民家でカフェや宿を運営してみたいという人なら、さまざまなノウハウを吸収できる環境だと思う。
多岐にわたる仕事のなかでとくに大切なのが、ともに施設をつくる人たちとの関係づくり。
社内外のさまざまな人たちとコミュニケーションをとりながら、よりよい施設のあり方を目指していく。
たとえば、オアシス妙典のオーナーである篠田さん。代々受け継いできたこの建物を「地域にひらく形で残していきたい」との想いから、リノベーションを決断した。
「もとは古い倉庫だったんです。ずっと付き合いのある大工さんに、この建物どうしたらいいだろうねって見てもらったら、天井にある梁を見て第一声、『これは残しましょう。日本の伝統建築技術だから』と言ったんです」
「私自身、妙典で生まれ育ってきたので、多少なりとも地元にプラスになるような方法を考えたい。ということで、地域のみなさんに自由に使っていただける今のスタイルになったんです」
レンタルスペースとして、昨年6月にオープンしたオアシス妙典。コンサートやヨガ、ハンドメイド教室、親族での集まりなど、さまざまな形で活用されている。
この場所をもっと地域の人に使ってほしいと話すなかで、「オアシス妙典プチマルシェ」という企画も生まれた。
月に一度開催するマルシェで、毎回500人ほどが来場するそう。
「お客さんは、新興住宅地に住んでいる若い世代の方が多いですね。地域の歴史にも興味を持ってくださって、自分の住んでいるところが30年前はどんな姿だったのか、質問してくれるんです。地元に関心を持ってくれる方と会えるのは、うれしいですよね」
近くのお寺のおかみさんが豚汁とお餅を振る舞ってくれて、大行列ができた回もあった。
それをきっかけに、昔から住む地元の人たちにも、マルシェやこの場所のことが浸透していったという。
新旧の住民が交わるきっかけにもなっているこのイベント。地元出身でオーナーの篠田さんは、双方を結びつける存在になっている。
この地域と、この人たちと、どう建物を活用していくか。丁寧に中身を考えてきたからこそ、地域に根づき、愛されるものになっているんだと思う。
マルシェの運営を主に担うのは、業務委託で関わっているおふたり。
キッチンカーの手配をしている捧(ささげ)さんと、移動販売のお店「K-coffee」を出店しつつ、ほかの出店者のブッキングも行っている圭子さん。
「キッチンカー巡りライダー」として、趣味でさまざまなエリアのキッチンカーをまわっている捧さん。その人脈を活かして、マルシェの出店者を集めている。
「偶然ここのイベントを訪れたとき、知り合いのキッチンカー経営者が牧野嶋さんを紹介してくれたのがきっかけです。昔から文化祭やお祭りごとが好きで。『これを仕事にできたらいいな』って思っていたことが実際できている感じがして、うれしいですね」
圭子さんは、焼き菓子からアクセサリー、植物、似顔絵まで、毎回幅広い出展者をブッキングしている。出店希望の問い合わせも多いそう。
「集まってくる方々が本当にいい方ばかりで、この建物に共鳴しているようにも感じます。ここはご先祖さまのいい気が流れているようで、身を置いているだけでなんだか心地いいんですよね」
マルシェはふたりを中心に運営しつつ、全体の方向性はみんなで話し合いながら決めている。
今後新たにイベントを企画するときも、きっとふたりに力になってもらう機会は多いと思う。
牧野嶋さんの右腕として、この場所に立ち上げから関わっているのが平田さん。人と古民家では唯一の社員で、設計のかたわら各施設の企画運営も担ってきた。
新しく入る人は、平田さんから企画運営にまつわる仕事を引き継いでいってほしい。
「予約管理やお客さまへのメール対応は、パートさんにお任せしています。ただ、普段彼女たちしかやっていない仕事も多くて、急なお休みのときの負担がすごく大きい。まずはそのあたりのフォローや調整から、一緒にやってもらえたらありがたいです」
クールで落ち着いた印象の平田さん。前職はハウスメーカーの現場監督として、毎日工事現場に出ていたそう。
設計を仕事にしたいと、人と古民家に入社して7年が経った。
「オフィスのある稲毛から大多喜までは車で1時間くらいかかるので、体力勝負な部分もありますね」
「設計の打ち合わせのあとに、まるがやつに行って掃除のパートさんとお話しする、みたいな。ずっと並行してやってきたので、今回施設運営に集中する人が来てくれるのはありがたいです」
千葉県稲毛市にある人と古民家のオフィスは、2階部分をシェアスペースとして貸し出すためのリノベーション工事中。
新しく入る人は、ここの利用希望者とのコミュニケーションも担当する。時間貸しの仕組みづくりや、シェアスペースの利用者同士に交流が生まれるような企画やイベントなどを、積極的に考えてもらいたい。
この会社らしい部分って、どんなところだと思いますか?
「『これだけをやればいい』っていう働き方じゃないところですね。大きい組織だと役割分担がはっきりしているけど、ここはいろいろなことに気を配る必要があります」
電話ひとつとっても、設計のクライアントだけでなく、まるがやつやオアシス妙典の問い合わせもくる。これからはそこに、シェアスペースへの問い合わせも加わる。
「会社で進んでいることはすべて把握しておく必要があります。いろんなことに満遍なく興味を持って、吸収してくれる方だとありがたいですね」
牧野嶋さんは、一緒に働く人たちについてこんなふうに話します。
「上下の関係をつくらず、フラットな状態で働きたいと思っています。だから、業務委託の捧さんや圭子さんにも、こちらから細かく依頼はしていなくて。おふたりのやりたいことをうまく活かしてもらうと、結果的にいいものになるんです」
「一緒に仕事をしていくって、一緒に生きていくってことじゃないですか。ここでの仕事が、一緒に働いてくれる人たちの人生のプラスになったらいいなと思いますね」
仕事に線引きをせずに、地域や関わる人たちのことまで常に考える。
人と古民家の仕事のやり方は、これくらいでいいや、と適当にこなせるものではないと思う。
ビジネスライクで終わらず、温度を感じながら仕事をしたいなら、人がまんなかにあるこの環境はきっと心地よいと思います。
(2023/6/17取材 増田早紀)