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瀬戸内海の島で
生徒の夢を支える
おとなたち

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

世の中にはどんな仕事があって、自分は何をしたいと思っているのか。

高校生の自分は、何も知りませんでした。

まわりに流されるのではなく、自ら将来の道を切り拓いていけるように。

今回紹介する高校では、地域と連携してキャリア教育をおこなうなど、さまざまな取り組みをしています。

愛媛県上島町は、瀬戸内海に浮かぶ25の離島から成り立つ町。

そのうち4つの有人島は橋で結ばれていて、「ゆめしま海道」と呼ばれています。

尾道と今治を結ぶ「しまなみ海道」がすぐ近くを通ります。自然豊かな環境が広がり、温暖な気候です。

県立弓削(ゆげ)高等学校は、町内唯一の高校。

生徒数の減少による廃校の危機を乗り越えるため、7年前から「高校魅力化プロジェクト」に取り組んでいます。

高校魅力化プロジェクトは、日本全国の中山間地域や離島など、人口減少によって存続の危機にある高校を維持・発展させるための取り組みです。

プロジェクトの一つが公営塾の設置。町内には高校生向けの塾がまったくありません。その環境を改善しようと、弓削高校では「ゆめしま未来塾」を運営しています。

進学を希望する人には勉強のサポートを、教科以外の学びも得たい人には様々な体験や交流を提供しています。

さらに来年度から学生寮も設置されます。

今回は、ゆめしま未来塾の講師と学生寮のハウスマスターを募集します。教育業界の経験はなくても大丈夫。

これまでの自身の経験を活かして、生徒の挑戦を支える仕事です。

 

広島県福山駅からレンタカーに乗って尾道へ。しまなみ海道を進んでいくと、瀬戸内海と島々が眼下に見える。

因島(いんのしま)の家老渡(かろうと)港に到着。車に乗りながらフェリーを待ち、時間になったら車ごと乗船して、対岸の弓削島へ。

その時間は5分ほど。目と鼻の先の距離感。

上島町の弓削島に到着。

山が近いからか、鳥の鳴き声はいつもより大きく、そして近い。

弓削高校は、港から車で3分ほどの坂の上にある。

取材は14時から。生徒たちは、まだ授業中のよう。時折チャイムが鳴り、その度に学生時代の記憶が蘇る。

はじめに教頭の正岡先生に話を聞いた。

「もともと上島町は、4つの町村だったんです」

岩城島(いわぎじま)、生名島(いきなじま)、魚島(うおしま)、そして弓削島と佐島。これらが合併して上島町になったのが、平成16年のこと。

「一学年の定員が40人なんです。入学者が20人に満たないことが3年続くと廃校になってしまうんですね」

「町全体の子どもの数が減っているので、このままでは町から高校がなくなってしまう。それを防ぐためにも、町と連携して県外からも生徒を呼べるように、魅力化プロジェクトを進めています」

島に移住してきた生徒を支えるためにも、新しく学生寮をつくることに。

寮は木の温かみを感じられるような木造の2階建。料理は調理員さんにつくってもらう。

「交代制でハウスマスターが常駐しているような形を考えています」

「今も県外からきて一人暮らしの生徒が何人かいるんです。ちょっと親と馬が合わないから家を出てきたって子もいる。でも実際生活をはじめると、思った以上にしんどい、と」

今は学校生活を送りながら自炊しなくてはいけない。先生が思っている以上に困っている生徒もいるので、学生寮をつくってサポートしたい。

正岡さんは、どんな人と一緒に働きたいですか?

「親であり兄妹でもあるような人ですね。学校の先生には言えないことや、親に相談しづらいことも話せたり、温かく見守ってくれたりする人」

隣に座っていた村上さんも話を続けてくれる。教育委員会で働いている方で、学生寮のプロジェクトにも関わっている。

「実務的には、生徒だけでなく教育委員会や地域の方々、学校とのつながり。多方面に渡って人と接していくので、明るい方が来てくれたらいいですね」

たとえば、寮で足りない備品を購入したいとき。運営母体は上島町になるので、生徒からあがった要望を、村上さんをはじめ教育委員会の職員と調整して進めていくことになる。

ほかにも町内では祭りやイベントごともあるので、積極的に地域の人と関係をつくっていってほしい。

 

学生寮の話を聞いたところで、次はゆめしま未来塾講師の雫石(しずくいし)さんに話を聞いた。

「公営塾って、全国50箇所ぐらいあるんですね。そのなかでも、校舎のなかに塾が設けられていることが、ゆめしま未来塾の特徴だと思っていて」

「わたしたち講師も職員室とか自由に行き来できますし、授業の様子も見れます。逆に先生方も塾に来やすいので、連携は取りやすいですね」

たとえば、学校側のカリキュラムをリアルタイムで知ることができるので、教育方針を合わせやすい。また、生徒の状況も共有し合えるのが強み。

ある生徒の話をしてくれた。

「ずっと『県内の国公立大学を志望します』って言っていた生徒がいて。学校も塾もそのつもりで準備していたんです」

「でもあるとき、その生徒が浮かない顔をしていて、勉強にも身が入っていない。塾側でも彼と進路相談をしたら、『一度地元を離れて外の世界を見てみたい、自分で生活してみたい』って打ち明けてくれたんです」

告白された当時は、高校3年生の夏休み。

「かなりびっくりしました。でも本人の意思を尊重したかったので、学校の先生にもさりげなく、『あの子は県外の国公立大学も考えているらしいですよ』と伝えました」

「わたしたちは親にも学校にも言えない、生徒が本当に思っていることや行きたい進路を引き出すのが役割です」

塾の役割は、気軽に話せる環境をつくること。

アドバイスするよりも、まず話を聞くことが大切。

「講師陣のミーティングでよく話すのが、生徒に寄り添うって言葉で」

生徒に寄り添う。

どういう進路に進みたいのか。どういう学校に行きたいのか。

生徒の偏差値だけで判断するのではなく、本人の意思を尊重する。

公営塾では生徒たちの話を聞くのが大切だけれど、聞くだけなのかというとそうではない。

ゆめしま未来塾には、教科指導とキャリア教育の二本柱がある。

希望の進学を目指すために指導するのが教科指導。

もう一つのキャリア教育は、生徒たちから引き出した夢や意志を具体的に想像してもらうための時間。

「おとなるゼミ」は代表的な取り組み。

塾生をいくつかのグループに分けて、1年間をかけて実践的に「大人になるために必要な能力とは何か」を考えていく。

「将来なりたい職業が1年で10回ぐらい変わった生徒もいて。もう高2の夏なのに大丈夫かなって思ったけど、今は4つまで絞れていて。消防士か警察官、あと体育教師か救命救急士」

「その場合に『あなたの学力だと体育教師になるのは厳しいよ』って話すのではなくて。4つの職業はどんな仕事なのか、働く大人たちにインタビューしに行く準備をしているところです」

面白そうですね。

「まずはアポを取るんですけど、今の高校生ってLINEで済ませるから、電話のかけ方を知らない子が多いんです」

「どうして訪問をしたくて、いつ何時頃、どれくらい取材時間が欲しいのか。結構緊張するみたいで、『僕は弓削高校の〇〇と申します』って、台詞を全部書き出してから話していましたね(笑)」

ほかにも塾の先生たちは、いろいろな相談を受ける。

英語の検定試験は島では受けられないこととか、校則や学校の先生のことなど、いろいろな話を聞く。

「ゆめしま未来塾って名前なので、勉強するところってイメージが強いんですけど、学校でも家庭でもない生徒たちの居場所をもっとつくりたい」

3年間を一緒に過ごしていると、生徒たちの気持ちの変化もよくわかる。

やる気が出て成績が伸びていくこともあるし、何かに悩んで勉強に身が入らないこともある。思春期特有の悩みもあるし、親子関係にイライラしてしまうことも。

「うちの公営塾は5人の講師がいます。ほかの公営塾に比べても生徒一人ひとりに向き合いやすい環境です」

「でももっとその子に合わせたサポートをしたいなって、いつも講師たちで悩んでます」

言葉ほど暗いイメージはなく、むしろ前向きな様子の雫石さん。

これまで、ゆめしま未来塾と地域のつながりをつくるための取り組みもしてきた。

「近隣の島の住民から「若い人のアイデアで島を盛り上げてほしい」という依頼をもらって、まずは高校生が島を知る機会として清掃プロジェクトを企画しました」

ほかにも、公営塾の生徒たちが県内の高校生と関われるように、オンライン交流会の企画をしたり、海外で働いていた経験を中学校で話したり。

雫石さんのように生徒に寄り添い、勉強だけでなく、地域と連携してキャリア教育にも力を入れることができるような講師を求めている。

 

3年前まで、ゆめしま未来塾で塾長を勤めていた中裏さんにも話を聞いた。

現在は弓削島で、小中学生を対象とした民間塾を運営している。

「ゆめしま未来塾で高校生に向き合ってきて、町の子どもたちへの教育機会が少ないなあと思いました」

「少しでも学力のベースアップをしておけば、高校に進学したときにできることの幅も広がると思って。それで塾を立ち上げることにしました」

もともと大阪の民間塾で講師をしていた中裏さん。

次のキャリアステップを考えていたとき、日本仕事百貨でゆめしま未来塾立ち上げスタッフの記事を読み、弓削島に飛び込んだ。

「ちょうど最近、自分が読んだ求人記事を読み返したんです。『ここが故郷』っていうタイトルでした。公営塾のスタッフや生徒たちが巣立っていくときに、自分の故郷と思ってもらえるような環境をつくりたい、というような内容でした」

「記事を読んで、あ、いま僕もここを故郷みたいに感じている、そう思ったんですよね」

どんなときに感じたんですか?

「年末年始とか実家の大阪に戻るんですけど、人酔いするようになったんですよ。こっちに帰ってくると安心しますね」

「あと去年かな、娘が1回脱走しました」

脱走ですか?!

「ちょうどそのとき僕は仕事で、家にいた嫁も具合がわるくて寝込んでいました。『隣のおばあちゃん家に遊びにいってくる』って言ったきり、娘が戻ってこなかったんです」

そのあとどうなったんですか?

「たまたま知り合いの人が娘を見つけて、家まで送ってくれたんですよ」

脱走の理由は、「家で暇になったから、1人で消防車を見に行きたかった」とのこと。

「そのときに故郷というか、中裏家がちゃんと町に支えられているなって感じました」

町に支えられている。自分も支えたい。

「公営塾で働いている人たちには『心配になったらいつでも声をかけてね』と話しています」

取材を終えて、みなさん気持ちのいい人だなと思いました。

それはきっと、この人たちなら受け入れてくれるという安心感を覚えたから。

生徒たちにとっても、新しく働く人にとっても。一緒に考えながら、自分の本音を聞いてくれる存在は、とても心強いと思いました。

(2023/06/08 取材 杉本丞)

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