※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
今回の舞台となる愛成会は、創立65年、都内で二番目に古い社会福祉法人。
主に知的障がいのある人たちが生活する入所・通所施設、グループホームなどを運営しています。
障がいのある人の暮らしや日常に寄り添い、直接的なサポートをする社会福祉事業と、芸術文化を通じて地域社会とつながり、誰もが暮らしやすい社会づくりを目指す、公益事業に取り組んでいます。
今回は、公益事業を担う法人企画事業部で、企画制作・事務スタッフを募集します。
障がいのある人の芸術文化活動をサポートしたり、障がいの有無にかかわらず誰でも参加できるアトリエを運営したり。
障がいのある人を含む多様なつくり手がいる「アール・ブリュット」に関わる事業などを、国内外で行う仕事です。
「アール・ブリュット」とは、専門的な美術教育を受けていない人々が、独自の発想と表現によって生み出す芸術作品のこと。
フランスで生まれたこの概念は、アール(Art)は「芸術」、ブリュット(Brut)は「磨かれていない、自然のまま」の意味を持ち、「生(き)の芸術」とも呼ばれています。
美術や福祉の専門知識がなくても大丈夫。
いろんな人の表現や価値観に触れ、さまざまな人の個性や魅力を人に伝えることが好きな人には、ぴったりだと思います。
中野駅から徒歩10分、中野ブロードウェイ商店街から路地に入り、住宅街を歩いていく。
今回は訪れたのは、愛成会の事務所の隣にある入所・通所施設「メイプルガーデン」。
中に入ると、取材を受けてくれるみなさんが待っていてくれた。
まずは、副理事長でアートディレクターの小林さんに話を聞く。
小学生のころ、夏休みに障がいのある人たちが暮らす入所施設のワークキャンプに行った小林さん。
ワークキャンプには、大人や子ども、障がいのある人、ない人などさまざまな人が参加していた。
2泊3日、協力しながら農作業をしたり、キャンプファイヤーをしたりいろんな人が交わり合いながら過ごす。
そこでの体験が、自分の価値観を広げるきっかけになった。
「人は出会うことで互いに知り合い、それぞれ個性があることを学び合う。そうすることで、社会はもっと多様で豊かな場所になるんじゃないかって思いました」
その体験をきっかけに、障がいの有無に関わらず、多様な人が出会う機会の大切さを考えるように。今でも小林さんの心の根っこにある。
65年間、中野を拠点に知的障がいのある人たちが暮らす施設の運営などに取り組んできた愛成会。
とくに大切にしてきたことは、地域社会とのつながり。
「知識や情報、関わり合いが少ないと、人や地域の中で障壁や偏見は生まれやすい。いろんな人が交わり、誰にとっても生きやすい社会をつくるには、多様な人が出会う、人と人が交わる交差点のような場をつくることが必要なんです」
そのきっかけの一つになっているのが、「アトリエpangaea(ぱんげあ)」。
障がいのある人の余暇活動を行う場が、社会に少なかったことから2004年に立ち上がる。
地域で暮らす障がいのある人だけでなく、障がいの有無、種別、年齢を問わず、誰もが参加できるオープンな創作活動・交流の場だ。
また、「アトリエpangaea」にとどまらず、日本国内外で人の多様性や創造力を伝える事業や、ダイバーシティ&インクルーシブな社会をつくっていくための事業など、さまざまな角度からアプローチしている。
そのなかでも長年にわたり取り組んできた事業は、「NAKANO 街中まるごと美術館!」。
アール・ブリュットの展示企画を通して、地域の人とつながるきっかけになっている。
「中野には美術館がなかったので、まちをひとつの美術館にみたてて展示をしたらおもしろくなりそうだなって。まちを舞台にすると、美術館とは違って買い物や散歩、通勤、通学とか日常の中で作品に出会う機会が自然に生まれると思ったんです」
「継続は力なり。毎年、毎年続けることで、まち恒例の景色になっていきました」
小林さんの言葉には熱を感じる。はっきりとした口調で、目線を合わせて話してくれるからあたたかい。
情熱的に事業を行ってきた結果、中野のまちも変化してきている。
「2010年から開催してきた『NAKANO 街中まるごと美術館!』は“中野の文化”と言われるようになりました」
障がいのある人を含むさまざまなつくり手が生み出したアートがまちを彩る。そこを行き来するのは、まちに住む多種多様な人たち。
まさに人と人が混ざり合う、交差点ができているように感じる。
続いて、「NAKANO 街中まるごと美術館!」など、主にアール・ブリュットに関わる事業を担当している法人企画事業部の渡邉さんに話を聞く。
以前は美術館で働いていた方。退職したのち、イギリスでさまざまな人種や文化に触れる経験をしたのだとか。
帰国後、「ちがいを力に変えて、誰もが自分らしく生きられる社会づくりを目指す」という愛成会の求人を見つけ興味を持った。入職して6年目になる。
「『NAKANO 街中まるごと美術館!』では、中野駅周辺の商店街の方々と連携して、まちをひとつの美術館に見立てて、実物の展覧会やポスターやバナーなどでアール・ブリュット作品を紹介しています」
「日常の風景のなかに作品を展示しているので、いろんな方の目に触れやすいし、新しい価値観と出合う場になっていると思います」
展覧会では、どんな世代の人が来てくれたのかアンケートを取っている。
「以前は10代〜20代の若い人たちの来場が1割に満たないくらい少なかったんですよね」
これからの未来社会をつくっていく、若い世代の人たちにも関わってもらいたい。
以前から、近所にある専門学校と関わりたいと思っていた渡邉さん。
「学校に行って、先生たちにこのイベントの活動やアール・ブリュットについて説明して、何か一緒にできることはないか相談してみました。そうしたら賛同してくれて、ファッションや着物、お菓子や料理など、学生の幅広い専門分野とアール・ブリュットを組み合わせた企画をしてみようって話になったんです」
学生にアール・ブリュット作品を鑑賞してもらい、感じた世界観などからそれぞれの専門分野で作品を製作し、展示した。
「関わってくれた学生たちからは『人によって見え方や感じ方が違うことがおもしろかった。今までにない表現のアイデアが生まれたり、いろんな発見がありました』などの感想が聞けて」
「人が持つ感覚はそれぞれ違うこと、表現することの奥深さを感じてもらえたようで、うれしかったです」
ほかの学校とも学生とのコラボレーションを重ねてきたこともあり、今は若い世代にも興味を持って関わってもらえるイベントになっている。
自ら歩み寄って丁寧に伝える、その真摯な姿勢が変化を生み出していく。
新しく入る人は渡邉さんと同じ法人企画事業部に所属することになる。
どんな人に来てもらいたいですか?
「企画のためのアイデアやノウハウも大事だけど、アイデアをどう形にしていくか、どんな人たちと関わるといいものになるのかまで考えられる人。とくに人とのつながりはどんどん広がっていくので、それを楽しめる人に来てもらいたいです」
次に話を聞いたのは、入職3年目の村上さん。
法人企画事業部が運営する「東京アートサポートセンターRights」など、主に障害のある人の芸術文化活動をサポートする仕事を担当している。
「人と交流ができる場所を探している」、「作品を発表するにはどうすればいいか」など、日々さまざまな相談を支援するほか、研修やイベントの企画、活動調査や情報発信などをしている。
以前はアートギャラリーで働いていた村上さん。
入職したら、どんな仕事をするんでしょう。
「まずは、法人企画事業部の事業内容を把握するために、行っている事業全体に関わってサポート業務に携わります。たとえば、アール・ブリュット事業の展覧会の場合、イベントで作品をお借りするために、全国にいる作家さんにご依頼の連絡をするんです」
「作家さんのなかには障害のある方もいて、お話することが難しい方もいらっしゃるので、そういうときは、施設の職員さんやご家族に確認しています。はじめて話す方ばかりなので、入職したころは緊張していました」
事業によっては、ワークショップや研修会を行うこともある。
ほかにも、会場下見や関係者との連絡やスケジュールの調整、チラシやポスターの郵送作業など、業務は多岐に渡る。
企画を進める上でスタッフとの情報共有や、打ち合わせの時間も細めに設けているそう。
「大変なこともあるけど、やっぱり楽しいんです。企画を開催した地域の方が『すごいね、これからも続けてほしい』って伝えてくれることもあって。そんなときにやりがいとか達成感があります」
企画から関係者とのやりとり、設営まで。1からつくり上げていくことには気力も体力も必要になる。
けれど、作品に触れた人の顔を見たり、言葉を聞いたり。歩み寄ってくれる姿を目の当たりにするのはうれしい。
「東京アートサポートセンターRights」の事業では、障害のある人の創作活動や作品に出合う場面が多くあって、何よりも人の心に響く表現が好きだという村上さん。
「一人ひとりがつくり上げていく作品は、完成物だけではなくて、過程も美しい。私たちは言葉とか身振りとかで当たり前に気持ちを表すことができるけど、障がいのある方たちのなかにはそれが難しいときもあって」
「言葉だけではないさまざまな表現を通して、人柄や想いがダイレクトに伝わってくるので感動します」
少し照れながらも、しっかりとした口調でそう話してくれる。
「最近は、企業さんからタイアップのご依頼が来たり、そのたびにつながりが増えたりするので、毎年新しいプロジェクトが生まれるんです」
時代の変化とともに社会の暮らし方も変わっていく。愛成会は古い歴史を持つけれど、さまざまな人がもっと自分らしく生きられるよう、前へ前へと進んでいると感じる。
スタッフは一人ひとり担当を持っているけれど、困ったことがあったり人手が足りなかったりするときは、みんなで協力しているそう。
「仲間と一緒につくっていくから楽しいんです」
村上さんはそう話していた。
取材中には、愛成会に入所している方がこちらの様子を伺いにきたり、手を振ってくれたりする場面がありました。
スタッフのみなさんは、「〇〇さん!こんにちは」と声をかけ、お互いに朗らかな笑顔になっていたことが、ここにある日常をあらわしているようで印象に残っています。
働く人たちからは、相手を尊重し歩み寄るあたたかさと、さまざまな人たちとつながっていきたいという情熱を感じました。
愛成会は障がいの有無に関わらず、多様な人たちの表現をきっかけに、さまざまな人と地域、そして社会が交わる機会をつくっています。
まずは、多様な人の表現に触れてみてください。
そこで心動かされるなにかがあれば、ここで働く理由もおのずと見つかるのだと思います。
(2023/06/16 取材 大津恵理子)