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営業は、いろいろな能力が必要な仕事だと思います。
自社の商品やサービスを理解して人に説明する力はもちろん、初めて会った人とコミュニケーションして、モノやサービスの価値を伝える力も必要。
無理に買わせることなく、売ったあとのフォローまで。お客さんに伴走して、気持ちよく買い物をしてもらいたい。
それを当たり前にしようとしている人たちがいます。
愛知県の東側、豊橋市に本社を構えているのが、東愛知日産自動車株式会社。
ここでは「劇場型営業」とみずから呼んでいる新しい営業方法にチャレンジしています。
今回募集するのは、東愛知日産の営業担当。大切なのは、お客さんの人生に寄り添い、必要なものを必要なときに提供する気持ちです。
東海道新幹線の豊橋駅から、バスに乗って北へ。
駅前の賑やかな雰囲気から一転、少し離れるとお店はありつつも落ち着いた雰囲気で、住みやすそうなまち。
東愛知日産自動車の本社でもある豊橋下地店は、駅からバスで15分ほどの場所にある。
受付の人に声をかけると、お店の裏の修理工場を抜けた先にある会議室へ案内してもらった。
話を聞いたのは、東愛知日産の代表、青木さん。前職では広告代理店で働いていたそう。
東愛知日産に入社したのは、代表を務めていた叔父さんの縁から。
「最初にここで働いてほしいと頼まれたときは、お断りしたんです。それから2年ほど経ったころ、自分のキャリアの行き詰まりを感じるようになって」
「やりたい方向性とか価値観をどうやって実現できるのかなって模索していたときに、車の仕事って面白いんじゃないかって思い始めたのが、入社したきっかけでしたね」
いざ働いてみると、車の仕事にのめり込んだ。8年前からは代表を務めている。
どういう部分におもしろみを感じたんですか?
「車屋って、商材を通じたお客さんとの関係性が深いんです。地域が限定されていて、なおかつ高額商材を取り扱っている。こういうビジネスってなかなかないなと。じゃあ自分でリスク背負ってやりたい方向にやってみようかって、決断しました」
車の業界に入ってみて、おかしいと感じることもあった。
「当時、大半のセールスマンは、商品の機能説明と値引き交渉で車を売っていて。そこにすごく違和感を感じたんです。簡単にいうと、押し売りと売りっぱなし。もう18年前の話ですけどね」
たとえば、カタログだけじゃなく、現物の車で色を確認したいとお客さんに言われたとき。昔は『自分のお店にないけど、あっちのお店に試乗車があるから行ってみて』と案内するだけのセールスマンが多かったそう。
もっとお客さんに興味を持ったほうがいいんじゃないか。当時の青木さんはそう考えていた。
「ぼくは、一緒に行ってアテンドして、現物を見てもらうところまでやっていました。同じことをしていた人はひとりだけいて、その人は業績も高かったんですよね」
「押し売りと売りっぱなしを続けていたら、いつかお客さんに捨てられちゃう。それで会社の仕組みと、自分なりの営業方法を模索していったんです」
まずおこなったのが、それまでは消極的だった新卒採用。
評価方針の変更や研修を通した教育など、いくつかアドバイスをもらったなかでも、新卒採用はまっさらな状態の人が会社に加わるため、持ってほしい価値観を吸収してもらいやすい。一見遠回りに見えるけれど、一度身についた考え方を矯正していくよりは、コストも時間もかからない。
「ただ、ある年に10人に内定を出したら、10人全員に辞退されたことがあって。かなりショックだったんです」
「話を聞くと、やりたいことがあって、働きながらそれを実現したいと。つまりは、営業という仕事に対して、車を売るだけのようなイメージがあったっていうことなんでしょうね」
そこで、もうちょっと面白い打ち出し方をしようと思いついたのが、二刀流採用という方法だった。
営業という職種だけだと、単純に数字を背負いながらモノを売ることをイメージしがちになる。けれど、青木さんの考える営業はもっと複雑で、お客さんに寄り添い、ときにお客さんのための未来を描き提案するというもの。
そのニュアンスが伝わるようにと、リーフレットもデザインを一新。いわゆる一般的な営業とは異なることをアピールした。
「車って5年以上は使うし、金額も安くない買い物だから、どうしても迷ったりするじゃないですか。そのときに、生活がどう変わっていくかとか、お客さんが読みきれてない未来予想図を解読、提案してあげて、後悔しない買い物をしてもらう」
「これはひとつの企画の仕事であり、課題解決だと思うんです。そしてこの手法をもっと上手く言語化できないかなと思っていたときにふと思い出したのが、NHKの『ドキュメント72時間』っていう番組だったんですよ」
ドキュメント72時間は、同じ場所で72時間滞在し、そこを訪れる人にインタビューするというドキュメンタリー番組。登場するのは一般の人だけれど、話を聞くとそれぞれの人生が浮かび上がってくる。
「番組を見ていると、普通に見える人でもそれぞれ抱えている物語や価値観があって、深い人生話を聞けたりするじゃないですか。ぼくらの仕事もそうだよなって思って」
「本人も気づいていないような深い人間ドラマを掘り出していくと、思いがけないところで車がある未来につながることがある。そんなドラマティックな物語をお手伝いするのがわたしたちの役割なんじゃないか、ということで、劇場型営業と名付けました」
続いて、「彼は劇場型営業をしっかり実践しているんですよ」と紹介してくれたのが、入社6年目の久世さん。
「ぼくも新卒で入ったので、青木さんの理想論を現実にできるかもしれないって思いながら働いてきました」
「青木さんが18年前に東愛知日産に来てから入社した人たちが、いま中堅クラスになっているんです。だから、新卒採用から会社を変えていくっていうのは、だんだんと成功しているんだと思います。実際、昔より数字も上がってきているので。青木さんを見ていると、ぶれない強さみたいなものを感じますね」
久世さんはどんなふうにお客さんと話しているんでしょう。
「意識していることは、バランス感ですね。その人に合ったベストな距離感で話すことを大事しています。あとは人に対して興味を持つことが大切だと思っていて」
「いつもむすっとしてる人が、実は家族には甘いとか。そういう細かなところも見逃さず、人に興味を持って接することで価値観が見えてくる。それが見えると、買い物に対する考え方もわかると思うんです」
印象に残っていることを聞いてみると、あるお客さんの話をしてくれた。
「最初、ぼくのこときらいなのかな…ってくらい話してくれないお客さまがいて。なんとかお近づきになりたいなといろいろと話して、苦し紛れに出たのが、『疲れてそうですが大丈夫ですか?』という言葉だったんです」
「そうしたら、仕事がいそがしいって話をしてくれて。学校の先生で、卒業シーズンですごくいそがしかったらしいんです。それまでは何を言っても一言で返されるくらいそっけなかったんですが、一個のやりとりをしたことで壁がなくなっていって。お客さまから話してくれるようになったんですよ」
家族の話から、今の車に乗ったきっかけまで。お客さんのほうからいろんな話をしてくれるように。
その後、地図ナビゲーションの交換や新車購入の相談まで受けるようになった。
「本音が聞けるようになるのに3、4年かかったんですよ。車を購入してもらったあとも、定期的に訪れてくれて家族の話をしたり、その方のお父さんの車を買い替える相談をしたり」
「新車だとお金がもったいないって父は言うから、中古車っていうことにしとくから久世さんもよろしくねって言われて。結局すぐバレちゃったんですけどね(笑)。家族会議に混ぜてもらった感じでした」
なんだか身内のひとりみたいな感覚ですね。
「孫みたいに思ってもらえたらいいなと。同年代なら友達っぽい感覚。愛嬌が大事ですね。納得して買ってもらうのが一番なので、いいと思わなかったら買わなくていいですよって伝えています」
「まずはこちらの気持ちを届けて、お客さまの気持ちが整っているときに買っていただく。それがいいのかなと思ってます」
値引きをしていた時代は、モノの価値とお客さんの価値観を合わせる、という感じだったのが、今はモノの良さを伝えて、値引きしなくても買いたいと思ってもらえている。
加えて、久世さんの話を聞いていると、この人から買いたいという動機もあるように感じます。
「こちらからの提案をするからこそ、ぼくに任せたいと思ってもらえるのかなと。劇場型営業だと、思わぬタイミングでこの人に車を任せたいっていう構図が生まれると思っていて」
「付加価値をお客さんと一緒につくっているようなイメージですね。さっき話したお父さんにプレゼントする話でも、家族以外に普通そんな相談しないじゃないですか。だけど、お客さまとぼくで、お父さんへの一つの出来事をつくるみたいな。その出来事がたまたま車の購入だっただけなんですよね」
ここで、隣で話を聞いていた青木さん。
「うちはモノを売るんじゃなくて、コトを売りたい。車っていう商材なんだけど、売っているのはモノじゃない価値、みたいな。ようやく目指していた方向に進めてきたなと感じています」
話がひと段落したところで、場所を移して東愛知日産の蒲郡店へ。
迎えてくれたのは、店長の彦坂さん。
「もともと車が好きで。学生のときに日産車に乗っていたのが働こうと思ったきっかけでしたね」
「ずっと新車の営業をしてきて、一時期中古車の仕事もして、今はこの蒲郡で店長として3店舗目になります」
東愛知日産で働いて36年になる彦坂さん。青木さんが代表になってからの変化も、肯定的に受け止めている。
「お客さまが10人いれば、10人とも性格がちがうし、価値観もちがう。だからこそ、一人ひとりと対話することが大切だと思うんですね。以前はただ車を売ってなんぼの世界だったんですけど、今はお客さまが何を求めているのか、どんな価値観を持っているのか。まず聞くことを大事にしようって話してます」
たとえば、半年に一回の点検のとき。店頭に来てもらい、1時間ほどの整備を待ってもらうあいだ、スタッフのほうからお客さんとコミュニケーションをとることを心がけている。
「車の話ばっかりしても続かないですから、世間話をしたり。そういうところから情報を拾って、次の提案につなげる」
「蒲郡店は付き合いの長いお客さまが多いほうなので、そのコミュニケーションはしっかりしていこうとスタッフにもよく言っています」
今回募集する人は、豊橋岩屋店、豊橋高師店、豊川蔵子店のどこかに配属になる予定。
蒲郡店の特徴は、ほかの店舗よりもベテランの営業が多いことだそう。
店舗ごとにちがいがあるので、新しく入る人も、まずは先輩になる同僚のことを知り、同時に自分の店舗にはどんなお客さんがいるのか、知るところから始めるのがいいと思う。
「自分から動いていけば、いろんなことを学べる環境だと思います。一度きりの人生ですから、多くの人と関わりを持って、自分の人生観にもいい影響を受けられたらいいですよね」
自分の人生観、ですか。
「いろんな人とお話しするなかで、こういう考え方があるのかとか。気づきが生まれるのもこの仕事の醍醐味だと思っているんです。そんな体験を一つでも多くしてもらえたらいいなって思います」
東愛知日産で働く人たちからは、のびのびと、素直な雰囲気を感じました。
等身大で、人と人としてかかわる。コミュニケーションの肝と言えることを体感できる環境なのだと思います。
(2023/7/10 取材 稲本琢仙)