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生きる実感がする庭

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自然のなかにいると、どうして心地いいのだろう。

差し込む木漏れ日、川のせせらぎや鳥の声。

五感に働きかける自然のやさしさに、包み込まれる安心感があるからだろうか。

株式会社ランドスキップは、「自然を分母にした庭づくり」をしています。

目指しているのは、人も木々も建築も、すべてが風景になる暮らし。そんな想いがきちんと伝わる仕事を大切にしています。

今回の募集は、庭の施工、設計スタッフ。

未経験でも大丈夫。まずは庭の施工から、コツコツと経験を積んで設計も学んでいきます。

自然が好きで、植物が成長した姿を想像し、汗をかきながら自分の手でつくることに心地よさを感じる人にはぴったりだと思います。

 

東京から名古屋まで新幹線で約1時間半。名鉄に乗り換えて20分で青塚駅へ。

自動改札が一つの小さな駅。お店が2、3軒並んでいて、周辺には半分住宅、半分田んぼという風景が続いている。

会社の方に迎えに来ていただいて、車で10分ほどのアトリエに向かう。

道路沿いに、木が青々と生い茂っている場所が見える。

奥は見えにくい。ここにアトリエがあるのだろうか。

一歩入ると、ひんやりとして、アゲハ蝶がひらひらと飛んでいる。鳥や蝉の声も聞こえ、森の中にいるみたい。

ここで6人のスタッフが働いていて、名古屋のショールームには3名のスタッフがいるそう。

 

「ここは“実生(みしょう)の庭”といって、風や鳥が運んだ種が芽吹いたものを、そのまま生かしながら育てた庭です。たとえばこの庭で一番大きいあのムクの木は、鳥が種を運んできたものが育ったんです」

「ここはぼくの実家で、奥には植木畑とアトリエがあります。小さいころはキャッチボールができるくらいの開けた場所もあったのですが、45年経った今は森になろうとしています」

そう声をかけてくれたのは、ランドスキップで代表を務める溝口達也さん。

見上げるといろんな形をした葉っぱが揺れていて、足元にはポッと芽を出す植物。

普段、街なかで生活していると気がつかない芽吹いたばかりの植物たち。気持ちがなごむ。

「ぼくたちは自然と共生する暮らしをつくりたくて。手を入れることで、環境がより豊かになる庭づくりを目指しています」

ランドスキップの庭づくりがはじまったのは、達也さんの父、一三(かずみ)さんのとき。家業が植木問屋だった一三さんは、大学で建築を学んだのち、庭の世界に入ることに。

植物と向き合うなかで、植木の販売という御商売ではなく、考え方をカタチにするような仕事をしたいとたどり着いたのが、庭づくりだった。

それから45年、個人宅の庭をはじめ、美術館の庭園や大きな公園の設計なども担ってきた。

達也さんが会社に合流したのは、2010年。一三さんの近くで、ぶつかりながらも庭についてさまざまな事を学んだ。2019年に一三さんが亡くなり、達也さんが会社を引き継いだ。

「父が大切にしていたのは、命だと思うんです」

「芽生えたものをできる限り受け入れ、生かす。庭はつくって終わりではなくて、つくってからはじまりだと思うんです。時間とともに庭の形は変わっていくので、メンテナンスをさせてもらいながら設計したときの想いを振り返って、理想に近づけていくことを大切にしています」

庭は消毒や除草剤を使用しなかったり、飛び石などもセメントを使った固定はしなかったり。実生の庭の隅に設置しているコンポストは、落ち葉を拾い溜めておくと微生物が分解し腐葉土に変わる仕組み。それを庭に還すことで土も育っていく。

人と生き物が共生しているから生まれる循環が庭で体感できる。

「管理する側としては、消毒とか除草剤を使わないって大変なんじゃないかって思われるんですけど、そのストレスってほとんどないんです」

「枯れ枝は薪に、竹林の竹は炭にして土壌の改良材になる。自然からの恵みをいただくので、そのお返しに枯れ枝を間引いたり落ち葉を拾ったり。その繰り返しなんですよね」

“実生の庭”は、一三さんの自然観とそれをつないできた達也さんやランドスキップで働くスタッフの想いで今も育まれている。

「父がずっと引っ張ってくれていたけど、今はみんなで知恵を出しあってつくる感覚が強くなりました」

時代とともに自然環境も変わっていく。それに合わせて、自然に手をかける自分たちもアップデートしていきたい。その想いではじめた取り組みが「学びのニハ」。

3年前から年に2回、アトリエの2階で写真家やプラントハンターなど、さまざまなジャンルのゲストを呼び、1時間半ほどの講座を開いている。

庭づくりに関わる話もあれば、ゲストの仕事への向き合い方について聞くこともある。また年に1、2度、スタッフが庭の歴史や土に関して調べたことなどを発表する機会も設けている。

「インプットって大切だと思っていて。自分たちだけでは思いつかないよう発想を知ったり、別の仕事に触れたりすることで庭づくりに活かせることがあると思うんです」

「スタッフと、意見を出し合って考え方を共有することもいい時間になっています」

コロナ禍があり、一般に向けての開催はしていなかったけれど、これからはお客さんも交えて学んでいきたいそう。

「今年の10月は、日本の植林されたスギやヒノキの有用性と向き合っている木工作家の方に来ていただきます。一般の方を対象に電動工具を使わない椅子作りのワークショップも開催しようと思っています」

「ランドスキップっていわゆる一般的な造園屋さんではなくて。ある意味、実生の庭も父が残してくれた考えも独特だと思うんです。その信念を次の世代につないでいくためにも、常に疑問を持ってチャレンジしていきたいですね」

 

緑の洞窟を抜け、見えたのは古民家を移築したアトリエ。

こちらで庭の施工スタッフの早川さんに話を聞いた。

大学のころはデザインを学び、卒業後に彫刻家のもとで働いていた経験もある方。

最近になって設計も手がけるようになったものの、基本は施工と庭のメンテナンスを担当している。

「気がつけば10年経っていました。そのなかで印象に残っているのは、東京の調布にある深大寺の庭の改修を手がけたときです」

依頼の内容は、観光寺院としてではなく、手をあわせる信仰の場に戻したいというもの。先代の一三さんが古文書を読み解き、2年かけて竣工させた。

「先代の社長の考え方が強く現れているなと思っていて。つくるのではなく、余計なものを省く。自然に還していく。そんな感覚でした」

「ご依頼いただいたときは園芸種が植えられていたんです。それを武蔵野の植生に合うものに植え替えたり、信仰の源である池の水面を再現するために、できるだけ重機を使わず土を掘ったり、昔ながらの手法で施工しました」

見栄えよりも、自然に近づける。つくり手の手間よりも、風土に合った庭づくりを大切にする。

時間もかかるし、体力も必要なやり方。

けれど、そんな仕事を積み重ねていくと、場が整い、清浄な空気が漂いはじめる。

「庭の仕事をしていると植物や生物、自然環境の中に人間が住まわせてもらっている感覚になっていきます。自分の考え方まで変わりました」

「1ヶ月くらい前、少し離れた山に家族で引っ越したんです。仕事で学んだことを生活でも活かせたらって。生活で学んだことは会社に還元したいと思っています」

飾らない自然に触れていると、自分の在り方や価値観も洗練されていくのかもしれない。ランドスキップで働く人たちからは、生き方や働き方と真剣に向き合う姿勢を感じる。

 

「生き方に迷う時期があって一度辞めたんですけど、また戻ってきました」

そう話すのは、服部さん。大学を卒業後、塾講師やサラリーマンを経験し、ランドスキップに入社。

5年が経ったころ、看護師になりたいと専門学校へ通い、看護師として働いたあと戻ってきた。そこから2年目となる。

「サラリーマンのころは、お金を稼ぐために働いているような気がしていて。月曜日が来ると、また1週間がはじまるのかと憂鬱になることが多かったです」

「庭の仕事は日の出とともにはじまって、日が沈むと同時に終える。基本的に外で作業するので雨に打たれるし、冬は寒いんです。でも、生きている実感がすごくありますね」

朝6時45分にアトリエに集合してミーティング。そのあと荷物をトラックに積み込む。8時ごろには現場へ到着。休憩は、10時、12時、15時の3回で作業は夕暮れの17時まで行う。

県内の案件が多いなか、関東や関西まで出張に行くこともある。

最近、メンテナンスに行った場所は茨城県のとある庭。

在宅医療を行うクリニックの拠点で、災害時に避難場所としても活用できる庭をつくってほしいと依頼があり、1ヶ月ほどで完成した。

平地林という里山特有の風景に、誇りを持ち、守っていこうとしている地元の方たちによって維持されている場所だった。

「空が広くて、解放的な場所でした。まず、周辺の風景と合うように大地に『アンジュレーション』といって起伏をつけ、飛び石を据えたり石積みをしたり。そのあとに植栽しました」

「起伏をつけるのは、見た目を整えるだけではなくて、土の中の水の流れも考えてのことなんです」

植える木の根がきちんと根付くか。竣工後のことを考えながらつくり上げていく。

「メンテナンスは、植物の状態を見て枯れ枝を落としたり、据えた石に問題がないか確認したり。あとはお客さんと話しながら木漏れ日をどう落とすか考えて、整えます」

「たまにバッサリ木を切ってほしいとか、虫が来るから消毒してほしいとか言われることもあって。そのときは、植物の生長にどう影響するかを説明します。お客さんとは毎年お会いするので、ご縁は大事にしていきたいですね」

生長した枝を切ると、そこに萌芽力が集中してしまい、結果的に樹形が乱れてしまうこと、殺虫剤は、庭の生態系を変えてしまう可能性があることなどを、一つひとつ伝えていく。

メンテナンスは、だいたい年に2回。庭で育つ植物とそこで過ごす人がお互いに心地よく過ごせるよう、会話は丁寧に行う。

ランドスキップでは、人と人の会話も庭づくりに必要な時間として大切にしている。

「移動や出張でみんなと一緒に過ごす時間が長いので、なんでも話します。休日に読んだ本の話とか訪れた場所のこととか。この前は達也さんに教えてもらった宿に家族で泊まりに行きました」

「庭の仕事は体力勝負で、作業にしてしまうとおもしろくないんです。常に考え続けること。考え方は違っていいし、そのほうがいい庭がつくれると思っていて。お互いに影響し合えるような人と働けたらうれしいです」

 

夏の暑さは、木陰が助けてくれる。寒くなると落葉して、光が入り、間引いた枝で暖をとる。

庭も、働く人たちも、自然と共生していました。

(2023/08/25 取材 大津恵理子)

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