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愛する道具と、いい人生を
めざせ! 包丁文化の発信地

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

いいものを、長く使えるように。心を込めてつくられた道具を使うときは、どこか背筋が伸びる心地がします。

日々手入れをしてあげたり、不調があれば修理に出したり。使えば使うほど丁寧につくられたもののよさを感じるし、だれかに勧めたくなる。

つくる人、使う人の想いが詰まった道具に愛しさを覚える人がいたら。今回紹介する仕事はぴったりかもしれません。

大阪・千日前道具屋筋に店を構える「堺一文字光秀」。天下の台所と呼ばれる大阪の食文化を、包丁という道具で支えてきました。

店頭には2000種類以上の包丁が並び、持ち込んだ包丁の修理や研ぎも可能。プロの料理人から一般家庭の方、海外からの観光客まで、さまざまな人が店を訪れます。

手入れをすれば何世代にもわたって使える、包丁という道具。その魅力をよりひろく伝えていこうと、キッチン付きのイベントスペース「ICHITOI(いちとい)」をつくることになりました。

今回は、イベント企画・運営担当として、ともに場をつくっていく人を募集します。

たとえば、包丁職人と料理人の座談会や、包丁の切れ味による食材の味の違いを体験するイベント、料理学校の生徒たちがつくる限定レストラン、料亭の研師による魚捌き教室など。

経験は問いません。包丁のつくり手、使い手に加え、食にまつわるさまざまな人を巻き込みながら、それぞれの想いをつないでいく仕事です。

あわせて、広報担当、ショップスタッフも募集します。

 

なんば駅から徒歩5分。千日前道具屋筋はなんばグランド花月を通り過ぎた奥にある。

毎日2〜3万人が訪れるという道具屋筋。月曜の午前、人がごった返すわけではないけれど、しっかりと動き出している雰囲気を感じる。

少し歩くと、正面のショーケースが印象的なお店が現れた。飾られているのは、…刀だ。

「ここにあるのは一文字成宗という慶安初期の刀で、私たちのブランドルーツにもなっているものです」

そう話すのは、ここ堺一文字光秀を運営する一文字厨器株式会社の代表、田中さん。

創業70年の一文字厨器を背負う、3代目だ。

堺一文字光秀が扱うのは、600年の伝統をもつ堺刃物。

店の壁は一面、包丁、包丁、包丁。

和包丁、洋包丁、さらにはたこ引き、ふぐ引きなど変わった形の包丁まで。さまざまな形、大きさ、ランクのものがあることに驚く。

「和包丁って、切りたいものの数だけ種類があるんです。たとえばうなぎでも、地方で捌き方がちがって。京型、江戸型、大阪型… それに合わせて、包丁の形も違うんです」

「どんなものがあれば喜んでもらえるのか。その声をつくり手に届けていくのが私たちの役割です」

堺一文字光秀で販売する包丁には、使用期限のない「無料研ぎサービス券」がつけられる。

研ぎサービスに持ち込まれた包丁は、5種類以上の砥石を使い、研ぎ師が手作業で仕上げていく。その切れ味は「切れすぎてこわい」との声が届くほど。

「創業からこだわって続けている取り組みで。包丁って、研がないと実力が発揮できないんですよ。どれだけいい包丁でも、研がないと切れ味は絶対落ちるし、ただただ高い買い物で終わってしまう」

逆に、手入れをすれば一生の相棒にもなる。最近は、50年前のサービス券とともに持ち込まれたお客さんもいたそう。

こうして店頭で話を聞いている間にも、料理人のような方が代わるがわるやってきては、店員さんと話をして、颯爽と帰っていく。使い手が気軽に相談できる場所なんだろうな。

堺一文字光秀の創業は1953年。

堺刃物の職人技を世に広めたいと、田中さんのおじいさんがはじめたお店だ。

「17のときに祖父が亡くなって。おじいちゃん子で可愛がってもらっていたけれど、亡くなったときは実感が湧かず。お葬式を終えて、お店に戻ってきたとき、すごく不思議な感覚になったんです」

「おじいちゃん、ここにおるやんって感覚。ここには祖父が集めてきた包丁と、祖父を慕うお客さんとスタッフがいる。死んでしまったのは悲しいことだけれど、この場所さえあれば想いは未来に残していけると感じたんです」

堺一文字光秀にかかわる人の想いを、これからもつないでいきたい。インターネット広告を扱う会社で経験を積み、7年前に一文字厨器へ入社。昨年、会社を継いだ。現在は店頭にも立ちながら、店舗のDXを進めている。

仕事に就いてからより感じているのは、包丁が消費されているのではないか? ということ。

最近のアンケートでは、6割近くの人がスーパーや100均で包丁を購入し、同じように6割近くの人が砥石を使わないという結果が出ている。

つまり、包丁の切れ味が落ちたら、研ぐより買い直す人が多いということ。

「それも一つの考え方だと思うんですけど、しあわせなんかな? というのは、ずっと思っていて。思い入れのあるものを使い続けたり、その想いを料理という形で誰かに伝えたりする人生のほうが、豊かなんじゃないか。僕はそう思うんです」

「料理は、200万年続く愛情表現だと思うんです。おいしく食べてもらいたい気持ちと、食べる人のことを想像しながら料理をするのって、きっと人間らしさの根源にあるもので」

愛する道具があれば、もっとその時間を豊かにできる。

包丁に込められた人の想いを伝えていくことは、包丁の価値を見つめ直すこと、さらには食文化の発展にもつながっていくのではないか。

そんな想いから構想されたのが、ICHITOI。

「まだこれから変わる可能性もあるんですけど」と、見せてくれたのはICHITOIのパース図。

厨房機器を販売していた2階スペースを改装し、つくり手、使い手のほかにも、食や包丁にまつわるさまざまな人が気軽に交流できる場をつくろうとしている。

どんな空間で、どんなことをしようか。田中さんを含む6人のプロジェクトチームが中心となって、構想を膨らませているところ。本年度中のオープンを目指している。

「これまで、つくり手と使い手が直接交流することってなかったんですよね。和食の料理人同士が交流することもあまりなかった。ここで生まれたつながりで、新たな食文化が生まれていくかもしれないと思っていて」

座談会のような交流イベントのほかに、包丁の切れ味の違いを体験してもらう会や、魚捌き教室を開催するなど。プロの料理人だけではなく、一般の人も気軽に来られる場所にしていくことで、道具屋筋を活性化、後継者不足に悩む産地の未来も拓けていくかもしれない。

「包丁にかかわる人、みんなが当事者。みんなで文化を興そうぜ! と考えてます」

 

今回募集するのは、ICHITOIでイベントを企画し、運営まで手がけていくメンバー。

経験がなくとも、すでに開催されているワークショップもあるので、運営のノウハウは社内で得られるものもある。

まず3ヶ月、店頭に立つことから始めて、接客をしながら包丁に関する知識を身につける。そのうえで、どんなイベントがあったらいいだろう? という想像を膨らませていってほしい。

店舗マネージャーで、ICHITOIプロジェクトのメンバーでもある谷内さんは、きっと頼りになる存在だと思う。

入社2年の谷内さん。以前は韓国で暮らしていて、帰国を機に「日本らしいものと関わりたい」と調べるなかで、堺一文字光秀に興味をもったそう。

「海外で暮らすなかで、日本のものづくりを誇りに感じることがあって、もっと知ってほしいと思うようになったんです。もともと大阪南部の出身で、堺刃物に馴染みがあったのもきっかけのひとつでした」

接客業の経験はあったものの、包丁の知識はない状態からスタート。どんなふうにして身につけていったんでしょう?

「まずはお客さまがどういうものを求めているか、お話を伺うなかで求めるものを知って、知識にしていくという感じですね。たとえば、ケーキ屋さんは果物をよく切られるから、こういう切れ味がお好き、とか」

「ただ、切れ味は人の感覚的なものですし、数値化するのもむずかしい。同じ包丁でも食材によって切り心地が変わるし、使う人によっても感想が変わる。一概にこれとは言えないから、答えがないんですね」

たしかに、方程式のように食材と包丁の組み合わせが決まっているなら、2000種類も包丁は生まれていないのかもしれない。

「包丁って専門的な道具なので、ひとつのものを深く追求したいと思う人とは相性がいいのかもしれない。『研ぎの世界は沼』と話すスタッフもいます(笑)」

谷内さんはどんなところに仕事のやりがいを感じているのだろう。聞くと、こんな話をしてくれた。

「うちで売っている包丁って1本2万円とかするので、ふらっと来られたお客さまはびっくりされるんですよね。なんでこんな高いん!って。自然なリアクションだと思うんですけど」

「うちで扱っている包丁はすべて手作業でつくられています。包丁の形をしているって当たり前のようだけど、形になるまで目視で調整しているとか、ツヤを出すために何種類も磨きを重ねているんですよとお伝えすると、『安ない?もっと取ってええんちゃう?』って言ってくれる方も結構いらっしゃって」

ほしいだけならネットでなんでも買える時代。それでも店舗に立ち続けるのは、「ものの価値を高めるためだと思う」と、谷内さん。

「道具は道具なんですけど、いろいろな想いが込められているというか。師匠に勧められてとか、親が使っていたのがよくてとか、いろんな人の想いがつながってここにたどり着いている」

「そういうものに触れると、包丁にすごく愛着が湧いてくるんです。『お姉さん、包丁好きやね』って言ってもらうけれど、私はきっと人が好きだから、この仕事が楽しいんだと思います」

つくる人、使う人、そしてそれを届ける人。一人ひとりにきっと物語がある。そんな想いを分かち合えるのが、ICHITOIという場所なんだろうな。

「うちは今年、創業70周年で。付き合いの長い職人さんもお客さまもおられるので、その知見があわされば、すごいものができるんじゃないかなって思ってます」

田中さんと谷内さんの話を聞いていると、純粋に、道具とともにある未来にワクワクしているんだろうなと感じる。

谷内さんは、どんな人と働きたいですか?

「そうですね。ブランドとしてこれから新しいことにどんどん挑戦していくので、そのなかで自分の進化を感じられるとか、一緒になって前向きにチャレンジしてくれる人なら、すぐ馴染んでもらえると思います」

「ICHITOIのコンセプトが『文化を興せ』なんですけど、私たち自身が興りまくったらいいやん〜!って思ってるんです。失敗したとしても、あのとき大変やったよな〜!って笑い飛ばせるようなスタッフが揃っているので。おもしろいことしたい!って人なら、きっと向いてるんじゃないかな」

 

記事では紹介しきれなかったけれど、プロジェクトメンバーのひとりは、ICHITOIのことを「包丁を好きになってもらえる場所にしたい」と話していました。

ここに来たら包丁のことをもっと知れる。人とつながれる。

そんな場をつくる過程には、やりがいを感じられる場面がたくさんあると思います。

ワクワクするものを感じたら、ぜひみなさんと話をしてみてください。

(2023/5/15 取材 阿部夏海)

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