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この布の美しさを
世界に知らせたい

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最後に着物を着たのはいつだろう。

結婚式、成人式、あるいは七五三?

なかなか日常的に袖を通す機会はないけれど、まちで和服姿の人を見かけると、思わず振り返ってしまう。きれいだなと思う。

日本の伝統衣装である着物は、形がシンプルなぶん、色や柄、布そのものの風合いに豊かなバリエーションや歴史があります。

手紡ぎの糸、細やかな模様。そんな手仕事に対するリスペクトから生まれたのがMIZENというプロジェクトです。大島紬や結城紬など伝統的な染織技法による生地を使い、洋服を提案しています。

2022年12月には、東京・青山に路面店をオープン。同じ建物にアトリエも併設していて、企画から販売まで、一体感のある環境でものづくりに取り組んでいます。

今回は、ここで販売接客を担うスタッフを募集します。伝統工芸に対する知識や経験はなくても大丈夫。

むしろ、前向きに勉強したいという熱意や興味が大切です。海外のお客さんと接する機会も多いので、英語ができる人なら力を活かせると思います。

小さなチームなので、得意分野や勉強してみたいことなどに応じて、役割を掛け持ちしたり、分担したりすることもできます。



MIZENのショップは表参道駅から歩いて10分ほどのところにある。

根津美術館を囲む竹林を眺めながら通りを進んでいくと、ショーウィンドウが見えてくる。

1階は、映像やインスタレーションを通して、生地の背景にあるストーリーを伝えるギャラリーのような雰囲気。2階は洋服の売り場になっているよう。

「今は毎月ひとつの産地にスポットを当てて、新しいコレクションを発表しています。今月は『有松絞り』という、愛知県に伝わる絞り染めで、浴衣に使われる生地でつくったシリーズです」

店内を案内してくれたのは、ディレクターの寺西さん。

寺西さんはもともとエルメスなど海外の一流ブランドで服づくりに携わっていた。フランスの展示会で日本の職人さんと出会い、着物に使われる生地に興味を持つようになった。

特に、人の手で紡いだ糸で織り上げる「紬」の素朴な美しさは衝撃だったという。

それ以来、寺西さんは日本各地の職人さんを訪ね歩くように。手仕事の魅力を知ると同時に、呉服の市場が縮小するなか、手織りなどの伝統産業が厳しい現実に直面していることもわかってきた。

職人さんの技術がきちんと評価されるマーケットを、日本につくりたい。

そう決意して帰国したのが2018年。着物の生地を使った洋服をオーダーメイドで届けるブランド「ARLNATA(アルルナータ)」を立ち上げた。

当時から顧客として取り組みを支持していたのが、「ふるさとチョイス」などのサービスを運営するトラストバンクの創業者、須永珠代さん。

服づくりを通して、日本の職人さんを応援する。そのビジョンを実現するために、もっとビジネスの規模を広げよう。

須永さんの後押しのもと、共同でMIZENのプロジェクトをスタート。2022年12月には路面店をオープンした。

「僕たちにとって洋服は一つの通過点みたいなものだと思います。大切なのは、洋服をきっかけに、生地をつくっている職人さんや日本の伝統文化に興味を持ってもらうことだから」

「一方で『伝統産業=いいもの』っていう売り方はしたくない。たとえば、今特集している絞り染めも、似た技法は世界中にあるけど、この生地の何が特別なのか、これじゃなきゃいけない理由を突き詰めて伝えていきたい。僕自身もまだ勉強中でうまく言えないんですけどね…」

MIZENの核にある微妙なニュアンスを、どうやって伝えていくか。

寺西さんは今、コミュニケーションを担う販売という役割の大切さをあらためて実感しているという。

「一般的なファッションブランドとは、サイクルもつくり方も違うので、伝え方から一緒に考えていく必要があって。デザイナーもスタッフも日々同じ空間で仕事をして、感覚を共有することが大事だと思います」

MIZENの洋服は、いわゆる”ラグジュアリー”といわれる価格帯。

服の価値を理解し購入してもらうために、販売を担う人には、ある意味「人の心を動かす」力が必要なのかもしれない。

お店を訪れた人が心地よい時間を過ごせる空間づくり、相手が今、何を欲しているか、予算が足りないときにどんな提案ができるか。

相手の気持ちに寄り添う“思いやり”がなければ、どんなに素敵なストーリーも響かない。

一人ひとり丁寧にコミュニケーションをとる現場だからこそ、スタッフの人間性が活かせるポジションだと思う。

自分たちの価値観をきちんと伝えるため、DMやウェブサイト、イメージカットの撮影まで、対外的なコミュニケーションに関わる部分は、外注せず社内で制作している。

販売をしながら、企画や広報のアシスタントにも携わってみるなど、服を届けていくうえで必要な仕事に幅広く興味がある人だといいのかもしれない。



MIZENのアトリエは大きな作業台を中心に、パタンナーや生産管理などそれぞれの担当者が同じ空間で、顔を合わせながらものづくりを進めている。

隣の人がいま何をしているのか、次のコレクションのポイントは何か、自然と耳から情報が入ってくる。

その環境を新鮮に感じながら働いているのが、MIZENの立ち上げと同時に入社したデザイナーの佐々木さん。

「生地からグラフィックまで幅広くデザインを担当しています。今回の有松絞りのコレクションでは、動画制作のために産地での撮影にも立ち合いました」

「内職のおばあちゃんのご自宅に伺って『こうやってやるんだよ〜』って作業を見せてもらって。自分で見て体験をすると、やっぱり手仕事には人の魂がこもっていることを実感するので、お客さんにもしっかり伝えたいと思いますね」

前職では、アパレルのデザインに携わっていた佐々木さん。量産体制のなかでは、縫製や細かい仕様までこだわることが難しく、もう少しじっくり服づくりと向き合いたいと思うようになったそう。

MIZENに入ってみて、どうでしたか。

「なんというか…、最初は『本当に、いいんですか?』みたいな感覚でした。たとえば素材を決めるときも、コストより質がいいほうを選ぶことが多くて。一般的なアパレルでは、やっぱりコストありきになることも多いので、すごくびっくりしました」

「私はもともと、マテリアルにこだわるのが好きなので、質のいい素材に触れられるのはうれしいです」

質のいい素材を使うからには、パターンや縫製にも妥協は許されない。

MIZENの洋服は縫製にも一級和裁師が携わっていて、柄合わせ、裏面の処理など、見れば見るほど職人仕事のすごさが発見できる。

こだわりが詰まった服。だからこそ、つくり手として携わるプレッシャーはないですか。

「そうですね。素材のデザインでも、一回で決まることはほぼなくて。いつも5〜6回はやり直ししていますね。寺西さんと相談して、もっとこうしよう、やっぱりなんか違うねって、いろいろ試行錯誤することは多いです」

アトリエでは普段から、立場を超えて意見を出し合う機会が多い。入社まもないメンバーにも、必ず意見を聞くのだそう。

「入ってすぐのころは『え、私も意見を言っていいの?』って戸惑いましたけど、声を聞いてもらえるのはうれしいです」

「新しく入る人も一緒に、好きなもの、いいと思うデザインや素材について話ができたらいいなと思います」



小さなアトリエだからこそ共有できる感覚。

それは販売というコミュニケーションを担う人のヒントにもなるはず。逆に、業務にはマニュアルがないので、話しながら自分で考えて提案する姿勢がある人のほうがいいかもしれない。

これからMIZENは何をどう伝えていくべきか。プロジェクトの広報をサポートしているApollo&Char Companyの宅間さんにも話を聞いた。

宅間さんは現在、メディア対応やイベント運営など広報業務を中心に担っている。

アトリエに常駐しているわけではないけれど、インポートブランドでの広報や営業経験も豊富で、寺西さんを含めみんなの「頼れるお姉さん」的な存在。

メディアやスタイリストなどの人脈も広い方なので、新しく入る人もいろんな側面でノウハウを吸収できるはず。

「私はずっと海外のブランドを日本に伝えてきたんですが、いつかは、日本のいいものを世界に届ける仕事がしたいと思っていて。今まで蓄積してきた営業や広報の経験をMIZENで活かせるのはうれしいです」

華やかに見えるファッションの世界。その裏では、業界全体が抱えるさまざまな課題もあった。

「ファッションってすごくサイクルが早くて。新作を発表しても3ヶ月後にはセールになって、2年後には廃棄されてしまう。プロパーで売れるのは3割くらいなんです」

大量廃棄による環境負荷や、疲弊していくデザイナーたち。宅間さん自身も、いつまでこのやり方を続けるんだろうと、疑問に感じることもあったそう。

「そういう意味で、寺西さんたちがやろうとしていることは、ファッション業界の課題に対する、ひとつの答えなのかもしれません」

「既存のサイクルにとらわれず、伝統的な素材で服をつくる。そういうアイデア自体は以前からあったけれど、実際にリスクをとって実践した人ってほとんどいらっしゃらないんじゃないかと思います。もののユニークさだけじゃなく、デザイナーのスピリットもMIZENの価値として伝えたいですね」

広報や販売などのコミュニケーションを担うポジションで大切なのは、伝える相手とタイミングに合わせて、コレクションの魅力を多面的に切り出してみせること。

服の魅力、素材のストーリー、産地の歴史や職人さんの人となり…。

この小さなアトリエなら、デザイナーやほかの仲間と一緒に話しながら、自分なりの新しい切り口を見つけられる気がする。

「私も、もともとは30歳まで別の業界で営業の仕事をしていて、本当に未経験から、ファッションブランドの広報を始めたんです。社交性のある人なら、テクニックはやっているうちに身に付く部分も多いですよ」

「前向きで、美しいものに対する興味がある方なら大丈夫。日本だけじゃなく、世界の人にMIZENの魅力を発信していく、そんな熱意のある方と一緒にお仕事ができたらいいなと思います」



本当にいいものをつくる職人さんに、光を当てたい。

職人という生き方を、産業として続けられる道をつくりたい。

MIZENが洋服を通して発信するメッセージは、ファッション業界や、日本の伝統産業のあり方をゆるやかに変えていく手がかりになるかもしれません。

(2023/6/17 取材 高橋佑香子、2023/10/24 更新 槌谷はるか)

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