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好きなものを好きと言えても、「どうして好きか」を言葉にするのは難しい。
取材中、古いものの良さについて話す職人さんが、「何て説明したらいいんだろう」と何度も頭を抱えていました。
好きだから、曖昧な言葉で片付けることができない。そんなふうに仕事に取り組んでいる人たちを紹介します。
栃木・益子を拠点とする株式会社TOMBO。
日本各地で探し集めた古家具を、修理して取り扱う「仁平古家具店(にへいふるかぐてん)」と、古家具と陶器、雑貨やアパレルをあわせたセレクトショップ「pejite(ペジテ)」を運営しています。
さらに東京・丸の内では、益子でつくられたオリジナルの陶器を販売するお店「汲古(きゅうこ)」も展開しています。
今回は、栃木に根を張り古家具の修理をする職人と、東京にある汲古の店舗スタッフを募集します。
どちらも、未経験でも大丈夫。大切なのはTOMBOが考える「古いものの良さ」に共感できるかどうかだと思います。
たとえば、リサイクルショップで、ものの背景を想像して思いにふけてしまう、そんな人に読んでみてほしいです。
渋谷駅から湘南新宿ラインに乗り込み、約2時間。
だんだんと建物が低くなり、緑が増えていく景色を車窓から眺める。
到着したのは、JR石橋駅。
駅の近くでは、ショーケースにびっしりプラモデルが並んだ模型店で店主とお客さんがご挨拶。大衆食堂には、作業着の男性が入っていく。
待ち合わせの時間になり駅へ戻ると、家具修理の工房長の秋山さんが、車で迎えに来てくれた。そこから、30分ほどの家具の修理工房へ向かう。
到着すると、代表の仁平さんが迎えてくれた。作業場のすぐ隣にある休憩スペースでお話を聞く。
「子どものころから古いもの、ノスタルジックなものに憧れる傾向があったんですよね。高校生のときは、年季の入った中古のバイクが欲しかったし、聴いている音楽もまわりの友達とは合わなくて」
「どこか、人と同じものを選ぶのはいやだったんです。自分だけのものがいい、というか」
地元である茨城から上京し、ひとり暮らしをするようになると、自然とインテリアにもこだわるようになった。
ヨーロッパのアンティークや、アメリカのデザイナーズ家具は、装飾が美しく、簡単に手を出せない金額のものばかり。
そんななか、生活に馴染む素朴さをそなえた日本の古家具に惹かれるように。
リサイクルショップを巡り買い集めては、少しの汚れは洗ってきれいにしたり、色を塗り直したり。修理をしながら楽しんでいた。
「だんだんと、古いものを生活に取り入れることの楽しさを伝えたいという想いが芽生えてきたんです」
そんなとき、家庭の事情で茨城へ帰ることに。
仁平さんの地元の隣町は、“益子焼”を代表とするものづくりが盛んな益子町で、昔からよく訪れていたそう。
その後、古物商の免許の取得し、自らリペアしていた古家具をネット上で販売。2009年には、実店舗として「仁平古家具店」をオープン。
「買い付けを続けていくと、珍しいものとか状態がいいものは、どうしても高くなってしまうんですね。仕入れの時点で10万円を超えるものに、手を加えて売るってなると、気軽に買えない値段になることもある」
そこで、仁平古家具店とは異なるコンセプトで扱えるお店をつくろうと、2014年に「pejite」をオープンした。
「pejiteで目指したのは、脱古道具屋なんです」
脱古道具屋、というと?
「当時の古道具屋は、倉庫のようにごちゃごちゃっと商品が並んでいるお店が多かった。そうではなく、ギャラリーのように、古家具の見せ方にとことんこだわりました」
柔らかな音楽がかかり、木の香りがする空間。時代を経て、職人が手を施した商品たち。
見て、聴いて、触れて。感覚を研ぎ澄ませながら、一つひとつの商品をじっくりと選ぶことができる。
「家具に限らず、ものを選ぶときにブランドネームやデザインといった、わかりやすい要素を好む人もいると思うんです。でも自分は、ぱっと見ではわからない、ものの本当の価値を感じたくて」
たとえば、と見せてくれた椅子。
「リサイクルショップに置いてありそうですよね。でも無垢材で、つくりを見ても素人仕事のクオリティじゃない」
「大工さんが、その場にある材料でつくったものだと思うんです。名無しですけど、それもいいよねって言える人間でありたいし、そういうのって楽しいでしょっていうのを伝えたい」
いい材料を使って、精巧につくられたもの。余っていた材料でつくった、必要最低限の機能だけそなえたもの。どちらにも美しさがある。
仁平さんが惹かれる美しさとは、ものの背景に宿る信念や意識、人の手でつくられた温かさなど、本質的な美しさなのだと思う。
つい聞き入ってしまっていたところで、駅に迎えにきてくれた秋山さんが淹れてくれたコーヒーが到着した。
いつも3時の休憩のときに、みんなで机を囲みコーヒーを飲んでいるそう。
「この仕事が本当に好きなんです」
そう話しはじめる秋山さん。
「姉がおばあちゃん家から、捨てようとしていた家具を持ち帰ってきて。自分でも探したり、部屋で飾ってみたりするうちに、自然と古いものが好きになりました」
「古いものの良さを語るとキリがありません。特に好きなのが“サビ”で。長い時間をかけて変化した色がすごく美しいと思うんです」
肩肘張らず、素直な言葉で話してくれる秋山さん。
「完全に、古いもの好きの沼にはまっていますね」
偶然読んだ雑誌で仁平古家具店を知り、店舗に足を運んだ。
「並んでいる家具が、ものなんだけれどまるで人みたいに、自分を迎えてくれてるような心地がしたんです」
「本当は捨てられるものだけど、お店に置いてあるのを見ると、まるで生きているように思える。こんなふうに、ものに命を吹きこむ仕事に携わりたいと思いました」
当時は飲食店で接客業をしており、コロナ禍を機に働き方を模索していた。そんなとき、pejiteで家具修理の職人の募集があることを知る。
「40歳を超えていたし、ここでキャリアを変えるのは正直不安でした」
「でも、自分が変わるきっかけになるかなと思って。『思い切って飛び込んでみよう。もしだめだとしても、死なないから大丈夫。そのとき考えればいいや』って。決意して応募してみたら、縁あって働かせてもらうことができました」
やってみたい! その気持ちに正直に動く。まったくの未経験だったけれど、3年半働いた今は工房長に。
「ここで働いて、古いものが心の底から好きなことをあらためて実感しました」
心の底から好き。それってどんな仕事なんだろう。
秋山さんが工房を案内してくれた。
奥行きのある大きな倉庫に、隙間なく並べられている家具の数に驚く。
ほかの職人さんが大きなタンスを移動させていて、遠くからゴーッとやすりをかける音も聞こえる。
工房で修理をする人は、仕入れてきた家具を、一人ひとつずつ担当する。
最終的な完成形と売値を設定し、そこから逆算してかけられる作業の時間を考え修理作業をはじめる。
洗いをかけたり、やすりをかけたり。損傷のある部分は別材で取り替える。ときには、汚れや傷が味になると判断すれば、そのまま活かすバランス感覚も必要。
「仁平古家具店で扱う家具の好きなところは、直しすぎていないところだってお客さんに言っていただいたことがあって。やすろうと思えばいつまでもやすれてしまうので、気をつけています(笑)」
「実際にやってみますね」と、引き出しのついた大きなタンスを持ってきてくれた。
まず外側の面を端まで撫でて、怪我をしないよう棘がないかを確認する。傷や汚れをどう処理するかは、職人それぞれの感性に委ねられる。
「『ものを仕入れた段階から、ものがどうなりたいかがわかる』と仁平がよく口にするんです。仁平がいつもみている景色を我々も想像しながら、近づけるよう日々頑張っています」
続いて、販売用の陶器をつくる工房へ。
車を走らせること15分。細くカーブする道へと車を進め、果樹園の脇を抜ける。木立の向こうにそれらしい瓦屋根が見えてきた。
工房で話を聞いたのが、大野さん。
今回、汲古の店舗スタッフとして働くことになる人は、この工房でつくられた陶器を販売することになる。
「幼いころからものづくりが好きで、学校で出た木工作品づくりの宿題や、プラモデルに熱中していたんです。大学に入ったとき、部活紹介リストのなかで、陶芸部を見つけてピンときて」
4年間、陶芸の世界にどっぷりとのめり込んだ。
卒業したあとも、一般企業で働きながら趣味としてつづけていた。
あるとき、pejiteオリジナルプロダクトの陶器をつくる職人の募集があることを知り合いに紹介され、一念発起して応募。無事採用され、現在は汲古の陶器をつくっている。
それほど、陶器づくりに惹きつけられたのはなぜでしょう?
「形、大きさ、細部に至るまで表現が無限大だし、そこにつくり手らしさがあらわれる。最後が窯任せなのもおもしろいんです」
「たとえば、赤色にしようって焼き上げても、単純な赤色にならない。日によって微妙なニュアンスの違いが出てきます。できるだけ努力して理想に近づけることはできても、どうにもならない奥深さがある。それが好きなんです」
店舗スタッフとして働く人は、お店で取り扱う陶器について知るために、一度は栃木の工房で作業体験することになる。
「粘土ってこんなに言うこと聞かないんだとか、窯によって焼き上がりの色が変わることとか。実際に見て感じることが大切で。お客さんにかける言葉も変わってくると思うんです」
斑点やかすれ、表面に塗る釉薬の風合い、濃淡、ふぞろいな形など。一つとして同じものはない。
陶器がつくられる過程を知ることで、選ぶお客さんの気持ちに寄り添えるのかもしれない。
自作した陶器を、自分で使うことによって得られる発見もあるという。
「昔つくったマグカップは、デザインを重視して底を細くしたんです。でもテーブルに置いたとき、かすかに不安定だと気づいて。使ってこその器なので、デザインだけじゃだめなんですよね」
取っ手の長さを変えて持ちやすくしてみたり、カップのふちを薄くして口当たりよくしてみたり。
使うたびに見つける発見を、日々のものづくりへ落とし込む。
取材終わりに、仁平さんが話していた言葉が印象的でした。
「古家具の価値って、一口には言えないんですよね。難しい… 難しいんですけど、まったく興味がない人から見たら同じように見えても、『ちょっとこれは違うよね』っていう違いがあると思うんです」
「その言葉であらわすのが難しいことを伝えていきたいし、感覚的にでもなんかわかるなって思う人と一緒に働けたらいいなと思うんです」
一口ではあらわせない、もののよさ。だけどたまらなく好きだと言える。働く人たちの、言葉になりきっていない熱から、仕事に対する潔さを感じました。
ピンとくるものがあれば、ぜひお店に行ってみてください。ここでの生き方と肌が合うか、直接確かめてみるのがいいと思います。
(2023/10/20 取材 田辺宏太)