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日本海に浮かぶ島、海士町。
ここでは20年以上前から、従来のやり方にとらわれず、さまざまなプロジェクトが行われてきました。
今回募集するのは、海士町役場のパートナーとして業務委託契約を結び、プロジェクトをともに立ち上げ進めていく人。
たとえば島であらたな事業をつくったり、暮らしの基盤になる仕組みを考え直したり。
今見えている課題はあるものの、どう取り組んでいくべきか、具体的なことはまだ決まっていません。
自分が得意な分野を活かして、まちづくりに挑戦したい。
常識を見直して、健全な社会をつくりたい。
お互いのアイデアを持ち寄って、この島の暮らし、そして持続可能な未来をつくっていける人を探しています。
「役場の募集だけど、業務委託で、やることが決まっているわけではなくて」
どういうことだろう?と思いつつ、役場で話を聞かせてもらったのは、海士町で生まれ、育ってきた課長の松前さん。
さっそく、今回の募集についてくわしく聞いてみる。
「今は家を直す大工さんや、交通機関の運転手さん、医療福祉分野の方がいるからこそ、安心して暮らしていけるわけですよね。近年、これまでまちにあった仕事の事業承継がむずかしくなってきています。この先何年かすると、あたりまえだと思っていた生活ができなくなるかもしれない」
「行政としてできることはやってきたけれど、これまでのやり方だけでは課題は解決しない。本腰を入れて、暮らしの魅力化に取り組んでいこうということになったんです」
海士町ではこれまでも、さまざまな分野で常識を見直し、この島らしいやり方をつくってきた。
たとえば地域唯一の高校が廃校の危機を迎えたとき、教育の魅力化を進めていくプロジェクトを発足。
生徒が通いたい、親が行かせたい、地域が活かしたいと思える学校にするため、高校にコーディネーターを配置し、生徒たちに寄り添う公立塾をつくり、島外からも生徒を受け入れられる体制を整えた。
プロジェクトがはじまって15年が経った今、島内外からたくさんの生徒が集まる学校になり、地域のなかで活動する高校生の姿を見かけることも増えてきている。
教育で島の危機を乗り越えてきたように、生活に関わるさまざまな分野を見直していきたい。
取り組みたい課題は山ほどある。
島外から外貨を獲得できるような事業を創出していくこと、インフラや終活を島らしく変えていくこと、まだ手がつけられていない小規模校の魅力を高めること。
それぞれに細かな課題はあるものの、まずは全体を俯瞰して、島らしいかたちを一緒に考えるところからはじめたい。
「たとえば終活で言うと、家をたたんで本土で過ごすとか、墓を本土に移したとかって話が増えていて。墓がなくなると、その家族はもう島には帰って来なくなるんです。どうしたらこの島で安心して暮らしていけるかっていうことを、考えないといけないんですよね」
宗教宗派を超えた共同墓地をつくるというアイデアも出たものの、それぞれの宗教観も違えば、どう運営するのがいいかも話し合っていかなければならない。
島で安心して最期を迎えられる、この島らしい仕組みはどんなものなのかを、常識にとらわれず考えていきたい。
今では、住民の6人に1人は島の外からやってきた移住者だという海士町。
これまで行ってきた教育の魅力化も、産業を支えている岩牡蠣の養殖や、力を入れている観光も。
固定概念を変えながら立ち上がるプロジェクトには、いつも島外からやってきた人たちのアイデアと熱意があった。
「挑戦を受け入れる土壌があるんだと思います。もちろんトラブルも起こりますよ。それでも、このままだと島で暮らせなくなるという危機感がありますから。まずはかまわずやってもらったほうがいいっていう雰囲気なんです」
自由に動きやすいよう業務委託というかたちをとっているものの、業務を切り出して依頼するというよりは、島の人と一緒に動いてプロジェクトを立ち上げ、進めていくことになる。
海士町の人たちをみていると、島の人も外から来た人も、境目がないのが印象的。
「どれも前例がなければ正解もないことです。経験は問いません。自由な発想と行動力がある人が島に関わってくれると、おもしろくなりそうですね」
続いて話を聞いたのは、移住して役場職員として働く人たち。
一緒にプロジェクトに取り組むこともあれば、島で活動していく方法を開拓している先輩として参考になることも多いはず。
五島さんは1年半前に移住して、役場の建て替えプロジェクトを担当している人。
「前職では化学プラントを建てる会社でプロジェクトマネジメントをしていました。子どもが生まれて、37歳になって。海外勤務が長い仕事ということもあって、この先どうしようか考えていたんです」
同じ業界で転職することを考えたものの、根本的に生活を変えることはむずかしそうだった。
そんなとき、日本仕事百貨で見つけた海士町の記事にピンとくるものがあった。
「島に来て話を聞けば聞くほど、本当はこうやったほうがいいよね、ってことにちゃんと取り組んでいる。感覚でしかないけれど、いいな、と思ったんです」
最初に任されたのは、役場の新庁舎建て替えに加え、漁港の整備と役場のDX化。
移住してきたばかりの自分に、大きな仕事を3つも任せてもらえることにおどろいた。
「今は新庁舎の仕事が中心になりました。コンセプトをもとに基本設計を詰めていくところから引き継いで。自分がいいと思うやり方で、進め方も含めてまるごと任せてもらっています」
前職で近い経験があるとはいえ、役場の建て替えはまちの一大プロジェクト。
いいと思うように、と言われても、暮らす人やまちのことを知らないなかで、どんなふうに考え、決めているんだろう。
「まずは資料を読み込んで、あとは聞いて回るしかないなっていうのが僕のやり方です。いろいろな部署で話を聞いたり、いろいろな活動に顔を突っ込んで知り合いを増やしたり。そうしていくと、まち全体の動きもみえてくるんです」
海士町役場では、職員が複業する「半官半X」が推奨されている。
五島さんは半Xの時間を使い、資格をとって、空き家の管理や修繕に取り組んでいる。
「僕自身、こっちに来てから古民家に住んでいたんですが、寒いし湿気があったりして大変だったんです。同じように困っている人の話も聞いて、きっとこれってまち全体の大きな課題だろうなって。ほかにやってくれる人がいないんで、自分がやらなしゃあないなってことですね」
先日はまちが主催する空き家相談会に参加。
空き家について困っている人の話を聞いたり、シェアハウスを改修しているチームの相談にのったりしているそう。
転職に際して不安だった給与についても、足りないなら自分で仕事をつくっていけばいいと考えている。
「自分がやってみたいことを人に伝えると、話が進んでいきます。島に課題が多いのは間違いありませんが、それを前向きに解消していこうとしている人が集まっている。ないなりにどうやって前に進めていくのか、建設的に話していけるのが気持ちいいですね」
移住した人というより、いち住民としてまちのことを考え働いている五島さん。
一生ここで暮らすかどうかはわからないけれど、ここで生きていくことを楽しんでいるようにみえる。
「都会や大きな会社で働いていると、システムを動かすために人がいるように感じるんです。だけどここでは人がいて仕事がある。代わりがいないというか、一人ひとりの力をすごく感じます。誰のために仕事をしているのかがわかりやすいのも、おもしろいですね」
「ここに来て、目線がぐっと上に向いたんです。自分たちがやっていることは、モデルケースとして日本全国に発信していくことができる。誰もやっていないことをして、日本全体をよくしていく最先端にいるかもしれないと思うと、身が引き締まります」
次に話を聞いたのは、役場のDX化やふるさと納税を担当している岩見さん。
質問に対して、ちゃんと考えてから答えてくれる人。
「最初に海士町に来たのは、大学のゼミ合宿でした。そこで島の人たちの人柄にすごくハマってしまって。大学を卒業する前の半年間は、大人の島留学というプロジェクトの立ち上げ期に参加して、島で暮らしました」
その後は島を離れ、内定をもらっていた横浜のIT企業に就職。
都会でバリバリ働くなかでも、ふと海士町を思い出すことがあった。
「定期的に島の人から連絡をもらったりして。そのたびに、あのころはよかったなとか思っちゃうんですよね。海士町で働くのもいいなって考えはじめたとき、役場の求人が出て。お世話になっていた人から『これはあなたのための募集です』って連絡が来たんです」
1年目は島外から若い人を受け入れる大人の島留学を運営し、2年目からは役場のDX化とふるさと納税を中心に担当している。
さらに五島さんと同じように、半官半Xの制度を活用中。
ふるさと納税の事務的な「守り」の仕事は役場職員として。返礼品の見せ方やPRイベントの開催など「攻め」の仕事は、運営を委託しているAMAホールディングスのスタッフとして。さまざまな方面からふるさと納税の運営に関わっているそう。
役場の職員ってそんな働き方ができるんだ、と思わず聞き返してしまった。
「ひとりで官民一体状態、ややこしいですよね。そのほうが動きやすかったというか、仕事がしやすいからこのかたちをとっているんです。まだまだ改良の余地ありですが、時間もバランスも、自分で考えて働いています」
岩見さんが所属しているチームは、島の外からのお金、“外貨”を獲得していくために、一緒に動いていくパートナーになる人を募集している。
企業版ふるさと納税を増やしていったり、岩牡蠣や隠岐牛など島の産品をより広く売っていくのもひとつの方法かもしれない。
今ここにあるものをよく見て、島であらたな事業を一緒につくりだしていきたい。
「外貨を獲得することで、島のあらたな挑戦に投資ができる。そのサイクルを回す部分に関わる仕事です。お金をちゃんとひっぱってくれば、それが島の人がやりたいことの実現につながっていく。役に立てているなって実感しています」
「私がおもしろいと思うのは、いつも想像のはるか上をいくアイデアを出してくる島の先輩たちで。大きな夢を描きながらでも、目の前のことに泥臭く取り組んでいく。続けていると、いつのまにか夢が近づいている。仕事って自分でつくっていくものなんだって、気づかせてもらえる環境です」
岩見さんの取材を終えたあと、上司の柏谷さんと話している場に立ち会った。
そこで岩見さんが、自分のなかで引っかかっていることを正直に打ち明けているのが印象的だった。
「ふるさと納税の数値を上げていくこと、つまり町の人を応援してくれる人が増えることの大事さは理解しています。だけど、そのぶんほかの市町村の税収が下がるわけじゃないですか。今はとにかく上げていくことを考えているけれど、どの額が適正なのか、ちゃんと考えてみたいです」
まずやってみる。
違和感があったらとことん対話して、よりよいかたちに変えていく。
そうやって自分たちらしい、まちの未来をつくっていくことができる。
得意なことや熱意を、この島で一緒に試してみたい。
そう思えたら、ぜひご連絡ください。
(2023/10/3 取材 中嶋希実)
今回の取材では、島前地域で暮らし、働く人たち19人に話を聞きました。さまざまな挑戦が生まれていく風土が育まれてきた話を、コラムで紹介しています。
12月8日には、島前地域の人たちと一緒に東京・清澄白河のリトルトーキョーでしごとバーを開催します。記事を読んで、もっと話を聞いてみたくなった方も、ただただ飲みながらお話ししたい方も。配信もあるので、よければ覗いてみてください。
しごとバー「やりたい!に素直な人たち 挑戦と生きる島で」