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本が好きなら何できる?

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本を読む理由ってなんだろう。

日常とは違う世界に没入したい。新しい分野のことを構造的に理解したい。抱えている悩みのヒントを探すために本を読むことも。

また、共通の本をきっかけに友だちと仲良くなることもある。あげればキリがないほど、本の効能は多様であるように感じます。

今回は、本を通じてまちを盛り上げる人を募集します。

働く先は、「もったいない図書館」。福島県の最南端・矢祭町にあります。

平成18年にまちが総合計画をつくるとき、事前に町民へアンケートをとったところ、「図書館がほしい」という要望がたくさん寄せられました。

そこでまちは図書館を建てようとしたけれど、本を買うための財源が不足。

そんなとき、矢祭町は“もったいない運動”のことを知り、全国に本の寄贈を呼びかけます。すると思わぬ反響で、29万冊もの本が集まることに。

図書館は、すべて寄贈された本で成り立っています。

今年で17年目。いまでは本の貸出返却にとどまらず、「子ども司書講座」や「手づくり絵本コンクール」といったユニークな取り組みもしています。

今回募集するのは、本を媒介に人と人をつなぐコーディネーター。

もったいない図書館を拠点に、イベントを企画・運営していきます。

本の効能を実感している人は、その力が生きる仕事です。

 

東京から特急こだまに乗って水戸へ。

そこで郡山に向かう水郡線に乗り換える。しばらく開放的な平野が続き、だんだんと山間部に。

車窓からは一級河川の久慈川が見える。

鮎釣りのメッカとして有名だそうで、渓流釣りをしている人を発見した。

昼から鮎釣りに勤しむ人ってどんな人だろう。釣り人のライフスタイルを考えていたら、目的の東館駅に着いた。

駅の歩道橋からは、収穫間近の稲が色づいているのが見える。その先には住宅と山が広がっていて、のどかな雰囲気。

おどろいたのは、駅舎の中にコミュニティスペースがあったこと。「ヒガシダテ待会室」という名前で、電車を待つ間に作業もできるし、地域の人が気軽に集まれるような空間が広がっている。

改札を抜けると、役場の担当者さんが迎えに来てくれた。

駅から目と鼻の先にある、もったいない図書館へ向かう。

もともと公民館の柔剣道場だったところをリノベーションした、もったいない図書館。

中に入ると、本がずらっと並ぶ。

蔵書の数は約45万冊にものぼり、文庫本に新書、郷土資料や絵本など、多様なジャンルで区分けされている。

ほかにも、イベントや講座ができるようなスペースがあったり、乳幼児を連れた家族が過ごせるファミリースペースがあったり。

今回新しく入る人は、ここを拠点に活動していくことになる。

まずは、館長の緑川さんに話を聞く。

「もとは、町民の方たちがまちから委託を受けて、この図書館を運営していました」

「ただスタッフの高齢化も進んで、運営がむずかしくなってきたので、町営に切り替えることになって。それで8年前にわたしが来たんですね」

貸し出し返却作業と図書の整理に加えて任されたのは、「子ども司書講座」と「手づくり絵本コンクール」の企画・運営。

子ども司書講座は、小学2年生以上を対象としたキャリア教育の一環。図書館のことを学ぶ座学から実演まで、さまざまなカリキュラムを用意している。

修了して子ども司書となった子どもたちは、より小さな子たちへ読み聞かせすることもあるそうだ。

手づくり絵本コンクールは、全国から手づくりの絵本をテーマに作品を集めて、優秀作品を決めるというもの。

一般の部と家族の部があり、審査はノンフィクション作家の柳田邦男さんと、絵本作家のあべ弘士さんが務めるなど、かなり本格的。

「矢祭町出身の方が、フランスで結婚されて。この間、矢祭町に子どもを連れて帰ってきたんです。せっかくなので、絵本のキットをお渡したら、フランスからお子さん2人がつくった絵本が届いて。色づかいも面白いですよね」

全国から送られてきた作品の一つひとつを、うれしそうに紹介してくれる緑川さん。

子ども司書の一期生が、今では矢祭こども園で幼稚園の先生をしていたり、第一回の手づくり絵本コンクールで最優秀賞をとった方が、プロのイラストレーターになったり。

本を通じたエピソードはたくさんある。

最近は、乳幼児親子とお腹に赤ちゃんがいるお母さんのための「赤ちゃんおはなしかい」をはじめた。

「本好きな子どもを育てるには、お腹の中にいるうちから、読み聞かせが大事っていうことでお話会をしているんですね。胎児のときに、お父さんやお母さんの声をたくさん聞いていると、生まれて声をかけたときに安心するそうなんです」

また、乳幼児期は脳の発達や感性が養われる大切な時期。人間の知能のおよそ半分は、この時期に発達していく。

読み聞かせも棒読みではなく、語調を変えたり、身振り手ぶりを入れたり、子どもと向き合いながら語ることが大切だという。

「少しでも早いうちから、そういう風に読み聞かせてもらうことで、こころの豊かさにもつながっていくと思っています」

ほかには、「大人のためのおはなしかい」も。読み聞かせとワークショップを掛け合わせていて、つい先日はお月見の団子をつくった。

「来る人は、ほとんどが60代後半の方たちで。本よりもワークショップを楽しみに来られるんです」

本を読むだけでなく、本を通した活動の場を設けることで、地域の人たちの交流が生まれていくのも、もったいない図書館で大切にしていること。

 

学校と連携しながら、地域の人たちと本をつなげているのが、コーディネーターの大羽さん。

ヒガシダテ待会室で話を聞かせてもらう。

「今年から子ども司書講座が大きく変わったので、その準備で目まぐるしい毎日ですね」

昨年までは、もったいない図書館にて小学4年生から6年生を対象におこなわれていた子ども司書講座。

より多くの子どもたちが本に触れる機会を増やしたい。

そこで今年からは、小学校に出向いて2年生から6年生を対象に新しくプログラムをつくり直したところ。

最近では、新聞記者を招いて記事の書き方について教わり、夏休みの目標について作文を書くこともあった。

また、同じく今年の4月から新しく中学校に設けられたのが「としょ部」。

「中学生になると、どうしても部活動や習いごとで忙しくなってしまう。せっかく講座を修了しても、活躍する場が少ないという声を保護者の方々からいただいていました」

そこで、活動の場を広げるべく部活動を始めることに。大羽さんは、毎週金曜日に生徒と活動している。

としょ部の活動は、まちに対する「もっとこうなったらいいのにな」を形にしていくこと。

たとえば、中高生が交流する場を増やしたいとか。ほかにも、どうすれば本に馴染みのない人たちに興味を持ってもらえるのか。最近では、ドリンクフェスティバルというイベントも開いた。

「三ツ矢サイダーとカルピス、あとはかき氷シロップを用意して。参加者の方それぞれに、好きな本をイメージして色をつけてもらいました」

「そのときは、漫画を選んでいる中学生とか若い方が多かったです。主人公の髪の色から、オレンジ色のドリンクをつくったりして。楽しかったですね」

普段は各地区の公民館に出向いて、絵本の読み聞かせをしたり、ワークショップを開いたり。

地区ごとで集まる年代も異なるため、工夫しながら進めている。

昨年やってきたばかりの大羽さん。印象に残っていることはありますか?

「去年はじめて子ども司書講座を担当して。一年かけて5人の子どもたちに司書についての授業をしていました」

最後の認定式では、ひとり一冊ずつ、おすすめの本を5分間紹介し、誰の発表が一番本を読みたくなったかを決める、ビブリオバトルをおこなった。

ビブリオバトルとは、「人を通して本を知る。本を通して人を知る」というコミュニケーションゲームのこと。

「はじめて会ったときは、前に立つのもいやとか、手を挙げるのも苦手だった子どもたちが、堂々と大人たちの前で発表していて」

「こどもの成長ってすごい!って、ほんとに感動しました。うれしいなって今でも思い出します」

大羽さんは、今後どんなふうに活動していきたいですか?

「もともと教員を目指していたこともあって、もっと子どもたちのキャリア教育に力をいれたいと思っています。はじめてこっちに来たときに、子どもたちが大人に出会う機会が少ないなと思って」

矢祭町にはチェーン店といわれるものが、薬局とスーパーの1店舗ずつのみ。あとは大きな町工場や自営業のお店がほとんど。

「子どもたちが『将来何をしたいかな』って考えるとき、やっぱり普段見ているまちの様子に大きく影響を受けると思うんです。もっと選択肢はあるし、子どもたちがこれまでに経験したことのない場をつくりたいと思っています」

実際に図書館の本を使って、カツオの刺身のアレンジレシピを考え、地元の魚屋さんと一緒にワークショップを開いたこともあった。

大羽さんが学校と連携して活動を進めているので、今回新しく入る人は、より地域に飛び出して活動してほしい。

前にいたコーディネーターの人は、デザインのスキルを活かして、もったいない図書館のロゴやパンフレットをデザインすることもあった。

自分の興味やスキルを本と絡めて活かすことができると、いろいろな取り組みが生まれると思う。

「課題としては、取り組みが増えてきたので、限られたスタッフでどうやって持続可能な形にできるか。新しく入る人と考えていきたいですね」

 

次に向かったのは、車で5分ほどのところにある「珈琲香坊」。

ここで、もったいない図書館と関わりを持つ店主の長谷川さんに話を聞く。

「前から協力隊の方たちとは交流があって。それで、大羽さんから何かイベントができないかってことで、本とコーヒーのイベントをしました」

コロナ前は、ブラジルやペルー、コスタリカなど、世界各地に豆の買い付けへ行っていた長谷川さん。

訪れた農園の写真をプロジェクターで映しながら、現地での話やコーヒーにまつわる話をしたそう。

「たとえばコーヒーって、熱いときは苦味が優先されるんですね。だんだん温度が下がってくると、甘く感じます。それは、温度が下がって粘度が出てくることで、舌の上にいる時間が長くなるから。それでますます甘く感じるんです」

そのほかにも、産地の異なるコーヒーを飲み比べて、参加者ごとに味を記録する手帳もつくった。

「実際に本との接点をつくるって大変だと思っていて。わたしもブログで日々情報を発信しているんだけど、そうやって多くの人に届けるのも大事かもしれないよね」

長谷川さんは名古屋から矢祭に移住して来た方。ほかにもIターンで農業や居酒屋をはじめた人たちもいる。

困ったときは相談もできるし、このまちの課題も協力しながら解決していくのもおもしろそうだ。

 

本と人をつなぎ、本と町をつなぐコーディネーターの仕事。

まだまだ本の持つ可能性を活かせる機会はありそうです。

(2023/09/22 取材 杉本丞)

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