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「特別なスキルがあるわけでもないし、遠くから知らないまちに移住して、できることって限られるじゃないですか」
「でも僕は、たまたまイノシシを獲るようになって、処理施設の運営もするようになった。まちの人たちが困っている問題に対して、直接力になることができている。このまちでの存在意義が生まれて、ありがたいなって思うんです」
東京から長崎県波佐見町に移住し、イノシシの狩猟や加工処理をしている城後さんの言葉が印象に残っています。
やきものの産地として知られる波佐見町。自然豊かなこのまちでは、イノシシによる農作物への被害などが深刻な課題となっています。
それを解決するため、地域おこし協力隊として3年間、イノシシ対策のオールラウンダーとして活躍してくれる人を募集します。
免許を取って猟友会の人と一緒に猟をしたり、農家の人と畑への侵入を防ぐ対策をしたり。解体作業も自分の手でおこなう、イノシシ問題のすべてに関わる仕事です。
3年後は、加工処理場の社員として働いてもいいし、ジビエを使う飲食店や農業など、自分の関心がある分野で起業してもいい。
移住に興味があるけど、特別なスキルはないし、知り合いもいない。そんな不安がある人も、この仕事を通じて、自然とまちに溶け込んでいけると思います。
長崎・波佐見町は、長崎空港から、車で50分のところにある。
ここは長崎県で唯一、海に面していないまち。近づくにつれて海辺の景色が一変、山に囲まれた風景に変わっていく。
約束の時間より早く着いたので、近くを散歩する。まちには沢山の窯元があって、見ているだけで面白い。
ほかにも橋の欄干にまで波佐見焼の装飾があって、「焼きもののまち」を実感する。
散策を終えて町役場につくと、職員の中村さんが出迎えてくれた。
早速、今回の募集について話を聞く。
「収穫前の作物を荒らされた農家の人たちの顔を見るのがしんどくって。すごくがっかりされるんです。愛情を持って育てたものが、ようやく出荷というときにダメになる。被害を減らすためにも、地域おこし協力隊の方に力を貸してほしいと思っています」
波佐見町では10年ほど前から、イノシシによる被害が深刻化。捕獲数は毎年増加しており、最近では年間約1000頭にのぼる。
原因は、林業などの衰退により里と山の垣根が曖昧になったこと。
これまで山で生活していたイノシシが里に降りてきて、畑の芋や米を食べるようになった。山で食べていた木の実よりも栄養価の高い農作物の味を覚えて、次第に里に近づくように。栄養価が高いぶん、繁殖もしやすく長生きするため、数が急増しているそう。
「役場でも、侵入を防ぐ柵を配ったり、猟友会の人が罠を仕掛けて狩猟をしたりしてくれています。でも、農家さんの高齢化で柵がしっかり設置できないなど、対策が充分に取れていないのが現状です」
「地域おこし協力隊の人には、猟や、柵の見回り、獲った動物の解体など、守備範囲を広く働いてもらいたいと思っています」
たとえば、午前中にまちの加工所でイノシシの解体作業をして、午後は猟友会の手伝いや侵入防止用の柵の見回りをする。ほかにも、まちでとれたジビエの販路拡大、農家への対策の周知など、興味のあることに自由に関わってほしいそう。
猟はもちろん、解体も、柵の見回りも、専門性の高い仕事。はじめての人にとっては難しそうですね。
「それぞれ、指導役の人がつく予定なので、経験のない人も安心して来てください」
柵の設置や見回りは、中村さんが指導役になる。中村さんの提案で、実際に現場に連れて行ってもらうことに。
現場は森のすぐそばで、全体を囲うように柵が張り巡らされている。
「ここ、柵が手前に折れ曲がっている。こういうところは、簡単に入られちゃいます。協力隊の方には、こういうところを見つけて、農家の人に指導してもらいたいと思っています」
素人から見ると、柵は綺麗に設置されているように見えるけれど、どうやって侵入するんだろう。
「イノシシってすごい力でグッと柵を引っ張れるんです。そしたら、柵が倒れますよね。120センチくらいの高さまでは飛べるので、柵を高くしないと飛び越えられちゃいます」
「こんなふうに(笑)」とイノシシの真似をしながら、身振り手振りで教えてくれる中村さん。
役場の仕事以外にも、プライベートで地元の高校の野球部でコーチをしているからか、教え方も丁寧でわかりやすい。
「実際、被害にあった現場に行くと、柵と柵の間にすこし隙間があったり、柵が低すぎたり。ちゃんと設置できていれば防げていた被害もたくさんあるんです」
「今は人手がなくて見回りをできてないけれど、新しく入る方が見回りをしたり、農家の方に指導したりしてもらえたら、本当に助かるし、農家の人たちも喜ぶと思います」
侵入を防ぐ以外にも、猟をして数を減らすことも重要な対策。
猟の指導をしてくれる猟友会のベテラン、川島さんの家にもお邪魔する。
自宅の敷地内に建てた小屋で、コーヒーを淹れてくれる。
「小屋も、薪ストーブも手製。ストーブは溶接してつくったんだ、面白いやろ」
小屋の中には、たくさんの木材や、川島さんがつくった木工品が並んでいる。薪ストーブを囲むソファーがあったり、焼肉用のコンロが机に埋め込まれていたり、秘密基地のような場所。
「この間は、仲間と獲ったイノシシで焼肉をしたよ」
猟友会の仲間やまちの人たちと、よくこの部屋でお茶をしたりお酒を飲んだりするそう。新しく入る人も、ここに顔を出せばいろんな人と知り合いになれると思う。
「都会だとなかなかこういうことはできないでしょう。自分の隠れ家とか、そういうのが好きな人は古民家を買って改装してもいい。つくりたいって言えば、周りも協力してくれると思うよ」
コーヒーと、たくさんのお菓子をいただいた後、罠猟の場所を見せてもらう。
「猟には罠を仕掛けるものと、猟銃を使うものの2通りがあるんだよ」と川島さん。
狩猟と聞いてまずイメージするのは銃だけれど、実際は免許を取るのが難しく、猟友会でも34人中、川島さんを入れた3人しか免許を持っていないそう。
罠猟の免許は比較的取りやすく、筆記試験や技能試験などに合格すれば取得することができる。新しく来る人も、まずは罠猟の免許を取って、川島さんのもとで罠の安全な仕掛け方や、止め刺しの仕方などの実践方法を学ぶことになる。
車に乗って、罠が仕掛けてある道路沿いの山に。
道路から山に一歩足を踏み入れると、気温がぐっと下がる。
ひんやりとした空気の中、落ち葉を踏んで木々の間を進むと、大きな鉄の罠が見える。
「3日前にイノシシが来たね」
川島さんが、そういって罠の近くの獣道の落ち葉をめくると、泥のついた落ち葉の上に、数枚だけ綺麗な落ち葉が乗っかっている。
なんで3日前だとわかるんですか?
「この泥はイノシシが歩いたあと。その上から落ち葉が積もっているでしょう。だからしばらくイノシシはここを通ってないってこと」
ほかにも、イノシシが身体をこすりつけた木の幹や、かじっていった餌。自然の中に潜む痕跡をどんどん見つけていく。
「いろんな手がかりを見て、イノシシの動きを予想しながら餌のやり方とか罠の仕掛ける場所を考える。それで思った通り罠に入っている瞬間はうれしいよ」
川島さんたちが獲ったイノシシは、加工処理場に運ばれ解体される。
まちの加工処理場「モッコ」に向かう。
モッコでは、猟友会が獲ったイノシシを解体し、内臓を取って島根の加工場に送っている。島根で食肉加工されたものを再び引き取り、まちのふるさと納税や地域のホテルなどに卸しているそう。
新しく来る人は、この場所で解体の手伝いも担当する。
待っていてくれたのは、モッコの代表、城後さん。
6年前に東京から家族で波佐見に移住。いまは町会議員をしながら猟友会に入って猟をして、加工場の運営も一人で担っている。
「別にやきものや猟に興味があったわけじゃないんです。たまたま波佐見の人と知り合って、遊びに行くようになった。まちの人は私みたいなよそ者にも、みんなすごくウェルカムで。そういう環境がすごくいいなと思って移住しました」
移住後、町の人たちとの縁で町会議員に出馬し、当選。
「議員になったら、いろんな人から『イノシシ、困ってるんですよ』って言われるようになって。じゃあとりあえず免許とってみるかってことで猟友会に入ったんです」
「モッコは元々、ジビエ料理店を展開していた企業がつくった加工所で。その企業は撤退してしまったんですが、まちの人から『猟の免許も持っているし、城後が会社をつくるしかないんじゃない』って言われてね」
まちから加工施設がなくなると、獲ったイノシシなどは食肉にならず、細かく処理されて焼却したり、土に埋めたりするしかない。モッコがあることで、獲った肉の一部を食肉用として販売できるようになった。
自然な流れに身を任せながら、ここまできた城後さん。移住したまちで、イノシシの問題に関わることで、波佐見町に欠かせない存在になっている。
ちょうど、午前中に罠にかかったイノシシを解体するというので、見せてもらうことに。
まずは、40キロほどのイノシシを台に乗せて、丁寧に毛を剃っていく。
後は吊るして、イノシシの腹を開けて内臓を一気に取り出す。手際よく作業が進み、たった40分ほどで処理は終わった。
「人が増えたら、もっと効率よく作業もできる。将来は、食肉加工も自分たちでできるようになりたいんです。経験や人手も増えて事業が拡大できれば、肉付きがわるくて廃棄していたイノシシも、ソーセージや、ペットの餌にすることで無駄にせずに済む」
波佐見町では現在、捕獲された動物の7割ほどが焼却処理されている。奪った命のほとんどを、捨てているのが現状だそう。
人が増えれば処理できる数も増えるし、アイデアを出し合うことで、命を活かすことにもつながっていくはず。
人間の都合で奪われていく命。「仕事だから」だけでは片付けられない気持ちになることもあるかもしれない。
でも、まちの人のため、自然との共生のために、この仕事には大きな意義があるように感じる。
最後に、どんな人に来てほしいか聞いてみる。
「やっぱり、食とか猟に興味がある人ですかね。あとはぼんやりでも、将来農家や宿をしたいとか。やりたいことがある人のほうがこの3年で得られるものは多いと思います」
「波佐見は、外から来た人が飲食店ややきものの工房を開くとか、活躍するケースがすごく多い。先輩から学べることがいろいろあると思うので」
やきものは分業制が主で、一つの器をまち全体で協力してつくってきた歴史をもつ波佐見町では、協力し合う精神がまちの人たちに根づいているそう。
移住してきた人も、自分からコミュニケーションをとっていけば、手を差し伸べてもらえる。そんな環境なのだと思う。
目の前に困っている人たちがいて、自分の仕事がその人たちの助けになる。
初めてのまちで、自分の存在意義が自然と生まれるのはありがたいこと。仕事に真摯に向き合うことで、きっとまちに溶け込んでいくことができると思います。
(2023/11/13 取材 高井瞳)