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旅先で、そこでしか食べられないおいしさに出会えるとうれしい。
ああ、あの人にも食べさせてあげたいな。そう思ってお土産を探すけど、その感動を分かち合えるお土産に出会うのは、なかなかむずかしいなと思います。
今ここでしか味わえなくて、うれしい気分になるものを。かつ、お土産として持ち帰っても、大切な人とそのうれしさを共有できるものを。
今回紹介する「鞠智(くくち)」は、きっとどちらの想いも大切にしているお店だと思いました。
有名な温泉地として知られる大分・由布院で、どら焼きやコンフィチュールなど、手づくりのお菓子を製造・販売している「鞠智」。
広い店舗はいくつかのスペースに分けられ、カフェや軽食、ジンジャーエールスタンドなども展開しています。
募集するのは、菓子製造スタッフと接客販売スタッフ。未経験でも、大丈夫です。
おいしいものが好きで、自然や温泉が好きで、人に喜んでもらうことが好きな人。少しでも気になったら、ぜひ読み進めてみてください。
博多から特急ゆふに乗って、2時間20分ほど。
由布院駅の改札を出ると、まっすぐ続く道の先に由布岳が見えた。
あいにくの天気で山頂は見えないけれど、このまちのシンボルとわかる存在感。
訪れたのは旧正月のころ。中国、韓国からのお客さんが多く、平日の朝10時にもかかわらず大勢の人でにぎわっている。
由布岳方面へまっすぐ進み、湯の坪街道とよばれる観光のメインストリートへ。
駅から歩いて10分ほどで、「鞠智」が見えてきた。
古民家の趣ある建物に、モダンな看板や植栽。
「どら焼き焼いて〼」の木製看板や、蕎麦販売スペースから立ちのぼる湯気に、自然と足が止まる。
スタッフの方に声をかけると、代表の菊池さんが出てきてくれた。
カフェスペースへ移動して、話を聞くことに。
いきなりですけど、「鞠智」ってめずらしい名前ですよね。
「まず読めないですよね(笑)。熊本に鞠智城というお城があって、その鞠智が僕の名字、“菊池”の由来なんです。古きを受け継ぎながら、革新していくという意味を込めたくて」
「店の建物も、飛騨高山の古民家を移築したもの。商品も、どら焼きやジャムなど昔からあるものに、新しい発想を加えることで、ここでしか味わえない味を出していきたいなと思っているんです」
菊池さんは福岡県出身。
店の始まりは、菊池さんのお父さんが九州で事業をするなかで、由布院の土地を買ったこと。当時、菊池さんは東京で会社員をしていたものの、家族の都合もあって九州へ戻り、2008年に鞠智をオープンした。
「最初は何を始めるとも決めずに、建物ができちゃって。右も左もわからないなか、いろんな人の助けを借りながら、なんとか形にしていったんです」
知人のご縁でおむすびやお菓子を売っていたけれど、看板メニューと呼べるようなものはなかったそう。
転機となったのは、ある製菓店の方に、お菓子づくりの指導を依頼したこと。その方が鞠智で働くことになり、「一番自信があるお菓子は?」と聞いた答えが、どら焼きだった。
「そのどら焼きが非常においしくて。かつ実演販売ができ、袋詰めしてもおいしく販売できるとわかり、じゃあどら焼きをメインにしよう!と。生地を手焼きするのが見えるように、お店を改装したんです」
その後もよりよい形を求めて、4、5回と改装を重ねてきた。
「経験がないぶん、『じゃあそれやってみよう』という感覚があるんです。今お蕎麦を売っているところも、最初はおむすびに合わせて、屋外テントで豚汁を売っていたんですよ。それなら席もつくろうか、と席ができて」
縁あって麺茹で機をゆずり受けたことで「じゃあ蕎麦もやってみよう」となり、今ではそこが、地鶏蕎麦や地酒を楽しむ半屋外のスペースになっている。
フットワーク軽く感覚的にどんどん動けるのも、一方では商品展開を論理的に考え、お店を成長させてきたから。
さまざまな果物からつくるコンフィチュールも、そのひとつだと思う。
「観光地は時期によって、売り上げの浮き沈みが大きいんです。だからある程度、保存がきく商品がほしいと考えて。コンフィチュールなら閑散期に仕込んで、繁忙期に販売できる。それに果物の扱い方のノウハウが増えると、果物を使ったほかの商品にも説得力が出てくるんです」
大分県産のかぼすや柚子、福岡産のあまおうなど、材料はできるだけ、地元や近隣のものを選ぶ。
さまざまな果物を扱うなかで、季節ごとの果物を活用した限定どら焼きで変化を持たせるなど、かけ合わせの効果も生まれてきた。
根底にあるのは、「ここだけの味を」という想い。
「いろいろなところへ視察に行きますが、観光地の食べ物やお土産って、どこも似通っているところがあるんです。でも僕は、せっかくなら、ここでしか味わえないものを味わってほしい」
それが叶う店をつくることは、長く事業を続けていくためにも必要なことだと、菊池さんは考えている。
「外国の方も多いので、『日本の由布院で、この店に行ったらおいしかったよ』と言ってもらえる店でありたい。胸張って、うちの店、いい店だよって言えるようでありたいんです」
今年でお店は15年目。リピーターのお客さんも順調に増えてきた。
最近は、スタッフが長く働きたいと思える場づくりも意識しているそう。
「接客やお菓子づくりが未経験でも、意欲がある方ならいいと思います。また職種にかかわらず、得意分野があればぜひ活かしてほしいですね。SNS運用やポップづくりが好きとか、デザインができるとか」
そう言う菊池さんはDIY好き。蕎麦販売スペースのレジに置かれた地酒展示用ディスプレイも、菊池さんがつくったそう。
「蕎麦スペースで地酒を扱うようになったのも、スタッフがお客さんの要望を聞いて提案してくれたからなんです。お店づくりに関わってみたい方は、楽しいと思いますよ」
続いて話を聞いたのは、菓子製造の内野さん。
由布院には住民用の共同温泉があり、内野さんは仕事帰りに毎日、そこで温泉に入るのが日課なんだとか。
製造部の主任を務めているものの、調理の学校に通ったことはない。家の近所で働けるところを探していて、あるお菓子屋さんで働いたことが、今へつながるきっかけだった。
「そこの師に、どら焼きつくりのおもしろさや奥深さを教わって。どら焼きの生地って、仕込み次第で本当に変わるんですよ」
実はその師が、菊池さんの話に出てきた、鞠智でどら焼きを始めるきっかけになった方。その方が鞠智へ移ったのを機に、内野さんもここで働き始めた。
「まず、砂糖と卵をすり合わせるところから始めるんですけど。その微妙な量の違いや、混ぜ方で、音が変わってくるんです」
音、ですか?
「生地がいい状態だと、混ぜているとき、ボテボテボテ、ってすごくきれいな音がするんです。いい音がすると、空気をたくさん抱き込んで、それが生地のふわっと感につながって」
気泡の入り具合やツヤを見ながら仕込んだ生地は、寝かせて、焼く直前に固さを最終調整する。季節や湿度によって、水分量は毎日違う。
「10ml、20mlの水で、生地の仕上がりがまったく変わるんです。その見極めには本当に神経を使うんですけど、おもしろくもあって。焼いて、理想どおりに膨らんでいくのを見たら、よし!って」
最後にあんこを包むと、生地はまた柔らかくなっていく。それも想定したうえで、最適な生地を仕込む。
「うちのどら焼き、焼き立てはふかふかなんですけど、お持ち帰り用はしっとりして、どちらも違うおいしさがあるんです。焼きたてを買われた方が後で戻ってみえて、お土産にも買ってくださるときは、本当にうれしくて。心のなかで、『やったー!』って」
新しく製造スタッフとして入る人は、どら焼きだけでなく、お菓子づくり全般を担当する。調理経験がなくても大丈夫ですか。
「もちろん! 私も含めて、未経験から始めた方ばかりです。興味があって、まじめに目の前のお菓子と向き合える方なら、どなたでも」
最後に話を聞いたのは、入社10年目の江藤さん。カフェや和洋菓子舗、ジンジャースタンドまで、シフトによって幅広い接客販売を担当している。
新しく入る人は、まず1か所に固定で入り、慣れてから少しずつ担当範囲を広げていけばいいそう。
もともとは由布院の旅館で働いていた江藤さん。変則的な勤務時間に体が合わず、朝から夕方の時間に働ける職場を探して、鞠智にやってきた。
長く働き続けている理由は、どんなところにあるのだろう。
「由布院は別荘に長く滞在する方もいて、リピーターさんが多いです。長く働いていると、お客さんから『元気にしちょった〜?』って声をかけていただいたり、私も『あそこの紅葉が今きれいですよ』って観光案内したり。そういう、ちょっとした会話が楽しいんです」
テラス席には、犬を連れたお客さんも多い。江藤さんも大の犬好きで、そのお客さんの半分くらいは顔見知りなんだとか。
もうひとつの理由は、鞠智の味。
「私、もともと食べ歩きが大好きなんですよ。そんな自分からみても、鞠智のお菓子はどれもすごくおいしくて」
ただ、味がよくても、接客がよくないとお客さんに残念な思いをさせてしまう。
そうならないよう心を配っているけれど、繁忙期には目の前の仕事に追われ、理想のおもてなしがむずかしいこともあるそう。だからこそ、仲間になってくれる人を探している。
「海外のお客さまも多いし、忙しい現場だとは思います。そのなかでも臨機応変に、『困っているお客さまはいないかな?』と目配り、気配りのできる方が来てくれたらうれしいですね」
多くの人が訪れるぶん、刺激は多い。人と接することが好きな人には、魅力的な環境だと思う。
由布院の住み心地は、どうですか。
「自然が豊かで、空気がおいしい。水道水もおいしいので、お水を買ったことはないですね。あとはやっぱり温泉かな」
「ただ、公共交通機関が少ないので、車の運転はできたほうがいいかも。それから……冬は寒いです(笑)。そのぶん夏は涼しいんですけどね」
取材後、菓子舗のほうへ写真を撮りに行ったら、内野さんがどら焼きの生地を焼いていた。
取材中の笑顔とは一転、真剣な眼差しで生地を流し込んでいく。
時間が許すならぜひ一度、ふかふかのどら焼きと、しっとりのどら焼きを、食べに行ってみてほしいです。
鞠智の店内を歩いて、その空間や味わいを五感で感じて。もしくはお店のインスタグラムやホームページで、世界観に触れてみて。
好きだな、と思ったら、由布院に呼ばれているのかもしれません。
(2023/01/20 取材、2023/11/24 更新 渡邉雅子)