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「緑が一番多いのが今の時期。秋は紅葉で赤く染まって、冬は葉が落ちてモノクロの雪景色に変わる。同じ場所と思えないくらい、ドラマチックに色が変わっていくんです」
「夏はたくさんのお客さまを迎えて、毎日お祭りみたいに働くのが醍醐味。パタっと人がいなくなる冬は、土台づくりの期間です。季節ごとのメリハリは、厳しくもあるけれど豊かでもある。人生を何倍か謳歌できているような気持ちになるんです」
長野県の軽井沢にある、「Sajilo Cafe Linden(サジロカフェ リンデン)」。
ネパール人シェフによる本格的なネパール・インド料理を提供するレストランと、オリジナルブランドのスパイスや雑貨、アパレルなどを扱うショップが併設しています。
今回募集するのは、ここで働くサービススタッフ。お店の土台をしっかり支えてくれる社員のほか、繁忙期に働くアルバイトスタッフも探しています。
ネパール語で「居心地がよい」という意味のSajilo。サービススタッフは、お客さんの居心地を最前線でつくる仕事です。
ここで暮らし、働くなかで、都会にはない生き方や仕事観を見つけることができる環境だと思います。
東京の暑さが本格的になってきた7月下旬。軽井沢で新幹線を降りると、羽織りが必要なほどひんやりした空気にまず驚く。
Sajilo Cafe Lindenは、中軽井沢の複合施設「ハルニレテラス」内にある。軽井沢駅からは、車で10分ほど。
ハルニレテラスに到着すると、避暑地の軽井沢らしく、多くの観光客で賑わっている。
自生していた100本以上のハルニレの木の間を縫うように、清流に沿って建てられたこの施設。自然の風景と馴染んでいて、人が多くても窮屈さは感じない。
清らかな水の流れや木々たちのエネルギーのなかで、季節の移ろいを楽しむことができる。
レストランに雑貨屋さん、お土産屋さん。さまざまなお店を眺めながら歩いていくと、Sajilo Cafe Lindenを見つけた。
風が気持ちいいテラス席で話を聞いたのは、オーナーの川井さん。
「こういうそよ風や、ふとした光に触れると、軽井沢にいられる幸せを感じるんです。10年前にいろんなきっかけやご縁があって、半分軽井沢、半分吉祥寺という生活をしています」
Sajilo Cafe の一号店を、川井さんと夫のニールさんが吉祥寺にオープンしたのが、15年前。
吉祥寺の五日市街道沿いに佇む7坪の店は、今も続く人気店。
「ずっと住宅設計の仕事をしていたんですけど、もっとクリエイティブに、自分の感性を活かしてみたいと思って。飲食業の経験が長かった主人と一緒に、自分たちでお店をつくろうか、って。初めての店舗設計が、自分のお店だったんです」
カフェをイメージしつつ、業態を決めきらずに内装をつくっていたところ、たまたま出会ったのがネパール出身の料理人だった。
「彼のレシピをベースにメニューを考えていったら、本格的なカレー屋になって。ナンを焼くタンドール窯も、偶然中古で見つかったり(笑)。カフェのような空間で、本格的なネパール・インドのスパイス料理を提供するという、お店のベースができあがりました」
「ネパール人って、タンドール窯を神様みたいに扱うんですよ。生活の糧になる大切な道具だから。うちのシェフたちも、仕事をはじめる前に手を合わせています。聖歌のようなものを歌って自分を清めてから一日をスタートする子もいましたね」
その後、西荻窪や軽井沢にも続々とお店をオープン。
今は、カレーをメインに提供するカフェを5店舗のほかに、ホテル、物販の店舗、アーユルヴェーダやアロマのサロンを展開。
「お店の数を増やそうと思ったことは一度もなくて。いつも場所や建物に惹かれてスタートしてしまうんです。場所に呼ばれたら、もう自然にレールが敷かれて、気づいたらまたお店ができちゃった、って感じ」
このSajilo Cafe Lindenのオープンは、2017年。
ショップとカフェが半分ずつのつくりになっていて、オリジナルフードブランド「Ageratum」のスパイスやハーブ、チャイベースなど、ここでしか買えないものも多い。
「このお店は、接客だけではなく梱包の仕事もあります。得意不得意はあるかもしれませんが、つくり手さんの想いやいろんな過程を想像しながら、洋服を着せるように心を込めて、手を動かしてくれる人だとうれしいですね」
1年前には、軽井沢に”HOTEL COLINTHE(ホテル コリント)”もオープン。
森のなかにある築50年の洋館を活かした、6室からなるホテル。部屋のつくりはすべて異なっていて、ヴィンテージの家具や建具を主役に置いている。
希望があれば、ホテルのお客さんの夕食にSajilo Cafeのカレーを提供することもあるそう。
「ホテルって衣食住、トータルのサービスなので、本当に深いと思います。このお店で働く人には、そちらのサービスもたまに体験しながら、いい連携をしていってほしいですね」
次々といろんな挑戦を続けてきた川井さん。これからやりたいことも、まだまだたくさんありそうだ。
「ただ、マンパワーが足りなくて。とくにここの店舗は、毎日お店をまわすことでいっぱいになってしまっています。スタッフにゆとりを生むことで、飲食やサービスへ真髄に深く向き合っていきたいという気持ちもあります」
セクション分けがされていないから、ここでは日常的にカフェとショップの仕事をすることになる。ホテルのサービスのほか、商品開発に携わる余地もあるという。
まずは、このカフェの足場を固めることが一番の目的。
とはいえ、幅広いことに興味を持って、川井さんの進む道を一緒に楽しみながら進んでいける人が合っているのだと思う。
「本当にたまたま呼ばれて、今軽井沢で働いているような感覚なんです。季節を一周して、冬は車がないとダメなんだなとか、ここで暮らす厳しさも身をもって感じました」
そう話すのは、このお店を支えている店長の上原さん。
川井さんとの会話の雰囲気から、お互いへの信頼が伝わってくる。大切な物語を教えてくれるように、丁寧に楽しそうに話す二人といると、あっという間に時間が過ぎていく。
「友人に連れられて、初めて吉祥寺のお店に行ったのは2019年です。古い材木を使った店内がすごく好みで、おいしいカレーが出てきて、ネパール人の方から異国を感じられて。その雰囲気に病みつきになって通っていたんです」
15年働いた喫茶店から、2年前にSajilo Cafeへ。
最初は、アルバイトとして吉祥寺店で働いた。当時は、心身ともにあまり調子がよくなかったという。
「言葉の通じないネパール人のシェフ3、4人と、ずっと一緒に働いて。お国柄なのか、みんなとにかく明るいんですよ。『大丈夫』っていう日本語は使えるので、私がわからないことがあるときや、お客さまがたくさん来て忙しいときも『大丈夫大丈夫』ってリズムよく言うんです」
ネパール人のシェフは、計量をしないのが当たり前。レシピに忠実につくるわけではないのに、どのお店でもおいしいものがきちんとできあがる。
「仕込みで大量の玉ねぎを切るのも、かき混ぜるのも手作業。彼らを見ていると、便利な道具を使わなくても、人間ってちゃんと感覚でわかるんだなって思います。そんな数ヶ月を過ごして、ちょっと閉じていた自分がもとに戻ってきた感じがしましたね」
その後、店長として軽井沢にやってきた上原さん。
原点にあるのは、初めてお店を訪れたときに感じた居心地のよさ。
「料理はもちろん、この空間で過ごす時間がよかったとお客さまに思ってもらいたい。居心地がいい場じゃないと話も弾まないので、すごく大事なことだと思います」
居心地のよさをつくるために、上原さんが心がけていることはあるんですか?
「まず自分が元気でいること。スタッフは、居心地のよさをつくる要素のひとつだから、みんなに健やかでいてほしい」
「あとは、箱が美しいということ。いろんな人が行き交うから乱れるけれど、毎日掃除してリセットして。お客さまが少ない冬の閑散期も、いい気をまわしていくために掃除は欠かせません。カフェの仕事って雑用のオンパレードなんですけど、全部お店を整えることにつながっているんです」
軽井沢という土地やこのお店ならではの空気感に惹かれて、働きたいと思う人は多いかもしれない。
ただ、憧れだけでは続けられない仕事にも感じる。
「素敵に見える場所って、つくるほうは毎日必死なんです。それを見せないのが美しさなんですよね。それをわかったうえで、飛び込んでくれる人がいいですね。悲喜こもごもあっても、気持ちを整えてみんなで働くっていうことを繰り返せるかどうか」
「この仕事って、舞台に立っているようなもの。キラキラしたステージの裏では、バックヤードが一生懸命協力して動いている。忙しいときは戦場ですよ。でもみんなで手を動かせば終わる。そういうものだと思って、前向きにものごとを進めていける感覚があると、来てみてやっぱり違いましたっていうことはないと思います」
チームワークの仕事だから、一人でやろうとしなくていい。
上原さんが、何度かそう言っていたのが印象的だった。
「技術的なこと以上に、気持ちを大事にしたい。スタッフが一つひとつのメニューや商品のストーリーを理解して自分の言葉で話していたら、ぎこちなくてもお客さまには伝わると思います」
「忙しいなかでも心のこもった接客ができると、お店が明るくなって、お客さまも幸せそうに見えるんですよ。足りない部分はお互いがカバーしあって、お店をつくっていけたらと思います」
軽井沢で暮らすこと、言葉の通じない人たちと働くこと、四季のうつろいのなかにあるお店で働くこと。
どれも慣れている人はあまりいないと思うし、飛び込むには勇気がいるはず。だからこそ、ここでの経験は大きな糧になると思います。
この空間に身を置く自分が想像できたなら、お店に呼ばれている証かもしれません。
(2023/7/21取材 増田早紀)