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駅だけど駅じゃない
かっぱのまちの
まちづくり駅長

時間ギリギリになって、駅のホームへ慌てて駆け込む。帰りに友達と自販機でアイスを買って、ベンチで喋りながら電車を待つ。

駅にいると、学生時代の記憶がふと蘇ってくるときがあります。

いろいろな境遇の人が、電車という乗り物に揺られてそれぞれの街へ向かっていく。その出入り口である駅は、さまざまな思いが集まる場でもあると思うのです。

今回の舞台となるのは、福岡・久留米にある田主丸町(たぬしまるまち)の駅。

「かっぱのまち」と言われる田主丸町。昔からかっぱに関する伝承が数多く残っていて、まちの至る所にかっぱの石像があります。

そんなかっぱのまちの駅、田主丸駅にあるカフェ兼物販のお店を運営する人を募集します。

かっぱをモチーフにしたメニューや商品を考えたり、駅を活用したイベントを企画したり。

そしてなにより、駅を利用する人たちに顔を知ってもらい、「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と言えるような関係性をつくることができたら最高です。

経験は問いません。全国各地でまちづくり事業を手掛けているプロと一緒にプロジェクトを進めていくことになるので、まちづくりへの興味と熱意があれば、実践しながら学んでいくことができると思います。

 

田主丸町がある久留米市は、福岡空港から車で50分ほどの場所。

まずは、駅施設の所有者である久留米市の担当の方に会いに、市役所へ向かう。

近づくにつれて、一際大きな建物が見えてきた。あれが久留米市役所のようだ。

駐車場に車を停めて、最上階のカフェレストランスペースへ。商工観光労働部、観光・国際課の松本さんが待っていてくれた。

「わざわざお越しいただきありがとうございます。田主丸には、昔、広報を担当していたときによく取材に行っていて。かっぱの石像を写真に撮ったり、かっぱに関する話を地域の人に聞いたりと、個人的にも身近な場所なんですよ」

かっぱ伝説の舞台は、市内を流れる筑後川。

もともとはアジアの別の国にいたかっぱ。海を渡って日本に流れ着き、球磨川でわるさをしたことで追い出され、筑後川へやってきたといわれている。

「筑後川に住むようになったあとは、一度江戸へ行って。ただ、江戸でもわるさをしたことで追い出されてしまい、久留米に戻ってきて当時の久留米藩の殿様に『筑後川に住まわせてくれ』と頼んだと。そんな伝説が残っているんです」

「田主丸にはあちこちにかっぱの石像とか石碑があって。わたしもかっぱをネタに、広報の記事をつくることもありました。そんな土地なので、久留米の人たちはかっぱへの愛着があるんですよ」

たとえば、田主丸町の酒蔵の近くには、酔っ払ったかっぱの石像がある。身近な存在として、昔からユーモアと親しみをもって愛されてきた。

また地域によっては、かっぱはわるさをするというイメージもあるけれど、久留米ではそのようなイメージを持っている人は少ない。水の神様として、水難から守ってくれるという言い伝えも。

小さい子どもは首に水天宮の瓢箪をつけ、お守りにするという習わしもあるのだとか。

「初めてまちを訪れる人も、歴史とか言い伝えを少しでも知ってもらうと、すごく面白いと思うんです。田主丸は久留米のなかでもとくに神社が多くて、今でも古い神社をみなさん大事にしている。見えないものを大切に扱う意思と力が強いんじゃないかな」

今回募集する田主丸駅は、30年ほど前の改装を経て、かっぱをモチーフにしたデザインになっている。

カフェと、かっぱのグッズなどの物販スペースが隣接したつくり。市としては、ここを地域の憩いの場かつ、観光のシンボルとしてリニューアルしていきたいと考えているそう。

そこで市の公募で選定されたのが、全国各地で古民家などを活用したまちづくり事業をおこなっている株式会社つぎと九州。

「田主丸は一年中フルーツがとれて、耳納(みのう)連山も一望できる。こんな環境はなかなかないと思っていて。かっぱはもちろん、フルーツや自然の豊かさもアピールできたらいいなと思っています」

かっぱもフルーツも自然も、今はそれぞれがバラバラにPRされているような状態。

それらをつなぎあわせて、田主丸の魅力としてアピールすることができれば、訪れる人も増えるはず。田主丸にはそのポテンシャルは十分にある、と松本さん。

今回募集する人は、駅長として施設の運営に携わることになる。

たとえば、地元の農家さんと連携して、駅で新鮮なフルーツを生産地価格で販売したり、マルシェを企画したり。

ほかにも、まちの至る所にあるかっぱの石像を記したマップに、フルーツ農家さんや酒蔵、ワイナリーといった地域のスポットも追記すれば、観光客もまちを巡りやすくなるはず。

かっぱを軸に、まちのたのしみをつないでいくようなイメージだ。

これまでは十数年、第三セクターが運営してきたかっぱ駅。行政としても、今回のリニューアルはとても大きなチャレンジだと思う。

「個人的な感覚なんですが、歴史とか伝統って、何もしなければそこで終わってしまう。誰かが伝え続けることで残っていくと思うんです」

「立ち止まるのは簡単やけど、誰も伝える人がいなくなったら、今まで守ってきたかっぱの伝説も消えてなくなってしまうかもしれない。それなら倍の力で押し返していくために、わたしたちも変わっていかないとって思うんです」

どんな人が駅長になってくれるといいでしょう。

「その人自身が田主丸をたのしんでくれることが大切だと思います。かっぱの伝説とか、掘り下げればいろんな話が出てきますし。その上で、駅を利用する人にも楽しんでもらえる場づくりをしてもらえたらうれしいですね。駅だけど駅だけじゃない場所、みたいになればいいなと思っています」

「田主丸っていう地名も、由来は『たのしく生きる』で『たぬしまる』なんです。たのしくいきる、たのしくうまる、たぬしまる。一緒にたのしみながら田主丸を盛り上げていきたいですね」

 

市役所で一通り話を聞いたのち、車に乗せてもらい実際に田主丸駅へ。久留米の中心地からは車で40分ほど。

そろそろ田主丸町に入ったかな? というところで、歩道に例のものが。

あ、かっぱだ!

慌ててシャッターを切る。しっかりかっぱを捉えることができた。

しかも一つではなく、歩道に点々といくつもの石像がある。どれもかわいらしい顔。

本当に石像がたくさんあるんだな、と歩道を眺めながら進んでいくうちに、田主丸駅に到着。

遠くから見てもわかるくらい、駅舎にかっぱの顔がどんと構えている。

中に入ってみると、コーヒーなどのドリンクと軽食を販売するカフェになっている。

かっぱ伝説が描かれたボードや、かっぱグッズがたくさん並んでいて、駅の売店というよりは観光地のお土産屋さんのような感じ。

雰囲気はいいものの、営業中のカフェにお客さんの姿はない。

「ちょっともったいない感じがしますよね。もう少し入りやすい雰囲気にするとか、できることはいろいろあると思っているんです」

そう話すのは、株式会社つぎと九州の西田さん。今回の田主丸駅のプロジェクトを担当している方だ。

「調べていくと、利用者は決して多くないようで。まずはそこをどうしていくのか考えたいですね。たとえば、地域に製氷会社があるので、夏にはかき氷をフレンチのシェフとコラボして出してみるとか」

「あとは地元の野菜を使ったモーニングを始めたら、近くのおじいちゃんおばあちゃんが食べに来てくれるかもしれない。ターゲット層に合わせて田主丸の資源に手を加えて、高すぎず安すぎない価格で提供していけば、少しずつ人が通ってくれるようになると思うんです」

マルシェを企画したり、新しいメニューや商品開発をしたり。場所はすでにあるので、考えたいのはソフトの部分。当たるかどうかはともかく、まずはどんどん企画を立てて実行していきたい。

がんばりどころはいっぱいあるんですよね、と西田さん。新しく入る人も、積極的にアイデアを出してほしいそう。

もっとも身近な相談相手である西田さんに加えて、近隣のうきは市や八女市にも、古民家宿の開発・運営やイベント企画などの経験を積んできたメンバーがいるつぎと九州。

場の運営が初めてでも、いろいろなアドバイスはもらいやすい環境だと思う。

「地域の人とのコミュニケーションも大事にしてほしいです。高校生に『いってらっしゃーい』って、元気よく言ってあげるとかね。いつもいるよねあの人、みたいな存在になれたらいいと思うんです。そうすれば、若い子たちも利用しやすくなる」

「いきなり観光客を増やすのはむずかしいと思っていて。まずは地元の人に知ってもらって、実際に来てもらう。駅を使う学生はもちろん、おじいちゃんおばあちゃんでもいいし、ママさんたちでもいい。賑わいが生まれれば、観光客も入ってきやすくなると思うんです」

じつはかっぱ駅は、2階建て。今は1階しか使えていないので、2階で本を読めるようにしたいと考えているところ。

さらに机と椅子を用意して、学生たちが勉強できるようなスペースをつくれば、滞在してくれる子たちもいるはず。近くにはファミレスのような場所もないので、需要はありそうだ。

「『昔さあ、かっぱ駅の2階で勉強したよねー』って、将来高校生たちが思い出してくれる場所になったら最高ですよね。そうなったらいいなぁ。フロート飲みながらお母さんが迎えにきてくれるまであそこに座ったりしてね」

「モーニングを食べにきたおじいさんおばあさんたちが、学校に行く高校生たちを見守って、いってらっしゃい、とか言ってくれたりしてね。そんな声が自然に行き交う駅って素敵だと思う。そんな場所にしたいです」

 

まだ走り出そうとしている段階のプロジェクト。正直、このかっぱ駅がどのように変わっていくのか。どんな人が集うのか。見えないところも多いと思います。

でも、最後に西田さんが語ってくれたような場づくりに携われるとしたら、またとない機会だと思う。この駅があるから帰ってきましたとか、気になってつい途中下車しちゃって、とか。

いろんなストーリーが生まれる場所になっていくんじゃないでしょうか。

まちづくりのプロと一緒に、かっぱのまちでチャレンジしてみませんか?

(2023/11/22 取材 稲本琢仙)

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