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真っ白なキャンバスに絵を描く瞬間って、わくわくします。
何色の絵の具を使うのか、どんな太さの筆を使うか。完成する絵は自分次第。
今回紹介する仕事も、そんな感覚に近い面白みがあると思います。
和歌山県広川町(ひろがわちょう)。観光名所である白浜温泉のへ向かう途中にあるこのまちは、「観光客が素通りしていくまち」だそう。
一方で、夏になるとダムの周りを無数の蛍が乱舞する景色が見られたり、奥行き150mのビーチが続く遠浅の海があったり。まち全体で防災に取り組むなど、活かしきれていないだけで、たくさんの魅力があります。
そんな広川町で、昨年立ち上がったのが株式会社光志。
全国で地域に密着したまちづくりを手がけているプロのサポートを受けながら、町内の古民家を改修した宿を今年オープンする予定です。
今回は、光志で一緒に宿を運営するマネジメントスタッフを募集します。
主な仕事は、フロント業務やスタッフのシフト管理、地域を巻き込んだイベントの企画など。
未経験でも大丈夫。特別なスキルもいりません。観光が確立していないまちだからこそ、自分たちで自由に試せる環境だと思います。
新大阪駅から特急くろしお19号に乗って約1時間半。
紀伊半島の西海岸を下りながら湯浅駅へ。
駅から車で数分走ると、新しく宿として生まれ変わる予定の古民家「旧戸田家住宅」が見えてきた。
建物のすぐそばでは、大工さんが木材を削る音が聞こえてきたりと、まさに改修の真最中。
「今回はまちを挙げての一大プロジェクト。地域の賑わいの拠点となるような宿にしていきたいと思っています」
そう話すのは、株式会社つぎとの遠藤さん。
つぎとは、全国各地で古民家を活用した宿やレストランなどをつくり、まちづくり事業を手がけている会社。今回は光志のサポート役として、一緒に宿の立ち上げから運営まで伴走している。
さっそく、改修中の宿を案内してもらう。
戸をくぐるとまず目に入るのが、煉瓦の床が広がる縦長の部屋。
「ここはもともと、漁業に使う網をつくる工場だったんですよ」
古くから漁業が盛んだった広川町。戸田家は、そんな広川町で網屋として製網業を営みながら、網元として多くの漁師を雇って漁業で栄えた家だそう。
大正時代後期に建てられたこの建物には、広々とした作業場や、立派な灯籠が並んだ中庭、蔵などがあり、当時の繁栄ぶりが感じられる。
「工場があった場所は、フロントとレストランになります。レストランでは、地元の海鮮や名産の有田みかんなどを使ったフランス料理を出す予定です」
ほかにも、建物の2階部分はカフェ、工場の南側の座敷は地域の交流やイベントのためのスペースとして活用される。
続いて案内してもらったのが、客室となる蔵の部分。
「客室は、蔵や座敷の部屋などを改装して4部屋つくります。網屋にちなんで、蔵の客室にはハンモックを置こうと思っているんです」
宿やレストランの名前、客室に置く家具など、今は宿の詳細を決めている最中。オープンしたら、どんな宿になるんだろう。
「ただ泊まるだけではなくて、まちの歴史や魅力を知ることができる宿にしたいと思っています。ここを拠点に、まちの賑わいが広がっていく。そんな場所になる予定です」と、遠藤さん。
宿のスペースを使った観光客向けのワークショップや、地域の人が楽しめるイベントなど。宿泊業だけにとどまらず、地域の賑わいをつくるパイオニアを目指していく。
「地元の海の幸が食べられる浜焼きをしてもいいし、蛍の時期には宿からバスを出してツアーをしてもいい。新しく来る方のアイディアも交えながら、試行錯誤していきたいと思っています」
新しく入る人は、オープン前から参加することになる。入社したら、まずはどんな仕事があるんでしょう。
「はじめは開業の準備を一緒にやってもらいます。備品を搬入するところから、接客の研修を受けてもらったり、町の歴史とか文化を学んでもらったり。あとは、施設の運営方法を一緒につくっていってほしくて」
オープン後は、接客をはじめ、予約や売り上げ、スタッフのシフト管理などが日常の業務になる。掃除は地元の人をスタッフとして雇う予定なので、人手が足りない時期以外は掃除をすることはあまりないそう。
遠藤さんは、どんな人に来てほしいですか?
「新しく来てくださる方は、広川町の顔になっていくと思うんです。全国から訪れたお客さまとつながってお友だちになったり、一緒になにかこの宿で新しいことをはじめたり。そういう輪を広げてくれるような方に来てほしいです」
見学を終えて、町が運営する古民家を使ったコワーキングスペースに移動すると、光志の代表、佐原さんが迎えてくれた。
「僕も宿の運営は素人だから、わからんことも多いんよ。だから、新しく来る人と話し合いながら、一緒につくっていけたらいいと思ってる」
佐原さんは、地元の建設会社の代表をしている方。旧戸田家の運営のために、昨年光志を立ち上げた。
まったく経験がないのに、宿泊業をはじめるというのは大きな挑戦。どうしてチャレンジしようと思ったんですか?
「面白そうやなって思って。」
「広川町って、経由地というか、観光地に向かうために素通りしていく場所なんよ」
「けれど、夏にはたくさん蛍が飛ぶし、海も桜もある。アピールするのが下手なんよね。どうせみんな観光地に行っちゃうって思って諦めてる。でも、新しく宿ができて、いろんな人が集まったら賑やかで面白いやろ」
もともとこのプロジェクトが持ち上がる前から、町内にサウナやキャンプ場など、人が集まれる場所をつくろうとしていたそう。そんなときに、新しくできる宿の話を聞いて、運営者として名乗りをあげた。
「誰かがなんかやってるのが好きなんよ。たとえばこの宿も、別に自分が表に立ってやりたいわけじゃない」
「自分が場所をつくって、そこで誰かが宿を盛り上げてくれるとか、イベントをやって人が集まるとか。そういうのを見るのが一番いい」
つぎとのサポートを受けながら、宿の運営は佐原さんともう一人のマネジメントスタッフ、新しく入る人の3人が中心となって決めていくことになる。佐原さんが上司なら、裁量を持ってやりたいことに挑戦させてもらえそう。
「いろんな意見をだしてくれたらええと思う。とくに最初は限られた人と時間の中でせなあかんから、現実的にできることと、できないことがあるかもしれんけど、なるべく実行できるようにしたいと思うし、面白そうなことは、役場とかも一緒に参加してもらってどんどん大きくしていきたい」
今回の仕事をする上で、佐原さんが最もこだわっているのは、自分たち自身が「楽しむ」ということ。
「自分とマネジメントスタッフ2人の全員がやりたいと思えることをしたいんよ。1人でも疑問に思うことがあるんだったら、それを解決してからじゃないと、実行には移せへんと思ってる」
「イベントでも接客でも、やってる側の人間が楽しんでなかったら、お客さんも楽しめんでしょ」
人数が少ないからこそ、一人ひとりの意見や気持ちを平等に扱う。
意見をすり合わせるのは大変かもしれないけれど、宿で企画するイベント一つひとつに納得感を持って臨める環境だと思う。
「ここはそんな都会じゃないし、そこらへんのおばちゃんが普通に話しかけてくるようなとこやから、ゆるい気持ちで楽しいことを想像しながら来てもらったらええ。僕らもそれを現実的にできるように手伝うし、一緒にいい場所をつくっていこう」
支配人候補者(マネジメントスタッフ)の宇田さんにも話を聞く。新しく入る人は宇田さんと二人三脚で宿を運営していく。
「地域おこし協力隊として2年半前に広川町に来ました」
もともとは、地元の和歌山市の中学校で国語の講師をしていた宇田さん。空き家の活用に興味があり、広川町で古民家を活用したまちづくりが始まると聞いて移住してきた。
宇田さんは、地域おこし協力隊と並行してまちづくり会社「ENJI」に所属予定。地域おこし協力隊卒業後も、ENJIから光志に出向するかたちで働く予定だそう。
「この2年間で地元の人やまちのことがわかってきました。広川町や戸田家の歴史も学んでいて。それを活かした接客や、イベントの企画をすることが、自分がマネジメントスタッフをする意味なのかなと思っています」
「宇田さんは、まちの人も知らんようなことまで知っとるんよ。すごい勉強熱心だし行動力がある」、と隣に座っていた代表の佐原さん。
宇田さんは昨年、戸田家の歴史を探るために九州の五島列島まで足を運んだそう。
「戸田家の初代が、網屋として五島列島に移住したという話があって。実際に島に行って話を聞いたら、広川町にルーツを持っている人がいたんですよ」
「広川町ってあんまり注目されていないけれど、千葉の銚子とか北海道にまで漁を教えにいっていた歴史もあるんです。いろんな地域のルーツが広川町にあることを、この宿で伝えられたら面白いなって思っています」
歴史を調べるために出張したり、いろんな人に会って話を聞いたり。宇田さんは、好奇心と行動力のある人。広川のことにも詳しいから、先輩移住者として、新しく入る人にとっても頼りになると思う。
いろんな地域が観光やまちおこしに取り組んでいるなかで、広川町に移住して宿をやる理由ってなんだろう。
「広川町のいいところは、自由にいろんなことをやっても、だめって言う人がいないんです。観光も確立しているわけじゃないから、いろんなことに挑戦しやすい。自分のやりたいことをどんどん試せる地域だと思うんです」
そう言って、地域の人たちと運営しているまちのチャレンジショップの写真を見せてくれた。
手づくりの雑貨がたくさんあって、賑やかで楽しそうな空間。
「ここはもともと、観光案内所があった場所なんです。新しい観光案内所ができたあと、建物がほったらかしになっていて。もったいないから何かに活用したいなと思っていたら、地域の人が『ハンドメイドのグッズを売りたい』って声をかけてくれたんです」
「お店を始めたら、店番してくれる人が出てきたり、『ここに置いたらいいんじゃない?』って、家から椅子を持ってくる人がいたり」
その活動が町長の目に留まり、まちの広報でもたびたび取り上げられているそう。
「最初になにかをやり出す人はいないけど、誰かがきっかけをつくってそれが回りだしたら『いいやん、いいやん』って面白がってくれる人たちが多いんです」
「正直、宿の中だけでできることって限られていて。でも、そこで地域の人やお客さんと関係性をつくることができたら、たとえば宿のまわりに新しいお店を試しにつくってみようとか。異業種の人たちをつなげて、新しいサービスを生み出すとか。人のつながりで、いい化学反応が起きるかもしれないし、自分のやりたいことも試せる場所だと思います」
宿を中心に、広川の賑わいの最初の一歩をつくっていく。
通り過ぎるまちから、目的地になるまちへ。
まずは3人で、はじめてみませんか?
(高井瞳)