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大正7年から続く
プライスレスな仕事

世の中には、お金に換えるのがむずかしいものがある。

たとえば、大切な人からもらった時計や、親の形見の手鏡など。

ほかの人には同じように見えていても、自分にとってはかけがえのないもの。扱うには覚悟が必要なときもある一方で、支えになることもあると思います。

今回は、その想いを意識しながら働く仕事です。

大正7年創業の神戸珠数(かんべじゅず)店。

製造卸として、ものづくりから販路開拓まで、一貫して自分たちで取り組んできました。

数珠は、もともと念仏の回数を数えるために、お坊さんが使っていた道具。

法事の際に使うこともあるし、お祈りをするときに使う人もいると思います。

今回は、お客さんの想いに寄り添う、営業職の募集です。

 

仏壇のロウソクに見立てたという説もある京都タワー。

駅の出口は、修学旅行生やインバウンドの観光客でいっぱい。みんなタワーを見ずに、お寺や神社へ向かうバスに乗ろうとしている。

すばやく写真を撮って、タワーの北側へ歩く。

近くには東本願寺があり、このあたりは門前町。仏壇・仏具屋さんも多い。

お寺の目の前の信号を渡ると、神戸珠数店を発見した。

中に入ると、左側で職人さんたちが作業をしている。正面の奥には、たくさんの数珠が飾ってあるショールームが。

お坊さんが使うような本式数珠と、一般の人が宗派にこだわらず利用できる略式数珠、両方置いてあるようだ。

神戸珠数のみなさんが迎えてくれて、ショールームで話を聞く。

「創業以来、ずっとこの場所で商売させていただいていまして。主に仏壇・仏具店さま、寺院さまを相手に数珠を卸してきました」

そう話すのは、6代目代表の神戸(かんべ)さん。

「小さいころは、職人さんも家族みたいな環境で育って。職人さんの横で遊んで玉を通していました。数珠屋になろうとは考えていなかったんですけど、18歳のときに父親が亡くなって」

「この先どうしようかって考えたときに、数珠屋をやるイメージが浮かんできたんです」

大学を卒業後、そのまま神戸珠数店に就職。

研修の一環で、日蓮宗の総本山がある山梨・身延山に行ったときの話をしてくれた。

「お堂で信者さんが、朝のお勤めをしている姿を目の当たりにして」

「数珠をこすり合わせながら、一心不乱にお祈りをされている。その姿を見たときに、やっぱり中途半端なもんをつくったらあかんなって思いました。自分たちは、特別なもんをつくってるんやって」

5年前に代表に就任した神戸さん。

代表になってから、取り組んできたことなどはありますか?

「神戸珠数店というタグを商品につけて表に出すことは、私が代表になってからはじめたことでして」

「それまでは、つくり手の名前を前に出すことは、ご法度のような雰囲気だったんです。でも、職人さんが丁寧につくったものを、もっと知ってもらいたいと思って」

はじめは批判の声もあったけれど、続けるうちに受け入れてもらえるようになった。いまでは神戸珠数店のタグが入った商品を扱いたい、と言ってくれる卸先も増えてきたという。

数珠に使われる素材は、天然石、木、ガラスなどさまざま。それらの素材は専門業者によって玉の形に加工され、神戸珠数店の職人が一玉ずつ心を込めて数珠の形に仕上げている。

また独自の商品開発も、1年に1度のペースでおこなっている。

たとえば、ウィスキーの樽でつくられた数珠。

「私がお酒好きっていうところから、ウィスキー樽を使って数珠をつくったら面白いんじゃないかと思ったんですね」

建て直す際に出てくるお寺の本堂の柱を、数珠にしたこともある神戸珠数店。

「先祖代々から続く、想いの染み込んだ柱を数珠にする。同じものができることは二度とないので、すごく重宝していただいて。関わる人の想いを形にする仕事だなって、常々思っています」

たまたまウィスキーの樽をつくっている社長さんと出会う機会があり、使用済みの樽を卸してくれることに。

樽の素材は、森の王と呼ばれるホワイトオーク。50年以上使用されてきたもので、力強い独特の風合いが特徴。また、数珠の房には、樽から染料を抽出した草木染めの糸を使用。少し茶色がかったスモーキーな色味に。

捨てられるはずだったものを使用し、木と職人の想いも引き継いだ。

ほかの商品では、天然の山桜に藍染を施した「藍珠」や、世界遺産である熊野の森から届くヒノキと草木染めの糸を用いた「ibuki」など。

数珠は、祈りのために使うもの。ユニークな商品で終わらせるのではなく、ストーリーのあるものづくりを心がけてきた。

最近では、ビームスジャパンや外資系ホテルの売店での取り扱いが決まっている商品もあるのだとか。

タグをつけたり、特徴的な商品をつくったり。ほかにも、BtoB用のオンラインサイト制作に加え、自社のカタログを新たにつくるなど、対外的な発信と社内の環境を整備してきた。

 

今回募集するのは、営業職。

新規営業で顧客を開拓していくというよりも、長年お付き合いのあるお客さんのところへ商品を卸していく役割になる。

具体的な仕事内容について、営業の岸本さんに話を聞く。

新しく入る人の上司になる方だ。

「僕が入社したときは、自社カタログもなかったんですよ。代表がカタログをつくってくれたおかげで、お客さまの店頭に在庫がなくても、カタログを通して、エンドユーザーさんにうちの商品を紹介してもらえるようになりました」

「ショールームを見ていただいて分かるように、うちの強みのひとつは商品数ですね。これだけの商品が揃ってるところって、ほかにはなくて。あとは、決まったものを売るんじゃなくて、営業側でも玉の組み合わせなどは自由に考えているんです」

数珠は大きく分けて房、紐、玉で構成されている。玉は、房とつながる親玉、数珠の大部分を占める主玉、ちょっと小さい天玉の3種類が一般的。

取引先の地域や人柄などをイメージして色味を変えたり、ちょっと試してみたい組み合わせを加えてみたり。

「どう提案するのか考えながら仕事をするんですが、本当に面白くて」

競合他社がいる場合、どの部分で神戸珠数店を頼ってくれているのか。売れている価格帯や流行など、業界全体の動向もチェック。

「あとは、コミュニケーションが重要です。このお仕事に関しては、数字ももちろん大切なんですけど、それ以上に人と人とのつながりが大事になってくるので」

そう言って、ある出来事を話してくれた。

「数年前に、お客さまからお預かりした修理品を修理先で紛失してしまって」

「修理品って、うちのなかでは最も重要度が高い仕事なんです。毎日のように使われている方にとっては、ほんとうに大切で想いが込もっているもの。素材が高い、安いとかじゃない、プライスレスなものなんです」

一つひとつが、かけがえのないもの。

「使っている方が仏壇店さんを信頼して預けて、さらにその仏壇店さんがうちのことを信頼して預けてもらった。それを裏切る形になってしまいました」

そのあとはどうされたんですか?

「神戸社長とともにお詫びをしに行って。同じものはご用意できないので、できるだけ近い数珠をお渡しできるようにほうぼう探し回って、お客さまに選んでもらいました」

「そのあとも、その仏具店さんとは取引をさせてもらっています。『岸本さんが真摯に対応してくれたから今も取引してるけど、別の方だったら取引を切ってたと思う』って言われて。当時は申し訳なさと、どうにかしなきゃいけない気持ちで大変だったけど、そういうふうに思ってもらえて、うれしかったですね」

たいへんな出来事があっても取引を続ける決断をしてもらえたのは、岸本さんが卸先と日々丁寧にコミュニケーションをとり、信頼を積み重ねてきたからこそ。

「うちは基本的に、一連からでもお仕事させてもらっています。極端な話、ご成約につながるまで、何回も資料やお見積もりを出し直すこともありますね」

「細かい仕事に真摯に向き合っていくと、大きな発注をするときにお声がかかったり。本来であれば、相見積もりするところを、『あなたのところに全部任せるからいいよ』と言ってもらえることもあって」

急ぎの仕事や複雑な仕事にもきちんと対応しているからこそ、大きな仕事のときに依頼や相談をくれる。働く人にとっても、やりがいを感じられると思う。

 

最後に話を聞いたのは、内職管理の佐々木さん。入社して14年目、営業で入る人も関わることになる方。

「営業さんが受注してきた商品を、きちんと納期までに届けられるよう職人さんに段取りをつけて、仕上がったものを発送するところまで担当しています」

「職人さんのなかには、自宅で数珠をつくる主婦の方もいらっしゃって。『子どもが熱を出したから、仕事が途中だけど迎えに行かなきゃいけない』とか、突然のこともよくあるんです」

ただ、納期は遵守しなければいけない。

急いで職人さんのもとに駆けつけて、数珠を回収。ほかの職人さんに連絡して、なんとか期日までに対応できないかお願いすることもある。

そのため、同じ期間でどれくらい数珠をつくれるか。職人さんのスキルやスピード、現状の仕事量なども常に把握している必要があるという。

「ときには、無理を言ってやっていただかないと間に合わない仕事もあります。そのとき、どれだけ職人さんとコミュニケーションがとれていたか、分かるんですよね」

「突然のことにも、きちっと対応したときには職人さんも喜んでくださって。日ごろのコミュニケーションと気配り、それを大事にしてるから信頼関係が築けているのかなって思っています」

 

お話を聞いたみなさんは、一貫して、関わる人の想いを大切にしているのが印象的でした。

卸先、その先にいるお客さん、素材を提供してくれる関連業者の方。一緒に働く職人やスタッフ。

関わる人、一人ひとりの想いを大切にしているからこそ、老舗としてここまで続いてきたのだと思います。

プライスレスな瞬間に出会ってみたい。そんな人に合っている仕事だと思いました。

(2024/02/20 取材 杉本丞)

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