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地味にコツコツ
うまれる凸凹
気づけば浮き出る仕事の誇り

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

タイトルがきらりと光る本。ギフトカードに刻まれた、一際存在感のある文字。

目につくとなんとなく手に取り、指でなぞりたくなってしまいます。

今回紹介するのは、そんな文字や絵にさりげない存在感を持たせる人たちです。

有限会社真美堂手塚箔押所(しんびどうてづかはくおしじょ)は、本や紙製品などへの箔押しや点字印刷を手がけている会社です。

「箔押し」とは、熱と圧力で金・銀などの箔を紙に転写する技術のこと。本の表紙やギフトカードに多く用いられる箔押しは、文字や絵をキラキラと目立たせ、高級感を持たせます。

今回募集するのは、そんな美しい箔押製品をつくり上げる職人。

「職人」と言われると、長年の経験が物を言う険しい道と思うかもしれません。けれど、ものづくりへの真っ直ぐな姿勢で経験を積めば誰でもできるようになるので、未経験の人でも大丈夫。

普段は箔押機を使った地道な作業が中心ですが、いずれは箔押しを広めるための新たな商品開発や、SNSでの広報なども担っていってほしいそう。

黙々と作業するのが好きな方、小さな会社で新しいことにチャレンジしてみたい方は、ぜひ続きを読んでみてください。

 

東京メトロの神楽坂駅から、歩くこと約5分。真美堂手塚箔押所のそばまでくると、大量の紙を載せたフォークリフトが通り過ぎていった。

あたりを見回すと「印刷」や「製本所」といった看板が目につく。

このあたりは昔から出版社や印刷会社などがあった。製版や製本などの関連した会社も集まっており、印刷の街となっている。

「こんにちは」と戸を開けると、迎えてくれたのは代表の手塚博雄さん。

最初の印象はとても落ち着いた方。工場の作業を止めて話をしてくれた。

「50年ほど前まで、この辺りは10軒に1軒は製本印刷の会社でした。当時は印刷する音や紙を折るカタカタという音が夜遅くまで聞こえていましたよ。今残っている会社はほんの一部なので、少し寂しいですね」

真美堂手塚箔押所は博雄さんのお父さんが創業した。お父さんが亡くなるとお母さんが2代目となり、その後出版社で編集の仕事をしていた博雄さんが跡を継いだ。

創業当初は、カメラの革やビニール製のケースに商品名を箔押しすることが中心だったが、現在は書籍のブックカバーへの箔押しが事業の7割以上を占めている。

「箔押しって、ほとんどの人が知らない仕事なんですよね。自分としては好きな仕事ではなかったんです。版とフィルムのような箔を重ねて、転写する紙を何千枚とずっと出し入れ。日々の99%はこの作業を淡々と繰り返していきます。地味ですね(笑)」

「つまらないといえばつまらない仕事かもしれません。でもこれまで何十年もやってきて、手間のかかる難しい紙に、うまく箔押しできたときは今でも本当にうれしいですね」

難しい紙とは、どんなものなんでしょう。

「たとえば、でこぼこしていて厚さに違いのある紙は機械にセットするのが大変で。薄い部分に転写させようとすると、厚い部分には圧がかかり過ぎちゃう」

押しすぎると箔のツヤがなくなったり、文字がまだらになったりする。単純作業のなかにも、一枚一枚への気配りは忘れない。

たとえば、紙によっては蒸着した箔が文字の溝に余分に残ってしまうこともある。そういうときは粘着クリーナーをコロコロ転がして一枚ずつ表面を整える。その作業には、箔押しの2、3倍時間がかかってしまうこともある。

「でも、そうやって丁寧に対応することがお客様に喜ばれているんだろうなと思っています」

真美堂手塚箔押所は箔押し技術を活かして、1999年から点字の印刷もはじめた。

「これは他の会社ではなかなかできないかな…」と言いながら博雄さんが持ってきてくれた一冊の本。真美堂手塚箔押所が表紙のデザインについて相談を受けたそうで、カバーのタイトルに点字がついている。

点字印刷は、凸と凹の面がある二つの版の間に紙を挟んで印刷する。紙を無理に盛り上げることになるため、紙が裂けてしまわないように注意しなければいけない。

点字の部分が裂けてしまうと、商品としても扱えない。版の高さや凹凸面の組み合わせを考えながら印刷する技術が求められる。

「点字印刷を入れた後に別の工程で圧が加わると、点字が潰れてしまう可能性があったので、最後の仕上げで点字を入れました」

最後の仕上げとなると失敗はなおさらできない。精度の高い技術が求められた。

点字印刷をしていると、視覚に障がいがある方のほとんどが先天的なものではないという話を聞いた。目の病気や事故によって後から失明した方が多く、失明後の点字習得が難しい。

「点字を一から覚えるのは大変だから、知っている文字が浮き出ていれば指でなぞって情報を得られるんじゃないかと思って」

そこで2015年からつくっているのが、数字や文字が浮き出ている「バリアフリーカレンダー」。

視覚に障がいのある方だけでなく、誰にでも使ってもらえるように。デザイナーと一緒につくりあげた。

指で読むことのできる実用性と見た目の美しさが評価され、2020年には「日本文具大賞」のデザイン部門優秀賞も受賞。

「このカレンダーの作業は、ほんっとに大変(笑)。すでに印刷されているところに版を合わせて、文字や数字を浮き出させないといけないから、少しのずれも許されないんです」

「それに紙は生き物のようなもので、気温や湿度に影響されてミクロン単位で紙が伸びてしまうこともあります。だから当然不良もかなり出るし、手間や時間もかかりますね」

販売からすでに6年目を迎えたカレンダーから、2021年、新たな道が開く。

「バリアフリーカレンダー」を知ったJR東日本から、「3月18日の『点字ブロックの日』に合わせて、指で読む文字や点字印刷でポスターを製作してほしい」との依頼があった。

一見ただの白色に見えるポスターだけど、近寄っていくと文字が見えてくる。

2021年3月にJR高田馬場駅に掲示。テレビや新聞などのメディアからの反響も大きかった。翌年の3月にも、引き続き真美堂手塚箔押所の点字ポスターがJR高田馬場駅に貼られることになった。

「実際にポスターを触った視覚に障がいのある方が、『初めてJRのロゴがわかって、電車に乗るのがより楽しくなった』ってSNSに投稿してくださったんですよ。ほんの一部でも社会に貢献できて、誇りに思える会社になってきたかなと感じられるときが、すごくうれしいですね」

コロナ禍の時期に影響を受けた同業者が辞めたり、読書への関心が再び高まって本の需要が伸びたりしていることで、真美堂手塚箔押所への依頼は増えている。

「箔押しって自分で温度や圧を調整しながらやるから、技術がないとできない世界。ときにはどんなに工夫しても納得のいく仕上がりにならないこともあります」

「それだけに根気と集中力のいる仕事ですが、探究心を忘れずにしっかりと目の前の物事に向き合ってもらえたら、きっと良い職人になれると思います。これから入る方には、普段の作業をやってもらいながら、新しい箔押し製品をつくったり、多くの人に箔押しを知ってもらったり。事業を支える工夫も一緒に考えていきたいですね」

 

次に話を聞いたのは、4代目となる予定の博雄さんの息子、隆継さん。

「小さいときに、箔押しの部品を父が家に持って帰ってきて、家族みんなで掃除させられたことがありました。あれは嫌でしたね(笑)。正直、箔押しを自分の仕事にしてみたいと思っていたわけじゃなくて」

どうして、真美堂手塚箔押所で働くことになったんですか?

「バンド活動に熱中して、遊び呆けて大学辞めちゃったんです。それで父親に『とりあえず働かしてくれ!お願いします!』って頼んだのがきっかけです」

隆継さんが入社したときは、ちょうど「バリアフリーカレンダー」をつくり始めたころ。真美堂手塚箔押所で働きながら、週2、3日ほどはカレンダーづくりでつながりのあった視覚障がい関連の本の出版社にも通った。

「出版社は10人ちょっとの小さい会社でしたが、約半数は視覚障がいのある方でした。それまでそういった方との関わりがなかったので、視覚障がいがどういったものなのかという理解につながったし、一緒に関わった経験をしっかりと還元して、真美堂にしかできない製品づくりをしていきたいと思いましたね」

隆継さんは視覚障がい者の同僚から日々意見を集め、バリアフリーカレンダーの製作に活かしていった。販売するときは、視覚障がいのある方と関わった経験から説得力のある説明ができたという。

「そういえば、日本仕事百貨さんのウェブサイトをちょっと拝見したんですけれど…」と言って、隆継さんがこんなものを見せてくれた。

これは、『生きるように働く』の表紙の版!

日本仕事百貨代表のナカムラケンタが書いた本ですが、箔押しを担当していただいていたんですね。

同席していたナカムラも知らなかったようで、驚きと同時にとてもうれしそう。

「本づくり」と聞くと、作家や出版社、印刷会社などは思い浮かぶけど、その奥にたくさんの人たちが関わって、1冊の本となる。

「本のカバーはいつも表向きで顔になる。一番大事なところだから、いいものに仕上げたいって思いながらつくっていますね」

隆継さんは数年前から本のカバーをつくっている作業風景の動画や、箔押し機や箔について写真と合わせた説明などをSNSで発信し始めた。

「SNSを始めたことで箔押しを担当した本の出版社さんやデザイナーさん、作家さんとの新しいつながりができて、自分たちの仕事に対して反応を知ることができるんです。それは純粋にうれしいですね」

「1冊の本にはさまざまな工程のプロが携わっていますが、直接関わる機会は多くありません。だからこそSNSを通してこうしたプロセスを見てもらうことが、より良い本づくりに活かされたら、と思っていて。これからも発信をしていきたいです」

たとえばすでに持っている本が箔押しされる様子を動画で見たら、その本にさらに愛着を持つかもしれない。初めて見る本でも、今度本屋さんに行って探してみようと思うきっかけになるかもしれない。

お話を聞いている側で、従業員の一人、隆継さんの叔父さんが黙々と次の仕事に向けての準備をしていた。途中でニコニコしながら、会話にも参加していただいた。

今、真美堂手塚箔押所で働いている4人は全員親族。新しく真美堂手塚箔押所の仲間となる人は、そのなかにうまく入れるか、不安があるかもしれない。

「僕たちも、不安を感じさせないようにしたいと思っているので、心配せずに入ってきてほしいですね。今いる社員よりも、新しく入っていただいた方のほうが僕は付き合いが長くなると思いますから」

普段の作業は機械と向き合い、周りに背を向けて一人で黙々と仕事をすることがほとんどだけど、作業の仕方に悩んだときはどんどん聞いてほしいという。

「コミュニケーションは必要ないと思う方がいるかもしれませんが、やっぱり難しい仕事は、それぞれの経験から得てきた解決の引き出しを持ち寄って、みんなで共有しながら前進していきたい。僕もわからないことはまだたくさんあります」

「あとは小さい会社なので、やってみたいことがあったら話してほしい。ぜひ試してみましょう」

 

黙々と印刷するのが日常です。

ただ、この会社にしかできない仕事もたくさんあるのではないかと思いました。

(2022/4/14 取材 小河彩菜、2024/04/19 更新 稲本琢仙)

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