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「お客さんに喜んでもらうのはもちろんなんですけど、驚かせたいというか、予想を上回りたいんです」
古くなった椅子の生地を張り替え、新しい命を吹き込む椅子張りの仕事。
ただ張り替えるのではなく、プライドを持って、心から美しいと思えるものに仕上げていく。
お客さんのためだけでなく、自分自身が楽しみながらものづくりに向き合う。イマトク工芸で働く職人さんたちの、そんな姿が印象的でした。
今回は、一緒に働く職人を募集します。
椅子の張り替えはもちろん、木工、塗装、特注品の製造など幅広く手掛けているので、希望すれば幅広く経験を積むこともできます。
経験は問いません。努力を重ねれば、10年ほどで独立できる技術を身につけられるそう。
手を動かすのが好きで、職人としての腕を磨いてみたい。そんな、ものづくりが好きな人に知ってもらいたい仕事です。
埼玉県の東所沢駅。
駅まで迎えにきてくれたイマトク工芸の事務員さんと合流する。
「どうぞ、どうぞ。うちのポルシェに乗っちゃってください」と促され、駅前に停めてある軽自動車へ。
明るい事務員さんの言葉に、クスッと笑ってしまう。
おしゃべりを楽しんでいると、あっという間にイマトク工芸の工房に到着した。
倉庫のような3階建ての大きな建物。入り口には、「椅子張り屋」の看板が掲げられている。
迎えてくれたのは、代表の今徳さん。
この道35年のベテランの職人さんだ。
「遠くからわざわざありがとね。せっかくだから、中の様子も見てって」と、工房を案内してくれる。
工房の1階は、椅子から古くなった生地を剥がしたり、新しい生地を張ったりする作業場。ラジオから流れる音楽をBGMに、職人さんたちが黙々と手を動かしている。
キャップをかぶっていたり、髪の毛のサイドを刈り上げていたり。それぞれが好きなスタイルや髪型で仕事をしていて、なんだかかっこいいな。
現在、イマトク工芸で働く職人さんは5名。全員が30〜40代なんだそう。
「うちの職人はね、どんな椅子でも一つひとつ、真面目に取り組む。そこまでやるかっつうぐらい、綺麗に仕上げるんだよ」
「たとえば、ちょっとでもシワが入っていたらもう一回張り直す。俺ならそれくらいいいんじゃない? って思うものでも、納得いくまでこだわってるね」
職人さんたちの仕事ぶりを見守る今徳さんの目は、とても誇らしげ。腕のいい職人さんたちが育っているんだろうな。
イマトク工芸は、今徳さんが14年前に独立して立ち上げた会社。当時は、住居を兼ねた小さな工房で仕事をしていたけれど、依頼の増加に伴い規模を拡大。5年前に今の工房に引っ越してきた。
工房を大きくしたタイミングで、木工や塗装も手がけるように。「仕上がりが綺麗」と評判で、リピートしてくれる個人のお客さんも多いんだそう。
「いろんなところから張り替えてほしいって椅子が来るよ。高級家具のメーカーとか企業からの依頼もあるし、近所の人がHPを見て来てくれることもある」
「古くなった椅子の張り替えだけじゃなくて、特注のソファもつくったり。いろんなことができるから面白いよ」
1階の作業場の隅には、これから張り替えをする予定の家具がずらり。
ダイニングチェアや、企業の応接間に使われるようなソファ。なかには、電車の椅子まで。形も素材も、使う場所も。本当にいろいろな椅子を取り扱うんだなあ。
椅子の張り替えはまず、古くなった生地を剥がし、へたってしまった座面や背中の部分にウレタンを足して座り心地を整える。
そのあとは、もともと張られていた生地の型を参考にしながら、新しい生地を裁断・縫製して座面を張り替えるのが一連の流れ。
「大きい工房とかでは、効率化のために作業を分業するところもあるけど、うちでは一人の職人が全部の工程をできるように育てる。希望があれば、木工もできるし、ある程度全体がわかるようになってきたら、見積もりとか納期も職人に任せてるよ」
椅子張りの技術だけでなく、見積もりやお金のことを学べるのは、将来独立したい人にとっても、いい経験になると思う。
新しく入る人はまず、剥がしの工程から。一つひとつ学んで、努力をすれば10年ほどですべての工程を一人でこなせるようになる。
今徳さんは、どうして椅子張りをはじめたんでしょう。
「昔から手先が器用で、技術とか図工が大好きだったんだよ。だから、ものづくりが一生の仕事だと思ってた。大工でもなんでも良かったんだけど、自分には椅子張りがしっくり来たんだよね」
鹿児島出身の今徳さん。高校を卒業後、川崎の家具メーカーに就職。その後、縁があって取引先だった椅子張り職人に弟子入りした。
「修行時代はミシンが大好きでね。服もカバンも靴も、生活の周りにある布のものって、ほとんどがミシンでできてる。だから、ミシンを使えるっていいなと思って」
「休みの日とか、仕事終わりは、自分で革ジャンを縫ったり、その辺にある椅子をはがして生地を張り替えたりなんかして。ほんとにいろんなものをつくってたね」
「張りで一番大事なのは、型出しと、縫製」と今徳さん。張る前の型がしっかりとつくれていないと、仕上がりが崩れてしまうんだそう。
「ボロボロになった椅子を見て、仕上がりを想像する。それがうまくできるようになると、裁断が変わってくるんだよ。やっていくうちにどんどん上手になるし、楽しくなる。すごく面白みがあるんだ、この仕事は」
「でも、その面白さを伝えるのがむずかしくてさ。なかなか人が集まらない」
椅子張りの技術を途絶えさせたくない。そんな想いを持って今回、日本仕事百貨に依頼をしてくれた。
「独立を目指してる人とか、ものづくりが好きな人にはすごく楽しい職場だと思うよ。経験もいらないから、やる気があって、元気な人が来てくれたらうれしいね」
「俺も自信はあるけど、彼の腕には惚れ惚れする」と今徳さんが太鼓判を押すのが工場長の古徳さん。
今徳さんの一番弟子で、今年の10月に独立する予定だ。
「もともと、建築士になろうと思って大学院で建築を学んでいたんです。でも、設計事務所とかでインターンをするなかで、自分は実際に手を動かしてものをつくるほうが好きだなって思うようになって」
そんなとき、偶然出会ったのが椅子張りの仕事。
「椅子張りっていう仕事を知ったときに、これしかないって思いました。生地とか革を見るのが好きだったし、椅子張りの感覚的な部分が自分に合ってたんです」
感覚的、ですか。
「融通がきくというか。生地の素材によって、伸び方や、シワのでき方が微妙に違くて。それぞれの生地や椅子の形を感じながら、生地を張っていくのが面白い」
頭で考えるだけじゃなく、手を動かしながら考え、仕上げていくのが椅子張りの面白いところ。
大学院を中退し10年前に椅子張り職人の道に飛び込んだ古徳さん。イマトク工芸を選んだのは、独立を後押ししてくれる環境だったから。
「頑張りを見てくれるじゃないですけど、努力したぶんだけ、いろんな仕事も任せてもらえる。個人的には、成長のスピードがすごく早かったんじゃないかなって思います」
もちろん、成長のためには努力が必要。
古徳さんも、仕事が終わってからミシンの腕をあげるためにカバンを縫ったり、中古の椅子を買ってそれを張り替えたり。地道な努力を重ねて腕を磨いていった。
「練習のために道具も素材も自由に使わせてくれる。技術を身につけたいと思っている人には、寛容でいい環境だと思います」
「自分は、生地をさわったり、手を動かしたり。ものをつくること自体が好きなんです。あとは、やればやるほど、うまくできるようになるのが楽しい。特にミシンなんかは、縫えば縫うだけうまくなる」
最近は、自家用車の椅子を自分好みのデザインに張り替えたんだそう。
写真を見せてもらうと、2種類の布を組み合わせていたり、椅子の周りを縁取りしていたり。細かいこだわりがたくさん詰まっている。
技術を磨くための練習だけど、趣味でもある。仕事だから頑張るのではなく、好きが仕事につながっているからこそ、上達していくんだろうな。
ものづくりの面白さに加えて、お客さんの反応もやりがいの一つ。
「以前うちで椅子を直した老夫婦が、すごく良かったからって言ってソファの張り替えも依頼してくれて。見た目はもちろんですけど、張り替えると座り心地も変わる」
「新しく張り替えたソファに座って感動してくれたり、『こんなに綺麗になるんや』って驚いてくれたり。そういう姿をみると楽しいし、やってよかったなって思います」
続いてお話を聞いたのは、福士さん。
北海道の大手家具メーカーから3年前に転職してきた。
「張り、木工、塗装を全部やってるところって珍しいんですよ。普通はどれか一つだけ。でも、ここでは張りを学びながら木工もできる。そういう意味では、裾野が広いなって思います」
今回の募集は張り職人だけれど、本人の経験や希望に応じて木工を学ぶこともできる。
職業訓練学校で木工を学んでいた福士さんも、椅子張りをしながら、経験を活かして木工を担当。椅子の木枠のぐらつきを直したり、オーダーメイドの椅子の枠組みをつくったりしている。
「木って、家具として使える大きさになるまでに約80年以上かかるんです。だからこそ、修理しながら長く使うって大事なことだと思っていて。小さい貢献ですけど、木を大切にできるのもモチベーションですね」
「あとは、修理する椅子に子どもが貼ったシールがそのままになっていることもあって。そういうのを見ると、思い出を大切にしたくて、張り替えを依頼してくれてるんだなって」
張り替えをしたり、修理をすればまた何十年も使うことができる。思い出の詰まったものを、長く、大切に使い続けるためにも、椅子張りや木工は欠かせない仕事。
新しく入る人は、どうやって技術を学んでいくんでしょう。
「黙って先輩の背中を見て覚えろ、みたいなことはないです。聞いたことにはみんな答えてくれるし、改善したほうがいいところは指摘してくれる」
「あとは、自分で目の前の仕事を一つずつやって覚えていくしかないと思うんですよね。空いてる時間に練習したり、気になる道具とか手法があれば試してみたり。近道はなくて、コツコツ積み重ねていくってことだと思います」
手を動かして、ものをつくる。
イマトク工芸で働くみなさんは、心からものづくりを楽しんでいる人たち。
だからこそ、技術を高めたいと思う人を、受け入れて、伸ばしていける。そんな懐の深い会社だと思います。
近道はないけれど、経験や努力が少しづつ積み重なって、確実に自分の技術になっていく。
そんなよろこびを感じられる、ものづくりの現場だと思います。
(2024/7/19 取材 高井瞳)