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長野市内から車で約30分。
山を登った先にあるのが、戸隠(とがくし)。
「戸隠神社」でその名前を聞いたことがある人も多いかもしれません。
古くから人々に信仰されてきた場所で、今も多くの参拝者が訪れ、彼らが宿泊するための宿坊が数多くあります。
今回はこの戸隠に生まれた新しい宿「awai 戸隠」のマネージャーと運営スタッフを募集します。
もとは公民館だった建物を、レストランと2室のホテルに改修。腕利きのシェフが、地元の食材や湧き水を使った料理を提供しています。
今年の4月には、昔ながらの雰囲気を感じられる一棟貸しの客室「awai 戸隠 茅葺の家」もオープン。
経験は問いません。まずは戸隠を訪れる気持ちで、読んでみてください。
東京から長野駅へは、新幹線で1時間20分ほど。
長野駅から戸隠行きのバスに乗る。
山道を登ること40分ほど。中社(ちゅうしゃ)と呼ばれる地域で下車。
バス停のすぐ近くに、awai 戸隠がある。
中に入ると、株式会社awai代表の林さんが迎えてくれる。
全国各地でまちづくりの仕事をしている方で、戸隠もそのひとつ。
前回ぼくがここを訪れたのは、2年前のこと。そのときは開業前で、まだ建物の改修もできていない状態だった。
「おかげさまで宿も完成して、前の記事でいい人がマネージャーとして入ってくれて。この1年、なんとか立ち上げを乗り越えることができました」
「ただ、マネージャーがプライベートの事情で年内に退職することになって。今回は後任になる人を募集したいんです」
この地で有名なのが、戸隠神社。山岳信仰の聖地として1200年の歴史を持ち、現在でも年間100万人以上が訪れる。
戸隠には、参拝者が泊まるための宿坊が数多くあり、現在でも神職が常駐して、宿泊者に対してご祈祷をしているそう。
「戸隠には、由緒ある宿坊と蕎麦屋がたくさんあります」
「一方で、それ以外の選択肢が少ない。戸隠の歴史文化や資源を尊重しつつ、新たな視点で捉え、今までにない方法でアウトプットする。そうすることで、新しい人の流れが生まれ、営みがつながっていく。awaiはそういう役割を担っていると思います」
awaiのコンセプトは、その名の通り「あわい」。ひとと自然、精神世界と物理世界が共存し、「その間(=あわい)」にいるような、戸隠ならではの体験を届ける場所になるようにと考えた。
そして昨年の4月にオープンしたのが、解体寸前だった公民館を改修してつくられた「awai 戸隠 旧中社公会堂」。1階がレストラン、2階が客室になっている。
さらに、一棟貸しの宿「awai 戸隠 茅葺の家」も今年オープン。長らく放置されていた空き家を改修し、地域の茅葺職人とともに茅葺き屋根も葺き替えた。
中に入ると、茅葺屋根の裏組みが内側から見えるようなつくりにしてある。煤けた梁や柱はそのまま残し、必要な部分だけを改修。昔の名残を感じられる工夫が施されている。
「もともと崩壊寸前の建物だったので、とても苦労しましたが、地域の方々の協力を得て、なんとかオープンさせることができました。予想を超える好調なスタートで、7月は稼働率が6割を超えていますね」
価格はひとり一泊二食付で3~5万円。6名まで泊まれるので、ふた家族や3世帯で泊まる人も多いそう。
「自然と調和した戸隠の暮らしや、時間の重なりを感じられるよう、燻された土壁や柱、茅葺屋根の裏組みをあえてそのまま見せています。もっと便利で明るいほうがいいという人もいますが、逆にこういうところで育っていない人は、新鮮で面白い、かっこいいと感じてくれる。見る人によってぜんぜん反応が違うんですが、それでよくて」
「お客さまにも好評です。宿泊以外にも、この前ヨガのイベントをしたんですけど、皆さんとても喜んでくれましたよ」
awaiが目指しているのが、外からの視点で、新しい価値を生むこと。
「たとえば茅葺き屋根で天井を抜くとか、普通はまずしない。寒いですから。でもここは、茅葺き屋根を中からも見てもらいたくて天井をなくした。多少不便でも、これを良いと思ってくれる人に来てほしいので。そういうところは、外の人間だからこそできることだと思います」
「守るべきものは守りつつ、地域の常識みたいなものを超えてチャレンジすることが、awaiに求められていることだと思うんです。何事にもあてはまりますが、環境の変化に合わせて自分たちも柔軟に変化していかないと、生き残れない」
一方で林さんが変えてはいけないと考えているのが、絶対的な戸隠神社の存在や、自然と調和した戸隠の暮らし。
戸隠の雰囲気をこわしてしまうような装飾やデザインはせず、戸隠の人たちが守ってきたものを敬いながら、変化も加える。そのバランスを大事にしている。
開業から1年。実際に運営してみてどうですか。
「安定してお客さんが来てくれるようになるには、時間がかかります。3年くらいは見ておく必要があるんじゃないでしょうか。それまで、いかに歯を食いしばってできるか」
「でもありがたいことに、開業から1年で多くのお客様が足を運んでくれていて、稼働もかなり上がってきています。マネージャーとシェフを中心に、スタッフが真摯にお客さまと向き合って、美味しいお料理と心地よい時間を提供してきたからだと思います。信用の積み重ねですね」
お客さんの層は、主に30代から50代。女性に人気だという。
2年目を迎えたいま、今後の課題として林さんが考えているのが、より地域に根ざした宿になること。
「もちろんすべてできているわけではなくて。もっと地に足つけていく必要があると思っています。お客さまは主に地域外の人なので、戸隠の人にも気軽にきてもらえるように、『アワイバル』という地元向けのイベントを定期的に開いています」
「地域の人とのつながりも、より強くしていきたいですね」
「間違いなく、みんな影響は受けていると思いますよ」
そう話を継いでくれたのが、武井さん。すぐ近くにある武井旅館という宿坊が実家の方。開業から今に至るまで、地域側のキーマンとして林さんと奔走。awaiの取締役でもある。
新しく入る人にとっても、戸隠で暮らし、働くうえで心強い存在になると思う。
「awaiができたことで、宿泊事業全体が引っ張られている感じがあって。まわりの人も『何を価値に感じてお金を払ってくれているんだろう』って、あらためて考える機会になっていると思います」
お兄さんが継いだ武井さんの実家の宿坊も、最近改装して単価を上げるという決断をした。今後も宿坊の在り方を考え直すところが出てくるかもしれない。
「今度、地元を出た子が帰ってくるんです。awaiの存在も、そのきっかけのひとつになっているんじゃないかな」
「衰退気味だった地域に新しい活気が生まれることで、若い人が戻ってくるきっかけにもなり得る。いろんな可能性を持った事業だと感じています」
ただ泊まるだけではなく、空間やサービス、料理など。
お客さんが何に価値を感じるのか。awaiは、地域に問いかける存在でもあるのだろうな。
続いて話を聞いたのが、マネージャーの成田さん。以前は福岡で建築系の仕事をしていた。
11月末に退職予定で、新しく入る人は成田さんの後任として仕事を引き継ぐことになる。
「きっかけは日本仕事百貨の記事ですね。ローカルに近いところで仕事をしてみたいなと思っていたときに、たまたま見つけたんです」
「戸隠っていう場所もそれまで知らなくて、記事を見て知りました。場所にこだわりはなかったんですが、歴史や自然があるところに惹かれて。awaiが歴史的な街並みや建築を活かしたまちづくりをしていることにも共感しました」
コンビニやスーパーがすぐ近くにない生活も、ストレスにはならなかったそう。生活が新鮮で、四季のはっきりした自然の景色も気に入った。
「お客さんはとってもいい人たちばかりで。観光地なんですけど、消費しにきてないというか。自分自身のエネルギーをチャージするような。きっと戸隠が持つ独特の空気がそうさせているんでしょうね」
宿泊が入っている日は、朝食からチェックアウト、清掃、ランチ、チェックイン、ディナーまで、一日を通して仕事がある。これを成田さんとスタッフ2名、そしてシェフでまわしている。
また、シフト作成や予約管理などバックオフィスの仕事もある。お盆などの繁忙期以外は月火、もしくは火水が休みになる。
「休みは戸隠のお蕎麦屋さんをよく食べ歩いています。いっぱいお店があるので、お客さんに紹介できるようにしようと思って。戸隠を知る時間に使っていましたね」
「あとは週一で食料品とか日用品を買い出しに、長野市か信濃町まで降ります。車で30分くらいですね。冬はちょっと道が怖いんですが」
大変なことはなんでしょう。
「一日中動いているので、体力的に大変だとは思います。ただ、ありがたいことにお客さんとの関わりで嫌な思いをすることはほとんどないですね」
「ここに泊まるお客さんは、ほとんど戸隠神社に行くために泊まるんです。この時間にここに行くといい景色が見れますよとか。紹介して、戸隠にいいイメージをもって帰ってもらえると、よっしゃ!って思います(笑)」
移住者が気をつけたいのは、冬。積雪で車の運転も難しくなることに加え、天気もどんよりとした日が増える。
たとえば戸隠スキー場が近いので、ウィンタースポーツが好きな人であれば、冬の期間も楽しめるかもしれない。
「ちょっとギャップに感じたのは、スタッフそれぞれにアグレッシブさを求められること。自分で売上に貢献することを考えて動く、みたいなことは想像以上に求められると思います。会社に勤めるというより、自営業の感覚に近いかもしれません」
「だからこそ、いろんなことを面白がれる人がいいですね。この環境とか仕事とかお客さんとのコミュニケーションとか、なんでも面白がって日々の仕事に向き合えたらいいんじゃないかな」
最後に話してくれたのが、シェフの藤本さん。関西出身の方。
さまざまな料理店で修行を積んでいて、awai 戸隠の料理はすべて藤本さんがつくっている。
「ディナーだと1万円のコースなんですけど、高級な食材って使ってないんですよ。お魚だったらコイとか、メインだったら鹿肉とか。地域に根付いた料理を出したいと思っていて」
「ラグジュアリーさを求めるなら東京に行けばいい。要はいろんな要素を引いて、よりシンプルにしていて。その根底には神社っていう存在があるわけです。神社って装飾とかがシンプルで、煩雑さがない。料理からもそういう感覚を味わってほしいなと思っています」
この日いただいたランチは、どれも素材の味が活きていて、シンプルだけど奥深い味わい。
「成田さんのすごいところは、相手に対しての思いやりが自然と接客に出るところ。その点は天才だと思いましたね」
「意識してという感じでもなく、水が流れるかのように自然にやっているので、お客さんがめちゃくちゃここを好きになって帰っていくんですよ。それってなかなかできることじゃない」
褒められて照れくさそうにしている成田さん。
同じことをすぐに求めることはないけれど、新しく入る人も、まずは誠意をもって人や仕事に向き合ってほしい。引き継ぎ期間中に基本的なことを覚えながら、自分なりの色を出していけたらいいと思う。
最後に、みんなの話を聞いていた林さんが、こんなことを話してくれました。
「根本にあるのは、戸隠っていう場所の文化的な価値を守り継ぐこと。ホテルは、そのための手段です。簡単なことではないけれど、まずは何事に対してもポジティブに動ける人がいいですね」
「大変な立ち上げの時期を経て、成田さんが土台をつくってくれたので、ここから一緒に積み上げていく人が来てくれたらうれしいです」
戸隠の歴史や文化を感じながら、暮らし、はたらく。
そのなかで感じたことを、自由に表現し、伝えていける仕事だと感じました。
(2024/7/4 取材 稲本琢仙)