※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
宮城県丸森町にある標高300メートルの里山に位置する、豊かなフィールド。
緑豊かな草木とともに、石の採掘場や加工場、ギャラリーが点在し、自然と人の営みが共存する景色が広がっています。
ここにオフィスを構えるのが、プロダクトの設計や石の加工、施工を行っている大蔵山スタジオ。
この場所でしか採れない「伊達冠石(だてかんむりいし)」を使って、墓石やモニュメントのほか、アーティストやデザイナー、建築家と協業した美術品や家具などを製作しています。
今回募集するのは、大蔵山でのみ産出する土 「 大蔵寂土(おおくらさびつち)」を使って焼き物を制作する陶工や、設計全般で力になってくれる設計スタッフ。新たな挑戦に一から取り組んでいく仕事です。
経験がある人に、一緒に新しいブランドをつくっていってもらえたらうれしいです。
宮城県丸森町までは、自宅のある岩手県奥州市から車で2時間。都心からは、東京駅から最寄りの白石蔵王駅まで新幹線で2時間。そこから車で15分で到着する。
約50ヘクタールの広さがある里山の入口に立つ木造の建物が、大蔵山スタジオのオフィス。
プロダクトや石に関わる本が並ぶ部屋の中で、代表の山田さんが迎えてくれた。
大蔵山スタジオは、1887年に創業し、2015年に社名を山田石材計画から現在の名称に変更。山田さんは、2017年から先代の父の跡を継ぎ、代表を務めている。
山田さんが会社を引き継いだ当初は、先代から石材店として続けていた、墓石の製作・設置が主な事業だった。現在は、建築やアートに関わる仕事が多く、その割合は全体の7割ほど。
大蔵山より産出する伊達冠石をベースとしたドアノブや洗面台、テーブルなどの製品を自社内で設計・製造。それらを日本国内だけではなく、中国やシンガポール、アメリカ、サウジアラビア、フランスなどの星付きホテルやレストラン、個人邸に納品している。
「この場所で100年以上、石の採掘から加工までを一貫して続けてきました。父の代からは採掘場を削ったままにせず、植樹したり、ギャラリーなどの文化施設を建てたり。採掘を終えた後の景色を意識しながら丁寧に採掘を行い、 この山の植生に様々なヒントを得ながら環境整備も同時進行で行っています」
「そうした取り組みを受け継ぎながら、大蔵山に拠点を持つ私たちだからこそできることにより注力するために、事業内容も変化させてきました」
今年6月には、東京・銀座に「THE GALLERY TOKYO」をオープン。
同じ丸森町出身の方の会社のオフィスと併設したギャラリーで、食器や花器、家具、ドアノブ、アート作品など、大蔵山スタジオの製品の展示と販売を行っている。
「大蔵山にある貴重な資源を発信していくこと。また、人類がこれまで石を通して行ってきた自然との関わりや祈りなど、古くから続いている文化や感覚を伝えていくことが、私たちが事業を通して果たしたいこと。それらを大蔵山と銀座のふたつの拠点から、共感してもらえる人たちに届けていきたいと思っています」
日本仕事百貨での募集は、今回が4回目。訪れるたびに、新しい取り組みがはじまっている。
ちょうど1年前の取材で話をしていた「直営店のオープン」を実現し、山田さんはさらに新たな事業のスタートを考えている。それが今回募集する陶工が行う、大蔵山の土「 大蔵寂土」を使った焼物の制作。
「この里山の自然を素材としたものづくりを、もっと広げていきたいと思っています。そのなかで、土を使った焼物の制作は以前から構想していたアイデアのひとつでした」
大蔵山の土の特徴は、表面の強い朱色。また、見た目だけでなく、性質も優れていて、作品づくりに使用したアーティストや土壁の材料にする左官屋さんから、「いい土ですね」と言われることが多くあったそう。
「土も石と同じく、その土地の植物や昆虫、動物などさまざまな命の営みが長い間蓄積されてできたもの。その土の色が、魔除けや長寿など宗教的にも意味を持つ朱色になっているのは、とても特徴的ですよね。大蔵山を発信していくための、強いメッセージ性のある色だと思っています」
今回募集する陶工は、焼物の制作を主に担当しながら、里山の環境整備や石材加工の補助なども行うことになる。
焼物の制作は大蔵山スタジオにとって初めての事業のため、工房の整備など、立ち上げから一緒に取り組んでいく。
「もともと彫刻作家のアトリエだった場所を改修して、焼物制作の工房にする予定です。まだ機械も入っていないので、一緒にどんなものが必要か相談しながら工房を整えて、制作を始められたらと思っています」
「焼物制作のことを教えられるスタッフはいないので、知識を十分に持っている人にきてもらえるとうれしいです」
立ち上げから一緒に取り組むからこそ、焼物づくりに精通していて、新しいことに挑戦するのが好きな人に、とても向いている仕事だと思う。
一方で、陶工とはいえ、ほかの業務にも関わることになるので、焼物の制作だけに集中して取り組みたい人にとっては難しい仕事になる。
「里山の環境整備などを行うことで、この土地のことをより深く理解するなど、焼物制作に活かせることもあると思っています。焼物の延長で、染め物の工房をつくるなど、ほかにも新しい取り組みを考えているので、柔軟性のある人と一緒にものづくりを楽しんでいきたいですね」
続けて話を聞いたのは、里山の環境整備を担当している藤野さん。
今回募集する陶工が環境整備を行うときには、藤野さんと一緒に作業することになる。
藤野さんは大蔵山スタジオで働き始めて、3年目。それまでは宮城県の会社で、庭師として働いていた。
「大蔵山スタジオに就職したのは、この里山の景色の美しさと、土地の素材を使ったものづくりを世界に発信する取り組みにとても惹かれたことがきっかけです」
「それとスタッフの年齢層が若くて、30〜40代が中心。石材加工の職人やデザイナーなど、それぞれの職種のプロフェッショナルが集まっているので、この人たちと一緒に仕事がしたいと考えたのも入社を決めた理由のひとつですね」
庭師を採用するのは藤野さんが初めてだったそう。スタッフそれぞれの得意分野は異なっていても、事業や理念に共感する人たちが集まり、会社としてできることを増やしている。
藤野さんが行っているのは、木の伐採や草刈り。そのほかにも、里山内の道の整備や小屋づくりなど、フィールドの管理全般を担当している。
「草刈りをするときも、すべての雑草を刈り取ってしまうのではなくて、優しく増えていく植物はなるべく残すなど、自然を自然のままに活かすこと、草木と人が共存することを意識して、整備を行っています」
「ほかにも、石の加工で出た端材を砂利として使ったり、伐採した木を建材として活用したり。この里山の中のものすべてを活かしていこうとする姿勢が会社としてあるんです。ここまで徹底的に、自然の素材を活用する会社はそうないんじゃないかなと思っています」
インタビューをしていると、「直接見てもらったほうが、もっと理解してもらえると思います」と藤野さん。オフィスを出て、里山を案内してもらうことに。
ウルシやウバユリ、キブシ、クローバー、ツメクサ……。広大なフィールドの中にある、藤野さんがお気に入りの植物をいくつか教えてもらいながら一緒に歩く。
「今の時期、特に好きなのが桑の木です。この木についている実が、適度な酸味と甘味があって、すごくおいしいんですよ」
「それは動物たちもよくわかっているみたいで、この木に登って実を食べているところによく遭遇します。整備作業をしながら、この木の近くに寄ったときは僕もほかのスタッフもこの桑の実をよく食べているので、人も動物も今の時期はここにみんな集まるんですよ」
ほかの場所でも気になった植物について質問すると、なんでも教えてくれる。植物の知識が豊富な藤野さんと一緒に歩いていると、よりフィールドの解像度が上がって、それまで同じように見えていた木や雑草の一つひとつが、はっきり認識できるようになってくる。
「本当にここには活かせるものがたくさんあるんですよ。僕もまだまだわからないことばかりで、ずっと勉強中です。自然から学んでものづくりを実践できる、本当に豊かなフィールドだなと思っています」
「きっと焼物制作の仕事も、学びと実践の繰り返しですよね。この場所の土がどんな製品になるのか。僕もこれからがすごく楽しみです」
最後に、もういちど山田さん。あらためて今回募集する陶工と一緒にどんな焼物をつくっていきたいですか?
「大蔵寂土で制作する焼物は銀座のギャラリーでの販売に加えて、今後大蔵山にオープン予定の食堂で、料理を提供するための器として使うことも考えています」
「その食堂では、大蔵山に自生する植物をベースにした料理を提供する予定です。食堂の建材としても、大蔵寂土や伊達冠石、この山の樹木の活用を検討していて、それらすべての要素から大蔵山の豊かさを伝えていきたいと思っています」
また、ほかにも大蔵山でのワークショップの開催なども検討しているという山田さん。
仕事場として活用している自分たちだけがフィールドを楽しむのではなく、大蔵山スタジオの取り組みに共感する人たちに、場をひらいていく。特に、子どもたちに訪れてもらうようなきっかけをつくっていきたいという。
「身の回りの自然のなかに、本当の美しさや豊かさという根源的で大切な要素がたくさん眠っている。感性を磨いていくうえで大切な体験を、さまざまな形で大蔵山で得ることができると思っています」
また、そうした山での日々の発見から、実際のクリエイションに大きな影響を与えていることも伝えたい要素のひとつ。
「私たちの周囲にある自然からクリエイションが生まれて、そこから得た利益をまたその土地のために還元する。そのサイクルを、この大蔵山で体験してもらえるとうれしいですね」
「そこまで感じていただけると、大蔵山以外の場所でも細かな自然の変化により敏感に反応する感受性が生まれ、その感受性が豊かな創造へとつながっていくのではないかと思っています」
自然と人々の関わりを見つめ直し、自然から得られる豊かさを創造の源として、ビジネスに生かしている大蔵山スタジオ。
土を使った焼物の制作や、フィールドを活用した新たな取り組みは、どれも簡単なものではないと思います。
それでも、大蔵山という土地と、そこで採れる石に長く向き合い続けてきた経験やノウハウを活かしながら、山田さんや藤野さんたちは挑戦を続けていきます。
大蔵山スタジオのみなさんとはじめる新たなものづくりに、あなたも一緒に取り組んでみませんか。
(2024/6/5 取材 宮本拓海)