※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
お客さんも自分も、それぞれのペースで。
売り上げや効率も大切だけれど、それ以上に目の前のお客さんや、自分の気持ちに丁寧に向き合うことを大事にしたい。
長野県千曲市(ちくまし)に2025年1月にオープン予定の古民家カフェ「シカジカ」のオーナー村瀬朋子さんは、そんなあり方を大切にしている人。
今回はそんな朋子さんと、二人三脚で働くスタッフを募集します。
住宅地にある古民家と蔵を改装し、古民家はカフェに、蔵は1組限定のサウナ付きの宿として運営する予定。
朋子さんも宿やカフェの運営は初めて。メニューや接客方法を考えたり、場所を使ってイベントを企画したり。
一緒に面白がりながら、居心地のいい場所をつくっていける。そんな人を求めています。
経験はなくても大丈夫。料理が好きな人や、調理経験のある人は大歓迎です。
長野駅から電車で35分ほど。
屋代駅につくと、そこからさらに車で10分。
小さな個人商店や住宅が並ぶ一本道の先には、棚田の景色が広がっていている。
景色を眺めていると、県道沿いに大きな古民家が見えてきた。
明治32年に建てられた歴史のある建物。
一つひとつに立派な装飾が施されている瓦屋根が印象的だ。
今は改装工事中で、大工さんたちが忙しそうに手を動かしている。
インタビューまで時間があったので、しばらく中の様子を見学させてもらうことに。
古民家の目の前には、小さな庭。さらに隣接する2棟の蔵がある。
梁や扉などはそのまま活かし、新しさのなかにも昔ながらの雰囲気を引き継いでいる。
まだまだ工事の途中だけど、完成が楽しみだなあ。
見学していると、元気なワンちゃんがひょっこり顔を出してきた。
朋子さんの飼い犬のビオラちゃん。
カフェがオープンしたら、古民家の一室で朋子さんと一緒に暮らす予定だそう。
最初は怖がって吠えていたけれど、だんだんと打ち解けてきて、頭を撫でさせてくれる。
ビオラちゃんと遊んでいると、打ち合わせを終えた朋子さんが声をかけてくれた。
「バタバタしていて、すみません。今日の取材、楽しみにしてました」
何年も前から、日本仕事百貨の記事を読んでくれていた読者の方。
「お腹空いてないですか?」と手づくりのクッキーを出してくれる。
乳製品を使わず、全粒粉とメープルシロップなどでつくったクッキーは、ほんのり甘くてやさしい味。
とっても美味しいです。
「よかった。お菓子づくりが好きで、新しくオープンするカフェでも出したいなと思っているんですよ」
身体や環境にやさしいものに興味がある、という朋子さん。マクロビオティックなども勉強していて、生活の一部に取り入れている。
お店でも、なるべく身体や環境にやさしいものを使う予定だ。
「さっきまで、お庭の工事についての打ち合わせをしていたんですけど、それも自然素材を使う業者さんにお願いしました」
「自然の素材を使うと長持ちするし、土を良くしてくれる。全体の雰囲気というか、気みたいなものを大事にしたいなと思っています」
カフェの内装も、漆喰や和紙などなるべく自然素材のもので仕上げていく。
お店で提供する食事も、土鍋や圧力鍋などで炊いたり、地元で採れる自然栽培の野菜を中心に使用したり。
「自分が好きなものが自然派寄りだから、なるべくそういうものを使いたい。けど、やっぱりジップロックは便利だし、市販のスポンジじゃないと落ちづらい汚れもあるんですよね」
「野菜を分けていただいたら、お店で使わせてもらうこともあると思う。農薬を使っているかよりも、それよりもくださった方の心遣いや、地域とのつながりを大切にしたいんです」
余白を持ちながらも素直に、丁寧に。そんな価値観を大切にしている方なんだろうな。
一緒に働く人は、ふたりで一緒にメニュー開発や接客スタイルなどを考えていくことになる。だからこそ、朋子さんの大切にしている価値観に共感できることが、大事だと思う。
どうしてシカジカを始めることにしたんでしょう。
「実は偶然で。家を探していたときに、たまたまこの物件を見つけたんです」
千曲市に実家がある朋子さん。両親の暮らす家を探していたときに、この物件に出会った。
古い建築が好きだった旦那さんが気に入って、物件を購入したんだそう。
「ここでカフェをやってみれば?って言われて、面白そうだなって。それで、挑戦してみることにしたんです」
シカジカは、朋子さんの旦那さんが営む内装会社「弌成」の新規事業という位置付け。国の補助金も受けつつ、運営することになる。
「社長も、そこまで売り上げに目くじらをたてなくていいから、やりたいこととか、お客さんに喜んでもらえる場所にしようって言ってくれていて」
新しく入る人のお給料などは、弌成から支払われる。資金的なバックアップもあるから、目先の利益を追求せず、まずは自分たちの目指す場所をつくることに集中することができる。
どんな場所にしていきたいんでしょう。
「正直、カフェも宿も明確なイメージが固まってるわけではないんです。でも、深呼吸できるというか、落ち着ける場所にしたいなと思っています」
深呼吸できる場所、ですか。
「今も、開店準備でやることが多いし、つい焦ってしまう瞬間があって。その度に、深呼吸して、落ち着いて。ひとつひとつ味わっていこう、生きていることの経験だと、丁寧さを意識するようにしています」
「 特に最近は、日々を見つめる瞬間が多くなっている気がして。シカジカで働いてくれる人とも、お客さんとも、そんな瞬間を共有したいと思うんです」
カフェは、15席ほどのこじんまりとした規模で始める予定。
11時から15時までの営業で、慣れてきたら週末限定で夜や朝の営業なども増やしていきたい。
「今は、お店で出すためにハンドドリップの淹れ方を勉強していて。お店の雰囲気にあったコーヒーの味を探しているところなんです」
「落ち着いてきたら、クラフトビールやナチュラルワインを飲めるバーを始めたり。この地域に住んでるクリエイターさんと一緒にワークショップなんかもできたら面白いかな」
少しずつ、丁寧に。目の前のものと向き合いながら、できることを増やして、面白いことを試していく。
新しく入る人も、村瀬さんと一緒に勉強しながら自分のアイデアを活かしていろんなことにチャレンジしていける環境だと思う。
新しく入る人は、プレオープンの段階から、接客の流れやメニューの試作などを朋子さんと一緒に考えていく。
本格的にオープンしたら、勤務は基本、9時から18時まで。カフェの仕込みをしたり、掃除をしたり。宿泊客がいる場合は、掃除やチェックアウトなどの対応も。
「宿もあるので、お手洗いとかお風呂の掃除もすることになる。キラキラした仕事ばかりではないけれど、それぞれのモノを大切にするような気持ちで手を動かしたい」
「そういう気持ちに共感してもらえる人なら、安心して一緒に働けると思うんです」
取材を終えると、朋子さんが近くのシェアハウス兼ゲストハウスを紹介してくれた。
「近くに、面白いシェアハウス兼ゲストハウスがあって。うちとはまた違う雰囲気の宿なんですけど、素敵な方がやってる場所なので、新しく来る方が興味あれば、そこで部屋を借りるのもいいかなと思っています」
朋子さんに案内されて、シカジカから車で10分ほどの上山田温泉へ。
先ほどの静かな雰囲気から一転、80件のスナックや射的場などが並ぶ、昭和レトロの雰囲気が漂う賑やかなまちに。
なかでも一際目を引くのが、今晩の宿「おせっかいハウス 昭和の寅や」。
「男はつらいよ」の寅さんをモチーフにした宿で、寅さんのトレードマークの麦わら帽子やアタッシュケース、ポスターなどが飾られている。
「いらっしゃい。遠くからよくきたね」
笑顔で迎えてくれたのは女将の清水さん。初対面なのに、自然と心が開いてしまうような、豪快であったかい雰囲気の人。
「15歳くらいのときから寅さんが好きでさ。ねえ、寅さんって知ってる?」
「あの人ってさ、どうしようもない人間じゃん。でも、いつも周りに人が集まってくる。何をしてるかっていったらさ、旅をして人情を置いてきてるんだよね」
人情を置いてくる、ですか。
「そう。会う人会う人に本気で向き合って、その人のことを考えて。大した解決はしねえんだけど、関わった人のなかにあったかいもんを置いていくんだよね」
「それが衝撃でさ。それから、寅さんだったらどうするだろうって考えて生きてきたんだ」
寅さんのように、出会う人たちと向き合い、受け入れてきた清水さん。そんなつながりがきっかけで、3年前にゲストハウス兼シェアハウスをオープンした。
「ここには、宿泊のお客さんだけじゃなくて、近所の人とか、周りの宿に泊まってるお客さんとかが集まってきたりする」
「だから、20人くらい人がワイワイやってても、結果お客さんは2人だけみたいなこともあるわけ(笑)。正直、儲かるわけじゃねえんだけど、まあいっかって。だってみんな笑ってるし、幸せだなって」
シェアハウスにはどんな人がいるんでしょう。
「何かにチャレンジしたい人が多いかな。本当にいろんな子がくるよ。たとえば、有機野菜を学びたいって子が来て、勉強しながら旅館で働いてたこともあったし、今はスパイスカレーのお店をやりたいって子もいる」
「ここにいるとさ、いろんな出会いがあるし、仕事にもつながる。デザインの仕事をしてる子は、ここで会う人をきっかけに仕事をたくさんもらってたね。『寅やの子』ってなると、みんなが応援してくれるんだよ」
知らない町に住むことに、不安がある人も多いと思う。でも、寅やで暮らすのであれば、いろんな人があたたかく迎えてくれるし、友達をつくったり、仕事の刺激をもらったりすることもできるはず。
何かを変えたい、チャレンジしたいと思っている人にとっては、面白い選択だと思う。もちろん、別の住まいを探したければそれも自由。朋子さんがサポートしてくれる。
ゲストハウスを開くため、長野市から千曲市に移り住んだ清水さん。このまちの魅力ってどんなところでしょう。
「大きからず、小さからずなところかな。おーいって呼んだら、返事が返ってくる距離感。1人が立ち上がれば、みんなが力を貸してくれるんだよね」
温泉街のガラクタを集めたガラクタ市や、ジャズフェス。電車に乗りながらスナックを体験できるイベントなど。
まち全体を盛り上げるために、みんなが協力し合えるのがこのまちの良さ。
「シカジカも、同じ宿だけどライバルじゃなくて仲間だと思ってて。みんなで応援し合いながら一緒に盛り上げていきたい」
「たとえば、みんなで喋りたいお客さんはうちに来ればいいし、静かに過ごしたい人はシカジカさんに行けばいい。お互いにお客さんを紹介しあって、協力していきたいって思ってるよ」
最後に、朋子さんの言葉を紹介します。
「新しく来てくれる人は、迷っているとか、自分の生き方を探している人でもいいのかなって思っていて」
「一緒に探って、見つけて、試したり、おもしろがったりして。それに、ときには流れに身を任せる部分があってもいいと思う。そういうふうに、一緒に楽しんでいけたらいいなと思います」
決まったレールはないし、これから決まっていくこともたくさんある。
でも、ここでなら、丁寧に、穏やかに。
そんなふうに、自分や人と向き合って暮らしていけると思います。
(2024/08/28 取材 高井瞳 )