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奈良・広陵町(こうりょうちょう)。
靴下の生産量は日本一。奈良県の「住み続けたい街『自治体版』ランキング」では1位にランクインしているまちです。
このまちでは、2015年から地元の企業が行政に働きかけて、中小企業振興のための条例が完成。それ以降も、地元企業の意見を柔軟に吸い上げながら地域振興をおこなってきました。
これまでは地元企業と行政職員の熱意によって、官民の連携が進んできましたが、いまは過渡期に入りつつあるところ。
そこで、新たにファシリテーター兼、地域の事業を推進していく人を募集します。
具体的には、役場と地元企業、商工会などが定期的におこなっている会議をファシリテート。さらにそこで決まったことをどう形にしていくかをともに考える、そんな仕事です。
なかなか想像しづらいかもしれませんが、これまで行政側を引っ張ってきた方も近くでサポートしてくれる環境なので、まずはその人のアドバイスをもとに動いていけば大丈夫。
業務委託契約になるので、本業が別にある人でも構いません。
広陵町は、奈良盆地の中西部に位置するまち。大阪や京都へも1時間ほどで出ることができる。
京都から近鉄に乗り、大和高田駅で下車。そこから車で10分ほどにあるグリーンパレスへ。ここに今回の募集元となる「一般社団法人広陵町産業総合振興機構」、通称「なりわい」の事務所がある。
「おひさしぶりです! よう来てくれはって」
迎えてくれたのは、地域振興部部長の栗山さん。冒頭で「行政側を引っ張ってきた」と表現した方だ。
長年、広陵町の地域振興に力を入れてきた栗山さん。まちの企業の声を受け、さまざまなところに視察や相談へ。
その結果、地域商社でもある「なりわい」が生まれたり、無料で経営相談ができる「Bizモデル」をまちに持ち込んだりと、実績も多い。
課長から部長になったいまも、課長に任せながらサポートに回っている。
「まだコロナ前の時期ですね。まちの企業の人たちを中心に構成された振興会議から提言書を出してもらって」
「それを形にしていくための、なりわいとココビズでした。コロナ中も、靴下事業者がつくったマスクを全戸配布したり、食事のデリバリーの制度を整えたり、いろんなことをしてきたんです」
そのコロナ禍が落ち着きつつあるいま、振興会議から新たに出てきたのが、事業者と行政が協働してさまざまな取り組みをしていけるプラットフォームをつくりたい、という意見だった。
「魅力的な企業が集まる町、というのを広陵町は掲げているので、そのためにも『地域密着型プラットフォーム』をつくりたい。それがいまの状況ですね」
自分たちに必要なものを、事業者と行政とで議論していく場はすでにある。
今後は、事業者同士のつながりをもっと増やすことで、より事業者主体で進んでいく流れをつくっていきたい。そこで、第三者的な立ち位置から事業者の主体性を引き出すようなファシリテーターの出番、というわけだ。
これまでもファシリテーターとして関わってくれていた人がいたけれど、事情により今後は広陵町に関われなくなってしまった。
今回募集するファシリテーターは、なりわいとの業務委託契約。これまでの取り組みに詳しい栗山さんとも近い距離でやっていける。
「行政の事業も民間の事業も一緒かなと思うんですけど、人が変わればひとつ事業は終わってしまいますよね。将来、私が関われなくなって事業が終わるなんてことを回避したい」
すこしさみしそうに語る栗山さん。それでもまだまだ目には力がある。
「だからバックアップしていきたいし、これまでつくってきた流れを受け継いでくれる人たちをね、なんとか育成したいと思ってます」
2015年からはじまっている広陵町の取り組み。
どんなふうに進んできたのか。当初から企業側として振興会議に参加している東田さんに話を聞く。
東田さんはプラスチック成形を主な事業とする大和化学工業株式会社の代表取締役。
「奈良県中小企業家同友会っていう組織の理事長と、町の商工会の会長が知り合いで、その二人が産業振興をしていかなあかんと。それで町長にお願いに行ったのが2015年やったんですよ」
その結果、役場や商工会、同友会も巻き込むかたちで、3年かけて産業振興の条例が奈良県で初めて制定された。
「広陵町のすごいところは、条例ができたあとも運動が下火にならなかったことで。ほかの市町村の例を見ても、つくったところで熱がちょっと冷めるんですよ。広陵町がうまいことまわってるのは、栗山さんという熱血行政ウーマンがおったからやと思います」
「部会や会議、ワークショップや課題別委員会が、大体年間23回ぐらいあるんですよ。2週間に1回、約2時間から2時間半、いろんなテーマでディスカッションする。その熱が全然冷めない」
以前のファシリテーターの存在もあり、設備投資の補助金制度など、必要な支援が素早く形になっていった。
「いま課題として出ているのは人材不足ですね。どこも人欲しいねんって言わはる。ハローワークに広告出してるけど、マッチングがうまくいかないとか」
「求人媒体に載せるとしても、社内の福利厚生をちゃんとしてないといけない。じゃあ勉強会を開こうとか。就業規則ありますか、ないならつくっていきましょうよとか。ファシリテートしながら、そういったところまで踏み込んでもらえたらありがたいですよね」
たとえば産後半日だけ働きたい、保育園に子どもを預けているあいだだけ働きたい、といった細かい要望もすくい上げ、対応できる企業群になっていくことを目指している、と東田さん。
この新しいフェーズをどう進めていくか。今回募集する人も、一緒に考えてもらいたい。
「悩んでることって、ぼくらだけじゃうまく引き出せない。そのお手伝いをしてくれたらありがたいですよね。付箋に書いたり、グループ分けしたり。うまく議論を進めるサポートをしてもらえたら」
東田さんと話し終えてひと休憩。
一緒にいる栗山さんに、ここまで聞いて思ったことを聞いてみる。
東田さんも言っていましたが、栗山さんの熱量はどういうところから来ているんでしょう?
「どこから来るんでしょうね(笑)。多分、私の応援隊がいてるからやと思います」
応援隊?
「なんていうのかな…。正直、『もうええか』って思った時代はあったんですよ。でも東田さんとか4、5人の人たちがほっとかないんですよね」
「みんなこれを成功事例にしたいと思ってる。条例をつくって終わりじゃなく、広陵町はこれだけ長い間動いてるっていうのを示したい。今回もファシリテーターや私の関わりが薄くなることで、止まりたくないんだと思います」
ここでちょうど、がらっとドアが開く。
「お、来た来た。彼も応援団になってもらわなあかんね」
「え、誰の応援団です?栗山さん?そりゃあもちろん!ついていきますよ」
そう笑いながら入ってきたのが、吉川さん。ダンボールなどを扱っている広陵株式会社で取締役兼営業統括を務めている方だ。
「大学卒業が確か22歳。で、約2年ぐらい北九州で営業として働いて。そっから戻ってきたんで、帰って4年くらいになりますね」
実家を継ぐことは決めていたんですか?
「そうですね… ちっちゃいときは会社もだいぶ借金があって、父と母は会社に缶詰で働いてたんですよ。でも何不自由なく生活はさしてもらっていて」
「たとえば野球やラグビーも、全然やっていいよって。大学も私学で学費が高いんですけど、そこも奨学金とか気にせんでええから好きなことやってこいって言ってもらってたんで。これはもう恩返しせなあかんなって」
子どもながらにも、両親への感謝とありがたさを感じていた吉川さん。
「お金とか、何から何までやってくれてたっていうのは、親父の存在があって。親父が何を大事にしてんのかって思ったら、広陵株式会社を大事にしてるっていうのが、当時ちょっとだけ見えたんです」
「それで大学のときに、やっぱり俺、この会社で絶対働くから。戻ってくるからって言いました」
修行を経て広陵町へ帰ってきた吉川さん。いまは営業の仕事をしながら、地域の横のつながりを広げているという。
「横のつながりをいま本当に大事にしていて。栗山さんにお世話になったり、商工会と中小企業家同友会、青年会議所にも入ったり。なるべく地域の組織に参加して、顔を広げて。それが仕事につながることもあるので」
「商工会とかに入って地元のことを見ると、やっぱり地元をもっと活気づけたいし、仲間も増やしたいって思うんです」
車は必要だけれど、生活で困ることはほとんどないそう。スーパーやドラッグストアは揃っているし、大阪や京都にも出やすい。
「広陵町はね、なんか知らんけどあったかいんすよ。挨拶してもめっちゃ返してくれるし、なんならちょっと立ち話もしちゃうくらい」
「シンプルになんかいいなって思うんすよね。あんまりこれがって言えないんですけど… 広陵町はいいところやなって思います」
新しく来る人も、今後吉川さんのような若い事業者と関わる機会が増えてくるはず。
吉川さんは、行政との話し合いには今後参加していきたいですか?
「もちろんです。もう体がひとつじゃ足りないと思ってるんで、分裂したいくらい。24時間じゃなくて36時間ぐらいにしてほしいほど。まちのためにいろんなことをしたいって思ってます」
「仕事したあとにいろんなところに行って、いろんな人とつながりをつくって。そのほうが人生も華やかになるんじゃないかなって思いますね」
最後に話を聞いたのは、栗山さんの後を継いで課長となった松谷さん。
「今は栗山がわっと広げた風呂敷を、正しい形にちょっとしわ伸ばすみたいな。そんなイメージで関わらせてもらってます。路線は継承しつつ、ずっと走ってやってきたぶん、微調整が必要な部分を直していくイメージかな」
「地域密着型プラットフォームづくりが当面の目標ではあるんですが、個人的には基礎はもうできてるんちゃうかって思うんです。これからは、基礎の上の建物、たとえば人材確保の仕組みであったり、事業承継であったり。オプションをつくっていくフェーズなのかなと」
基礎ができつつあるプラットフォームの上に、どんな建物を建てていくか。
これはファシリテーター役となる人が議論を進めながら、松谷さんや事業者の人たちと協力して決めていくことになると思う。
「意見を引き出すだけじゃなくて、その出てきた意見を実現するためにどうしていこうって話もできる人っていうのかな。なかなか難しいと思うんですが」
「今回の人はなりわい所属になりますが、行政側としても手を取り合ってやっていきたいし、その体制はできているので。事業者も含めて、一緒にまちをよりよくしていけたらいいですね」
昨今、ファシリテーターが活躍する場はどんどん広がっているように感じます。
広陵町はこれまでつくってきた土台のもと、新しいフェーズに入ろうとしているところ。ファシリテーション力を活かして、より具体的に地域振興やまちづくりに関わることができる、絶好のタイミングだと思いました。
想いを受け継ぎ、火を灯し続けてくれる人を待っています。
(2024/09/13 取材 稲本琢仙)