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小樽ガラスや小樽切子など。
透明で美しく、さまざまな色や形を表現できるガラスは、主に職人さんの手でつくられています。
そんな工場のひとつが、北海道・小樽にある深川硝子工芸。
名に「深川」とあるように、昔は東京の深川にあった会社です。
ここで吹きガラス職人見習いを募集します。
経験は求めません。
ものをつくる仕事を、自分の生業にしたい。強い気持ちを持った人を待っています。
小樽へは、新千歳空港から快速エアポートが便利。空港から乗り換えなしで行くことができる。
広大な風景と石狩湾を車窓から眺め、電車に揺られること約1時間半。小樽駅の一つ前、南小樽駅で下車。
まっすぐな道を歩き、急な坂を下り5分ほどで深川硝子工芸の本社兼工場に到着。
代表の出口さんがショールームで迎えてくれる。
「昨年はありがとうございました。入社してくれた加工担当の人はさっそく活躍していて。まだ1年とは思えないぐらいになってくれています」
一方で、「吹き」の担当がいま少ないという。
「実は去年と今年で3人辞めてしまって。みんな似た理由なんですよね。自分がまわりの人ほど仕事ができないのが苦しい、みたいな」
「こちらとしては、まだ入って1年も経ってないからこれからだよ、って思うんですけど。時間がかかる職人仕事に耐えられなかったのかもしれません」
現在、吹きの職人は12人。出口さんが跡を継いでからの指導もあり、職場の雰囲気はやわらかい感じなのだとか。
「できれば14人くらいまで増やして、安定的に増産できるようにしたくて。やる気のある同年代が何人か来たら、一気に2、3人入れてもいいかなと。切磋琢磨できる関係性があるといいと思うんです」
「吹き」の仕事は、段階を踏んで進んでいく。最初は見て学び、やってみる。できるようになると、持ち場を与えられる。
すべてできるようになるまでには、何年もかかる人が多い。
「キャッキャってテンション上がって、何これ! みたいに感じてくれる人のほうが、教えがいがありますよね。先輩たちにとっても良い刺激になる」
「仕事なんだけど、遊び半分、みたいな。職人が昔、この仕事遊びみたいじゃんって言ってて。楽しいし金ももらえて飯も食える。超いいよね、って」
「最初は仕事を遊びだなんて言ってて、この人本気なのかな、って思ったんですけど。仕事している姿を見ていると目が輝いているっていうか。本当にガラスを楽しいと思っているからそういう言葉が出てきたんだなって理解しました」
はじめは、ガラスで遊びたいくらいの気持ちがいいのかもしれないですね。
「吹きガラスって体の使い方とかはスポーツだし、いわゆるホワイトワーカーとは真逆のようなことをしている。暑くて辛い部分はあるけど、汗かいてみんなでひとつの製品をつくるってけっこう面白いと思うんです」
出口さんはどんな人に来てほしいですか。
「一番はガラスが好きな人。ガラスに魅了されてる人。ガラスってすごいんですよ。ただ、その美しさの反面、製造工程が結構辛いというギャップはある」
「体力がそれなりにあって、ものづくりに対して興味がある人。好奇心を持ってたのしみながら、いいものをつくろうっていうソウルを持ってくれたら最高ですね」
ここで、作業場を見せてもらう。
中に入ると、もわっとものすごい熱気が。ガラスを溶かす窯が何個も並んでいるので、室温はかなり高い。ずっといるのは辛そうだ。
吹きの職人たちは、それぞれの持ち場できびきびと自分の仕事をしている。分業体制で、一本の竿をバトンのように回していく。
チーム競技だけど個人競技でもあるような。スポーツでたとえると駅伝みたいなものかもしれない。
「こんな熱さなんでね。変な話、金稼ぐだけだったら、別の仕事でもいい。それでも結構ね、最近頑張って会社的にも給与を上げてるんで。結婚した従業員はみんな家と車買うんですよ。それが一番うれしかったりします」
続いて話を聞いたのは、20年目になるというベテラン社員の根井さん。
「昔はずっとアルバイトを転々としてました。飲食やら警備やらいろいろと」
「たまたま、中学のサッカー部の後輩がここで働いていて、雇ってくれないかなって話したら、トントンと進んで働くことになったっていう。人生偶然ですよね、ほんと」
ガラスのことはまったく知らなかった根井さん。根っからの素人で入社した。
「いざ働いてみたら、こうやってガラスを切ってるんだとか、どんどん楽しくなってきちゃって。のめり込んでいきましたね」
最初は吹きではなく、ガラスを加工する担当だったそう。吹きの仕事を見るうちに、自分も吹いてみたいという気持ちになっていった。
休憩やお昼の時間、職人がいない間に「ちょっとやらせてもらっていいですか」と、自分でやってみる日々。
入社して半年が経ったころ、根井さんに吹きに来ないかと声がかかった。
「隙あらばずっと吹きに行っていたんで(笑)。バイトもいろいろやってきましたけど、こんなに夢中になるのははじめてで」
「天職じゃないですけど、偶然後輩と出会ったことでいまこうやって働いてるって、ほんと奇跡ですよね。20年経っても、めちゃくちゃたのしいです」
いまもたのしい?
「たのしいですね。もちろんめちゃめちゃ熱いです、汗びしょびしょになるし。尋常じゃないですよ。北海道に住んでると体感できないくらい」
「でもそれよりも楽しいが勝っちゃってるんですよね、僕の場合は。もう20年やってるから、つくったことのない形は少ないんですけど、それでもたのしいです」
なにが根井さんのたのしさになっているんでしょう。
「壺の中に入ってるドロドロのガラスの具合って毎日ちがうんです。なので、ガラスに合わせて各ポジション何かしらやり方を変えているんですよね」
「傍から見れば同じ動きだけど、竿を回す回転の速さとか、息を入れるタイミングとか。微々たるもんですけど、竿から伝わってくるガラスの柔らかさで変える。それが面白いんだと思います」
まさに職人技という感じ。先輩は聞いたら教えてくれるけれど、基本的には「見て覚える」スタイル。
言葉で伝えられない何かがある、ということだ。
「見て真似てみて、それをアレンジして自分のやり方にする。だからよく見たほうがいいよって後輩には言います。やってみることも大事ですけど、まず見る」
見て真似して、自分のやり方を確立していく。あとはそれを自分の体に染み込ませるように繰り返すのみ。
ふと手を見ると、根井さんの手の平はマメだらけだ。
「竿を回すのでどうしてもできるんですよね。あとはちっちゃいガラスが飛んでくるんで、火傷もあります」
辞めたいと思ったことは一度もない、と力強く話す根井さん。「クビと言われなければ、骨を埋めます」というほど。
「簡単な仕事ではないので、覚悟は必要です。あとは体力のある人が来てくれたらいいなと思います。一緒にいいものをつくっていきたい」
「あ、そういう意味では、次に話す人は僕のなかではライバル的な存在なんですよ(笑)。センスがあって、なんでもすぐできる。1年後輩なんですけど、いい意味で刺激になってます」
そんな根井さんのライバル・安部さんは、職長を務めているクールな人。落ち着いた雰囲気だけど、静かな熱さを持っている。
「高卒で入りました。ものづくりは好きで。ただ当時は何にもやる気がなかったんです。でも働かなきゃいけない。しょうがなく就職活動していたなかで、たまたま拾ってもらったのがここでした」
最初は吹かれたガラスの加工担当を。その後吹きに興味を持ち、休憩の合間などに練習をはじめた。
「入って半年ぐらいで吹きに移動しました。面白いのは、0から形にしていくことですね」
「へんてこりんなやつでも出来たらうれしくて。どんどんどんどんハマっていきました」
吹きにもいくつかの段階がある。まず吹きの作業が完了したものを冷やす機械に入れる「運び」を経験し、その後ガラスを竿にうまくつけられるようになったら「玉取り」という段階を任せられる。
それができるようになると、徐々にメインの吹きの作業を任されるようになっていく。上手い人は半年や1年で上がっていくけれど、ひとつ習得するのに数年かかる人もいる。
「練習したらうまくなりますし、してないやつはうまくならない。それがわかりやすくて、俺的にはよかったですね」
安部さんはどれくらいで上がっていったんですか?
「あんまり自分で言いたくはないですけど、早いほうだったと思います。根井さんも早かったですね」
「やる気と、仕事になるかならないか。いまやってる人より上手であれば、交代したほうがいいってなるじゃないですか。きびしいですけど、いい品物をつくるにはそうなっちゃいますよね」
吹きの難しさって、どういうところなんでしょう。
「そうですね… 溶けた状態のガラスをタネっていうんですけど、タネの状態とか柔らかさを感じることですかね。型と同じぐらいの大きさに合わせるために、息を調節して回す。これが難しい」
「なんとなくの形にするなら多分みんなできるんですよ。それを商品レベルにするには、技術が必要になるのかなと」
今日安部さんが担当していたのは、切子の生地をつくる作業。
お椀型の鉄のなかに一色目のガラスを吹き込み、そこに別の色のガラスを入れて吹くことで、二層に重ね合わせる。これは外被せと呼ばれる技法。
この生地を切子職人に卸しているのが、深川硝子工芸の大きな特徴でもある。
「外被せの生地を吹ける会社が、日本でうち含めて3~4社しかないんです。クリスタルガラスになると、うちともう2社しかない」
「切子の事業者でいうと、知っているだけでも東京近郊で50社、全国で70社くらいあるんじゃないかと思います。それだけ重要なものづくりもしているということですね」
ここで、安部さんがショールームに並んでいる商品のなかからあるものを指して話してくれた。
「あそこに玉足ワイングラスっていうのがあるんですけど、あれは台の上に丸い玉がついてるんです。丸い玉をつくるのが難しいんですけど、それを僕ができるようになったんですね」
「それを商品として出してくれることになって。自分で練習してできたものが商品になったのはうれしかったですね」
安部さんはどんな人と一緒に働きたいですか。
「ガラスにどっぷりはまってくれる人がいいですね」
ガラスにはまってくれる人。
「仕事として割り切ってる人もいて。それだと面白くないんじゃないかなって。もっとたのしんでほしい」
「最初は仕事として入ってきてもらって、だんだんとたのしさに気づいてくれればいいなって思います。熱くてきついので、変に夢を持って入ってしまうと、ちがうなってなっちゃうので。ガラスの深い話を一緒にしたいですね」
北の大地の硝子工房では、日々職人たちがそれぞれの技術を高めながら、ここでしかできないものづくりに励んでいます。
熱さや技術、簡単なことではありません。それでも壁を超えた先には、たのしさや面白さ、そしてやりがいがある。職人仕事だからこそ感じられるものがあると思いました。
チャレンジするのは、今だと思います。
(2024/10/01 取材 稲本琢仙)