1956年に創業した八清(はちせ)は、不動産・建築の会社。
京町家を中心とした中古物件の再生事業を展開し、住宅をはじめ、シェアハウスや旅館など、さまざまな物件を企画、改装、販売してきました。
物件を仕入れたあとは、一人の担当者がプロデューサーとなって、企画から販売までを担当します。みんなが自分の個性を出して、ユニークな物件を数多く生んできました。
事業も働き方も、自分たちがワクワクするようなことを仕掛けてきた八清。
今回は、建築ディレクション部で働く人を募集します。
主な役割は、プロデューサーとともに物件を企画し、設計士さんや大工さんと連携して具体的にリノベーションしていくこと。なかには、設計から自身で担当しているスタッフも。
京都と建築が好きな人にはもちろんのこと、関われる範囲が広いのも魅力的な環境です。
そもそも、「京町家」とはどのようなものなのか。
八清では、「昭和25年11月以前に伝統構法で建てられた京都の都市部にある建物」のことを京町家として定義している。
面白いのは、間取りや構造に、“職住一体型”と言われる京都の暮らしが反映されていること。たとえば、通りに面した部屋を「ミセの間」と呼ぶのは、そこで商いをするために使われていたから。
表の格子の種類によって、糸屋さん、酒屋さんなど、その家の仕事がわかるようになっていたという。なかには泥棒よけの意匠もあるのだとか。
新幹線のなかで下調べをすませて京都駅へ到着。さらに地下鉄烏丸線に乗って2駅、四条駅で降りる。
パッと開けた大通りは、京都駅から北へおよそ6.6キロ続く烏丸通。オフィスビルや商業施設が並んでいて、にぎやかな雰囲気だ。
駅から3分ほどの場所に、八清のオフィスを見つけた。大きな窓のファサードが特徴的で、不揃いな色のタイルも可愛らしい。
近代的な大通りに比べて、八清のオフィス周辺は、昔ながらの落ち着いたまち並みが広がっている。京町家を改修したカフェや宿泊施設など、個性的なお店も多い。
さっそく中へ入り、3階の打ち合わせルームに案内してもらう。
はじめに話を聞いたのは、代表の西村さん。
「八清のはじまりは、僕の祖父が繊維製品の卸売会社として立ち上げたこと。だんだんと着物文化が薄まるにつれて不動産業に切り替えて」
「親父が会社を引き継いでからは、中古住宅の再生・販売を中心とした、現在の事業モデルへと変わっていきました」
西村さんが入社したのは2005年。当時は、一つの物件に対して営業部と工務部は分業制。営業が物件を仕入れてくれば、工務部に物件づくりを任せ、完成したら営業が販売するという流れだった。
「でも、営業は企画から関わった物件を販売できたほうが熱量をもって説明できるし、設計した人間もダイレクトにお客さんの顔が見れたほうがうれしいと思うんですよね」
「その仕組みをつくるためにも、営業部と工務部を一つの“暮らし企画部”にして、2011年ごろにプロデューサー制度をつくりました」
プロデューサー制度?
「一人の担当者に、一つの物件の企画から設計、販売までを一気通貫で任せる。その人の好きなように、煮るなり焼くなりしてもらうんです」
たとえば、築40年ほどの物件のレトロな雰囲気を活かすため、壁の仕上げをすべて塗装仕上げにしたり。階段に赤い絨毯を敷き、モザイクタイルなどを使用して、大正ロマンを感じる豪華な空間にしたり。
「この制度をきっかけに、さまざまな設計士とコラボレーションする文化が生まれました。再生事業といっても、ただ直すということではなく、プロデューサーそれぞれの遊び心が出た、特色のある物件ができていったんです」
そのほかにも、海外のお客さんからの需要が高まるにつれて、外国語が堪能なスタッフを募集し、グローバルチームを設立するなど。新しい仕組みをつくり、さまざまな展開をしてきた八清。
現在、事業の根幹は3つ。
京町家や古いビル・マンションなどの売買と賃貸運営、そして管理。
たとえば賃貸運営でも、共有のリビングを持つようなコレクティブハウスや、飲食店、コワーキングスペースなど、さまざまな用途で貸し出しをおこなっている。
「八清とは別に会社を立ち上げて、別荘などの空白期間を活かす、サブスク型のタイムシェアリングというプラットフォームも構築しました」
「貸し出す人を5組ほどに固定することで旅館業にはならず、清掃業者さんを入れる必要もないんですね。予約管理やチャットなどができるシステムを全国の不動産会社に売り込んでいる最中です」
今回募集する建築ディレクション部も、ここ数年の間に新しくできた部署。
会社として伝統構法の知見を蓄積していくためにつくられ、主な役割は、暮らし企画部のプロデューサーとともに、物件を一からつくりあげること。
「彼らには現場管理の仕事だけでなく、プロデューサーと協力しながら、自分で仕掛けて一から物件を企画・設計していったらいいよって言ってるんです」
「それはそれで面白いじゃないですか。メインの役割はあるけれど、設計できるチャンスはできるだけ提供したいと思っているんです」
自分から仕掛けていく。
西村さんが大切にしている価値観は、事業にも仕組みにも反映されているし、建築ディレクション部で働く人にとって、ひとつの指針になると思う。
新しく入る人はどんな仕事をするのだろう。
入社3年目の遠藤さんに聞いてみる。もともとは建設会社で戸建てやマンションをつくる大工の仕事をしていたけれど、昔ながらの建築に関わる仕事がしたいと思い、八清に入社した。
「大工として働いていたときは、お客さんと話す機会ってあまりなかったんですけど、建築ディレクション部に入ってからは、人と話す機会が格段に増えました」
「工事前や最中の近隣ご挨拶も大切な仕事のひとつです。新しく住む方が気持ちよく住んでいけるように、誠実に向き合う姿勢が求められるんです」
仕事はどのように覚えていったのでしょうか。
「まずは京町家のことについて学ぶために、先輩に同行してアフターメンテナンスの仕事から覚えていきました」
「出来るだけきれいな状態に仕上げているんですけど、古い建物なので、水漏れや動物が入ってしまうこともあるんですね。簡単なものであれば自分たちで直して、そのほかは業者さんを呼んで対応します」
慣れてきたら3ヶ月ほどで、改装物件のディレクションに関わっていく。
まずは暮らし企画部のプロデューサーと一緒に物件を見て、規模や状態からどのように改装するかを検討。
イメージに合う設計士をアテンドできたら、コンセプトを企画書にまとめ、具体的な工事に移っていく。
「私たちが扱う物件は、日本に古くから伝わる伝統構法でつくられた建物が多い。いま主流になっている在来工法とは、考え方がぜんぜん違うんです」
「在来工法は、基礎と建物を金具でがっちり留めて、揺れがきても耐えるようにします。一方で、伝統構法は免震という、地震の波を逃す考え方。基礎と建物が留められていなくて、土台となる玉石の上に柱が乗っているだけなんです」
改装する際に、在来工法の考え方をそのまま実践してしまうと、地震の力を逃すことができなくて、かえって危険になることもある。
そのため、柱が玉石から落ちないようにコンクリートで補強したり、傾いている柱を垂直に戻したり。伝統構法の特性を理解したうえで、安全かつ快適に住んでもらえるように調整していく。
遠藤さんが初めて企画を手掛けたのは、上京区にある物件。
5棟ある連棟長屋のうちの1棟で 最大で4人ほど住める広さがあったことから、ファミリー層の住宅利用をターゲットに考えていった。
「改装する前は、ただの茶色い外壁に出格子もついていなかったので、あまり町家らしくなかったんです。となりの町家は白い壁に出格子もついていて、雰囲気がありました。それらに寄せるように外装も漆喰で塗り直して、内装も明るい色を中心にナチュラルな雰囲気に仕上げました」
「京都は路地が多くて、大型のトラックで材を運び入れることも難しいんですね。だから現場で職人さんたちがすべてつくりあげていくんです。初めはボロボロだった物件がピカピカに出来上がっていくのを見ると、その技術の高さに驚くし、見ていて楽しいですね」
最後に話を聞いたのは、2018年に入社した建築ディレクション部の鎌田さん。
大学で古建築について学び、前職では建築模型をつくる会社で15年ほど働いていた。
「自分で考えて図面を描いて、手を動かして形にしていく。一からすべて関わることができるので面白かったんですが、やっぱり実物にも関わりたいと思って。そのときに八清を見つけました。もうここ以外は考えられなかったですね」
印象に残っている物件について聞いてみると、ある古民家を紹介してくれた。
そこは京都駅から電車で20分ほど離れた場所で、まちなかに水路がめぐる静かな住宅地。
少し中心地から外れていて、のどかな時間が流れている場所だったため、セカンドハウスを想定し、物件のコンセプトを考えていった。
「ここは築90年以上の物件で、床の間に当時の柱が残っていたり、天井にも放射状の意匠が残っていたり。比較的状態のいい物件でした。できるだけその雰囲気を残しつつ、修復する形で進めていきました」
たとえば、駐車スペースはもともと庭の一部だったという。
立地的に車を置けたほうが利便性も高まって暮らしやすいこと。また、すぐとなりが風呂場になっており、木々を取り除くことで陽の光もよく入るようになることから、大胆に改修した。
「うちの会社は、やりたいって声を上げたら結構任せてくれるんですよね。そこが面白さでもあると思っていて。僕自身も、設計から関わっている物件が現在進行中なんです」
「一方で、売れる物件をつくらないといけないという重責もあります。個人の裁量が大きいぶん、自分で計画的にまわりを巻き込んでいける人だと、面白いんじゃないかな」
代表の西村さんは、今後の展望についても話してくれた。
「ゆくゆくは、僕らがつくった物件を通して、住む人も地域の人も、すべてのステークホルダーを巻き込んで、京都をより魅力的なまちにしていきたいと思っているんです。それを八清ワールドと呼んでいて」
「構造設計の知見も深めて、伝統構法のなかでもさらに特別な領域の数寄屋づくりに挑戦したいし、町家以外でもより古い建築を安全に住めるようにリノベーションしていきたい。本当に建築が好きで、楽しみながら働ける人が来てくれたらうれしいですね」
代表だけでなく、スタッフも主体的に動いている人が多い印象の八清。
それぞれの人柄もあると思うけれど、事業の全体が見えていて、かつ関われる範囲が大きいことも理由だと思いました。
自分ならどうやって企画するだろう、どうやって工事を進めるだろう。
京都のまち並みを自由に継承していく仕事。やりがいは大きいと思います。
(2024/11/14 取材 杉本丞)