「生まれ育った地元や今住んでいるまちに、愛着はありますか」
そう聞かれたら、どう感じるでしょう。「落ち着くけど、田舎で何もないからなあ」とか、「ありきたりなベッドタウンで個性がないんです」というように、何か一言添えたくなってしまう気がします。
では、質問を変えて、「地域に好きなお店や会いたい人はいますか」だったら?
これなら少し答えやすくなりそうです。まちをまるごと好きにはなれなくても、お気に入りのお店ならある。会いたい人はいる。
愛着って、そんな小さなつながりから育まれるものなのかもしれません。
「ぎゃんすき!あらおちゃん」は、熊本県荒尾市の公式メディアです。荒尾で開催されるイベントの様子やユニークなスポット、活動している人のインタビューなどを親しみやすく発信しています。
「ぎゃんすき」とは、とても好き!という意味。人口流出や少子化が進むなか、まちに愛着をもって関わる人が増えてほしい。そんな想いで運営してきました。
今回は、このメディアに携わるパートナーシップ・コーディネーターを募集します。
スポンサーの新規開拓をはじめ、スポンサー同士をつなぐイベントやワークショップの企画運営、企業版ふるさと納税の活用など。メディアを持続的に運営していくために、企業・団体との関係を育てていくポジションです。
市の公式メディアでありながら、軽やかで自由な世界観はどんな人たちが生み出しているのか。話を聞きに行きました。
福岡との県境に位置する荒尾市。
地名に馴染みがなくても「グリーンランド」があるまち、といったら伝わる人も多いかもしれない。九州最大級の遊園地で、アトラクション数は日本一といわれている。
歴史的には炭鉱業で栄え、お隣の福岡・大牟田市とのあいだには世界文化遺産の「万田坑」が残る。また、ラムサール条約に登録された荒尾干潟など、豊かな生態系の広がるまちでもある。
そんな荒尾市に2年前に移住してきたのが、「ぎゃんすき!あらおちゃん」編集長の纐纈(こうけつ)さん。荒尾市役所の一角で話を聞いた。
纐纈さんは、日本文化の発信や場づくり、自治体公式メディアのプロデュースなどを手がけるAnbai株式会社の一員。地域活性化起業人として、「あらおちゃん」の立ち上げから関わってきた。
「我々は、一言でいえば文化を育てる会社です。その文化はどこから生まれるかというと、人がつくるんですよね」
人が、文化をつくる。
「よくメディアだと、何かを成し遂げた人が取り上げられがちだと思うんです。そういう人たちがつくる文化ももちろんあるんですが、いわゆる一般の人、市井の人たちの暮らしや営みが、地域の文化をつくっていると思っていて」
「そこに光を当てて、みなさんに知ってもらう。いいなと思ってもらう。愛着を抱くきっかけをつくっていくことが、文化の進展につながる。そんな考え方を根底に持っているということを、まずお伝えしたいです」
たとえば、と言って見せてくれたのは、あらおちゃんで紹介している一本の動画。
「友だちの家の隣に住んでいるおばあちゃんを訪ねて撮影したんです。庭に生えてるロウバイの枝をめちゃくちゃダイナミックに切ってくれて、ひとり一本ずつもらって帰る。ただそれだけの動画なんですけど」
今はおばあちゃんひとりで住んでいること。福岡に住む息子さんの「近くに住んでほしい」という誘いを断っていること。
それは、亡くなった旦那さんが残したロウバイや日向夏、この地域に思い入れがあるからだということ。
庭で立ち話をしているだけの素朴な動画だけど、なんだか観たくなる。帰り際におばあちゃんが放った「またどうぞ。あるもんでよければ」の一言にも、ぐっときてしまった。
「こういうのを観ると、ちょっと安心感湧きません? 擬似的に知り合いになった感じがするというか。地域に対する愛着って、こういう『なんかいいな』って感覚から芽生えていくものだと思うんです」
ほかにも荒尾の方言を取り上げた投稿や、荒尾で活動する人を紹介する「どぎゃんひと?こぎゃんひと!」のコーナーを覗いてみると、地元の人を中心に多くのコメントがついて盛り上がっている。
発信はWebサイトのほか、Instagramのショート動画が中心。
立ち上げから1年半が経ち、Instagramのフォロワーは9500人超に。主催イベントには年間で2700人が参加するなど、着々とファンも増えている。
荒尾にゆかりのある人たちが、地元に愛着を感じたり、離れていても思いを馳せたり。そんなきっかけをつくるだけでも、自治体公式メディアとしての意義はあると思う。
ただ、あらおちゃんの目的はそれだけではない。
荒尾市では近年、とくに若年層の転出が増えていて、少子化の加速が懸念されている。この課題も、メディアを通じて解決していけるんじゃないかと纐纈さんたちは考えている。
「一度地元を離れたくなるのは自然なこと。自分も岐阜のド田舎出身なので、その気持ちはよくわかります。それでも『やっぱり地元もいいな』と思ったときに、近況を知ったり、関わり直すきっかけをつくれるのがメディアのよさなんですよね」
少子化の流れを変えるには時間がかかる。成果を出すには、メディア運営を長く続けていくことが欠かせない。
そこで今回募集するのが、パートナーシップ・コーディネーター。
スポンサーの新規開拓や、スポンサー同士をつなぐイベントやワークショップの企画運営、企業版ふるさと納税の活用など。メディアを持続的に運営していくために、企業や団体との関係を育む役割を担ってほしい。
「営業的な側面もあります。ただ、飛び込み営業ではなくて、すでに主催イベントのスポンサーになっていただいている企業さんもありますし、あらおちゃん自体の認知も広まってきています。そのなかで賛同していただける方々とのパートナーシップを広げていくようなイメージです」
たとえば、新商品の開発に若者の視点を取り入れたい食品会社があったら、市内の高校生や県内の大学生とのコラボレーションを実現させたり。企業向けにSNSマーケティングのセミナーを開催したり。
あらおちゃんの運営を通じて築いてきた関係性やノウハウを活かして、スポンサーとなるメリットを感じられるような取り組みを展開していく。
はじめは纐纈さんと一緒に、スポンサープランを練るところから。地域を知るために、メディアの取材同行や、イベントの企画運営をサポートする機会もあると思う。
「自由度は高いですね。発信担当の中島さんも、子どもたちのお仕事体験みたいな企画をやるために、警察署や消防署に交渉するところからやっていて。決められた仕事をするというよりは、自分で考えて動ける人じゃないと大変だと思います」
続いて発信担当の中島さんに話を聞く。荒尾出身で、この仕事を機にUターンしてきた方。
「専門学校までは熊本にいて、卒業を機に神奈川に行きました。これをやりたいとかじゃなく、ただ田舎もんの考え方で、一回出てみたいなっていう気持ちで。仕事も決めずに身ひとつで行ったんです。行動力はあるので」
「3年ほどしか住まなかったんですけど、便利なように見えて、都会も不便なんだなって」
不便?
「お買い物とか食事の選択肢はいっぱいありますけど、自分の生活スタイルは結構アウトドアなので。キャンプに行ったりバーベキューしたり、旅行したりするには、九州のほうが便利。海外も好きで、アジアに行くなら熊本からのほうが近いんです」
今は持ち前のフットワークの軽さを活かしつつ、一度離れたことで見えてきた荒尾の魅力を日々発信している。
関わりはじめて1年。これからやりたいことがあるという。
「取材先の人と人をつなげるのが今年の目標なんです。たぶんこの人は、前に取材したあの人と気が合うだろうなとか、イベントに呼びたいなって思うことが結構あって」
「スポンサー集めも、大きな企業だけじゃなくて、取材で知り合った小さな居酒屋さんや、個人でがんばっている人にアプローチすることもできるかなって。そういうところで、これから入ってくる人とも協力できたらいいなと思っています」
今回は、企業や団体などを相手に、しっかりと対応できる人を求めたい。その一方で、中島さんが取材を通じて築いてきたお店や個人とのつながりも大切なもの。
メンバーそれぞれの関係性を活かし合い、多様なパートナーシップを編んでいくことで、メディアの運営もより持続可能になっていく。
交流担当としてイベントの企画運営をしている岸川さんは、お隣の大牟田市出身。本業のデザインに加えて、高校時代から続けてきた音楽分野でのつながりが今の活動にも活きているそう。
「地元が好きだったかというと、そこまで正直好きではないんです(笑)。ただ、高校時代から音楽でつながってきた人たちがいて。そのお世話になった人たちに恩返しがしたいと思って帰ってきました」
夕暮れの干潟を背景に、DJブースから流れる音楽やコーヒーを楽しめるイベント「ヒガステ」や、ショッピングモールの駐車場を一日限定で広場にする「アラオお花見ピクニック」など。
着任から1年足らずでさまざまなイベントを実施してきた。
これから入る人とは、スポンサーに向けたイベントやセミナーの企画運営で関わる機会が出てくると思う。
岸川さんは、どんな人と働きたいですか。
「端的に言うと、人が好きで、行動力があって、ポジティブマインドな人。たとえば都市部だとリモートで完結するやりとりも、こっちだとうまくいかない場合がどうしてもあって。自ら足を動かして会いにいく場面も多いと思います」
「あとは、この仕事って正解がないんです。そこは一番ギャップだったというか。編集長の纐纈さんやチームでも相談しつつ、自分でも目標を決めて、動く。そういう環境であることは覚悟してもらったほうがいいかもしれません」
纐纈さんも言っていたように、自由度が高い環境。互いに協力するチーム体制もありつつ、それぞれ役割が異なるので、自分で考えて進めていける人を求めたい。
ちなみに岸川さんも中島さんも、地域おこし協力隊の制度を使って活動中。
基本はリモートワークで、取材やイベントの打ち合わせで出かけたり、自宅で作業したり。週に1、2回の市役所でのミーティング以外は、好きな場所で働いている。
3年の任期後は独立してもいいし、Anbai株式会社の社員になる道もあるとのこと。この仕事で磨いた編集力・企画力は、きっとその先の生き方・働き方の幅を広げてくれると思う。
働き方も仕事内容も、協力隊というより会社員のような感覚に近い。経験やスキルだけでなく、自立して働く姿勢が大事なのだとあらためて感じる。
メディアが成長してきたことで、SNSのアンケート機能を使って市民の声を掬い上げたり、地域活動のボランティアスタッフが集まりやすくなったり。
少子化対策以外にも、さまざまな効果が生まれはじめているようです。
パートナーシップ・コーディネーターも、想定されている役割や目の前の課題だけには向き合うのはもったいない。ぜひ新しい仕事をつくっていってください。
(2025/03/26 取材 中川晃輔)