まちなかでメインの通りが清洲橋通り。
そこから一歩入ると、お寺や地元の病院やお花屋さんが並ぶ路地や、メキシコ料理店やカフェなど個性あるお店が続く路地など。
今回向かうのは、そんな路地にあるお店。入り口には「AS A BIRD」と書かれたのれんと正方形のライトが。
同ブランドのディレクター・藪崎(やぶざき)さんが、お店に迎え入れてくれた。
ガラスのドア付近には、レザーのシューズがチラリと見え、中に入ると、目の前にシンプルなシューズが並び、色とりどりのソックスやキャップが丁寧にディスプレイされている。
2024年に清澄白河にオープンした「AS A BIRD(アズアバード)」の直営店舗、「AS A BIRD Atelier & Weekend Store」。
運営会社BIRD PROJECTSの代表を務め同ブランド創業者の藪崎さんは、靴職人・シューズデザイナーとして20年以上のキャリアを持つ方。専門学校の講師も勤め、つくる側から伝える側へ活動を広げている。
—- ブランドとお店について教えてください。
「AS A BIRD」は旅をモチーフに生まれたブランドです。平日はアトリエでクライアントからいただいた案件のデザインやものづくりをしているので、この直営店は週末限定でオープンしているんです。
初めて旅をしたのは、10歳でした。当時はバスケ少年で、マイケル・ジョーダンが活躍していたころ。その時期に、父がアメリカのサンフランシスコに連れて行ってくれました。日本にはないシューズをたくさん見て、この世界は面白いぞって。
そこからファッション性だけじゃない靴のカルチャーや機能にハマり、自ずとシューズデザイナーになりたいと口にしていました。
大学1年生で、イギリスへ一人旅に出ました。せっかくなら現地の靴工場にも行ってみようと、直接足を運び、そこで見せてもらったのが、イギリス王室向けにあつらえられていたハンドメイドの革靴の製造現場。言葉は通じないんだけど、丁寧に見せてくれたんですよ。そのプロセスがすごく面白くて。
旅から帰ってきた後も、大学の近くにあった靴工場に行って、なんでもするので使ってくれませんかってお願いして、18歳のときから革靴をつくりはじめました。
大学を卒業した後は、日本の大手靴メーカーで12年間ほどインハウスデザイナーとして活動していました。年間の3分の1〜4分の1くらい、海外へ出張していて。旅をするように生活していたんですよね。
そのときに思ったのが、日々好きなものを買い集めても、結局使っているのはスーツケースの中にあるものだけだなって。そして、自分が信頼を置いているものだけが詰め込まれている。そんなふうに信頼を置けるものをつくるコンセプトのものづくりがやりたい、と思ったんです。
2020年のコロナパンデミックの最中に独立しデザイン事務所を設立、大手からのデザインを受託する事業を行いながらサイドプロジェクトとして自社ブランドの立ち上げの準備を始めました。2023年11月にAS A BIRDプロジェクトをローンチ、直後の2024年4月にオープンしたのがこの直営店です。
—- どんなふうにブランドをつくっているのでしょう?
自分がスーツケースに詰めたいものを丁寧につくりたい。そして大手ではつくれないような難易度の高いものづくりのこだわりを同時に表現したくて。
AS A BIRDの製品は、旅に便利な機能性に加え、素材の不均一さも天然素材ならではの楽しみを味わってもらえるようなアイテムを提案しています。
たとえば製品に刻むアイコン。旅のお守りの石とも言われている、天然石のターコイズを使っています。シューズはブランドロゴを前面に押し出さず、ターコイズのみを使用して。右左で石の柄も模様も形もちょっとずつ違うし、経年変化するんですよね。1番大事なポイントをあえて不均一なものにするのはチャレンジでした。
財布、ぜひ見てみてください。これも革からつくっていて。一つの革でも、端っこと真ん中部分だと出来上がりが全然違いますよね。
こうやって実際に伝えたり触ってもらったり。30分くらいじっくり話すんですよ。
ただ製品が並んでいて美しいから買う、だけじゃなくて、スタッフと一緒に選んだ記憶も製品に宿ると思います。
はじめは製品に興味を持って来店してくれた方も、話すうちにスタッフとの関係性ができて、スタッフに会いにきてくれるようになる。またお客さんからスタッフになってくれる子も出てきました。
僕らのブランドってそういう「人影」も価値のひとつだと思っていて、大切にしていきたいですね。
—- 今後はどんなことを考えているんでしょう?
この1年半は、ブランドをゆっくり育てていました。これからは、ブランドを表現する場としてのお店も強化もしながら、海外へ販路を広げていきたいと思っていて。ちょうど4月の上旬にイタリアの展示会へ出展します。
僕と現状のストアスタッフだけではだんだん手が足りなくなっていて、新製品の開発が遅れている部分もある。でもお店は、お客さんが体験できる場所であるのできちんと強化していきたい。なので、お店と僕の相方になってくれる店長さんを含め、この事業の運営をサポートしてくれる方を複数のメンバーを募集しています。
ブランドづくりもお店づくりも何が足りないかっていうのをスタッフで意見を出し合いながら、テストしてつくる、を繰り返していて。
小さなお店なので裁量大きく好きにチャレンジできる。ブランドをよくするための持ち込み企画も歓迎ですね(笑)
—- 最後に、藪崎さんにとって「自分の仕事」ってなんでしょう。
叶えたい夢や目標があって、それに対して、「いいね」って言ってくれる人が僕の周りにはいました。だから挑戦を続けられたんです。
僕たちも誰かを応援する気持ちを持って仕事をしたいという想いがあって。
AS A BIRDプロジェクトにとって「誰か」というのは、旅人であり、挑戦する人、なんですよね。
弊社で請け負っているデザイン受託事業もそう、何かを叶えたいというクライアントがいて、その力になりたいと思って活動しています。
その人たちへ届けるためにものづくりをしているし、会社やブランドも育てている。お客さんやクライアントさんだけでなく、ここで働くスタッフも。応援したり、応援されることも楽しめたり。
挑戦する人を応援することが自分の仕事だと思います。
(2025/03/18 取材 大津恵理子、荻谷有花、中野悟史)
このコラムは、わたしたちのオフィスがある東京・清澄白河でさまざまな人に会いに行き、「自分の仕事」のヒントをあつめる企画です。