求人の仕事をしていると、さまざまな職種の方に話を聞きます。
素敵だなと思うのは、自分の仕事を楽しそうに語る姿。
誰かの役に立っている実感や、自分の能力が活きていると感じられること。
そんな働きがいのある、人間らしい仕事を「ディーセント・ワーク」というのだそう。
ディーセントワーク・ラボは、障がいのある人も、ない人も、すべての人が働く喜びや安心を感じられる社会を目指すNPO法人です。
取り組んでいる事業は、障がい者雇用のコンサルティングや、障がい者の工賃を上げるための伴走支援。イベント企画や、インクルージョンをテーマにしたフェスの運営など多岐にわたります。
今回は、「企業向けの障がい者雇用コンサルタント」と、「コミュニティカフェの店長」、「福祉事業所(B型)の伴走者」の3職種を募集します。
共通するのは、すべての人が働きがいを持てる社会をつくる、という想い。
経験や知識は問いません。自分だったらどう関われるだろう?と想像しながら、読み進めてみてほしいです。
東京・大岡山駅から歩いて3分ほど。
駅近くのマンションの一室に、ディーセントワーク・ラボのオフィスがある。
中に入ると、リビングスペースに机がずらり。
福祉関係の本が並ぶ棚には、Happy Birthdayの飾りがついたサングラスや、スタッフが描いた落書きが飾ってある。
「うちの会社は誕生日を大切にしていて。サングラスはお祝いのときにスタッフがつけることもあるんですよ」
教えてくれたのは、4年目になる奥山さん。写真を撮られるのって緊張しますね、と少し照れながら取材に応じてくれる。
奥山さんは大学で福祉を学び、社会福祉士の資格を取得。入社のきっかけは、ゼミの先生の紹介だった。
「重度の知的障がいのある妹がいて、福祉はずっと身近な存在でした。ディーセントワーク・ラボを知ったとき、福祉だけどビジネスの視点を持っているところに惹かれたんです」
ディーセントワーク・ラボは、福祉事業所で働く障がい者の工賃を上げる取り組みから始まった団体。
2013年に法人化し、企業や行政をクライアントにさまざまな事業を展開している。
その一つが、企業に対する障がい者雇用支援。
「障がい者の法定雇用率は年々上昇していて。企業としては雇用しないといけないけれど、そもそもどんな仕事を任せていいかがわからない。採用しても職場に馴染めず辞めてしまうなど、いろんな課題があるんです」
それぞれの企業の状況に応じて伴走していくのが、障がい者雇用コンサルタントの仕事。
「僕が担当している企業さんの場合は、どんな人を採用するかを決めるところから関わっていて。今は、入社した人が活躍できる環境を一緒に整えているところです」
そこで重要になるのが、「合理的配慮」という考え方。
たとえば、マルチタスクが難しい人に対して、話を聞く時間とは別に、メモを取る時間をつくる。満員電車に乗るのが難しい人がいれば、出社時間をずらしてみる。
障がいの特性に応じて、働きづらさの要因を取り除くことで、力を発揮できる環境を整えていく。
「そのためには障がいのある方が、自分の障がいを理解してどんな配慮が必要なのかを伝えられるようにしないといけない」
「その上で、働く先となる企業の人も、合理的配慮の重要性を理解し、対話を通じてお互いの理解を深めていく必要があるんです」
対話の土壌を整えるため、説明会や当事者との面談を実施。配慮事項を記入するシートを作成するなど、職場内でコミュニケーションをとりやすくする仕組みづくりをすすめていった。
「いそがしいです(笑)。それに、この仕事で対峙している課題感って、決して明るく楽しいものではなくて。障がいを持ちながら働くむずかしさに悩んでいる方と向き合うこともあるし、人の中にある無意識的な偏見に触れることもある」
それでも、奥山さんが今の仕事に向き合っているのはなぜでしょう。
「障がいのある方って、困っていることがあっても、その原因がわからないことも多くて。自分を責めてしまうこともある。でも本当は、ちょっと意識や環境を変えるだけで、うまくできることも多い」
「『なんだ、これでよかったのか』って気づきがあると、ご本人の気持ちも軽くなったように見えるんです。それにちゃんと仕事で力になれていると感じられるとうれしいですよね。そんな瞬間に立ち会えると、この仕事をしていてよかったと思います」
こういう対話の重要性って、障がいがあってもなくても変わらないと思うんです、と奥山さん。
一緒に働く人の得意なことや苦手なことを理解して、個性を認め合う。
障がいのある人が安心して働ける職場は、すべての人にとって働きやすい環境と言えるのかもしれない。
障がい者の雇用について考えるなかで、新たに取り組みはじめているのが、学生向けのサポート。
「障がいのある学生は、アルバイトなど学生のうちから働く経験を積める機会があまりない。大学に馴染めず、授業を受けられない学生も少なくないんです」
障がいのある学生たちが気軽に集い相談ができ、ゆっくりと過ごせる場をつくりたい。
そんな想いで今年9月から、オフィス近くの商店街の一角にカフェをオープンする予定。今回は、この場所を一緒につくっていく店長も募集する。
「地域の人も、障がいのある学生も、誰もが気軽に利用できるカフェ 。そのなかで、 私たちが関わらせていただいている 企業の方も足を運んでくれる予定。企業と学生が交流する場にもなればいいなと思っています」
「僕たちもお店に頻繁に顔を出すので、悩みがある学生さんがいたら繋いでもらえるとうれしいですね」
悩みを抱えた人も、そうでない人も。さまざまな人が共存するカフェ。就業経験を積む機会をつくるために、障がいのある学生にもアルバイトに入ってもらう可能性もある。
マニュアルや、お店の体制などもこれからつくりあげていくところ。店長になる人は、一緒に カフェ の運営方法や 、この場所ならではの空間づくりや接客方法を工夫していってほしい。
「ときにはイベント用に店舗を貸切にして、学生向けのワークショップを企画したらよさそうかな、とか。アイデアを膨らませています」
カフェという場を一からつくる面白さだけではなく、障がいのある学生の居場所づくりや、社会進出のサポートができるのは、大きなやりがいになるはず。
「まずはコンセプトに共感して、一緒にかたちにしていきたいと思ってくれる人が来てくれるとうれしいです」
ほかには、どんな事業があるんだろう。
続いて話を聞いたのは、B型事業所の工賃を上げるための伴走型支援事業を担当している三浦さん。
仕事百貨の取材を受けるのはこれで3回目。リラックスした様子で話をしてくれる。
「B型事業所で働く障がいのある方の平均工賃は、毎週5日、10時から16時くらいまで働いても、1ヶ月で23,000円ほどなんです」
工賃が上がることで、障がい者の自立や、働きがいにもつながる。
そんな想いで始まったのが、福祉事業所とプロをつなぎ、福祉事業所の「手づくり」の価値を最大限に活かした質の高い商品づくりなどのサポート事業。
現在、ディーセントワーク・ラボでは行政からの委託を受けて、B型事業所の伴走型支援を行なっている。
「担当しているところの一つに、パンをつくって販売している足立区の事業所があって」
販路を拡大するためには、新商品や季節の商品の開発が重要。職員さんの異動が多い事業所でも技術を引き継ぎやすく、新商品開発がしやすいよう考えたのが、定番商品のロールパンにトッピングを組み合わせる丸パンサンドをつくること。
「ここのロールパンがすごく美味しくて。トッピングを工夫するだけなら、手軽に新商品をつくることができる。プロのパティシエに依頼して、パンに合うトッピングを考えてもらいました」
専門家と事業所をつなげるだけでなく、間に入ってコミュニケーションの仲介をするのも三浦さんたちの仕事の一つ。
たとえば、事業所が仕入れられる材料をリストにしてパティシエに伝えるなど、職員や利用者さんがつくりやすいレシピを考案してもらうように依頼したり、販促のためのポスターやPOPを作成するため、デザイナーと事業所を訪れたり。細やかな調整や気配りが求められる。
事業所によって課題も、必要な支援もさまざま。支援を進めるうちに新しい課題が出ることもあるから、その都度自分で考えて、柔軟に行動する力が大事だ。
「私たちの仕事って本当に地道だし、裁量も大きいぶん、自分で決めなくちゃいけないことがたくさんある。でも1年前の自分と比べて、今の自分のほうが成長しているって胸を張って言える」
現在は15の事業所に加えプロジェクト全体を統括している三浦さん。忙しい日々のなか、目の前の仕事の先にどんな未来を描いているんだろう。
「障がいがある人を受け入れる社会にしたいとか、そういうんじゃなくて。いろんな人がいるよねって、当たり前に思えるようになったらいいなと思っていて」
「たとえば美味しいパンがきっかけで、事業所のことやそこで働く人のことを知ってもらえるかもしれない。社会を一瞬で大きく変えることは難しくても、小さい変化を重ねていけたらいいなと思っています」
最後に話を聞いたのが、今年の4月に入社したばかりの佐藤さん。日本仕事百貨の記事をきっかけに、新卒で入社した。
「入社前から『うちは本当にいろんな仕事があるよ』って教えていただいていたんですけど、実際に働いてみたら想像以上でした(笑)」
ディーセントワーク・ラボでは、担当事業にとどまらず、さまざまな業務を分担することになる。
佐藤さんは、B型事業所の伴走支援をメインに、事業所へのヒアリングに同席したり、議事録をつくったり。それに加えて、ディーセントワーク・ラボが手がける雑貨ブランドの窓口業務や、SNSの運用なども担当している。
「相手のことを一番に考える人たちの集まりだなっていうのを日々感じていて。たとえば業務を頼むときも、私がちゃんとやりがいを感じられるように、その仕事が何のためのもので、どんな役に立つのかまで説明してくださる」
「いそがしい日々の中でも、相手を思いやる配慮を自然にできるのがすごいなって思っています」
対話を大事にしているのも、ディーセントワーク・ラボの特徴。新しく入る人は、社員全員と1on1で話をしてお互いのことを知る時間を設けている。
また月に1回、社員全員が集まって自由に話をする「ダイアログディ」という時間も。
今年は、「マインドフルネス」がテーマ。毎月、それぞれのメンバーが回の企画を担当し、仕事の向き合い方や、セルフケアの方法などについて、お菓子を囲みながら対話をする。
「こういう時間があるから、一緒に働く人たちが何を考えているかがわかるし、どんな人なのかも知れる。だからこそ、お互いへの思いやりに繋がるのかなと思います」
人を見て、ちゃんと理解しようとする。目の前の人に丁寧に向き合う人たちが集まっている環境だと思う。
障がいのある人も、ない人も。だれもが喜びを感じながら、安心して働く社会であれたなら。
ディーセントワーク・ラボでの仕事は、そんな未来のために、新しいものを生み出していく仕事。
自分で考えて道を切り拓く厳しさもあると思います。
それでも、何かを変えるために一歩踏み出す。そんな姿勢に共感したら、話を聞きにきてください。
(2025/02/21、2025/06/26更新 高井瞳)