「結婚式での利用をきっかけに、結婚1周年記念のお食事や、お子さまのお宮参り、初節句のお祝いなど。何度も来てくださる方が多いんです」
「お客さまが、いつまでも来続けられる場所を残したい。次の世代も、その次も、思い出を引き継ぐ特別な場所として、100年先もなくならないと約束をしているんです」
福岡・柳川。ここに「柳川藩主立花邸 御花(おはな)」という料亭旅館があります。
もともとは、武家屋敷だった場所が、伯爵邸に。そして今は料亭・宿泊施設と、時代に合わせて姿を変え、300年続いてきました。
明治時代に建てられた洋館と和館、日本庭園の「松濤園(しょうとうえん)」は当時の姿のまま残され、今では国の名勝となっています。
今回募集するのは、ブライダルプランナーとキッチンスタッフ、ハウスキーパー。
経験があっても、未経験でも、どちらもウェルカム。少数精鋭だからこそ任されることも多く、個人が大きく成長しやすい環境です。
御花の歴史を紡ぎながら、誰かの歴史もつないでいく仕事です。
100年先へ残すために現状維持ではなく新しいことに挑戦する、そんなマインドにピンと来たなら読み進めてほしいです。
福岡天神駅から特急電車に乗り、約1時間で柳川駅に到着。そこからバスで御花前へ。
全長900キロメートルあるという堀がある柳川。バス停から堀に沿って歩いていくと、見えてくるのが立派な門と館。
ここが御花。
およそ7000坪の敷地内には、日本庭園のほか、西洋館など5棟の建物がある。
今回話を聞かせてもらうのは、松濤館と呼ばれるホテル棟。40年ぶりの改装を経て、今年1月にリニューアルオープンした。
中に入ると、黒を基調としたキリッとした館内に、提灯のあかりが空間を和らげている。1年前に取材したときは、ワインレッド色の絨毯でラグジュアリーな印象だったので、大きく変わっている。
「リニューアルでは文化財の建物と松濤館の建物が、違和感なくシームレスになるようにデザインをしていただきました。新しくなった館内もぜひ見ていってくださいね!」
軽やかに迎えてくれたのは、代表であり立花家18代の立花千月香さん。大名の末裔という肩書を持つ一方、会話に花を咲かせてくれる気さくな方。
代表に就任後、コロナ禍に突入。一時的に御花の施設をすべて休業したなかで、将来に向けてさまざまなチャレンジを続けてきた。
松濤館の改装もその一つ。
「御花は、日本で唯一、国指定の名勝の中に泊まれる宿なんです。でもそれが全然知られてなかった。コロナ禍で国がマイクロツーリズムを推進したとき、『御花って泊まれるんだ』と知った県内の方もたくさんいらっしゃって、御花での宿泊の可能性を再認識しました」
「100年後まで御花を残すために、私たちらしさでもある宿泊棟を、ハード面もソフト面も持続可能なものにする必要がある。それが宿泊事業の再スタートのきっかけになりました」
スタッフのみなさんが、「自分たちがつくった」と感じられる宿にしたいと考えた立花さん。
リニューアルに向けて、2泊3日の合宿を開催。部署を超えてチームをつくり、アメニティや制服、サービス内容まで、改めて問い直す時間を設けた。
「100年後へつながるように、館内にどんなものがあったらいいかを一つひとつみんなで考えて。私が決めたものはほとんどないんです」
スタッフが自分ごととして宿をつくっていれば、サービスも変わってくる。
たとえば、宿泊するお客さんに向けて御花を案内する館内ツアー。
「とにかく文化財を楽しむ宿にしてほしいという想いから、毎日30分おこなうようにしていて」
「御花の歴史はもちろん、建物のインテリアや家具などは、みんなで決めたものなので、細かいところまで語れるんですよね。客室の外に目が向くようになったことで、チェックアウト時間のギリギリまで庭園やラウンジで過ごす方も増えました」
宿泊スタッフだけでなく、挙式のない日にはブライダルプランナーが施設を案内することも。さまざまな人が語ることによって、少しずつ視点も変わっていく。
ほかにも、もともと能舞台として使われていた大広間で、デンマークの世界的家具ブランド「フリッツ・ハンセン」の展示をおこなうなど、新しい発想の取り組みを続けることで、新規のお客さんも増えている。
今回募集するのは、ブライダルとキッチンスタッフ。どちらも世代を超えてリピーターのお客さんが多い部門でもある。
「年間100組の結婚式を実施しています。それを150組とか200組にしたいわけじゃなくて、100組のブライダルを100年間続けたい。なのでプランナーは、来てくださった方の人生をどうやったら豊かにできるかを大切に考えてほしいと思っていて」
「現状維持では100年後まで残らない。失敗することは誰にだってある。ブライダルとキッチンも、チャレンジし続ける姿勢を持って、100年後の未来をつくることにワクワクしてくれる人にきてもらえたらうれしいです」
20年以上も御花で働き続ける人や、マーケティングやデザインの経験を経て、県外から就職した人。若手も先輩も関係なくフラットに話し合えるのも御花の特徴。
さまざまな人が働くなか、一翼を担っているフレッシュな2人に話を聞くことに。
まずは、ブライダルプランナー3年目の伊藤さん。美容専門学校でブライダルを学び、御花でのアルバイトを経験。スタッフの人柄や自由度の高さに惹かれて入社を決めた。
伊藤さんは、ブライダルに加え、宿泊の館内ツアーや接客などマルチに活躍中。これからプランナーとして加わる人も伊藤さんのような働き方になる。
「ブライダルでは20〜30代の方、宿泊では遠方の方やご高齢の方など、お客さまの層が違うので、いろいろな方とお話ができるのは楽しいです」
「入社してこれまで、50件ほどの結婚式を担当させてもらいました。今はお客さまとの打ち合わせを中心に、当日の運営も担当しています」
御花のブライダルは打ち合わせから当日まで、同じプランナーが担当。
初めは先輩について学んでいき、徐々に打ち合わせから、プランニング、当日の進行まで担当できるようにステップアップしていく。
「御花はもともと結婚式場として建てられたものではない、だからこそ自由度が高いんです」
挙式では、敷地内の西洋館や、近くにある神社を使用。披露宴も100畳の大広間や、2つの料亭があるため、好みの雰囲気を選ぶことができる。
ほかにも、花嫁が柳川の街中を巡る「お堀」を舟で移動する「花嫁舟」の演出も。
歴史ある御花の建物をまるごと活かしつつ、新郎新婦の希望に寄り添いながら、それぞれにとって特別な1日をつくっている。
「先日結婚式を挙げられたご夫婦は、ブライダルの試食会で『今まで食べた料理の中で1番美味しかった』と言われるほど、御花のお料理に感動していただいて。当日ご家族やゲストにもぜひ伝えたい、というご要望がありました」
「試食会では毎回料理長に挨拶をしてもらっていて。お品書きだけでなく、司会で料理についてのこだわりをアナウンスし、料理長からも直々にご挨拶や料理説明をする場面もつくりました」
希望に沿うだけでなく、プランナー自身が柔軟に取り組めることも特徴。
「私は、当日だけじゃなくて、準備期間も楽しかったと思っていただきたくて」
「御花を案内して建物について知ってもらったり、結婚式当日に新郎新婦の方へ自分の気持ちを綴った手紙を渡したり。個人の裁量も大きいので、やりたいと思ったことは形にしやすいです」
式を通して家族の仲が深まる様子を見ることができたり、謝辞でプランナーの名前を挙げてくれたり。オーダーメイドで式をつくっているからこそ、やりがいを感じられる機会も多い。
伊藤さんは、どんな人が御花に向いていると思いますか。
「歴史好きじゃなくてもいいので、御花の大切にしてきたことを活かしたり、伝えたいって思う方が来てくださるとうれしいです」
「働いているスタッフは、御花のことがすごく好きなのが伝わってくるんですよね。それって、ブレずに100年後まで残すために会社全体でチャレンジをし続けているから、面白いし飽きない。私自身、働き続けることが楽しみなんです」
「今後は、若手のメンバーで企画を考えてみたい」と伊藤さん。
伊藤さんを含め、20代のメンバーも増えているところ。合宿などで他部署のスタッフと話をする機会もあるため、新鮮な視点でどんどんチャレンジしてみるといいと思う。
最後に話を聞いたのは入社2年目、キッチンスタッフの上原さん。
「とても緊張しています」と話しながらも、じっくり考えて答えてくれる。
もともとは福岡市内の老人ホームで調理スタッフとして働き、料理をもっと学びたいと転職したのが、御花だった。
「入社してすぐは、皿洗いばっかりかなと思っていたんです。でも、野菜を切ったり、魚をさばいたり。やらせてもらえることが多くてうれしかったのを覚えています」
宴会や婚礼、宿泊夕食、料亭、レストラン対月館など、すべて違うメニューを提供している。社歴も料理人としての経験もこれからと話す上原さん。少数精鋭だからこそ、経験関係なく任せてもらえることも多い。
「先輩方は自分が1歳のときから御花で働いていらっしゃる方もいて。正直、最初は馴染めるか不安でしたね(笑)。でもみなさんフレンドリーで、楽しく働ける職場だなと感じます」
「メニューは料理長が基本的に決めているのですが、昨年『メニューを考えてみないか』、と参加させてもらって。4月は桜をイメージした寄せ物、5月はこどもの日用に兜をモチーフにした料理を考案して、採用してもらったんです」
一般的に料理人は縦割りの文化が根強い。一方で御花は、年齢、経験関係なく意見を交わしたり、チャレンジしやすい風土ができている。
「今年もメニュー考案の機会をいただいて、残念ながら採用はされなかったんですけど、先輩が『もっと小さくしたら見栄えも良くなりそう』とかアドバイスをくれて。一緒に考えてくれるので、勉強になるしモチベーションも上がりますね」
今年度からは、婚礼料理を指揮するポジションを任された上原さん。
婚礼の料理は、前菜、椀もの、魚と肉料理、デザートをそれぞれ4種類ずつ。ウェディングプランナーのヒアリングをもとに、コースメニューを変えている。
「同じ組み合わせでお出しすることってほとんどないんです。この人がいれば大丈夫、って思ってもらえる存在になりたいですね」
上原さんはどんな人と一緒に働きたいですか?
「ライバルみたいに、切磋琢磨して一緒に高め合える人、でしょうか。今は、ついていくのに必死なんですけどね」
穏やかに話す上原さんから出てきた言葉。チャレンジさせてもらえること、失敗しても理由を一緒に考えてくれること。そんな環境が、上原さんの成長を支えている。
100年後も御花があり続けるということ。
それは、世代を超えて訪れる人のよりどころになるだけでなく、働く人たちにとっても持続可能な職場環境であること。
一緒にいる人たちと前向きに、未来をつくる実感を持てる場所だと思います。
(2025/04/14 取材 大津恵理子)