多くのことがお金で解決できてしまう今の時代。
たとえば家を建てるとき。工務店に頼めば、プロの力でスムーズに家が完成する。
一方で、「自分の手でつくる」過程を飛ばしていることになる。そのなかには、実は面白いと感じることが隠れているかもしれない。
だったら、その過程ごと味わえるものづくりができたらいいんじゃないか。そんな想いを持って活動しているのが、TEAMクラプトンです。

TEAMクラプトンは京阪神エリアを中心に活動する設計施工会社。バーやゲストハウス、カフェなどの店舗リノベーションや、イベント設営など、幅広い仕事を手がけています。
自分たちだけで工事をするのではなく、施主やその友達、近所の住民、ワークショップで集まった人たちなど。さまざまな人を巻き込み、ともに手を動かしてものづくりをしています。
今回募集するのは、TEAMクラプトンが改修・運営予定の温泉旅館に併設するカフェと雑貨店のマネージャーです。雑貨店はまだ検討中のことが多いので、最初は主にカフェに関わることが多くなる予定。
あわせて、TEAMクラプトンの一員となる人も募集中。
人をもてなすのが好きな人、ものづくりが好きな人には、ぴったりな仕事だと思います。
大阪の中心部から車で北へ40分ほど。
川西市を超え、トンネルをいくつも超えた先にあるのが能勢町(のせちょう)。栗が有名な地域で、旬の時期には多くの人が訪れる。
今回の舞台となる「汐の湯温泉」は、能勢町に入って5分ほど車を走らせたまちの入り口にある。途中には大きな道の駅もあって、地元産の野菜や、栗のお菓子などがたくさん売られていた。
道の駅を散策したあと、汐の湯温泉へ。入り口には可愛らしい垂れ幕がかかっている。

駐車場に車を止め、音のするほうへ向かうとクラプトンの代表、山口さんが迎えてくれた。
社内のミーティングを見学させてもらった後で、話を聞くことに。

「この汐の湯温泉は去年の3月に閉館してしまった場所で。もったいないなと思っていたところ、縁あって僕たちが買い取らせてもらえることになって、今年の7月から改修をはじめているところです」
TEAMクラプトンは設計、デザイン、施工、DIYのサポートなど、多岐に渡り活動するものづくり集団。
簡易的な小屋をつくるなどして、現場に住み込む方式で作業をするため、京阪神エリアを中心に関東や隠岐諸島の海士町(あまちょう)など、全国各地で設計施工の仕事をしている。今回入る人も、まずは能勢町に移り住むところから始めてもらうことになりそうだ。
「DIYってよく聞くじゃないですか。それに対して、僕らはDIT。“Do it together”を掲げています。施主や友人、近所の子どもたちを巻き込んで、いろんな人と一緒につくることを大切にしているんです」

2014年からスタートしたTEAMクラプトン。最初は、神戸の雑居ビルでバーやシェアハウスを手がけたのが始まりだった。当時から施工現場にはさまざまな人が参加していたそう。
あるとき、インターナショナルスクールから、遊ぶ場所を増やしたいという依頼が。山口さんたちはボルダリングの壁をつくろうという提案をした。
「せっかくなので児童にもつくる過程に参加してほしいと思い切って提案したらOKだったんです。高学年の子には難しいルートと、低学年向けの簡単なルートを自分たちで考えてもらって。僕らも体育の授業に参加して微調整したり、低学年の子には絵を描いてもらったり。先生たちにも手伝ってもらいました」

難しそうにみえる建築も、要素を分解していけば経験のない大人や子どもが参加できるようになる。
またつくる過程から関わることで、完成してからも関わった人が愛着を持って訪れてくれる。人を巻き込むことの大切さを、山口さんは現場を通して実感していった。
「コミュニティが生まれる瞬間をたくさん見てきて、自分たちもそういう場所を運営してみたいと思うようになりました。そういう気持ちが出てきたのも、汐の湯温泉を手がける一つの理由ですね」
今工事をしている汐の湯温泉も、近所の人やワークショップで呼びかけた人たちと一緒につくっている最中。温泉旅館に加え、カフェや雑貨屋を併設する予定だ。

「新しくオープンする温泉旅館では、体験型宿泊を提供したいと思っていて」
体験型宿泊?
「僕らはよくワークショップを開いてものづくりをしているので、そのノウハウを活かしていきたいんです。たとえばファミリーで泊まりに来たお客さんに、家族で学習机をつくるプランを提案するとか」
「お父さんとお子さんがつくっているときに、お母さんはカフェでゆっくりして、お風呂に浸かる。そんなことができる温泉旅館にしていきたいと思っています」
地域のおばあちゃんおじいちゃんも温泉の復活を楽しみにしているそう。地域の人と外の人が温泉を通して交われたら、温泉が世代を超えた交流の場になる。
子どもたちと近所のおじいちゃんが話せる、昔の銭湯文化のようなものができていったらいいな、と山口さん。

今回募集するマネージャーには、体験型宿泊を支えるカフェの運営を担ってもらいたい。スタッフのシフト管理をしたり、メニューを考案したりなど、まずはカフェのソフト面を整えていってほしい。
「地域の人はもちろん、外の人も多く訪れる場所なので、その二面性に対応できるようにしたいと思っていて」
「非日常を体験しに来た人たちには、若干値段が高くても、地場で採れたものを使った料理とか、付加価値があるものを提供したい。逆に日常的に使う人には、安くて早くてうまいもん、みたいなのが需要があるのかなと」
山口さんのイメージする二面性を同時に叶えるために今考えているのが、季節や時間、曜日で完全にメニューを分けてしまうこと。
週末は里山や道の駅を訪れる人が多いため、より洗練された料理やコーヒーを。地元の栗や野菜を使った特別メニューを提供し、旅行者に土地の魅力を伝えていく。また中庭では季節を感じながら食事ができたり、子どもたちが遊べたりできる空間もつくる。
逆に平日は、常連さんに手軽であたたかい食事を提供する。
TEAMクラプトンの施工メンバーと連携して、DITワークショップ後の食事やおやつを用意することもあるだろうし、料理教室や食イベントなどを企画してもいいかもしれない。
また能勢にはIターン者も多く、若い世代もいる。将来的には、老若男女問わず人が集い、ホッと一息できるような交流の場になれたら、能勢に新たな風を吹かせることができそうだ。
そういった構想はまだまだ広がっている。「こうやったらより面白そうだ!」と一緒に考えることを楽しめる人に新たなメンバーとして合流してもらえるとうれしい。

「僕たちがやりたいのは、楽しい、豊かだなって思える環境を、自分ごとで楽しみながらつくっていくこと。家も4000万円払ったら工務店がつくってくれるじゃないですか。でも、その4000万円のなかにはいろんな楽しみがあるはずなんです」
「お金で回避できるところに隠れている、生きるヒントとか面白さ。それを掘り出したい。2000万円は必要やけど、残りの2000万円分はみんなと一緒にやってみませんか。案外そこに面白さがありまっせ、って言っていきたいんですよね」
今回メインで募集するマネージャーも、経験は問わないそう。TEAMクラプトンの思想に共感できることが重要なことだと思う。
「薪ボイラーを使おうとしているんですが、それも薪の需要を増やすことで地域の林業や里山文化を活性化させたいという狙いがあって。汐の湯の復活だけじゃなく、薪のように間接的にも地域創生を目指したい。そういったことにも興味がある人だといいかもしれません」
「あとは笑顔が素敵な人がいいね。何をするにしても『笑顔で挨拶あいうえお』みたいな(笑)。大事なのはおもてなし精神かな」
おもてなし精神、ですか。
「ワークショップのときにみんなが楽しめるように気を配るとか、クラプトンは昼ごはんが当番制なんで、みんなのお昼を考えるとか。そういうことも楽しみながら、みんなが喜んでくれるのをうれしく感じられる。そんな人がいいですね」

続けて話を聞いたのが、2年前に加わった北川さん。
前職で建築関係の仕事をしていたときに、偶然TEAMクラプトンと現場を共にしたことがきっかけでチームに加わった。

「一緒に建物の改修をしているうちに、それをより深めてみたい気持ちになったんです」
「建築自体も面白かったし、自分自身が手を動かして暮らしをつくっていくことに興味が湧いたのが大きかったかな」
北川さんをはじめ、TEAMクラプトンのメンバーの多くは業務委託のかたちで加わっている。今回入る人は、正社員か業務委託を選ぶことが可能。
関わり始めてみてどうでしたか?
「裏側の部分で、人を迎え入れる準備はいっぱいあるんやなって感じました」
「安全に楽しく作業できるように現場を整えるとか、掃除するとか、ご飯の準備もある。ちなみに今日はカレーらしいですよ。自分が当番の日には大人数料理をつくらないといけないので。僕もそれまで経験なかったけど、わちゃわちゃと焦りながらつくってた記憶があります(笑)」

つい最近は、汐の湯温泉で仲間内のパーティーを開いたそう。料理だけでなく、凝った装飾もつくるなど、手の込んだものが多かったのだとか。
楽しんでもらうために、細部までこだわる。その準備の過程も楽しめる人だと、面白く過ごすことができると思う。
「クラプトンではお米もつくっていて、僕が担当しています。今度の休日はイナゴ採りですね(笑)。都会にいた期間が長かったですが、能勢という自然豊かなところで、自分のしてみたい生き方を実現していけているのかなと感じています」
最後に話を聞いたのは、昨年の5月に加わった高岡さん。
新卒で機械メーカーに就職し、CADオペレーターとして働いていた。自分の手でものづくりをしたいという思いから退職し、当時クラプトンが奈良で古民家を改装していたプロジェクトに参加した。

「2ヶ月くらい住み込みで働いて。そこでクラプトンの人たちに惹かれて、ここで働きたいって思いました」
どんなところに惹かれたんでしょう?
「なんだろう… 都会で一人暮らしをして働く、っていう都市的な働き方に飽きたというか。もっと人と人とのつながりを持ちたいと思ったんです。クラプトンは現場がある地域に住み込んでみんなで暮らしながら働くので、ぴったりだなって」
ゆっくりと、自分のなかにある言葉を探りながら話してくれる高岡さん。
建築に関する知識はほとんどなかった。現場で作業するなかで学んでいく。

「今はペンキを塗るワークショップのリーダーも任せてもらっていて。子どもから60代くらいまで、幅広い年齢の人たちがいるんですが、大人も本気で楽しそうに作業するんですよ」
「いろんな会話を交えながら、毎日いろんな人が来て、一緒に作業して。それがほんとに楽しいです。充実した気持ちになるというか。多いときで30人くらい来ることもあって、ちっちゃな村みたいな雰囲気です。そういう場を自分はどこかで欲していたんだろうなって思います」
都会にある楽しさとは違うかもしれないけれど、田舎でたくさんの人と関わることで充実する時間もある。
自分が心から楽しい、心地いいと思える場所を、高岡さんは見つけることができた。
「みんなが楽しむことに全力で、命をかけているのが面白い(笑)。まずは自分たちが楽しんで、みんなにも楽しんでもらう。大変なこともあるけど、楽しいです」

「暮らしを買う」のではなく、「暮らしをつくる」。TEAMクラプトンが大切にしているのは、そんな姿勢です。
自分の手で、これからの豊かさを育てていきたい。
そんなあなたの一歩を、汐の湯温泉で待っています。
(2025/08/05 取材 稲本琢仙)


