愛媛県、内子町。
江戸から明治にかけて木蝋生産で栄えた伝統的な町並みや、和紙づくりといった郷土文化が色濃く残るまちです。
春には凧を揚げ、夏は灯籠を川に流し、秋はまちに行灯を灯すなど。四季折々の伝統行事が受け継がれ、暮らしのなかに文化が根付いています。

今回の舞台は、愛媛県立内子高等学校。
郷土芸能部をはじめ、ライフル射撃部など、県内でもめずらしい部活動があります。来年度からはeスポーツ部の創部も決まっているそう。
ここで高校魅力化に取り組むコーディネーターと、学習センターのスタッフを募集します。
今年の春にプロジェクトが立ち上がったばかりで、具体的な形はこれから整えていくところ。新しく入る人は、学校や学習センターの授業に、大きな裁量を持って関わることができます。
経験は問いません。全国で高校魅力化プロジェクトに伴走する、株式会社プリマペンギーノのサポート体制もあります。
地域を学びの教材に、新しい教育のあり方を考えたい人。子どもたちに寄り添い、一人ひとりが育つ支援がしたい人に知ってほしい仕事です。
松山空港からバスに乗り、松山駅へ。
さらに鉄道で30分ほど南に進むと、車窓の景色が緑に変わり、のどかな田園風景が広がる。
内子駅に降りると、屋根瓦が印象的な建物が並び、かつて使用されていた蒸気機関車の展示が。自然の心地よさのなかに、歴史を感じる町並み。

ここからは歩いて、町役場に向かう。
さっそく話を聞いたのは、今回の高校魅力化プロジェクトを担当する、内子町教育委員会の新田さん。

「内子高校は2020年に創立100周年を迎えた、歴史のある高校です。まちを歩くと卒業生と再会することもあって、『お久しぶりですね』と会話が生まれる。そんな、人とのつながりを感じられる場所なんです」
「ただ課題もあって。今年の3月に、県の定める入学者数を下回ってしまいました。この状況が3年続くと、内子高校は生徒の募集ができなくなってしまいます」
要因の一つと考えられるのが、町内の中学校からの進学者が減ったこと。
内子高校に通う生徒の約6割が鉄道での通学で、片道30分ほどで通える高校がいくつもある。
「外への進学は、わるいことではないと思うんです。けれど内子高校を未来に残していくために、町内はもちろん、外からも学びたい学校として選ばれるようにしていきたい」
そんな想いから、高校魅力化プロジェクトが立ち上がった。
高校魅力化プロジェクトとは、生徒たちに「この学校で学びたい」と思ってもらえる学校の魅力を、地域を巻き込みながらつくっていく取り組み。
内子高校では、「総合的な探究の時間」の企画運営と、学習センターの新設という2つの柱で進めており、それぞれ担当するスタッフを募集したい。
魅力化コーディネーターが主に担当するのは、「総合的な探究の時間」。
1年生は地域の産業を学び、2、3年生は興味関心をもとにテーマを選択。毎週1〜2時間ほどのコマ数で、1年をかけて学ぶカリキュラムになっている。
テーマは、インバウンド向けの観光企画や、伝統産業のプロデュース。ほかにも地域の防災マップづくり、内子町での子育て支援など。全14種類のなかから学べる。

魅力化コーディネーターは、まずは総合的な探究の時間を担当する。
先生と連携しながら、フィールドワーク先を選定し、地域の方に協力を依頼。生徒たちがヒアリングできるように調整をしたり、最終発表の準備をしたり。
地域とじっくり関わることで、生徒が内子町に愛着を育む。そんなきっかけをつくっていってほしい。
あわせて募集するのが、生徒たちの学習をサポートする学習センターのスタッフ。
内子高校は町外から通う生徒が多く、通学時間の関係で民間の塾に通いにくい状況。
そのため、放課後にも勉強ができるよう、高校のなかに学習センターを設ける予定だ。授業の課題はもちろん資格や受験勉強など、幅広い学びに応えられる場所にしていく。

新たに学習センターのスタッフになる人は、学習支援を中心に、進路選択や社会での経験も伝えるなど、生徒の将来の可能性を広げる役割を担っていってほしい。
「まちとしても内子高校の魅力化のために、サポートは惜しみません。私は生まれも育ちも内子なので、魅力化プロジェクトの仲間となってくださる方が少しでも動きやすくなるよう、地域の人を紹介できたらと思っています」
役場を後にして、内子高校へ。
校内に入ると、「こんにちは!」と生徒たちが元気よく声をかけてくれる。
「ドン!ドンドン!」
大きな太鼓の音が響くほうへ足を進めると、体育館に着いた。
なかを見せてもらうと、来月の体育祭に向けた準備の真っ最中。

「内子高校には、郷土芸能部という部活があって、生徒たちが太鼓の練習をしています。『笹まつり』や『いかざき大凧合戦』といった地元のお祭りでは、郷土芸能部が演舞を披露しているんですよ」
教えてくれたのは、内子高校で校長を務める細川さん。

「内子には古くからの町並みが残っていて、伝統行事も盛ん。地域資源の宝庫のような場所なんですよね。学校としても、これを活用しない手はないと考えています」
昨年は、総合的な探究の時間のなかで、大正時代に建設された芝居小屋「内子座」と協力。施設を訪れる観光客へ生徒がヒアリングし、歌舞伎のお面やストラップを作成した。
「今年は、地域の職人さんと協力して凧づくりを体験したり、韓国文化を学び、内子町を訪れる旅行客の方と一緒に話してみたり。内子町の特徴や、課題を活かした探究活動を考えています」

さらに、1982年に四国ではじめて重要伝統的建造物群保存地区として選定を受け、以来多くの観光客が訪れている「八日市・護国の町並み」も貴重な地域資源。
伝統的な家屋に泊まれる一棟貸しの宿や、当時盛んだった木蝋産業を伝える「木蝋資料館上芳我邸」、昭和40年頃まで使われていた元映画館「旭館」など、歴史や文化を肌で感じられる場所も多い。
内子高校の卒業生が、まちを歩きながら内子の歴史を案内する「町並みガイド」を務めているんだそう。まずはガイドさんと歩いて、まちを知るところからはじめられるといい。

コーディネーターの1年目は、「総合的な探究の時間」を担当しつつ、まちの伝統行事にも参加。並行して、次年度の「総合的な探究の時間」のカリキュラム設計にも携わるなど。地域と関わりながら、何ができそうか考えてほしい。
学習センターのスタッフは、日々の学習支援に加えて、生徒たちが勉強したくなるきっかけづくりも仕事の一つ。興味関心の幅が広がるように、一人ひとりの生徒たちと関わってほしい。
学習センターのスタッフが生徒の希望を聞いて、進路選択のきっかけづくりができるよう魅力化コーディネーターに情報共有するなど、双方のコミュニケーションも大切。
「学校としても総合的な探究探求の時間や、学習支援に力を入れていきたいのですが、先生たちは授業や部活動があって、なんとか回している状況。なので、力を貸していただけると本当にありがたいんです」
「もちろん任せっぱなしではなく、私たちも協力していきます。少しでも面白そうだと思ったら、気軽に話を聞きにきてほしいですね」
働く上で大切なのは、これまで社会で経験したことや感じたことを、ありのままに伝えること。親でも先生でもない、第三の大人として、生徒たちの将来に与える影響は大きいと思う。
続いて話を聞いたのは、今回のプロジェクトのサポートをする、株式会社プリマペンギーノの中澤さん。

「魅力化コーディネーターも、学習センターのスタッフも、まずは内子町や生徒たちを知ってもらいたいです。その上で、何ができそうかを一緒に考えられたらと思っています」
「ほかの地域の事例を共有したり、推薦入試の志望理由書の書き方を伝えたり。私たちが具体的な業務のサポートにも入ります。経験がなくても、教育や地域への想いがあればチャレンジしてほしいですね」
ほかにも、毎月の面談や、年2回の他地域スタッフとの交流研修など。新しく入る人が教育スキルや地域への理解を深められるよう、継続的なサポート体制を整えてくれる。

中澤さんから見て、内子高校で魅力化に取り組む面白さって、なんでしょうか?
「いまは“いい教育”のあり方を全国の学校が模索している時代。内子高校では、地域との関わりのなかでそれを探ることができる。自分が考えた教育が実践できるのは魅力だと思いますよ」
「たとえば、教員免許を持っているけど、普通に学校で働くか悩んでいたり、教育免許はないけど教育に興味があったりする人。そんな人たちにとって、地域を活かした教育の新しい形を考えられる絶好の機会じゃないかな」
最後に話を聞いたのは、内子高校2年生の白井くん。
いまは夏休みということもあり、所属するバスケ部の練習の合間を縫って話を聞かせてくれた。

「電車が1、2時間に一本しかなくて、家から塾も遠いので通えてなかったんです。学習センターができたら放課後に勉強できるので、本当にありがたいなと思っています」
白井くんは、将来の目標はありますか?
「理学療法士になりたいです。膝を怪我して病院に通っていたときに、担当の先生が良くしてくれて。自分も人を励ましたり、笑顔にできる仕事に就きたいと考えるようになりました」
「でも、大学と専門学校のどちらが合っているのか迷っていたんです」と白井くん。
そんなときに、総合的な探究の時間で、デイサービスの職場体験に参加した。
「リハビリをして、また立てるようになった患者さん、サポートした理学療法士さんの話を聞かせてもらって、ケアマネージャーという仕事を知りました。その仕事にピンときて、いまは四年制の大学を目指して勉強を頑張っています」
生徒たちの進路選択に、総合的な探究の時間や、学習センターが果たす役割は大きい。
一人ひとりの話を聞いて、ときには悩みながらも最後まで伴走する。やりがいのある仕事だと思う。
白井くんは、どんな人が来てくれたらうれしいですか?
「放課後は先生たちも部活を見ていて、いつも質問できるわけじゃないんです。だからテスト勉強のわからないところを聞けたり、欲を言えば、一緒に部活ができたりするとうれしいですね」

今年の春に立ち上がったばかりの内子高校の魅力化プロジェクト。
手探りで環境を整えている最中だからこそ、入る人次第で、いろんな活動が生まれる可能性を秘めています。
先生でも親でもない、一人の人間として。
内子町で守られてきた伝統と、これからを歩んでいく生徒と、ともに新しい道を築いてみてください。
(2025/08/20 取材 櫻井上総)


