「里山に入ると、ほっとするんです。手付かずの自然が残る森を歩くよりも安心する。それは、人々の手が入って長い時間をかけて育まれてきたからなんだと思います」
「雑木を伐採して薪や炭にしたり、椎茸の榾木に使ったり。手を入れていると、伐採した脇からまた、春に芽が出て20年経つとまた再生する。それが長年続いているんですね。『雑木の庭』は、その里山の風景を移した庭だと思うんです」
そう話すのは、江夏庭苑事務所の2代目、泰治郎さん。
雑木の庭は、日本の里山で見られるような木々や草花を使った庭。江夏庭苑事務所では、つくり込まず、自然の風情と、人の暮らしが調和する庭をつくっています。

今回は、庭師の募集です。
経験は問いません。未経験から始めた人も多く、できることから少しずつ覚えていきます。
手がけるのは、個人住宅やお寺の庭などの造園と管理が中心。左官や大工仕事も自分たちで行うので、さまざまな知識や技術を得ることができます。
職人の世界に厳しいイメージを持つ人もいるかもしれません。けれどここには、全国から人が集まり、独立していく人もいる、開かれた環境があります。
まずは、「雑木の庭」の世界を知ってみてください。
京都駅から電車で約15分で、宇治の六地蔵駅に到着。
女将さんに迎えにきてもらい、車で事務所へ。
ほどなくして山道に入る。
ここは炭山(すみやま)という地域で、京焼・清水焼の陶芸の里とも呼ばれる場所。今でも窯元が点在しているそう。
そんな話を聞いていると、あっという間に自宅兼事務所にたどり着く。2月中旬、木は葉を落としていて、日当たりがいい。

お家のなかに上がり、はじめに話を聞いたのは、代表の江夏大三郎さん。
言葉数は少ないけれど、薪ストーブを温めてくれたり、こちらの質問を待ってくれたり、穏やかな人柄が伝わってくる。
造園の仕事は、2代目の息子さんへ受け継ぎ、今はたまに庭仕事を手伝っている。

宮崎県出身で、大学進学で上京し造園を学んだ大三郎さん。
そこで出会ったのが、飯田十基(じゅうき)という造園家。
昭和初期ごろまでの日本庭園は、松やツツジなど、常緑樹が一般的で常に整った景観が重視されていた。
飯田十基は、そこに「雑木の庭」という身近な落葉樹を用いて、里山の雑木林を思わせる景観を庭に落とし込んだ人。東京の「等々力渓谷」の日本庭園を手がけた人物でもある。
飯田氏のもとへ弟子入りした大三郎さん。5年学んだ後、自分の感性に合う庭をつくっている京都の別の造園家のもとでさらに修業し、独立。
49年前に、江夏庭苑事務所を立ち上げた。
「どちらの教えにも共通していたのは、できるだけ自己主張をしないこと。自然をいかに庭に落とすかを大切にしていて」
「見ると、気に逆らわずすっと入っていく。ずっと眺めても飽きないんですね。季節によって樹木の姿が変化していきますから。そういう庭を私たちはつくっています」

日当たりが良い場所なら木陰をつくり、日陰の場所には影に強い植物を植える。そこにある石や古い瓦も、庭の一部として生かしていく。
「数十年後を想像しながら庭をつくるんです。成長しきった木を植えると、剪定するときは縮めていく必要がある。でも雑木の庭では、幼い植木を植えて成長することを見据えることもあるんです」
「小さい植木は単価が抑えられるので、お客さんにとってもうれしいですよね」

江夏庭苑事務所が手がける庭は、個人住宅やお寺の庭などがほとんど。
「雑木はどんな建物とも親和性が高いんです。優しく包み込んでくれて、建物がきれいに映える。そういう懐の深さが雑木にはあると思います」
人工的に整えすぎていないため、建物のデザインを邪魔しない。だから、和風の住宅だけでなく、洋風の住宅にもよくなじむ。
「個人住宅だと、お客さんの反応が直に見ることができるのでうれしいんです。ゼネコン関連の造園の仕事もやりましたけど、大変なんですよね。朝、全員で集まって、点呼と業務連絡をして。毎日やると疲れてめんどくさいなって(笑)。庭で仕事してたほうが性に合うんです」
縁もゆかりもなかった土地で約50年。お客さん3代ずっと管理を担ってきたお庭もあるそう。
「つくったらおしまいではなくて、毎年メンテナンスしていく。庭づくりには終わりはなくて、何十年もかけてお客さんと共に育てていくのです」
20年ほど前に今の場所に引っ越してきた。大三郎さんと息子の泰治郎さんの二世帯が並んでいて、それぞれの庭を大事に育てている。
「お客さまへここの庭を案内することもあるんです」と、2代目の泰治郎さん。
新しく庭師になる人は、泰治郎さんから造園について教わることになる。
やわらかい京都弁に引かれながら、庭を案内してもらうことに。

「僕と父の庭は『雑木の庭』という根底は一緒ですが、ちょっとテーマが違っていて。僕の場合は、実験もしているんです」
実験?
「ここ、落ち葉を残しているでしょう。関西の土って真砂土(まさつち)といってサラサラしていて。カシや杉とか、葉を落とさない木が多いんです。そうなると腐葉土になりにくいので、育つ植物が限られてしまう」
「僕は、山野草が好きなんです。山野草は整備された土地ではなく、雑木林の落ち葉が残っているところに生える。ほら、ここに」
落ち葉をかき分けると、福寿草の芽がぽっと顔を出している。小さくも、たくましい。

「たとえば、ご夫婦共働きで、いそがしくて庭の手入れが行き届かないご家庭だとしたら、落ち葉をそのままにしていても花が咲く、そんな庭づくりをご提案することもありますね」
江夏庭苑事務所では、植物だけでなく、庭の骨格となる目隠しの垣根や、石のアプローチなども手がけている。
「左官や石積みとか、外注に頼むような仕事もほとんど自分たちで手がけるんです。そうすることでお客さんの声も細かいところまで反映しやすいですし、庭の調和がとれる」
「いろいろやることは、職人としても楽しいんです。左官の仕事は、左官屋さんがやるもの、と考えるのではなくて、そんなこともできるのか、と思ってくれる人が合っていると思いますね」
過去には、使用されなくなった瓦を再活用し、自宅前に石のアプローチを組み込んだこともある。
見てみると、苔と馴染んでいて、これも庭の一部なんだと感じる。すてきな遊び心だな。

細部にも、庭を「育てていく」という考え方が表れている。
印象に残っている、と紹介してくれたのが、近所の伏見桃山という場所にある個人住宅の庭。
日本家屋を取り壊して新築した、モダンな見た目の家だった。
「お客さんは美術の先生で、自分で庭の図面を描いていらしたんです。その想いを尊重しつつ、現実的に20年後どうなるか、という視点で一緒に考えて。こちらでちょっと図面を手直しして、庭をつくっていきました」

造園した庭は建物沿いの細長い空間。雑木林のなかを歩くようなイメージで、落葉樹を主体に植栽。ところどころに景石を配置し、空間を引き締めた。
場所によっては、土がわるくて木が枯れてしまうことがある。そういった場合は、実験と話していたように、土から育てていくこともあるそう。
「新しく入ってくれる方は、未経験でもいいんです。大事なのは、木でも材料でもいろいろなものに興味を持つこと。お客さんと直接お話する機会も多いので、ひょんなところで、会話が弾むこともある。グルメでも、お酒のことでもいい。とにかくさまざまな分野にアンテナ張ってね。それが庭づくりにもつながるんです」
「息が長い仕事ですから、5年やったら世界が広がって、もう5年勉強したらもっと広がっていく。ずっと成長できる仕事ですよ」
江夏庭苑事務所を経て独立した卒業生は、30名ほど。今でも関わり続けていて、手伝いに来てくれることもある。いい関係性が築けているんだろうな。
新しく入る人にとって一番身近な先輩が、入社して2年目の倉敷シルビアさん。
ルーマニア出身で、来日して20年ほど。結婚を機に鳥取に住んでいたものの、江夏庭苑事務所で働くために昨年、単身赴任で京都へ移住してきた。

「日本ではいろいろな仕事をしてきましたね。でも、ずっとお庭の仕事をしてみたくて、2年前に職業訓練校に入って造園について学びました」
鳥取の造園会社のインターンシップにも行ったもののピンと来ず、たどり着いたのが江夏庭苑事務所だった。
「『雑木の庭』に共感して。自然を切り取って、自分の目の前につくる感じがいいなって。落ち着くんですよね。見て楽しむ庭もあるけれど、実際に庭を歩いたり触れたりするのが好きなんです」
「問い合わせたとき、女性で外国人、しかも県外からの連絡だったので、驚かれましたね(笑)。でも一度会いましょうって実際にお話して。『私がよければ来てください』と言っていただきました。もう行くしかない!って転職しました」
主な仕事は、造園と管理。年間を通して管理の仕事があり、秋から年末がメンテナンスの繁忙期。合間に造園の仕事が入る。
新しく入る人は、まず剪定を覚えながら、造園の現場へ赴く。現場は関西がメインで、依頼があれば、関西以外へ出張もする。
シルビアさんは入社してすぐ、東京・田園調布の現場へ。

迎賓館として使っている庭のリフォーム。
「未経験だからできることも限られている。もうてんてこまいで(笑)。砂や石を運んだり、モルタルをつくったり。できることがあればなんでもやっていました」
「知らないから、発見が多くて楽しかったです。たとえば、石を動かすための『三又』という道具があって。親方に聞いたら使い方をすぐに教えてくれますし、学びやすい環境ですね」

最近は、ユンボを操縦できるようになったシルビアさん。
「男性に比べたら力が足りなくて不安でしたが、道具をうまく使えば体の負担を減らすこともできる。筋肉は自然とついてきて、ちょっとずつパワーアップしてます(笑)」
茶道と華道も習い始めたそう。造園の学びになることは会社が一部支援してくれる。
「常緑のものだけだと雰囲気がちょっと重たいから、落葉樹を足したり。茶室のある現場に行くこともあるので、植栽の参考になりますね」
「少しずつ庭の見方が広がっていくのも、この仕事のおもしろいところです。1本の木でも、剪定すると『気持ちいいね』ってお客さんが反応してくれる。私たちが手入れしている庭で毎日生活されていると思うと、小さなことでもうれしいんです」
手入れはするけれど、すべてを整えすぎない。木や草がそれぞれに育っていく。それを受け入れてくれるのが、雑木の庭。
そのそばで働くみなさんが、わくわくしながら話してくれる姿が印象的でした。
未経験からでも、懐の深い庭の世界へ飛び込んでみてほしいです。
(2026/02/13 取材 大津恵理子)


