やっぱり、世の中の役に立つ仕事がしたい。
福祉の業界へのキャリアチェンジを考えたことがある人は、案外多いと思います。
一方で、知識や経験のない世界に飛び込む怖さもある。そんなふうに迷っている人に知ってほしいのが、今回の求人です。
医療や福祉の業界で全国に100を超える施設を運営する平成医療福祉グループでは、介護施設の運営に携わる人を募集しています。
介護の実務にあたるのではなく、スタッフが働きやすい環境をつくったり、地域との連携をはかったり、人と人をつなぐのが主な役割。資格や知識は不問で、異業種からの挑戦も歓迎です。
人と一緒に働く難しさや喜びを知っている人なら、その経験を活かせるはずです。

平成医療福祉グループでは、近年「じぶんを生きるをみんなのものに」というビジョンのもと、介護福祉施設でもユニークな取り組みを進めています。
施設で犬を飼ったり、スポーツ団体とのコラボレーションをしたり。異業種ならではの視点が、活きる場面もあると思います。
施設は関東から関西、中四国まで幅広いエリアにあります。今回の募集で入る人は、住んでいる地域に近い施設で、まずは管理者候補としてサポート的な業務から始めて、ゆくゆくは副施設長や施設長を目指していくことになります。
向かったのは、東京の足立区と葛飾区のちょうど境目あたりにある介護老人福祉施設ケアホーム葛飾。
今回は、募集するエリアが幅広いので、さまざまな地域から異なる経歴や立場の人たちに集まってもらった。

はじめに話を聞いたのは、このケアホーム葛飾の施設長として働く新村(にいむら)さん。6年前、施設の立ち上げと同時に入職した。
「もともとはTSUTAYAで働いていました。本のバイヤーをしたり、店長として店舗運営に携わったり。転勤も多く、エリアマネージャーとか、一時期は本部の内部監査系の仕事もしていました」
「20年くらい続けた仕事で、やり切った手応えもあったし、ここからは何か世の中の役に立つ仕事をしてみたい。当時45歳くらいで、転職するならラストチャンスという気持ちでしたね」

新村さんは、TSUTAYAでの20年間で数多くのスタッフと共に店舗経営に携わってきた。介護の経験はなくても、管理者という立場でなら貢献できるかもしれないという思いもあった。
「実際はそんなに甘くなくて(笑)、いろんな失敗もありました。たとえば、朝礼でいきなり数字の話をしたら、変な空気になってしまって。小売業だと、売上の話も日常会話の一部っていう感覚ですけど、やっぱりそういう違いはいろんなところにありましたね」
また、介護の現場では刻々と変化する状況に応じた対応が求められる。
スタッフは、常に利用者優先。利用者の体調やその日着替える服など、さまざまな情報を頭に入れながら動くため、新村さんが伝えた指示が現場に浸透するのに時間がかかることもあった。
「やっぱり、店舗運営と違う難しさはあります。ただ、介護を間近で見ていると、想像した以上にすごい仕事だなと思います。意思疎通ができない利用者さんに対しても、いろんな工夫をしてケアにあたっていて。本当に、スタッフのことは尊敬しますよ」

ケアホーム葛飾には、介護士や看護師、生活相談員、栄養士、調理師など、さまざまな専門業務を担うスタッフが約120人在籍している。
建物は4フロアに、140床。浴室など、介護施設特有の設備も多い。
「入職したてのころは、部署同士の関係性など基本的な業務の構造もわからなくて。いろんな人に質問していました。このグループは横のつながりも強いので、他の施設長さんたちも本当に親身になってくれましたね」

介護は、人の命を預かる現場。一人ひとりに、責任感や熱意があるからこそ、スタッフ同士意見がぶつかることもある。
そんなとき施設長としてどう対応すべきか、判断は難しい。
「やっぱり自分は専門的なことがわかっていないっていう、歯痒さもあるんですよね。私の上司であるグループの部長からは、『業界の外からの視点も大事だから、遠慮せず意見を言ってね』と言われているんですけど、これがなかなか言えない。言えないんだなぁ…!(笑)」
「施設長としてもっと言ったほうがいいのかなって、悩むことはたくさんあります。それでも、このスタイルでなんとか6年やってきたわけだから、反省は次に活かしつつ、あまり深刻に考えすぎないことも大事だと思います」
前職のころから、現場で働く人たちの自主的な連携や工夫でお店が良くなることが、管理職としてのやりがいだったという新村さん。
スタッフ同士、建設的なコミュニケーションが生まれやすい環境を整えるためにも、まずは自分自身が全員に対してフラットに接することを心がけている。
そんな新村さんが、スタッフと一緒につくり上げてきた取り組みがある。
「1階の地域交流スペースで、ときどき音楽のイベントをやっていて。歌手の方を呼んで、利用者さんのリクエストした曲を歌ってもらう。いわゆる“推し活”っていうんですかね」

「私も、本とか映像とか音楽とかエンタメが好きなので、イベントのときは一緒に楽しみます。職員にも好きな人はいて。大変な仕事のなかにも、何か楽しい時間を一緒に過ごす機会があるのはいいなと思いますね」
「なにより利用者さんの反応を見ていると、やっぱり歳を重ねても、ときめきの力ってすごいなって実感します。ご家族からも『母がとても喜んでいました』っていうお声をいただけて。施設に入所してからも、楽しみを持ちながら過ごしてもらえるように工夫していきたいです」
「もう、私が言いたかったことは、全部新村さんが言ってくれました!」と、大きく頷いていたのは、西日本でエリア部長を務める久保さん。
エリア部長は、各地域の施設長を直接サポートするポジション。久保さんの場合は、兵庫県を中心に関西の施設運営に横断的に関わっている。

「施設ごとに、いろんなカラーが出るのが本当に面白くて。いいアイデアは、ほかの施設でも真似できるのが、グループの良さだと思います」
グループには都市部から中山間地域まで、さまざまなエリアに施設がある。地域によっては、小学校の音楽会などに車椅子席を設けて利用者が応援に行くことも。
それは、利用者のレクリエーションでもあり、過疎や少子化で、保護者だけでは観客席が埋まらなくなってしまった地域のイベントを盛り上げることにもつながる。
「地元のサッカーチームと連携したり、自治体の施策を利用したり。『そんな面白いことしてたの?教えてよ〜!』っていうことはよくあります(笑)」

働き方についても、施設ごとに特色が生まれている。
ある施設で職員の愛犬が、看取りの時期を迎えていたときのこと。そばについていたいけれど、ペットのことで仕事を休み続けていいのか、本人は悩んでいたという。
「もちろん休んでいいんですけど、そこの施設長は『職場に連れておいでよ』って、施設のみんなでお世話をしたらしいんです」
医療や福祉の現場では、厳守すべきルールも多くある。一方で、ケアの質は、働く人たちの関係性やモチベーションに大きく左右される。
スタッフ一人ひとりの価値観やライフスタイルを尊重するために、ときに柔軟な発想でリスクをとる判断も、施設長だからできる仕事のひとつ。

「立派な施設長さんになりたいとか思わなくていい。それぞれの強みと苦手があって、施設によって凸凹でいいんですよ。それを補い合うための“グループ”だから。私も初めて施設長になったときはまだ20代で、周りから『孫の年やわ〜』って言われながら、助けてもらってばかりでした」
「だからこそ思うんですけど、やっぱり仕事って誰と一緒にやるかでしんどさが全然違いますよね。これから施設長を目指す人にひとつだけ持っていてほしいのは、一緒に働く人が活躍できるように応援する気持ちです」
グループには研修制度もあるので、異業種からの転職でも、働きながら必要な知識やノウハウをインプットすることもできる。また、今後は施設長1人に責任が偏りすぎないよう、サポート役として「副施設長」のポジションを各施設に普及させていく予定。
横浜にあるヴィラ桜ヶ丘という施設では、すでにこの体制で運営を始めている。昨年4月に副施設長になった林さんにも話を聞かせてもらった。

「桜ヶ丘の場合は、施設長も経験豊富な方なんですけど、グループ内でほかの役も兼務しているので忙しくて。不在時の対応や、今まで施設長が一人で担っていた部署間の調整を私がお手伝いしています。みんなと施設長をつなぐ役割ですね」
「福祉施設って、働く人同士の意見の食い違いみたいなことが結構多くて。各部署が持っている不満、負担、不安みたいなことを、大きなトラブルになる前に聞き取って、解決するようにしています」
今までは、同じ施設のなかで介護や相談員の仕事を担ってきた林さん。管理職になってからは、現場に対して一歩引いて関わる意識を大事にしてきた。
話を聞くときもトップダウンで結論を出すのではなく、当事者同士が納得できる落とし所を一緒に探していく。

業界で長く働いてきた林さんから見て、新村さんのように異業種から来た人ってどんな存在ですか。
「頼もしいです。パソコンの操作とか、介護の現場では不慣れな人もいますし、お店で数字を見た経験や基本的な事務スキルなど、活かせる部分はたくさんあると思います」
「未経験からマネジメントに携わるのであれば、まずは自分が働く施設を好きになることが大事かな。日々のラウンドをしっかりして、どんな人が働いているのか、チームの強みはなんなのか、自分で確かめながら周りとの関係性をつくっていけるといいですね」

施設長として一番大切なのは、現場の人の活躍を願う気持ち。
今、どんな業界で働いている人でも、それぞれの経験を活かした施設長のスタイルがあるはずです。
新村さんの音楽好きから始まったイベントがあるように、業界の外からいろんな人が入ってくることで、介護施設のあり方に多様性が生まれる。それは、誰もがやがて行き着く高齢期の過ごし方について、
選択肢を増やすことにもつながります。
すべてを捨ててゼロから出直すのではなく、今までの道の続きにある仕事として、みんなでつくる福祉のあり方を考えてみませんか。
(2026/2/19取材 高橋佑香子)


