小学校に入るとき、祖父からアンティークの机を買ってもらいました。
すりガラスの扉や花の取手、どれもがお気に入りで、大人になった今も大切に使いつづけています。
古いものを長く愛するには、適切な手入れが欠かせません。
ICCA(イッカ)株式会社では、アンティークの和家具を修繕し、新たな命を吹き込んでいます。

およそ100年以上前、明治や大正時代につくられた家具を分解し、再構築していく。
「今の暮らし」に馴染む姿へと生まれ変わった家具たちは、多くのファンを惹きつけています。
今回募集するのは、アンティーク家具の修繕・製作アシスタント、問い合わせ対応や撮影、オリジナル商品を手がける工房運営スタッフ、そして家具の洗浄や塗装作業を担う製作サポートスタッフ。
ものづくりに真摯に向き合える気持ちがあれば、ICCAが大切にする高い技術と美意識を学ぶことができます。
東京駅から高速バスに揺られて1時間半。水郷の街として知られる千葉県香取市・佐原に到着する。
ICCAの工房兼ショールームは、佐原駅から歩いて5分ほどの場所にある。

入口には、使い古された碁盤や板、棚たちが並ぶ。直されるのを静かに待っているよう。
代表の酒井さんが出迎えてくれて、ショールームへ案内してくれる。

「ICCAを始めたのは2016年。それまでは友人とコンサルティング会社を経営していました。もともと日本の伝統文化や技術に関心はありましたが、アンティークが特別好きだったわけではないんです」
そんな酒井さんの人生を変えたのは、ある照明との出会い。
「引っ越し先で使う家具を探していたとき、古道具屋さんで和菓子のような形をしたペンダントライトを見つけました。佇まいが美しくて、忘れられなかったんです」
白餡の和菓子を思わせるその照明は、復刻版として現在ICCAで製作されている。

「調べてみると大正時代のもので、当時の照明や家具には豊かな意匠が詰まっていました。こんなに素晴らしいのに、古びて使いにくいという理由で捨てられていくのはあまりにもったいない。この美しさや技術を継承する仕組みを作りたいと思ったのが、創業のきっかけです」
「10年前はアンティーク和家具を専門に修繕する会社がまだ少なかったんです。だからこそ、文化を守ることとビジネスを成立させること、その両立に可能性を感じました」
家具にまつわる知識はなかったものの、幸運にも身近に職人の知り合いが。会社を立ち上げたとき、力を借りることができた。
職人が住む長野を拠点に、ICCAはスタート。しかし、物流の壁にぶつかる。
仕入先の中心は関東から東北。酒井さん自らトラックを出し、各地から長野へ運ぶ日々。
限界を感じていたところ、ポップアップを開催した縁で佐原の場所と出会う。
「今も僕が買い付けに行き、職人が月に数点から数十点ほど、時間をかけて丁寧に直しています」
アンティーク家具の修繕だけでなく、オリジナルのテーブルや小物も製作。
「ICCAとして表現したい美しさはありますが、最後にお客さまの暮らしにフィットするかどうかを決めるのはマーケット。常に使い手の感覚に寄り添ったものづくりをしています」
ICCAの家具は決して安価ではない。それでも、入荷から1ヶ月ほどで次々と旅立っていく。
アンティーク家具を取り扱うお店が増えていく中でも、ICCAが売れつづけるのはどうしてでしょうか。
「選んでいただけるいちばんの理由は、やっぱり職人の確かな腕にあります。単に直すだけでなく、ストックした古いパーツを自在に組み合わせ、時には自ら製作して新たな価値を吹き込む。それは修理というより、新品とアンティークの融和に近いかもしれません」

ICCAの代名詞でもある「ろくろ脚」。神社などの支柱にも使われる日本固有のデザインを、酒井さんたちが現代の感性でアップデート。
「創業時から惹かれていたデザインですが、収集だけでは足りず、自分たちでデザインを起こし、独自にアップデートしていきました。気がついたら『ICCAといえば、ろくろ脚』のイメージができ上がり、僕らも積極的に作品に取り入れるようにしています」
今は酒井さん、職人の髙橋さん、工房スタッフの新井さんとアルバイトを入れて5名。

「少人数だからこそ、自分の役割を全うしつつ、幅広く興味を持って取り組める人と一緒に、楽しくやっていきたいですね」
そんな多岐にわたる現場を、工房運営スタッフとして支えているのが、入社2年目の新井さん。

「小学生のころから伝統工芸が好きでしたが、大学卒業後は、フリーランスで地域おこしやグラフィックデザインなどをしていました。でも誰かに言われたものを形にするだけでなく、自分が心から賛同できる『手触りのあるものづくり』がしたくなって」
以前からICCAのSNSをフォローしていた新井さん。スタッフを募集していると知り、迷わず応募した。
「面接では『本当に人数が少ないけど大丈夫?』と何度も確認されました(笑)。それでもここで働いてみたいと思ったんです」
入って半年間は、オリジナルのダイニングテーブルやコーヒーテーブルの製作を担当。酒井さんに教わりながら、ひたすら作りつづけた。
「試行錯誤する日々でした。お客様から温かいレビューをいただいたときは、自分が手掛けた仕事がICCAに貢献できたと思えて、本当にうれしかったです」
現在は、問い合わせ対応から発送の段取り、家具の分解、シフト管理まで工房の「要」として活躍している。

オリジナル商品は、ろくろ脚のキャンドルスタンドやケーキスタンドを中心に製作。使われなくなった碁盤をアップサイクルしている。
デザインは酒井さんやアートディレクターが担当。それをベースに機械で加工していくのが新井さんの役割。
「足が折れないか、デザインを忠実に再現できるか、微調整を重ねるごとに完成度が上がっていく工程が好きです」

家具の分解は、仕入れた家具の埃を取り、割れたガラスを外すところからはじまる。
洗浄や塗装剥がしを経て、ようやく修繕の工程へ。
洗浄は製作サポートスタッフの仕事で、新井さんが一連の段取りを整えている。一緒に洗浄に入ることもあるそう。
工房運営スタッフとして新しく入る人とは、二人三脚で進めていきたい。
「たとえば『この商品、いつ送りますか?』と声をかけてもらえたり、私がつい失念していることに気づいてもらえたりすると、心強いです。ゆくゆくは、お互いにフォローしあえる関係性になれたら」
「問い合わせ対応ひとつとっても、マニュアルはありません。お客様の意図を汲み取り、より価値の高い購買体験をチームのみんなで届けていきたい。私も以前はICCAを外から応援しているひとりだったので、そのとき見ていた素敵なイメージを、崩さずに守っていきたいですね」
最後に話を聞いたのは、職人の高橋さん。ICCAに加わって7年、和家具とひたむきに向き合いつづけている。2人の取材をずっと楽しそうに聞いていた。

高橋さんは、どうやって家具職人の道へたどり着いたのだろう。
「建築系の学生で、設計や製図、模型づくりが好きでした。就職先は建築会社で。現場監督、電気屋さん、土木屋さん、さまざまな人とひとつの大きなものをつくるお仕事。もっと自分の手と身体を動かしたくなって、大工さんに転身したんです」
30歳になり、高い完成度のものづくりを求め始める。
その結果、いろんな人と一つのものを作るのではなく、ひとりで完結できる家具の世界へ。東京の職業訓練校へ通い、木工の技術や知識を1年かけて学んでいく。
「卒業後は千葉に戻って椅子の張り替えをしていました。しばらくして、職業訓練校でお世話になった先生が独立すると誘ってもらって。本格的な家具づくりは、そこから始まりましたね」
14年間、洋家具の『現代の名工』である師匠のもとで修行しつづけた。
「コロナ禍で工房の仕事が激減したとき、ちょうど佐原にICCAがやってきたんです。最初はアルバイトとして空いた時間で入って、家具の洗浄をしていました」
「だんだん修繕もするようになりました。でも直しているうちに、『もっとこうすれば良くなるのに』と創作意欲が湧いてきてしまって…」
手間がかかりすぎるから、とリメイクに対して当初は難色を示していた酒井さん。しかし酒井さんの留守中、高橋さんは密かに家具を分解し、今までのICCAにはなかったリメイクを施した。

帰ってきて家具を目にした酒井さんは、その完成度の高さに言葉を失うほど圧倒される。それ以来、高橋さんの判断に、全幅の信頼を置くようになった。
「僕は自分を『家具のお医者さん』だと思っていて。ちょっと扉開けますね、引っかかりますね、ここが当たってますね、じゃあ削りますよ、みたいな問診から始めていきます」
「引出しの引っ掛かりや木の歪み、同じ傷はありません。一つひとつの家具と対話し、原因を探って最適な処方箋を出してあげるような感覚です」
家具との対話。丁寧に向き合いつづけるのは、自分のためではなく、使う人のため。
「すべては、お客さんに長く心地よく使ってもらうためです。使い勝手が良くないと、使わなくなっちゃいますから」

修繕・製作アシスタントで入る人には、ただ作業をこなすのではなく、「こんなものを作りたい」などの目標やイメージを持っていてほしい。
「技術は僕が責任を持って教えます。やりたいことをサポートしてあげたい。つくりたいものがひとつでもあると伝えやすいし、身につきやすいと思うんです」
「作業中もよく喋る方なので、しっかりとコミュニケーションを取りながら、軽やかに、リズミカルにものづくりをしていけたらお互いに楽しめるのかな」
取材のあと、工房で製作中の家具を見せてもらえることに。

ぎしぎしと音を立てていた引き出しが、高橋さんの手にかかると驚くほどなめらかに動く。今もあの感覚を忘れられません。
壁一面の工具を少年のように自慢する高橋さんを、酒井さんと新井さんが温かく見守る。
その光景を思い出すだけで、心がふわりとほぐれるような感覚になります。
素直で笑顔がよく似合う人は、ICCAでまっすぐに、ものづくりができると思います。
(2026/02/18 取材 久保泉)


