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四国88ヶ所の霊場をめぐる、お遍路。
歴史は長く、およそ1200年前から続いています。
この文化を次世代へつないでいくために立ち上がったのが、ピルグリマージュジャパン(PGJ)という会社です。

巡礼者に飲みものや食料を無償で提供する「お接待」の文化に象徴されるように、お遍路にはお金というものさしだけでは測れない豊かさ・美しさがあります。
とはいえ、経済的に持続可能でなければ、文化も残せない。
そこでPGJでは、外国人の歩き遍路さんをメインターゲットに、お遍路前の準備段階から現地での宿泊、地域の人たちとの交流まで、包括的にサポートする事業をはじめています。
今回は、JR板東駅前にオープンする「GOOD HENRO HOSTEL」一号店のスタッフと、お遍路中の宿泊を一括手配できる予約インフラ事業のマネージャーを募集します。
向かったのは、徳島県鳴門市。お遍路のスタート地点となる一番札所「霊山寺」、そしてPGJが駅前にホステル一号店をオープンするJR板東駅は、いずれもこのまちにある。

予定より少し早めに到着したので、霊山寺でお参りしてから板東駅へ。
駅周辺は住宅街で、人通りも少ない。お遍路って、こんな日常の景色のなかからはじまるんだな。
車で出発しようとしたら、向こうから一人のお遍路さんが歩いてきてすれ違った。思っていたよりも軽装だ。

旅の無事を祈り、PGJのオフィスへ。閑静な住宅街のなかにある一軒家を活用している。
この日はちょうど、3ヶ月に一度の社内合宿。ボードメンバー全員で議論を重ねていたところ。
代表の山﨑元さんが迎えてくれた。
「しゃべりっぱなしで若干疲れましたけど、朝からすごくいいディスカッションができたので。この取材も楽しみです」

大手総合商社でキャリアをスタートし、外資系ブランドの日本支社長を務めるなど、ファッション業界の前線で働いてきた山﨑さん。4年前まではビームスの上席執行役員として、全社の経営に携わっていた。
「ファッション業界は、環境負荷が大きい業界です。それに、地方に店舗を出しても、潤うのは東京なんですよね。自分自身、地方に住みながら東京の一極集中に加担していることへの葛藤もあって」
「もっと日本の地方を豊かに、元気にする仕事がしたいと思ったんです」
お遍路との出会いは、旅行先の高知・足摺岬でのこと。
日差しが照りつけるなか、汗を流しながら進む歩き遍路さんの姿を見て、“得体の知れない畏怖の念”を感じた。
「この人たち、すごいことやってるな。いつかやってみたいなと思いました」
ファッション業界での仕事に一区切りをつけた2022年、山﨑さんはお遍路に向かう。
仏教を背景とした精神性や、海・山・川の自然環境、土地ごとの地域文化、人との出会いなど。
さまざまな価値が重なり合うお遍路は、日本を代表する観光資源になる。そんな可能性を感じる旅だった。

実態として、巡礼者全体の数は年々減っているものの、歩いて巡る人、とりわけ外国人の歩き遍路さんの数は近年増加傾向にある。
世界的に見ても巡礼の旅は人気で、スペインの「カミーノ」は年間約50万人が訪れる。自己探求したい人、交流を求める人など、宗教目的にとどまらない巡礼者も多い。
「四国遍路もカミーノに負けないポテンシャルがある」と山﨑さん。ただ同時に、課題も感じた。
たとえば、宿の予約システムが整っていないこと。遍路宿50軒にインタビューしたところ、68%が電話でしか予約を受け付けていないことがわかった。
ほかにも、お遍路にまつわる情報が整理されていなかったり、将来的な宿不足が見込まれていたり。
山﨑さんは京都大学の大学院で四国遍路の研究を重ね、その課題や可能性を整理していった。
「自分でお遍路をまわって感じた課題が明確化して、なおかつ解決可能だなって自信が持てたので。それで起業に至ったという流れです」

PGJの事業は大きく分けて3つ。
1つめは、旅行代理店としての機能。遍路中の宿泊をオンラインで一括手配できる予約インフラを構築していく。
2つめは、アプリとWebサイトの制作・運用。
四国遍路にまつわる事前知識や必要な持ちもの、体験談などを掲載。マップ機能も搭載して、準備段階から滞在中、その後に至るまでのお遍路体験をサポートする。
そして3つめが、「GOOD HENRO HOSTEL」の運営。JR板東駅前の一号店を皮切りに、今後5年間で30店舗を展開していきたい。
一号店では、チェックイン日にお遍路のレクチャーを実施。お遍路グッズもオンラインで注文できるようにする。
宿泊者には10泊分の予約手配をオファーし、途中で発生した変更・キャンセルにも柔軟に対応できるようなオペレーションを考えている。
「霊山寺で見ていると、みんな不安そうなんですよね。本を片手に、どうするんだっけ?って。だからうちの宿では、とにかく安心してお遍路に取り組んでもらえるように、スタート地点の宿として持つべき機能はすべて備えたいなと思っています」
まずは徳島県内でモデルをつくり、ゆくゆくは四国全域に広げていきたい。

今回募集するのは「GOOD HENRO HOSTEL」一号店のスタッフと、予約インフラ事業のマネージャー。
宿のスタッフは、チェックイン・アウトの対応や現場オペレーションの構築、遍路旅や地域情報の案内、アルバイトスタッフのマネジメントといった施設運営全般に携わる。
「地域の人たちと、いかによい関係をつくれるかがめちゃくちゃ重要だと思っていて」と山﨑さん。
「よそものが宿をつくって、外国の方がたくさん泊まりに来る。これって下手をしたら、簡単に地域と隔絶するんですよね」
「多くの外国人お遍路さんが期待しているのが、地域の人々との交流です。それを無理に演出するんじゃなくて、自然に生まれるような関係性を築いていってほしいなと思います」
挨拶する、道を掃除する、お祭りに参加する、農作業を手伝う…。
公私が混ざった関わりのなかで、地域との壁をなくしていけるといい。

予約インフラ事業のマネージャーは、遍路宿の一括予約サービスを立ち上げて運用・改善する一連の体制をつくりあげていく役割。
もちろんすべて一人で担うわけではないけれど、山﨑さんたち経営陣と意見を交わしながら事業を推進していく必要があるので、求めるハードルは高い。
「旅行代理店での経験もあるに越したことはないですけど、それ以上にスタートアップで働いてました、プロジェクトを自分で一から立ち上げましたとか。そういう経験をしてきた人が合うような気がしています」
リモートワークも可。とはいえ、各地の遍路宿を訪ねて関係性を築いていくことも大事なので、とくに立ち上げ当初は徳島に滞在して働く機会も多くなると思う。
「スタートアップなので、ピボットしていく可能性も全然あります。変化を楽しめる人でないと、ギャップを感じるかな」
「あとは“同じ釜の飯を食う”感覚も大事にしたくて。ぼく、料理をけっこうするんですよ。今日みたいに集まって合宿することもありますし、一緒に食卓も囲む。そういう時間をまるっと共有できる人がいいですね」

この一軒家はPGJのオフィス兼、山﨑さんも暮らす社宅でもある。部屋はまだ余っているので、徳島に移住する人がいたら、家が見つかるまで住んでもらってもいいとのこと。
「住みたくないって言われるかもしれないけど(笑)、ごはんはおいしいと思います」
PGJには、山﨑さんのほかにもさまざまな経歴のボードメンバーが集まっている。
堀さんは、新規事業立ち上げやM&A支援などに携わってきた方。現在はフルタイムで大手企業の全社変革に関わりつつ、PGJではバックオフィスを担当している。

「大きな企業を変革していくことにミッションを感じつつも、ローカルな手触り感も自分の生活や人生には必要で。ちょうど変化を求めていたときに出会ったのが、小杉湯だったんです」
小杉湯は、東京・高円寺にある銭湯。地元の人たちに愛される昭和8年創業の老舗ながら、音楽ライブやアートの展示なども行う、ちょっと変わった銭湯だった。
そこの常連だった縁から、仲間たちと株式会社銭湯ぐらしをつくり、喫茶店兼シェアスペース「小杉湯となり」の立ち上げにも関わることに。
四国に引っ越した現在も、ライフワークとして銭湯ぐらしの活動は続けているそう。
「元さんとは大学院の同級生でした。事業の構想を聞いたときに、お遍路さん同士や、まちの人との交流が生まれる取り組みだなって。それはわたしが銭湯でやってきたことともつながると思ったんです」
「海外から1ヶ月半とか休みをとってお遍路に来るのって、ふつうの旅行とは違う。人生を見つめ直したり、変容につながるきっかけをつくりたい人が来る。わたしもそんな人たちと関わりたいと思って、創業メンバーに加わりました」

PGJでの担当はバックオフィス。とくに宿スタッフとは、身近に関わる機会も多くなる。
どんな人と働きたいですか?
「チャーミングな人。欠点があっても、みんながカバーしようと思えるような人がいいと思います」
チャーミングさは、たしかにPGJのみなさんに共通して感じるもののひとつかもしれない。
経歴や肩書きだけを見たら「自分もこの輪に加われるかな…?」と気が引けてしまうけれど、ワイワイ話し合う姿には青春の空気すら感じる。それぞれの経験を持ち寄って、大人が真剣な遊びをしている、というか。
滝口さんもそのひとり。チーム最年長でありながら、若々しくてエネルギーに溢れている。
もともとはJR西日本でホテル運営を歴任後、ヴィアイン社長として25のホテルを統括していた方。昨年7月で早期退職し、今はPGJの宿運営と予約システムの構築に携わっている。

「宿って泊まるだけの場所じゃない。地域の交流を生んで、文化を次世代に残すための拠点にもなり得る。PGJなら、宿泊施設のもつ可能性をもっと探求できるんじゃないかと思っています」
宿としてのオペレーションや予約システムの整備など、観光・宿泊業を営むうえで、滝口さんの存在はとても心強い。
一方で、滝口さん自身も宿泊業の新たな可能性を探求したいと考えている。ともに試行錯誤とチャレンジを楽しめる人が来てくれるといい。
「長距離を歩くお遍路さんにとっては、しっかり休息できることも重要です。そのうえで、宿と地域の交流による多様性も生まれていったらいいなと思っていて」
「たとえば近所に料理好きなおばあちゃんがいたら、その人に来てもらって料理をしながら、交流もしてもらう、とかね。そんな遍路宿が各地に増えていったら最高ですよね」

取材中、代表の山﨑さんが「ぼくにとってのお遍路って、まだ全然終わってなくて」と話していたのが印象に残っています。
お遍路から数年経った今も、当時の出来事に新たな解釈が生まれたり、巡りながら感じたことが事業のアイデアの種になったり。
四国遍路という文化への恩返しをしたいという気持ちも、この事業を進める原動力になっているそうです。
文化と経済の両輪を回し、四国遍路を次世代へつなぐ。
変容と循環の旅路は続きます。
(2026/04/17 取材 中川晃輔)


