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大事だとわかっているけれど、なかなか取り組んでいない。
日々生活をするなかで、身の回りにはそうしたことがたくさんあると思う。
防災は、その一つではないでしょうか。
小学校の避難訓練では、「お・か・し・も」。最近では、SNSで「絶対に備えるべき防災グッズ10選」なんてリール動画が流れてくることも。
情報に触れる機会は多いのに、日常の忙しさについ後回しにしてしまう。
そんな防災を、デザインやアートなどの「クリエイティビティ」を加えることで、身近で楽しいものにしようとチャレンジし続けているのが、NPO法人プラス・アーツです。

ルーツは、代表の永田さんが立ち上げた「iop都市文化創造研究所」。
まちづくりのコンサルティングや、店舗プロデュース、アートイベントの企画など、複数の領域を横断しながら地域創生に取り組む会社です。
阪神・淡路大震災から10年の節目に、兵庫県と神戸市の依頼で手がけたイベント「イザ!カエルキャラバン!」がプラス・アーツの根源に。
東京・清澄白河と兵庫・神戸に事務所があり、それぞれで働く人を募集します。
防災に詳しくない人も歓迎です。「なぜ人は防災に関心を持って対策できないのか」、そんな問いに興味を持てる人には、ぜひ知ってほしいです。
神戸の中心である三宮駅から海のほうへ歩いて約20分。重厚でクラシックな佇まいの「KIITO」に到着。
もとは、昭和初期に神戸港から輸出する生糸の検査所として使われていた施設だ。

4階建ての施設には、ラウンジや、イベントができるレンタルスペース、クリエイターが入居するオフィス、図書館、カフェなどが入っている。
307号室がプラス・アーツの事務所。木の扉を開けると、カエルがひょっこりお出迎えしてくれる。

待っていてくれたのは、代表の永田さん。
「入り口のカエルは、カエルキャラバンで使うもので。水が出る訓練用の消火器で狙う“的”なんです」

「イザ!カエルキャラバン!」は、遊びながら防災の知識やスキルを学べる体験型プログラム。
水が出る消火器でカエルの的を狙ったり、ケガ人に見立てたカエルの人形を担架で運び、タイムを競ったり。阪神・淡路大震災の被災者の声を元に考案された20〜30種類ものプログラムが用意されている。
ベースは、アーティストの藤浩志さんによる体験型アート作品「かえっこバザール」。子どもたちが使わなくなったおもちゃを持ち寄り、ポイントで交換できるイベントで、ここに防災の要素を組み合わせた。
「阪神淡路大震災から10年目という節目のイベントで、はじめはかえっこバザールだけをしようという話になっていました。でも、そこに防災が含まれていなかったことに違和感を持って」
「藤さんと話して、防災訓練とおもちゃの交換会を融合させようって。楽しい入り口があれば、自然と防災が身についていくと思ったんです」

神戸での初開催は、延べ約7,000人が来場。
一度きりのイベントとして終わらせるのではなく、継続的に広げていくために、イベントの翌年、NPOとしてプラス・アーツを設立。
これまでに「イザ!カエルキャラバン!」は全国39都道府県で700回以上、開催された。
今では、イベントの企画プロデュースを中心に、企業や自治体の防災パンフレット、マニュアル制作、学校での防災授業支援など幅広く防災教育・啓発のプロジェクトを手がけている。

今回の募集は兵庫・神戸と東京・清澄白河の事務所で働くスタッフ。
神戸では、自治体と連携した防災イベントや、学校での防災授業の支援など、地域に根ざしたプロジェクトが中心。東京は企業と協働し、防災情報の普及や社会貢献をテーマに企画を推進している。
「防災訓練は形骸化しやすく、人が集まらなくなるとつながりも失われる。だから、人が関わりたくなる“強い種”が必要で。それを企画し広げるのが僕たち“風の人”なんです」
種を育てるのは地域や自治体、地元企業といった現地の人たち。それを“水の人”と永田さんは表現する。自分たちが担い続けるのではなく、担い手を増やしていくことを大切にしている。
「楽しい、美しい、美味しいとか、感覚に触れることで、人は動くと思うんです。思わず参加したくなるような入り口をつくるために、新しいアイデアも含めたクリエイティブの力を使う。そうやって防災を魅力的にしていくことに興味があったら、ぜひチャレンジしてほしいですね」
そんなクリエイティブの可能性に惹かれて入職したのが、東京事務所に勤める小倉さん。もともとはデザイナーだった。

「前職はWebデザインの会社で働いていました。でも、売るために誇張することも多い商業ベースの仕事に、次第に違和感を覚えるようになって」
3年間勤めた後、心機一転デザインの専門学校へ。そこで外部講師の一人として出会ったのが、代表の永田さんだった。その後、永田さんから声をかけられ、プラス・アーツへ。
東京事務所のスタッフは4名。業務の7~8割は企業とのプロジェクトだ。
なかでも特に面白かったと教えてくれたのが、たばこメーカーのJTと一緒に「防災喫煙所」をつくるプロジェクト。
喫煙所は都市の中で迷惑施設のように扱われていて、減少傾向にある。企業側にとっては、喫煙所がなくなることは大きな課題。
そこで、「なくなるなら、新しい価値をつくろう」という発想から生まれたのが防災喫煙所。

小倉さんは、企業、プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナーやコピーライターも巻き込み、意見を調整していった。
「たとえばソーラーパネルと蓄電機能を備えて、災害時にはスマートフォンの充電ができたり、たばこを吸いながら防災情報を自然に目にできたりする仕組みを考えました」
今では、東京、大阪を中心に約20箇所設置されている。
大きな流れは、依頼が来てヒヤリングするところから。ひと案件ごとに2人チームになって進めていく。
「イメージは、お医者さんの問診に近いです。まずやりたいことを聞いて、それに対して処方箋みたいに過去の事例を見せながら提案して、口頭ですり合わせていくんです」
「たとえば、社内の防災意識を高めたいという相談が来たときには、パソコンを立ち上げるタイミングとか、エレベーター待ちの時間の長さとか。会社に来てからの1日の流れを細かく聞くところから始めます」
IT企業ならSlackやTeamsで情報を流したり。メールをあまり使わない企業ではポスターを貼ったり。各企業の文化に合わせた啓発手法を企画も行う。

「僕たちの役割は、被災地で直接支援を行うことではなくて。経験者や専門家の知見を集めて、一般の人たちに防災をわかりやすく伝えること」
「最初は反応が薄かった担当者さんでも、やりとりしていくと『こんな楽しいことできるんですか』ってリアクションをくれたり、向こうから提案してくれるようになったり。生き生きと変わっていく姿が見れると、この仕事をしていてよかったなって思います」
企画が形になるまで、3ヶ月から1年ほどかかる。同時に十件以上のクライアント案件を進めていくこともあるそう。
話したり調整したり、地道な仕事も多いけれど、手がけたパンフレットやイベントが誰かの「もしも」に役立つかもしれない。
「実際にカエルキャラバンに参加した人が、地震後に『役に立ちました!』とわざわざ連絡をくれたこともありました。防災って、災害が起こらないと効果があるかわからない。少しでも目に触れる機会をつくれたらなと思っています」

入社後は、まず過去のプロジェクトをまとめた資料やホームページを通じて全体像を把握していくことから。ブレストにも参加しながら、企画に関わっていく。
「採用されるかどうかは別ですが、アイデアを出す場にはどんどん入ってほしい」
「専門的な部分はベテランスタッフが担保できるので、フレッシュな視点が欲しくて。クライアントの先にいる生活者の感覚や、新鮮な視点も混ざったほうが、いいものが生まれると思うんです」
「神戸事務所では地域への支援が多いので、入社してすぐは、カエルキャラバンの業務が中心です。資機材の準備や、タイムスケジュールの組み方などを学んで。その後に、地域で実施したい方々向けにレクチャーしていきます」
そう教えてくれたのは、入社5年目の瀧原さん。

「この道具たちは研修を受けていただいた方に有償で貸し出しています。私たちは“風の人”なので、ある程度レクチャーしたあとは、地域の人や学校で自主的に実践してもらえるように意識していますね」
兵庫・明石出身で、ご両親が阪神・淡路大震災を経験した瀧原さん。
英語が好きで、高校は国際系の学科へ進学。高校、大学では、ボランティア部や被災地支援のサークルに所属していた。

「サークルで、プラス・アーツが制作したカードゲームとか教材を知らずに使っていたんです。専門的な知識がなくても教えられるのでありがたいと思っていました」
小学校教諭を目指していたものの、プラス・アーツのホームページを見て、国内外問わず防災教育の普及に取り組んでいることに魅力を感じ、直接問い合わせた。その熱量が通じ、入社が決まる。
「少人数なので、自分がやりたい仕事だけできるわけではないですが、永田さんは適性を重視してくれるので、自分の強みをアピールすれば汲み取ってくれると思います」
そんな瀧原さんが入社直後から関わったのが、ネパールの小・中学校での防災教育プロジェクト。
プラス・アーツでは、2015年のネパール大地震をきっかけに支援を開始し、JICAの国際協力事業として約10年、防災教育の担い手育成や教材開発に取り組んできた。

「現地に行ってコーディネーターさんに通訳してもらいながら、学校の先生たちからヒヤリングして。カエルキャラバンのプログラムをネパール版にアレンジすることから始めていきました」
レンガづくりの建物が多いネパールでは、耐震基準が十分に定まっていない地域が多い。現地の先生たちの要望を受け、建物の安全性に関する基礎知識に加え、心のケアや感染症対策などを学べる教材をつくることになった。
一度の渡航は1週間ほど。先生たちを対象に教材開発ワークショップを実施し、現地の専門家の監修を受けながら、2日ほどかけて手づくりのプロトタイプ教材を制作。
最後にトライアルイベントを実施し、実際に使いやすいかどうかを検証していった。
プラス・アーツが先生にレクチャーしたあとは、先生から生徒へ、生徒が家庭や地域へと伝達していく形で、防災教育が浸透していく。
「JICAのプロジェクトは、レポートや精算、渡航手続きなど事務作業も多くて大変でした。ただ、そのぶん意義のある取り組みですし、世界に通用するモデルになる可能性もある。学びの多い経験でしたね」
「直近ではフィリピンやインドにも展開。新しく入る人も、関心があれば海外での防災プロジェクトに関わることができると思いますよ」
大事だとわかっているのに、後回しにしてしまうことを、思わず関わりたくなる形に変えていく。
プラス・アーツの仕事は、防災との距離を楽しく縮めていく試みです。
その仕掛けを、一緒につくっていく人を待っています。
(2026/04/06 取材 大津恵理子)


