求人 NEW

ただそこにある美しさに
つながるクリエイティブ
気づくおもてなし

鎌倉時代初期の歌人・藤原家隆が詠んだ、こんな和歌があります。

「花をのみ 待つらむ人に 山里の 雪間の草の 春をみせばや」

桜の開花を待ち望む人々に、雪残る山里の若草を見せてあげたいものだ、という意味。

華やかに春を象徴する桜もいいけれど、厳しい冬を耐え抜いて芽吹いた若草もまた、美しい。

この和歌を教えてくれたのは、熊本・黒川温泉にある旅館「山河」の代表、後藤健吾さん。およそ3000坪の敷地に木を一本ずつ植え、沢を引き込み、自然と旅館が溶け合う風景をつくってきました。

先代が大切に育んできた価値を受け継ぎ、訪れるお客さんや、ここで働く人たちともっと分かち合いたい。

そんな想いで奮闘する若女将の麻友さんと、若旦那の宇紘(たかひろ)さん。今回はおふたりと一緒に、これからの山河を形づくっていく人を募集します。

求めているのは、クリエイティブディレクターと支配人候補。いずれもこれまでの旅館にはなかった、新しい仕事です。

消費され、消耗していくようなやり方ではなく、本質的な価値に根ざしながら、クリエイティブやマネジメントの経験・知見を活かしたい。

じっくり腰を据えて取り組むに値する環境が、ここにはあると思います。

 

静かな山里に、30軒の旅館が点在する熊本・黒川温泉。

“黒川温泉一(いち)旅館”というコンセプトのもと、案内看板のデザインを揃えたり、温泉街のすべての露天風呂を利用できる入湯手形をつくったり。

地域全体をひとつの旅館と見立てて力を合わせることで、年間100万人が訪れる人気の温泉地へと成長してきた。

この日も2月終わりの平日ながら、おだやかな賑わいがある。人の動きがありつつ、のどかな田舎の空気感が守られているのも、このエリアの特徴だと思う。

そんな温泉街の中心から2kmほど離れた林のなかにあるのが、旅館山河。

木々に囲まれた坂道を下っていくと、立派な玄関が見えてきた。

もともとは荒れた畑だった土地で、温泉を掘り当てたのが創業のきっかけ。泉質のいい薬師の湯を求めて、農家の人たちが疲れた体を癒しにきていた。

とはいえ創業時は旅館というにはほど遠く、掘立て小屋があるのみ。

1970年代にUターンした2代目社長・後藤健吾さんの最初の仕事は、老人会の送迎だった。

「宿につくと、お客さんががっかりするんですね。それが悔しかった。もうあんな恥ずかしい思いはしたくない、というのが原動力でした」

そこで、木を植えた。山を観察しながら、一本ずつ、もとからそこにあったように。

庭づくりの師匠は、旅館・新明館の後藤哲也さん。この一帯の景観の礎をつくった“黒川の父”と呼ばれる人だ。

毎晩のように哲也さんと語り合っては、その知識やセンスを取り入れた。

「山と旅館をつないで、境目をなくしていくような考え方ですよね。雑木の造園、お茶の文化、侘び寂び、禅の思想…。勉強するほど興味が広がって、どんどんおもしろくなっていったんです」

街路樹のように整然と並べるのでも、鬱蒼とした森をつくるのでもない。

小さな灯籠を置いたり、足湯をつくったり。人と自然がともにある風景を思い描きながら、形にしてきた。

「里山には人の手が入っているわけです。ただ、大袈裟にすると、それはつくりものになる。なるべく作為が感じられないように」

「桜のように目立つものだけじゃなくて、雑木にも個性があります。自然のまま、それぞれの個性を活かすことが大事。それって人間も一緒じゃないかな」

自分から饒舌に語ることはしない健吾さん。感覚的で、ぱっとわかりにくい表現もしばしば。

「自分でも不親切だと思いますよ。こういう考え方を従業員に伝えていくことも必要だと思うけれど、あんまりしてこなかったですし」

響く人に、響けばいい。健吾さんの庭づくりや旅館に対する姿勢は、潔くて美しい。

とはいえ、一緒に働く人たちにも共有できれば、この環境に誇りをもって働けるようになるし、足元の魅力を一人ひとりの言葉で伝えやすくもなる。

お客さんに対しても、媚びたり過度に演出したりする必要はないけれど、この庭や地域の豊かさに触れてもらう機会がもっとあっていいのかもしれない。

 

「この地域の価値に、どう手触りを与えられるか。そういう作業をずっとやってきましたし、今も続けている気がします」

若女将の麻友さんはそう話す。

大学時代に海外旅行にのめり込んだ経験から、旅人を受け入れる側に立ちたいと思うようになり、17年前に旅館へ帰ってきた麻友さん。

山河は黒川温泉のなかでも海外から訪れる人が多く、約4割が外国人観光客。長く休みをとってじっくり地域を回る、旅上手なお客さんから学ぶことも多い。

「そういう方たちが写真におさめるのって、きれいな風景よりも源泉の錆びついた配管だったりするんです」

「わたしも旅をするなかで、自国とはまったく違う日常がそこにあるとカメラを向けましたし、現地の人に話を聞きたくなったり、そこから交流が生まれたり。そういうことが旅の醍醐味なのかなって」

旅の計画には組み込めない、偶発的に起こることほどうれしかったりもする。

けれど一方で、旅慣れない人や長期休暇をとりにくい人もいる。地域の日常に触れることや、出会った人と会話すること、予定を決めずに旅することは、心理的にも時間的にもハードルが高い。

麻友さん自身、もともとは引っ込み思案で、興味はあっても飛び込めない人の気持ちがよくわかるそう。

黒川を旅する人が、地域の風土や営みに触れるきっかけをつくりたい。

そんな想いで2024年に立ち上げたのが、「Kurokawa Echoes.」だった。

旅館の若女将が案内する温泉街散策ツアーや、自然のなかでお茶を点てる「野点」体験、かまど炊きのおむすびをつくる体験など。

農家のお母さんやクリエイターたちと関わりながら、さまざまな体験プログラムを提供。体験先の人たちの生業や暮らしを伝えるストーリーブックは、黒川温泉の各旅館で閲覧できる。

「“あの畑でできた野菜がこんな料理になるんだ!”とか、“あの人がこの作品をつくったんだな”というように。地域で目にした風景や体験、人との出会い。そうした一つひとつの点がつながると、土地への愛着も生まれていくと思うんです」

旅館で働くスタッフにも、あらためて地域の価値に目を向けてほしいと麻友さん。

「冬は漬物をつけて、耕作もしながら旅館を手伝っているおばちゃんたち。わたしからすると憧れの生活をしている人たちなんです。でも、ここには何もないと思っている。そういう人たちにこそ、誇りを持ってもらいたいんですよね」

旧暦に合わせた室礼や、農業に紐づいた暮らしの景観、季節ごとの手仕事など。なかには眠ったまま、途絶えそうな文化もある。

麻友さんは今、それらを掘り起こし、研修を通じてスタッフと共有している。

「帰ってきてからずっと、わたしも勉強中です。味噌づくりは10年目。ようやく板長が認めてくれて、旅館でも使ってもらえるようになりました」

厨房に案内してもらうと、地元の農家さんのお裾分けで大きなカブが届いたところ。

数十人分の料理に使うには、数や形を揃えるのがむずかしい。それでも、できるところから少しずつ、顔の見える人がつくった野菜も取り入れていけたらと考えている。

この地域で育まれてきた価値を受け継ぎ、訪れるお客さんや、働く人たちと分かち合っていきたい。

そのために今回募集したいのが、クリエイティブディレクターと支配人候補。

 

それぞれどんな人を求めているのか、若旦那の宇紘さんに聞いた。

「クリエイティブディレクターは、旅館の“総合演出家”みたいなイメージ。クリエイティブな手法を使って、旅館の一連の体験をなめらかにつなげていく役割です」

ドリンクメニューやインフォメーション、チェックイン時に提供するお茶菓子や、客室の内装など。

お客さんと旅館との接点は、いろいろある。

それらの形や、サービス設計のあり方、さらにはSNS等での広報・発信に至るまで。山河の大切にしたい価値観がしっかりと伝わるものになっているか、俯瞰的な視点を持ちながらディレクションしてもらいたい。

「おしゃれなプロダクトをつくることがゴールではないんです。自分がお客さん、あるいは現場のスタッフだとして、こういうものがあったらいいなと発想する。その順番を間違えちゃいけない仕事だと思っています」

たとえば最近、「植物図鑑がほしい」という声が仲居さんから挙がった。

葉や花が咲く季節はまだしも、枝しか残らない冬に木々を見分けるのはむずかしい。庭の植物を四季ごとの特徴とともにまとめた図鑑があれば、仲居さんも説明しやすくなるし、お客さんも図鑑片手に散歩する楽しみが増えるかもしれない。

こんなふうに、お客さんやスタッフの話を聞いたり、自分でもいろんな宿に泊まってみたりしながら、山河らしい滞在体験をつくっていく。

Kurokawa Echoes.などを通じて、麻友さんが築いてきたクリエイターとの関係性もすでにある。一人ですべて形にできなくてもいいので、山河の思想や世界観を社内外に向けて“翻訳”できる人が合うと思う。

もうひとつの募集職種は、支配人候補。

従来はマネージャーポジションを置かないまま、いわばスタッフ同士の阿吽の呼吸で現場を回してきた。

「田舎らしいコミュニケーションというか、声をかけ合う機会は多いんです。ただ、経験や感覚に頼ってきた結果として、新人さんが入ってきたときにどう教育するかとか、うまく仕事が回っていくように計画を立てる人がいないのが現状で」

宇紘さんの入社以前、シフトは3日先までしか決まっていなかった。チェックアウト後の部屋の清掃状況も、口頭で伝え合うスタイル。

そこから1ヶ月制のシフトに切り替えたり、モニターで状況確認できるようにしたり。

少しずつ変わってきた部分もあるものの、まだまだやるべきことは山積みだという。

「臨機応変に続けてきた先輩たちのことは、とても尊敬しているんです。でも仕組みを整えれば、一人ひとりが向き合うべきことに心を割くゆとりがもっと持てるはずで。よりよくなっていくための体制を早くつくりたいんですよね」

入社後、まずは現状を知るためにも、半年ほどはフロントを中心とした現場の仕事を経験する。

その後も現場に片足を置きつつ、一人ひとりが最大限の力を発揮できるように、全体をみて差配する役割を担ってほしい。

「最初は現場との摩擦も起きると思うんですよ。もちろん丸投げはしないですし、『この人たちは今まで見たことない役割の人ですよ』ってことは、ぼくらもちゃんと伝えていくので。この壁を一緒に乗り越えられる人に来てもらいたいです」

どちらの職種も、旅館における役割としては新しいものです。

けれど、真新しい何かを生み出す仕事ではないと感じました。それよりは、すでにそこにある美しさに気づくための、きっかけや余白を生む仕事。

山河の庭の芽吹き。黒川で続いてきた営み。人と人とが響き合うひととき。

同じものを見て、美しいと思う人に来てほしいです。

(2026/2/27-28 取材 中川晃輔)

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