「正解はなくて、いいものをみんなで探し続けているんですよね。パンのこと、周りの人や地域に目を向けながら。日々変わり続けるのが、かまパンだなって感じています」

徳島・神山町にあるパン屋、かまパン&ストア。
まちの農業を次の世代につないでいくために活動している、フードハブ・プロジェクトが運営しているお店です。
「地域のパンってなんだろう」。
10年向き合い続けてきて、今たどり着いているのは、そこに集まった人でできることを考え、一緒にパンをつくっていくこと。
経験は問いません。
話して、考えて。その時々で、いいと思うことをやってみる。
そんなふうに、一緒にパンをつくっていく人を探しています。
徳島空港から車で1時間。
山間を流れる川に沿って、集落が続いている。

神山町にはアーティストやクリエイター、サテライトオフィスで働く人など、移住者が集まっている。それでもほかの地域と同じように、さまざまな課題に直面している。
10年前、まちの未来について話す集まりから生まれた活動の1つが、フードハブ・プロジェクト。
使われなくなった農地を引き取り、人を育てながら取り組む農業。
育てた野菜を地域のなかでおいしく食べる、食堂やパン屋。
地域の味をつないでいく加工品を開発したり、学校と食農教育に取り組んだり。
神山で続いてきた食に関わるものごとを次の世代につないでいくため、さまざまな取り組みを行ってきた。
試行錯誤の日々が重なってきた今、独立して農業をはじめる人が出てきたり、まちで育った子どもが料理人や農家になったり。
フードハブ・プロジェクトをはじめていなければ起きていなかった風景が、少しずつ、着実に見えてきている。
アルバイトまで入れると60人ほど。さまざまな仕事をしているメンバーのなかで、パンと食料品店の責任者として、さらに最近はヘッドシェフとして活動全体のことを考える時間も増えているのが笹川さん。

もともとお父さんがパンをつくる仕事をしていて、小さいころから、ほかの仕事を考えたことがなかったそう。
チェーン店や個人店など、東京の3軒のパン屋で経験を積んだ。次の生き方を考えていたとき、日本仕事百貨でフードハブ・プロジェクトを知り、家族と一緒に移住してきた。
「ここでつくるのは『地域のパン』。そう言われても最初はよくわからなくて、ブツブツ言いながら働いていました。地域の生産者さんが育てたものを使わせてもらうとか、地元の人が食べたいっていうパンをつくるとか。最近は、それだけじゃないなって思ってるんですけどね」
かまパン&ストアには、地域の食材をつかったパンのほかにも、野菜やおかし、調味料やワインなど、日々の暮らしで必要なものが並んでいる。
なにを仕入れて、どんなパンをつくるのか。
ここでの決め手は安さや効率ではなくて、それがあることで生まれていく関係性。
「ふだんはうちのパンを食べていない地元の人が、パンをお土産に買っていったことがあったんです。いつも変わらずにここにお店がある、ここのものを渡したいって思ってもらえた。それって、地域のパンって言っていいんじゃないかって。うれしい瞬間でしたね」
「『かまパンの笹川さんって、PTA会長だよね』『あの消防団の人って、かまパンの笹川さんだよね』。そんなふうに、自分が地域のなかで暮らしていて、地域のパンをつくっている人として見てもらえるようになってきたのが、いいなって思っています」

お店に並ぶパンのほかに、オンラインでの注文やまちの学生寮の朝食、定期的に届けている卸しなど。つくるパンの数や売上は毎年増えている。
一緒に働いているのは、ほぼ全員がここではじめてパンづくりを仕事にしているメンバー。
「最近は、みんなが自立している感じがあって。誰しもが自由に発言をして、みんなでつくってるというか。パンをつくりながら、一人ひとりが責任を持って行動している。それがすごくいいなって思ってます」
決まった方法で正確にパンを焼いていく仕組みがあるチェーン店。オーナーであるパン職人の味を追求し、形にしていく個人店。
どちらでも学ぶことは多かったものの、笹川さんがここでやっていきたいパン屋は、そのどちらでもない感覚があった。
神山でパンをつくりながら見えてきたのが、チームでつくっていくパン屋。

ここ数年は新しいパンを開発したり、パンに合うワインをお店に並べたり。自分たちで育てはじめた小麦も、年々規模が大きくなってきた。
なぜそんなチームになってきているのか尋ねると、ある日、お店に並んだレーズンパンが、いつもより少し小さいと気づいたことを話してくれた。
「発酵時間が短かったのか、気温が下がったから生地がいつもより冷えていたのか。つくる工程でいつもと違うことをしたのか。そもそも、この大きさがダメってわけでもないかもしれないですよね」
自分なりの考えはあっても、それが正しいとは限らない。
「なんで小さくなったんだろうね?って話すことからはじめます。パンは環境によって変わるので、こっちも状況を見て変えていかないといけなくて。正解を目指すんじゃなくて、みんなで考えて、そのときいいと思うやり方を決めていく感じなのかな」

朝6時。
パンをつくる様子を撮影しようとかまパンへ向かうと、すでに3人のメンバーがテキパキと働いていた。
作業台では、発酵してふくらんだ生地がトントンとリズムよく成形されていく。
次から次へとオーブンに入れられて、おいしそうな香りとともに焼き上がり、店頭に並ぶ。
パンの焼色を確認しつつ、明日使う生地の仕込みをしているのが、ここに来て6年になるルカさん。

ものごしが柔らかいって、こういう人のことを言うんだろうな。
そんなことを思いながら、話を聞かせてもらう。
「神山に移住してきて、ピザ屋をやっていた時期があります。ここのパンが好きで、どうやってつくってるんだろうって、ずっと知りたかったんです。いい歳してかまパンに入って。パンの技術はないし、自分にはなにができるんだろうって不安でした」
ピザをつくっていたならば、経験があると言っていいのでは? と、素人目線だと思ってしまう。
けれど、発酵させる方法もつくる生地の数も違えば、仕上げるパンの種類も多い。
限られた空間のなかでたくさんのパンを焼き上げていくために、毎日、同時進行でたくさんのものごとが動いていく。
「発酵、成形、窯に入れて出すタイミング。ときには待つことも大切で。見極めたり判断することが多いのが、この仕事の特徴だと思っています。感覚を研ぎ澄ませないといけないなって」
「自分で考えて、いい結果が出ることもあれば、ぜんぜんうまくいかないこともあります。『どうしてこうなったんだろうね?』って話して、考えて。それを繰り返しているうちに、いい感覚が生まれてくるイメージで。そうやってつくったパンを、お客さんがまた買いに来てくれるのがうれしいんですよね」

自営業だったお父さんを見ていたこともあり、自分が会社やチームのなかで働くとは思っていなかったと話すルカさん。
人と働くことについて考えていたとき、笹川さんと立ち話をしていて印象的なことがあった。
「パンづくりも、チームでやっていくのもむずかしいなって考えていたタイミングがあって。そんなとき、笹川さんが『人のわるいところをとやかく言って直すんじゃなくて、そこをフォローし合っていきたい』って言ったんです」
「それってめちゃめちゃいいなって。直せって言われながら働いたり暮らしたりするのって、苦しいじゃないですか。笹川さんは手を動かしながら話をしたり、周りをよく見ている。そうやって一緒に働ける環境をつくってくれていたんだって気づきました」
そこに居合わせた人たちで働き続けられるように、お互いができることを持ち寄ればいい。
技術も経験もある笹川さんがいるから支えられることも多かったけれど、最近メンバーそれぞれが得意なこと、できることが積み上がってきている。
「パンをつくるのが自分に向いてると思ったことは、いまだに一度もないんです。仲間と対話しながら、悩みながらやっていて。不思議と、それを楽しめているというか。自分がそのままでいられるっていうんですかね」
「パンは真ん中にある。そこにほかの食材だったり、人間関係だったり、地域のできごとだったり。いろいろなものがくっついている感覚があるんですよ。それを全部ひっくるめてかまパン。だからおもしろいし、飽きないんでしょうね」

パンをつくりながら、自分たちが居心地よく続けられる場をつくっていく。
かまパンに行くと肩の力が抜けていく感じがするのは、そんなルカさんたちの意識がお店のなかに滲んでいるからかもしれない。
「地域で育てて、地域で食べるという循環のなかに、自分たちも含まれている。そこで生活をして、自分たちが食べたいものをつくる。そのつながりって、都会では切り離されがちで、なかなか感じられないことですよね」
そう話してくれたのは、フードハブ・プロジェクトの共同代表である眞鍋さん。

東京と神山を行き来している眞鍋さん。
対話しながらものづくりをしているという笹川さんやルカさんの話を、とてもうれしそうに聞いていた。
「『これってどうなんだろう』って言える関係性や場がある。考えて変わり続けられる。そういう文化がフードハブの中で育ちはじめてるってことだと思うんです。人と関わりながらパンをつくる。資本主義的な考えやお金で解決できないようなものごとが、ここではとても多いんですよね」
「社会モデルっていうと大げさだけど。各地でいろいろな課題があるなかで、これまで10年、苦労しながらやってきたことをベースにして、ほかの地域でもできることがあるんじゃないかと思いはじめているところです」

かまパンではインターンを受け入れたり、交流のあるパン屋へ研修に行ったりすることも少なくない。
2024年には熊本・黒川温泉でパン屋の立ち上げをプロデュースし、今でも運営のサポートを続けている。
ほかにも富山や栃木など、ほかの地域からも相談が寄せられていて、今後、かまパンのメンバーが地域の外に出て、お店やパンをつくることも増えていくかもしれない。
「黒川温泉のお店でつくるパンは、レシピはほぼ同じでも、素材もつくる人も違うから同じものにはならない。勝ち負けとか、競合するような話ではないんですよね。お互いに地域のためにやっていることの情報交換ができるネットワークが広がっている感じがしています」
すると、横で話を聞いていた笹川さん。
「考えながら繰り返してきたこと、問いを立てて行動してきたことが自分たちの価値だと思っていて。その経験を提供するってこともあるんだけど、それ以上にうれしいのは、一緒に考えていける仲間が増えていっている感覚なんですよね」
「どうしたらいいかな、こうしてみたらうまくいったよって、話しながら一緒につくっていく。場所や環境が違えば、神山では見えなかった課題や発見もあったりする。それが、すごくおもしろいんです」

今日もかまパンでは、手を動かしながら、話をしながら、たくさんのパンが焼き上がっています。
対話して、一緒に考えていく人たちがいる。
それはとてもめんどうで、とても心強いことなんじゃないかと思います。
なにか心に留まるものがあれば、まずはかまパンのメンバーと話をしてみてください。
(2026/4/22 取材 中嶋希実)

