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料理が人を人たらしめる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「料理が人間を人間たらしめた」

これは『COOKED:人間は料理をする』という本のなかで紹介された、ある美食家の言葉です。

食材を料理して食べる。

いつも何気なく行っていることだけれど、たとえば米や野菜をつくる人がいなくなってしまったら、料理することも食べることもできなくなってしまう。

日々の生活でなにを選び、食べるのか。それはつづく社会をつくっていくことにつながっている。

Food Hub Project(フードハブ・プロジェクト)のみなさんの話を聞きながら、そんなことを考えました。

フードハブ・プロジェクトは、地域の農業を次の世代へとつないでいく取り組みです。1年半前に、徳島県神山町ではじまりました。

有機栽培で行う農業に加えて、地域の食材を使った食堂やパン屋、加工品づくりや食材の販売、そして食育。さまざまなことが並行して動いています。

今回募集するのは、食堂「かま屋」を任せていける料理人。日々のメニューを考え、お店に立って調理をしながら、チームを引っ張っていく人。

合わせて、加工品と食品店を任せる人も募集中。

変化しつづけるプロジェクトのなかで、一緒に試行錯誤しながら進んでいける仲間をさがしています。

日本仕事百貨で何度も訪れている徳島県神山町へは、空港から車で1時間ほど。

川に沿って続く集落には畑を持つ家が多く、小さな道の駅にたくさんの野菜が並んでいる。

「ようこそ!元気?」

最初に紹介するのは、支配人を務める真鍋さん。

プロジェクトのなかでは現場のスタッフたちを支えつつ、全体を引っ張っていくような役割を担っている。

フードハブ・プロジェクトを立ち上げたころに話を聞き「神山の味をつなぐ」という記事にまとめて以降、神山にいく度に気さくに声をかけてくれる。

ずっと広告業界で働いてきた真鍋さんは、神山にサテライトオフィスを構えるWeb制作会社、モノサスでも働いている。

「デザインが好きで広告業界に入ったという経緯があって。デザインで世の中にある不自然なものを自然に戻すっていうことをしたかったんです。でも、食に出会ってしまったんですよね」

食に関わることになったきっかけは、たまたまコーディネーターとして担当することになったイベント。20人ほどの海外の料理人やアーティストとともに、日本の生産者を巡る旅をした。

「すんごい大変だったの。でも活動に参加していた仲間との関係はずっと続いていて。eatripの野村友里さんたちと一緒にNomadic Kitchenという活動をはじめるきっかけにもなりました」

楽しそうに料理をつくる料理人と、幸せそうに食卓を囲む人たち。それをうれしそうに眺める生産者。

イベントを重ねる度に、それぞれが大切にしている想いが、食卓を通して伝わっていくのを目の当たりにした。

「自分がやりたいと思っていたことが、すべて内包されている感じがしたんですよね。食を通して、日常でできることをはじめようと思って神山に家族で移住してきました」

神山は移住者が多いことでも知られる町。

新たに町の住民になった人、もともと暮らしていた人が一緒に町の将来について話す場がつくられ、2015年にいくつかのプロジェクトが立ち上がった。

そのなかで、増え続ける耕作放棄地や農業従事者の高齢化を考えるグループから生まれたのが、フードハブ・プロジェクト。

人材育成をしながら行う農業。育てた食材を町の人が食べる食堂とパン屋。食育で世代をつなぎながら、食の循環が起こる仕組みをつくる。「地産地食」をキーワードにプロジェクトがはじまった。

「日常をよくしていきたいんですよね。おいしい、こんな食べ方があるんだ、地元の野菜を買って家でもつくってみよう。そうやって家庭料理というか、日常がよくなっていく。結果として農業も続いていく」

「社会のなかで分断されたものをつなぎなおす。農業を食卓までちゃんとつないでいく。神山の農業を食べて支えるって、あたり前のことで。その意識をつなぎなおしているだけなんです」

プロジェクトの立ち上げから1年半、お店のオープンからまもなく1年が経つところ。最近はどうですか。

「引き続き、順調に問題だらけ(笑)そのなかで最善をつくせている状態っていうのかな。当初考えていたコンセプトから、根底にあるものはなにも変わってない。こんないいチームはないと思える仲間にも恵まれています」

時間はちょうどお昼どき。

フードハブ・プロジェクトが運営している食堂「かま屋」では、オープンキッチンを囲む50ほどの席が、あっという間に満席になった。

昼は主菜と4種類の副菜、お味噌汁を日替わりで。

今日の主菜、地魚のちゃんちゃん焼き風をたっぷりプレートに盛って、いただきます。

今、メニューを考えているのは料理長の細井さん。

食堂「かま屋」のレシピづくりから、パン屋のディレクションやストアの商品選び、シフトづくりまで。「食べる」という部門のすべてを担っている。

「かま屋のメニューは、なにかをつくりたいから食材を買うのではなくて、今ある食材から決めていきます。旬のものやたくさん採れたもの、素材を活かすってことだけを考えています」

洋食に限らず、和食や中華、エスニックの要素も取り入れていて、気取らず親近感のあるメニューが日替わりで並ぶ。地域で育てた食材を40%から70%ほどの割合で使い、食材のおいしい食べ方を提案している。

「東京だと添え物のような扱いになるクレソンが大量にとれるから、主役にすることができたり。農家さんがその日の朝に収穫したものを直接もってきてくれるのは、本当に贅沢だなあと思います」

「でもね、やっぱりつらいこともあって。里芋と大根、人参、玉ねぎしかない、みたいな時期もあるんです。料理の味付けとかレパートリーは自ずと増えたけど、大変だよね」

地元のおばちゃんに声をかけられている姿を見かけ、この場所が神山の日常の一部になってきているんだな、ということを感じる。

町の外から訪れる人も多く、かま屋のお昼ごはんは平日80食、土日には120食が完売するほど。一方で夜はもっと地元の方に来てもらえるように、仕組みを考えているところなんだそう。

「とにかく、むずかしく考えずに『おいしい!』と思ってもらえたらそれでよくて。試行錯誤しながらお店をつくっているところです」

「食べることやつくることが好きなのは、保育所で定年まで給食をつくっていた祖母の影響もあるかもしれません。とくに料理のベースがあるわけじゃないんです。自分でお店を持つなら、ひっそり郷土料理を出すような料理店をやりたいかな」

製菓やカフェ、レストランの現場を経験。商品開発の仕事をしていたとき、賞味期限が切れたパンに対して「カビが生えた」とクレームが入ったことがあった。

何日たってもカビが生えないパン、しおれない野菜。自然ではないものが“いいもの”のように捉えられている風潮に対して違和感を感じるようになった。

食べる側も、もっと食べるものに対して意識的であるべきなんじゃないだろうか。そんな想いを持ちつつ独立を考えていたときに、真鍋さんから声がかかった。

かま屋の特徴の1つは、なるべく地元の素材を使うこと。神山で採れたもののほかにも、徳島県産、四国産のものを選び、生産者さんに会いにいくようにしている。

「できるだけ生産者さんのところに行って、見て、話をして。そうすると、おいしい理由もわかります。価格以上の価値をちゃんと伝えられるように、食べ方や使い方の提案もしていきたいんですよね」

細井さんは食材探しにかぎらず、おいしいものがあれば、どこへでも出向く、自称「食いしん坊」。

「仲間になる人は、やっぱり食べるのが好きな人がいいな。お互いに意見を出し合って、いい意味でケンカができるような人に来てもらえたらいいですね」

料理人として仲間になる人には、かま屋のメニューづくりやお店全体のことを任せていきたいと考えている。最初からすべてできる必要はないけれど、ある程度経験がないとむずかしいかもしれない。

ようやく「細井さんの料理が食べられる店」として地域に馴染んできたようにも見えるので、中心になる料理人が変わるのはもったいない気もします。

「来てくれる人と相談しながら、柔軟に変えていければいいと思っていて。私は全体を見守る側になって、1年先、5年先を考えたいんです。いいメンバーが揃っているところに、熱さのある人が来てくれると、もっとおもしろくなるんじゃないかな」

熱さ、ですか。

「探究心っていうのかな。たとえば野菜は、仲間がつくっているものが1番いいって思うことも大事だけど、ほかと味を比べてみるとか。そうすることで、ちょっとこの野菜は使えないって農業チームに言えるようになったり。いいこともダメなところも、ちゃんと指摘しあって次につなげていける関係が、いいチームなんだと思うんです」

おいしい食材もあるし、小麦から育ててカンパーニュをつくるような実験をしたり、シェフ・イン・レジデンスなどを通して刺激的な人の出入りもある。

それでも現状の環境に満足せずに、お互いに切磋琢磨していけるようなチームにしていきたい。

「真鍋さんや細井さんがイメージしているチームにはまだまだ届いていないと思っています。でも少しずつ、前に進んでいる感覚はあって。チームで動くっていうのは、大変なことがないとは言わないけど。そのぶん楽しいですよ」

そう話してくれたのは、細井さんの右腕として主にかま屋の遅番を担当している中野さん。

これまではずっと東京の定食屋や居酒屋などで、和食の経験を積んできた方。細井さんとは料理のベースが違うから、日々発見があるそうだ。

「最近のお気に入りはベシャメルソースです」

バターと小麦粉、そして牛乳を加えてつくるのが一般的なベシャメルソース。細井さんが教えてくれたレシピでは、バターではなくこめ油を、牛乳でなくだし汁で伸ばすので、あっさりと軽い仕上がりになるんだそう。

「細井さんの料理は、想像力豊かで。細井さんは洋食を中心にやっていたこともあって、香辛料の使い方が上手ですね。豪快なときにはお肉も塊で焼いたりして、勉強になります」

「最近はもっと自然や畑に行く時間を増やしたいなって思っているところです。風と鳥の声しか聞こえないなかで、黙々と種を植えるのも落ち着くんですよ」

農業、食材、料理。そして人。

神山では食を巡る循環が、健やかにつながりはじめています。

その様子を見ていると、これは食という枠に限らず、人が健やかに暮らす地域、そして社会をつくっていく営みなんだと感じます。

12月8日には東京・清澄白河に真鍋さんと細井さんをお招きして、しごとバー「地域を料理するナイト」を開催します。よかったら、まずは2人に会ってみてください。

(2017/11/11 取材 中嶋希実)
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