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小さな喜びを、積み重ねて
ガラスづくりの
仕上げを極める

工場の中は、きれいな光と音に満ちている。

炉の炎の赤に、熱されたガラスのオレンジ。

徐冷炉のエンジン音。コンベアをゆっくりと流れてくる、まだ熱を帯びた色とりどりのコップたち。

ダイヤのカッターで傷を入れ、バーナーの炎に当てる。パキッ、と音がして、不要な部分が外れる。

手を止めることなく、次の一個へ。

北海道・小樽にある深川硝子工芸。

もともとは東京の深川にあった会社で、硝子製品の需要に合わせて小樽へ移転。小樽硝子や小樽切子などを製作しています。

今回募集するのは、「吹き」の工程のあとを担当する「加工」のスタッフ。

吹きと比べると、派手ではないかもしれません。でも、その手が止まれば、ガラスは製品にならない、最後の要です。

 

北海道・小樽の南小樽駅から歩いて5分ほど。

観光客でにぎわう中心街から少し外れた、海沿いの静かなまちに、深川硝子工芸の工場はある。

社長の出口さんが、1階のショールームで迎えてくれた。前回来たときと変わらない、飾らない雰囲気。

「この3年で、じわじわと人が増えてきました」

応募はあるけれど、現場仕事を経験して辞めてしまう人もいる。三歩進んで二歩下がることを繰り返しながら、少しずつ人数が増えてきた、というのが正直なところだという。

「残ってくれた子は、結構優秀な子が多くて。一年目なのにこんなにできるんだ、っていう人が増えてきたのもあり、現場は活気づいてきました」

とくに吹き部門では若い女性スタッフが増え、雰囲気が明るくなってきた。最近は応募者の8割が女性なのだという。

一方、加工部門の話になると、少し表情が変わった。

「加工場では、昨年からいろいろあって」

以前は加工のセクション間でコミュニケーションが細かくとれておらず、それぞれが今何をしているのか、何を考えながら動いているのかが、うまく伝わっていなかったそう。

それによってお互い誤解を招き、不信感を募らせてしまうこともあったという。その状況に対して、3年目の社員が声を上げたことで、やや大きな衝突へと発展してしまった。

「それでも、何度か話し合いを重ねることで、それぞれが胸の内を吐き出し、お互いを理解することができたんだと思います。その結果、業務が円滑になりました」

「私の見た感じだと、最近は思ったことや困っていることをすぐに相談しあっているようですね」

「本人たちにしこりが残っていないといいんですが」と出口さんは少し笑う。雨降って地固まる。そんな変化を感じる。

加工場は30〜50代を中心とした構成で、比較的落ち着いた雰囲気。今回の募集は欠員ではなく、社内異動に伴うものだそう。

いい人が来てくれれば一名でも二名でも採用したいと話す。

「同じことを淡々とできる人がいいですね。サッカーで言うと、ボランチタイプ。右にも左にも動けて、後ろにも前にも行ける。協調性があって、縁の下の力持ちに徹せられる人」

「俺が俺がっていうフォワードタイプはあまり向いてないと思います。とくに加工場は協調性のある人がいいですね」

向上心の高さや熱量も仕事には必要だけれど、加工でより重要なのは、じっくり腰を据えて仕事と向き合うこと。

ものづくりの経験がある人は歓迎。ガラスでなくてもいいそう。

ものをつくる大変さや面白さを知っている人は、壁にぶつかったときどうすればいいか、どこまで粘ることができるか。その姿勢を知っているのだろうな。

 

「加工」は、工場にとって欠かせない工程だ。

どんな作業をしているのか、昨年入社した川崎さんに話を聞く。

出身は札幌。以前は和雑貨の店で15年ほど働いていたそう。

「すごい大好きだったんですよね、雑貨の仕事」

その後、福祉施設で支援員として2〜3年働いた。ものづくりを通じた就労支援をしていたものの、仕事がいそがしくなるにつれ、体調を崩してしまう。

体だけでなく気持ちも疲弊していたとき、転機になったのは、偶然見つけた深川硝子工芸の募集だった。

「前の雑貨屋で切子とかも扱っていたので、ガラスいいなって」

当時の川崎さんは41歳。面接に進んだときに、出口社長から吹きは体力的にきついかもしれない、と加工を提案される。

それでも、迷いはなかった。

「ものづくりの一過程に入るっていうのは、すごくいいなと思ったんです。なので、吹きとかにこだわらず働くことにしました」

加工チームの仕事は、大きく4つある。

一つめが、吹かれたガラスについている「カブ」と呼ばれる不要な部分を熱で切り離す「火切り」。新しく入る人は、この仕事からはじめることになる予定。

二つめが表面を水で研磨する「擦り」。三つめが、口の部分を炎で滑らかに仕上げる「口焼き」。

最後に、検品・梱包・発送。こうした工程のすべてを担うのが、加工チームだ。

川崎さんが入社してからずっと担当しているのが「火切り」。新しく入る人も、まずは火切りのポジションから覚えていく。

「吹き」が終わったガラスは急に冷えると割れてしまうため、4〜5時間かけて15メートル進む低速のベルトコンベアを備えた徐冷炉で、加工スタッフのもとに届けられる。

出てきたガラスには「カブ」と呼ばれる不要な部分がついているため、一つずつダイヤのカッターで傷をつけ、バーナーの熱を当てることでパカッときれいに割る。カブを取ったものを木箱に入れ、隣のブースに箱を積んでいく。それを一日中繰り返す。

「飽きないです。全然飽きないんですよね」

おなじことの繰り返しに見えるけれど、一日に平均8種類ほどの製品を扱うため、種類ごとにカッターとバーナーの位置を変えなければならない。

「きっちり位置が決まるまで、バタバタと準備がせわしいです。暇だなとか、飽きたなと感じる時間は、あまりないかな」

おもしろいのは、初めて扱う商品。

「切り方のコツみたいなのを頭のなかにわっと集めて、こうしたらいいかなって試行錯誤する。一発でいけたらうれしいし、うまくいかなければどうしてかを考える。そこがおもしろいところかもしれないですね」

失敗するとせっかく吹いたガラスも廃棄になる。1個試してみて、うまくいかなければバーナーの位置やカッターの角度を微調整。

おなじ種類のガラスでも、日によって切りやすい日とそうでない日があるのだとか。

「気候的なこともあるし、毎日炉で溶かしているガラス原料の調子も日によって違うので。だんだんと、今日はなんか切りづらいぞ、とわかるようになってくるんです。不思議ですよね、おなじ色と形なのに」

印象に残っているのは、初めて一人で一日分の火切りを回せた日のこと。

「一人で全部さばかないといけない日がときどきあって。最初はすっごいてんやわんやで、終わらなかったんですよ。それを自分の計算通りに時間内で回せたときは、めちゃくちゃうれしかったです」

今は徐冷炉から出てくるスケジュールを読んで、先手先手で動けるようになってきた。

「こっちが先に終わりそうだから、もう一種類の準備を今しておこう、とか。イメージとしてはテトリスみたいな感じ」

単純作業が好きだけど、臨機応変にも動ける。あとは、テトリスの例えが出てきたように、ゲームが好きな人もいいかもしれない。自分でガラスの攻略法みたいなのものを編み出しながら働けたら、おもしろいと思う。

「データを集めていって、いざそのガラスが来たときに実践してうまくいくとうれしいじゃないですか。そういうところに楽しさを見出せる人がいいんじゃないかなと思います」

「私、職人のなかでは年齢が上のほうで。あと10歳若かったらなって思う瞬間があるんです。迷っている人がいるんだったら、1日でも若い内にチャレンジしたらいい。これは切実に思います」

 

最後に話を聞いたのは、おなじく加工チームの舟橋さん。

下の名前「れんげ」は、蓮華岳という山から名付けてもらったそう。両親が山で出会ったのが由来だという、ほっこりエピソードを話してくれた。

前職は木工職人。間伐材を使った保育園向けの家具をつくる会社で、5年ほど働いていた。

別の素材に触れてみたいという気持ちから、紙もいいかな、ガラスもいいかな、と求人を眺めて見つけたのが、深川硝子工芸。

「吹きの募集じゃなかったので、どうしようかなとは思いました」

ガラスといえば吹き、という思いもあったけれど、面接で出口社長に会って気持ちに変化が。

「社長なのに偉そうじゃない!って思って(笑)。私がガラスのことをあまり知らなかったので、いろんなお話をしてくれて。ガラスのことを真剣に愛情を持って考えている、いい人だなと思ったんです」

入社から3年目。最初は火切りを担当。口焼きの担当者が手薄になったことをきっかけに、口焼きへ。

今は口焼きをメインに、合間に擦りや梱包なども担当している。

木工からガラスへ。素材が変わって、どうでしたか?

「ガラスって、木よりも厳密に一個一個違うんですよ」

「たとえばおなじ寸法の木材だったら、一度機械をセットしてしまえば、繰り返しでおなじ形になる。ガラスはおなじ寸法でも、微妙にずれるんです。それは、一つひとつ人の息で吹かれているからで」

その違いに気づいた瞬間の驚きを、目を輝かせながら話してくれる。

「いかにスムーズに効率よく回して、きれいに仕上げて、きちきちっと揃えて出荷するか。これが仕事というより趣味として好きですね(笑)」

金曜日の夜は、吹きも加工も自由に練習していい時間になっていて、舟橋さんはよく吹きガラスを練習しに行っている。

「同年代の人がいるので、教えてもらって。でも私とはすごく差があるんですよね、当然なんですけど」

「今は加工場で誇り高くやっていくために精進中って感じです。ここでプロフェッショナルを目指して、誰にも負けないぜ、って思えるように、気持ちをしっかり持ってやっていきたいなと思ってます」

普段の担当以外の仕事も練習できるため、自分の仕事が全体のどこに貢献しているのか、感じやすい環境。また、タイミングと希望が合えば配置換えがあることも。

ガラス商品も数えきれないほど種類があるため、さまざまな種類のものをきちんとつくることに喜びを見出せる。小さな喜びを見つけられる人が向いているんだろうな。

「自分一人でつくりたいっていうより、みんなでいいものをつくろうという意識を持っている人だといいなと思います。一人で1個をつくっているわけじゃなく、みんなでひとつの製品をつくっているので」

 

話を聞き終えて、工場を歩く。

窓から差し込む光に、ガラス製品がキラキラと輝いている。

舟橋さんが「小さいころからキラキラ輝いてるものが好きだったんです。毎日見れるから、すごく幸せですね」と話していたのを思い出した。

加工は、ものづくりの最後を仕上げる仕事。吹きの職人が息を吹き込んだガラスに、火を入れ、磨き、整えて、世に送り出す。

「最後の工程を失敗しちゃっちゃあ、最初の苦労が水の泡ですから」と舟橋さんが言っていた。

小さな喜びを積み重ねていける人を待っています。

(2026/04/30 取材 稲本琢仙)

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