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こだわりの製法が
変わらない味をつなぐ
400年、その先まで

ふるさとに帰ると、まちの空気や聞こえてくる方言に安心して、うれしくなる。

地元の名物はいくら食べても飽きないし、「この味!」と舌がおぼえているものです。

長崎のカステラは、長く愛される南蛮菓子。1571年以降、欧州の貿易商人やキリスト教の宣教師から伝わったと言われています。

おみやげにも贈答品にもよろこばれ、誰もが笑顔になる食べもの。

カステラ本家「福砂屋」のカステラは、400年変わらない味を守り育てつづけています。

今回募集するのは、カステラをつくる職人とお客さんへ届ける人。

中でも職人は、一つのカステラをつくる工程を一人ですべて担っています。素材の味や食感を引き立たせる製法にこだわり、卵の泡立てから攪拌(かくはん)、焼き上げまで、分業することはありません。

男性の職人が多いですが、女性職人も活躍できる環境をすこしずつ整えています。

マンツーマンの指導があるから、調理や製菓の経験はなくても大丈夫。毎日積み重ねていけば、ちゃんと力になっていく。

自分のカステラが焼き上がった瞬間、きっと特別な想いが込み上げるはずです。

 

めがね橋、グラバー園、軍艦島、中華街。

観光地として、国内外問わず多くの人が訪れる長崎。

いくつもの教会と坂道はどこか異国を感じるし、小さな島々と海はどこまでもつづく。

長崎市の中心街にある福砂屋の本店。白壁漆喰づくりで、趣のある建物。

地元の人にとって、カステラは馴染み深い食べもの。おやつにはもちろん、風邪を引いたときや運動をするときに、エネルギー源として食べられることも。

さまざまなメーカーがあるなかで、福砂屋は特別な存在。

400年の歴史と、飾らないシンプルな味わい。

ちょっと特別なおみやげ、お歳暮やお中元、お祝いの品としても、昔から長崎県民に親しまれてきた。

そんなカステラを一つひとつ職人の手を介してつくっているのが、諫早(いさはや)市にある多良見工場。大村市や福岡、東京にも工場がある。

多良見工場は本社工場として多くの職人が勤務。最寄り駅から歩いて15分で、車通勤の人も多い。長崎市内から社用バスも毎日往復運行している。

会議室に入ると、常務、工場長、副工場長、人事担当者…。たくさんの方が出迎えてくれた。

「この取材で、職人が丁寧につくっているのを知ってもらえたら」と微笑むのは、常務の殿村さん。

1624年に創業した福砂屋。400年もの間、変わらない味を代々つないでいる。殿村さんは、カステラをつくり、届ける人たちの姿を幼いころから見てきた。

「『福砂屋の紙袋を持っている人がいたら、心のなかで頭を下げなさい』と言われて育ちましたね。毎年5月には、カステラに多く使う卵や材料に対して感謝する日『卵供養」があります。小さいときから参加していて、カステラが何からできているのか、職人さんが材料をどれだけ大切にしているのか学びました」

東京でサラリーマンとして働いたあと、福砂屋に入る。工場でカステラを焼くことも経験した。

老舗と聞くと、伝統を守りつづけるイメージがある。けれど、殿村さんの考えは少しちがう。

「今がいちばん、変わろうとしている時期かもしれないですね。創業から400年を超えても、福砂屋を完成された会社だとは思っていません」

「僕たちが守りたいのは、カステラそのものではなくて」と言って少し考えたあと、言葉をつづけた。

「カステラ文化とものづくりの姿勢を、ずっと残していきたいんです」

たとえば、製品の届け方について。2002年に生まれた「フクサヤキューブ」は、二切れのカステラ。地域や季節によって異なるデザインの小箱に入っていて、いつでもどこでも食べられる。

「長崎の文化を知ってほしい、若い方にも気軽に味わってほしいと開発しました。見た目はキャッチーでも、食べてみると老舗の素朴な味がする。しっとりした生地に、食感のあるザラメ。不易流行って言葉を僕たちはよく口にしています」

不易流行?

「変えてはいけない本質と、変えるべきものを見極めること。そうやってすこしずつ時代認識を持ち大切に育んでいます」

「これからは僕たちで次の100年をつくっていかなければいけない。その次の100年をつくっていくためには、今いる職人だけでなく、これから福砂屋の味と姿勢を受け継いでいく新しい担い手が必要です。そのために『誠実』『伝統と未来』『誇り』『前進』『寛容と共感』というキーワードを人財像として定義しました」

そのなかでも「誇り」はカステラ職人に必要なもの。

「製造職は、難しくて繊細な仕事です。その日ごとに天候も、卵の状態もちがう。自分の体調だって、製品の質に影響するんです。変わらない味をつくりたいのに、仕上がりがうまくいかず、思ったようにできないこともあります」

「それでも経験や技術を重ねていくことで、きれいに焼き上がる感動やカステラづくりがうまくなるよろこびがある。ひたむきな仕事に、誇りを持って働いてほしいですね」

 

これからのカステラづくりを託されているのが、製造職の鬼崎さん。

入社して7年、若手職人の面倒も見ている。新しく入る人にとって、師匠のような人だ。

前職は造船や電気工事の製造業。効率やスピードが重視されていく世の中に疑問を感じていた。

「なんでも早くつくることが、本当にお客さんのためなのかなって思ったんです。そのときに先輩が福砂屋に勤めていて、中途採用の募集を教えてくれました」

はじめはカステラづくりの基礎をマンツーマンで指導してもらう。昔は見たものを真似しておぼえる環境だったけれど、それでは技術を習得するまで時間がかかる。今はマニュアルをもとに、工程の意味を理解しながら実践していく。

福砂屋のカステラづくりは、職人が一つひとつ手間ひまを惜しまず焼き上げていく。そのなかでも「別立法(べつだてほう)」を用いている。

「卵を割り、まず白身を泡立てます。泡に重さが出てきたら、黄身とザラメ、水飴、小麦粉を加え、均一に攪拌していく。釜に入れてじっくり焼き上げる。これを一貫して一人の職人がおこないます」

ザラメは生地を攪拌する際に入れ、角を擦り減らしながら底に残すという昔から変わらない工程の一つ。手づくりでしか生まれない味わいだ。

手作業だからこそ、焼き上がりに納得できない日もある。

「思ったより火が通ってなかったり、生地が固かったり、うまくいかないことはありますよ。そのときは先輩方に練習を見てもらっています。7年やっていても、カステラづくりの完成には辿りついてない」

繁忙期には、1日に20回焼くことも。手首や腰は痛くなるし、工場は冬でも暑い。働くうえで、大変なことはあると思う。

それでも、鬼崎さんはカステラ職人をやめない。

「淡々と作業しているように見えるかもしれないけど、毎日の気温や湿度、材料の状態を見て、その都度、判断をしていく仕事です。カステラに向かった分だけ結果が出るのはおもしろくて。表面がきれいで、しなやかに焼き上がったときは、手応えを感じます。先輩たちからも『よか上がりやね』って言われたら、心のなかでよっしゃ!って思う」

「年末は忙しいけど、年に6連休が4回取れます。シフト制で、4日勤務したら1日休める。家族との時間をちゃんと取れるのもつづけられる理由かもしれない。休みの日に福砂屋のカステラを買っている人とすれ違うことがあって。そのたびに、明日もがんばろうって思えます」

鬼崎さんが働く多良見工場の製造スタッフは、現在70名。職人と聞けば、教え方が厳しいのかなと思う。

「僕の師匠は、優しくて丁寧に教えてくれる人でした。ガミガミ言われることはなかったですね。休憩中はプライベートの話を聞いてくれて、場を和ませてくれました」

今では、後輩を指導する立場に。師匠に教わったことを、次の世代につないでいく。

「習ったことを忠実に伝えるようにしています。上手い下手よりも、ごまかさない人にカステラづくりを教えていきたい。失敗したときは素直に共有してもらえたら、信頼できるなと思う」

 

鬼崎さんが「最初のしっかりしたあいさつで、この子は大丈夫だと安心した」と言うのが、入社2年目の牛島さん。

福岡の芸術学科で陶芸を専攻。別のものづくりに挑戦したいと思い、福砂屋にカステラ職人として入社した。

「歴史ある会社だと分かっていたけど、こんなにも職人の手わざにこだわっていることを知って惹かれました。入社式で『量より質、本物志向、安心、安全。そして信頼が重視される今の時代で、お客さまが自分なりの基準で選ぶなかに福砂屋がある』という言葉を社長がぼくたちに伝えてくれて。その一員になれたのは、誇らしいことだと今でも思います」

半年間、鬼崎さんのもとで修行をした。もちろんカステラづくりは未経験で、試練の連続。

「最初は簡単に泡立たなかったし、腕も痛いし、うまくいかないことばかりでした。細かいところまで鬼崎さんがつきっきりで指導してくれて、どんどん感覚を掴めるようになりました。そのときはとてもうれしくて、ありがたかったです」

泡立ての目処がつくのを「泡が締まる」という。タイミングは自己判断で、時間は決まっていない。この泡立てが、カステラの仕上がりを左右するほど重要な工程。

「後戻りができないのは難しくもあり、おもしろさでもあります。福砂屋のカステラ職人になって、何かを得るには近道がないことを学びました。やった分だけのびて、サボったら置いていかれる。地道にやっていく姿勢が求められるとひしひし感じます」

牛島さんのカステラづくりは、自分のためではなく、お客さんのため。ただ作業をこなす感覚はなく、誰かのために丁寧な仕事をする意識がある。

「大学で焼きものをつくっているときは、自己満足だったと思うんです。福砂屋でのカステラづくりは、お客さまに届くものをつくっている実感があります。その考え方のちがいも、新しく学べた魅力でした」

どんな人が福砂屋に向いていると思いますか。

「素直な人ですかね。怒られるかもってびくびくして質問できなかったら成長していけないと思います。わからないことは率直に、先輩方に聞けるといいのかな」

「カステラに直接関係ないけど、毎日充実している人っていいですよね。好きなものをまっすぐに語れる熱意は、どこにでも生かせると思います」

 

福砂屋には、よくお客さんから手紙やはがきが届く。

おばあちゃんに食べさせてもらった思い出がある。結婚の引き出物でカステラを用意してよろこんでもらえた。病気でごはんが食べられなくても、カステラなら食べられて元気が出た。

たくさんの「おいしい」は、福砂屋がずっと手づくりにこだわってきた証。

400年変わらない味を、100年、200年先まで届けていく。

受け継がれる技を自分の手に宿すことは、大きな誇りになると思います。

(2026/04/20 取材 久保泉)

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